資金調達のプロセスと相対的優位性 (Aaron Harris)

どんな交渉においても、目標を達成するには、相対的優位性(レバレッジ)が相手側にかけられる圧力となります。決して相対的優位性だけが重要というわけではありませんが、これは強力で、広く誤解されている手段です (※1)。資金調達のあいだ、いつどこで相対的優位性を使うのかを理解することが重要です。ですが、多くの創業者が (そして大半の創業初心者が)相対的優位性について体系的に考えていないことに私は気づきました。

相対的優位性が生まれる源泉は多種多様にあります。ですが、資金調達の相対的優位性は普通、「並外れた企業への投資チャンスを逃すのではないか」という投資家の恐れを効果的に利用することに行き着きます。ベンチャー事業による利益の大半はごく少数の企業によって引き起こされているため、儲けるためにはそのような企業へと投資しなければならないことを投資家は知っているからです。(※2)

つまり、自分の会社こそがそのような並外れた企業になるのだと投資家に納得させることがポイントです。これを行う方法はステージごとにやや異なりますが、最後にはいつもトラクション、チーム、ビジョン、市場機会、プロダクトが結び付く形になります。今後の成功が必然であるように見える形でこれらの要素を組み合わせる創業者は、資金調達中により多くの相対的優位性を手に入れるのが一般的です。

私は以前、資金調達中の創業者が使えるのはこの5つの要素に限られていると考えていました。しかし、自分たちのシリーズAプログラムを実行する中で、私たちはあらゆるラウンドにおいて、創業者の相対的優位性に対して大きな影響を与えられる方法を発見しました。それはプロセスです。資金調達中、タイトなスケジュールのプロセスを実施することは見かけよりも複雑な作業です。表面上はとても単純に見えますが、意識して集中しなければ、創業者は必ずしくじります。

プロセスが重要な理由とは、創業者が資金調達、すなわち適切な投資家を獲得するための最も重要な局面に立っているとき、プロセスによって自分たちに有利なスタートアップ向けの市場を創り出す最高の機会を得られるからです。「良い」市場は価格に影響を与える可能性もありますが、投資家の質こそが相対的優位性を用いるうえでの一番重要な目標です。

創業者に有利な市場と投資家に有利な市場との違いは、上場市場と未上場市場の違いではありません。その違いは、誰が資金調達のプロセスに対する情報 (とコントロール) をより多く持っているのかに基づきます。

連続的な資金調達は市場を投資家の方へ傾ける

アーリーステージのスタートアップは投資家に有利なマーケットで活動することになるのが普通です。この理由は、スタートアップの創業者は普通、投資家に連続でピッチを行うからです。これは創業者が投資家に対し、会ってピッチを聞いてくれるように一人ずつ説得していくことの帰結です。創業者が投資家とのミーティングに足を踏み入れる場合は毎回、その投資家の方が投資決定の可否を完全に支配しています。

創業者が新たな投資家と一人一人会っていくにつれて、その会社に関する情報をミーティングの前に入手している投資家の数はおそらく徐々に増加します。投資家のネットワークが比較的小さく、協調的である場合も多いことがこの理由です。したがって、その企業と会う各投資家は情報面で優位に立っており、「a) この企業はこれまで断られている」または「b) この企業にはモメンタムがある」のどちらであるかを知っています。

この状況にいる投資家にはプロセスと条件を全面的に設定する力があります。その取引に時間がかかっているならば、急ぐ理由もありません。その取引がもっと速く動いているならば、その投資家は条件や能力に関する膨大な知識を携えた状態で入札に着手します。これは投資家にとっては最高の場です。

並行的な資金調達は市場を創業者の方へ傾ける

情報の優位性を逆転できる創業者は自分に有利な市場を創り出します。創業者が多数の投資家に対して同一の開始点を設定できるとき、その投資家たちは並行して活動することを強いられます。これはつまり、投資家が入手する全ての情報にはネットワークを通して広がる時間があまりないということです。これにより、投資家たちは自分自身で判断せざるを得ません。

その上、投資家はその市場が素早く動いているか否かを感じ取ることができないため、素早く動いているという仮定の下で判断を下す必要に迫られます。仮にこの仮定の下で行動しなかったとすると、並外れた企業になると確信するに至った対象に投資するチャンスを失うことになるでしょう。他の誰かにそれを奪われるためです。

純粋に心理的なレベルでは、この種の不透明性は非常に競争心が強い人々 (投資家たち) の集団内に競争の力学を生み出します。これは創業者にとって大幅な優位性です。

YCは複数の企業を一つにまとめることで、このアイデアをさらに発展させました。複数の企業が資金調達を同時に実施するため、この企業同士が市場がどこにあるかに関する情報を常に共有することに加え、特定の投資家に関する有益な情報を伝えることも進んで行うようになります。私がデモデーの準備期間中に初めてこれを経験した際には、ある種の集団的な交渉上の立場を創り出すことを可能とするスタートアップ連合としてこれを思い描きました。それは強力でしたし、今もなお強力です。

投資家には創業者寄りの市場が形成されるのを止めたいという動機が与えられます。その結果、創業者たちはその市場が存在するあいだも、市場が作られる直前も大幅な相対的優位性を手にできます。創業者はこのタイプの状況を資金調達するときであればいつでも創り出せます。(※4)

シリーズAのプロセス

私はデモデーにより、創業者寄りの市場を作るには実際のデモデーが必要だと信じるようにすり込まれていました。自分たちのシリーズAプログラムを構築したり、デモデーの外で何十ものシリーズA が行われているのを目の当たりにするうち、最も重要なのはデモデー自体や投資家の絶対数ではないことを学びました。最も重要なことは、デモデーが創業者や投資家の参加を強制する際のプロセスです。創業者は資金調達するときであればいつでも同じ状況を創り出せます。その手段とは、自社との初接触を同時に行う投資家の数を確実に二社以上にすることです。

シリーズAについてじっくり検討するのであれば、私は創業者に対して、いずれ会社の存立にとって適切なパートナーになると思う15~20名の投資家グループを選ぶようにアドバイスします。このような投資家たちの人物像を把握することは科学というよりは技に近いものです。しかし、役立てられるテクニックが存在します。創業者は頼りになるのが誰で、小切手を切るだけなのは誰なのかを把握するために、自分と同じ業界にいる他の創業者たちと話すべきです。また、投資家が書く投稿記事を読むことにも時間を割くべきです。それを読めば、その投資家の興味の対象や好きな話題が分かります。(※5)

実際に資金調達を行うよりもかなり前のある時点から、創業者はそのような投資家の一部とミーティングを始めるべきです。本当に一緒に働きたい人々だと分かるまで、創業者はその投資家たちと関わるべきです。創業者はこのミーティングを通して、投資家が投資決定を完全に判断できてしまうほど多くの情報を与えることなく、投資家たちに好印象を与えながら積極的に関わっていく必要があります(※6)。 この一環として、資金調達が実際に始まる際のスケジュールを明確に伝えます。

このような資金調達前のミーティングは有意義ではあるものの、創業者はそれを実際の資金調達と混同すべきではありません。私は創業者たちから、シリーズAで資金を調達する最適な方法は全く資金調達をしていないふりをして、投資家たちとはただ社交上の会話をたくさん交わすことだと言われたことがあります。これは戦略としてはほぼ必ず悪手となります。資金調達で最大の成功を収める創業者は明確かつ積極的に資金調達の時期を決めたのち、その決定を投資家、アドバイザー、他の創業者たちに伝えます(※7)。 このような創業者は話題やプレゼン資料を準備し、デューデリジェンス用の情報を用意し、最も望ましい投資家との正式なピッチ・ミーティングを設定し、実施するというプロセスを駆け足で見事に行います。

正式なプロセスを開始する前の段階で、一緒に働きたいのは誰かを割り出すことに時間を割く創業者は、望ましい投資家だけで構成された市場を確保します。彼らは一緒に働きたくない投資家から条件規定書を受け取るリスクすら抑えていました。この時点で、創業者は市場を自分に有利な方向へと傾けるプロセスをすでに開始しています。

創業者はステージまでにできるだけ隙間なくミーティングを招集することで、市場の傾きを向上させ続けます。最初のピッチは全て1~2週間の内に実施し、パートナーシップのピッチは別の1~2週間で実施すべきです。理想的には、これによって投資家は結託したり、他者が断っていることを関知したりできないまま、同時にオファーをすることになるはずです。

この時点でよくある間違いが2つあります。一つ目は、一部の創業者は初期のミーティングを数か月間にわたって長引かせてしまうことです。これにより、市場は再び投資家に有利な方へと傾きます。もう一方はもっと悪いかもしれません。すなわち、創業者が条件規定書に対して厳しい締め切りを人為的に設定してしまうことです。投資家はその会社の勢いや取引が素晴らしいものでない限り、この後者のケースに対しては極めてまずい反応を示しがちです。

この優先順位付けの適正化は難しい仕事です。なぜなら、この企業について (そして資金調達プロセスが近づいていることについて) よく知っている投資家は他の全ての投資家に先駆けて動こうとする動機がとても強くなるはずだからです。創業者はこれを慎重に扱わなければなりません。一方で、創業者は紹介ミーティング全てが短い時間枠の中で行われるように徹底する必要があります。全ての資金が同じペースで動くようにするためです。

他方で、投資家の中に正式な資金調達が始まる前から素晴らしい条件を提案するほど望ましい (そして積極的な) 人がいることもよくあります。このバランス調整はどんな状況でも困難です。そのラウンドに関心がない誰かと議論するのが得策です(※8)。プロセスを実行せずとも、この早い段階でのオファーを十分な数だけ受け取れることもよくあります。

先買いのオファーを得られない創業者はプロセスを進めなければなりません。これを短期間で管理することにより、私たちの創業者がデモデーで経験したのと同じタイプの市場が、たとえやや小規模だとしても、創り出されます。ミーティングを何週間も長引かせるのではなく、1週間以内に収めて設定することに私は衝撃を受けました。同時に、ずさんなプロセス (創業者がスケジュールを見失っていたり、タイミングの要求が攻め過ぎていたりするようなプロセス) の実行は優良企業の資金調達ですら全て台無しにしてしまう可能性があります。

業務 vs 資金調達

最後に注意があります。創業者が資金調達のプロセスに心を奪われてしまうことはよくあります。これは普通、会社にとって致命的な誤りです。特定の投資家に対して相対的優位性を利用するタイミングと方法を理論化・最適化することに時間を使うのは、会社の土台に集中することよりもはるかに簡単です。

私が見てきたほとんど全ての資金調達において、素晴らしい会社はどれほど大きく最適化しているかにかかわらず、全速力で前に進み続けています。どんなに資金を調達したとしても、ダメな会社は混乱に陥り、馬鹿げたミーティングを開催し、資金を使い果たします。

資金調達のタイミングと方法を知ることは大切ですが、それを検討するだけの価値があるのは創業者が資金調達しなければならない時だけです。それに割く以外の時間はコードを書き、ユーザーと話すことに使われるべき時間です。

注釈
1. 私は2、3年前、交渉に関する意見を他にもいくつか述べています。 http://www.aaronkharris.com/guidelines-when-negotiating


2. ベンチャー事業による利益の分布に関するPaulのエッセイが優れています。 http://www.paulgraham.com/swan.html


3. 私のパートナーであるGeoffがこのことについて広範囲にわたって述べています。 https://blog.ycombinator.com/how-to-raise-a-seed-round/ 彼のエッセイでテーマとなっているのはシードラウンドについてですが、このアドバイスは全てのラウンドについて広く当てはまります。↩


4. この記事の残りの部分は特にシリーズAプロセスに焦点を当てていますが、どのラウンドで資金調達を行っていようとも、全ての企業が同じようなものを利用できます。↩


5. http://www.aaronkharris.com/utopia-bets-slash-apocalypse-bets


6. このようなミーティングを進行させる最適な方法について話すべきことはまだまだありますが、それは別のエッセイで取り上げることにします。↩


7. シリーズAでの資金調達を実際に準備するタイミング、または資金調達を実行するタイミングを決めるのは難しい仕事です。私はこの決定に関する枠組みの改良に取り組んでいます。↩


8. これは私たちがYCのシリーズAプログラムにおいて行うことの大半です。↩

 

著者紹介

Aaron Harris

Aaron は YC のパートナーです。彼は Y Combinator から投資を受けた Tutorspree の共同創業者でもあります。Tutorscpree より前に、彼は Bridgewater Associates で働いており、分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。また Harvard で歴史と文学に関する AB を取得しています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  Process and Leverage in Fundraising (2018)

FoundX Review はスタートアップに関するノウハウを届けるエンジニア向けのメディアです

運営元