スタートアップのプロダクトの価格を設定する (Sequoia Capital)

多くのスタートアップが価格設定を数学の問題として扱っていたり、さらにひどい場合には補足的なものだと考えていたりします。価格設定とは科学的であるのと同じくらい技術的で、古典経済学と同じくらいマーケティングや心理学に頼ったものです。

このSequoiaガイドでは、自分のプロダクトにとって適切な価格を把握し、最終的にそのプロセスにおける顧客の満足度と利益を向上させるのに役立てられる戦略を取り扱います。

価格設定のためのSequoiaガイド

LinkedInの「めったに使われない機能を利益率の高い『プレミアム』アカウントとして一括販売する」という決定が今や年間2億5000万ドル近くを稼ぐ事業分野を生み出しました。eBayでは、 低価格ツールのメリットを宣伝することが収益と損失との分かれ目になりました。

その一方で、自社のプロダクト価値を適切に評価し、それに従って価格設定を行うことのなかった企業は悪戦苦闘したか、あるいは先細りになって姿を消しました。

プロダクトの価格設定は企業が実行できるものの中でも特に重要な決定の一つです。しかし、大抵は補足的なものとして扱われます。特にスタートアップは、顧客を引き寄せるためにその価格を低く設定し、人々がそれにお金を払うということが明らかになった後でもその価格を決して引き上げない、あるいは機能を長々と無料にし続ける性質があります。

Evernoteの最高責任者、Phil Libin氏は次のように語っています。「一度価格を選択したら決して変更しないというのは、おそらく間違いです。」

価格設定に対するアプローチがもっと思慮深いものであれば、企業の利益を増加させたり、顧客満足度を向上させたり、考えもしなかったような人気のプロダクトバリエーションを発見するのに役立てたりできます。

はじめに

理論上、価格の設定は合理的な経済学上の問題となるはずです。あなたがプロダクト群を供給しているとします。また、市場にはそれらに対する一定レベルの需要が存在します。需要は価格が下がるにつれて増加する傾向があるため、あなたは収益性が最大になるまで価格を調整するだけです。

現実はもっと複雑です。テクノロジー企業は通常、プロダクトの供給に限界がありません。そして、ソフトウェアやモバイルサービスの開発に多くを費やす可能性もある一方、その追加生産コストは時間とともにゼロへと近づきます。

そのうえ、多くのスタートアップは顧客が比較評価できるような競合相手の存在しない新プロダクトを有しています。

スタンフォード大学デザインスクールのMichael Dearing教授は、このような状況下では「伝統的なモデルがおかしな動きを見せ始める」と語ります。Dearing教授は長年にわたって、eBayでの価格設定を行っていました。

価格を設定するためには、仮説を立てる必要があります。その仮説についてA/Bテストを行い、それを改良するその他の分析論を用いることができます。しかし、判断材料としての情報を集める際にはデータだけに頼ってはいけません。顧客や従業員からの情報提供、競合他社の動向、自分の直感も考慮に入れましょう。

Dearing教授はこう語ります。「価格設定は数学の問題ではありません。判断の問題です」

知覚価値の向上

通常、企業は自社プロダクトの生産コストとその値段のあいだに存在するギャップにこだわります。ですが、そのプロダクトの価格と、それが提供していると顧客の考える価値のあいだに存在するギャップにも注目すべきです。後者は「知覚価値」として知られる概念です。

企業は「売上が低迷しているならば、価格を下げる必要がある」と仮定することがよくあります。ですが、さらに多くの場合、「誰も自社プロダクトを買っていないのであれば、それは価格と知覚価値のあいだにギャップが存在しないか、あるいは十分に大きくないことに原因がある」とDearing教授は述べています。

Evernoteはそのギャップを測定しようと試みています。同社のプレミアムアカウントは現在、月額5ドルです。Libin氏は先日、Evernoteの価格が知覚価値と比較して安いのか、それとも高いのかを把握するため、一部の国々でそれに関するテストを行いました。

Libin氏は次のように語っています「インドや中国のような一部の国々において、月額5ドルは高過ぎる可能性があります。アメリカや日本の場合、月額10ドルでもまだ安いかもしれません」。

マーケティングの改善によって知覚価値を高めることができます。例えば、eBayは開始以来、25セントを支払うことでサイト上でプロダクトを販売する人々が販売リストの隣に写真を追加できるようになる機能を提供していました。Dearing氏によると、それはあまり使われなかったそうです。

しかし、写真を使っていた販売者の方がクリックレートがはるかに高く、商品も高い値段で売れる傾向にあったことが判明しました。eBayはこのデータをその機能と一緒に宣伝し始めました。

この売上データの提供によって、eBayの販売者は写真は問題解決に役立つと考えるようになり、その知覚価値も飛躍的に増大しました。

Dearing氏によると、eBayにとって写真を掲載する費用は25セントもかからなかったため、その機能は他のアップグレードオプションと併せて、最終的に年間数億ドルの純利益を生み出しました。

プロダクトの価格に物語らせる

そのプロダクトに設定された価格もその知覚価値に影響を及ぼします。人々が50ドルのワインが10ドルのワインよりも良いものだと推測する理由がそれです。

その意味で、価格は品質を測る尺度としての役目を果たし得ます。

Nateraは先日、ダウン症やその他の病気を母親の血液内から検知可能な非侵襲性の出生前検査を市場に投入しました。それまで、このような病気の検査には胎児の組織を抽出するリスクの高い処置が必要でした。他の非侵襲性検査はそれほど包括的なものではありません。

Nateraの検査がその競合他社のプロダクトよりも優れているため、同社は代金をより高くしています。

同社CEOのMatthew Rabinowitz氏は「プレミアムな価格設定は高品質のプロダクトであることを明示する」と述べています。

ヒント―― 買い物プロセスのどの時点で自社プロダクトの価格を表示するかによって大きな違いが生じます。テイクアウトメニューのような一部のケースでは、顧客があなたのプロダクトを購入しようと決定し終わるまで待つことにより、代金を高めに設定できるようになるかもしれません。ホテルの部屋など、それ以外の場合では、透明性があまりに低過ぎると顧客にフラストレーションを感じさせる可能性があります。

顧客ベースを拡げる方法の一つは、同様のプライス・ポイントで複数のプロダクトを提供し、幅広い好みに応えることです。これは「水平的な品ぞろえ」として知られています。カラーを5色取り揃えているiPhone 5cが良い例です。

もう一つのアプローチは複数のプライス・ポイントでモデルを提供する「垂直的品ぞろえ」です。最も高価なモデルはあなたのブランドが志向するものを示しますが、顧客はそれとは別に機能がもつ価値を判断します。そのハイエンドモデルに価値を認めない人々の一部は必要最低限のモデルに対してもっと少ない金額を支払うことには乗り気かもしれません。

ストレージ容量の異なるiPhonesを異なる価格で販売することにより、このプロダクトの有効市場を最低限の追加コストで増やせます。ユーザー数の最大化やカスタマーサービスのグレードの多様化を伴うソフトウェアのバンドル販売も同様のことを実現します。

どれほど調査を行おうとも、顧客が欲しいものが正確にわかることは決してありません。さまざなレベルのプロダクトを提供することだけでなく、そのプロダクトの追加機能を個別購入できるようにすることも良い考えです。

顧客自らの手でパッケージ・ソフトを作り上げさせることにより、価格とプロダクトの設定に関するフィードバックがリアルタイムで手に入ります。

ヒント――多過ぎる選択肢は人を圧倒してしまう可能性があります。人は間違ったオプションを選ぶくらいなら、むしろ何も買いたくないと考えます。同じく、使用量が増えるごとに膨らんでいく可変価格設定は潜在的顧客を委縮させる可能性があります。そのような人々は購入すべき適切なプロダクトが簡単には分からない場合や、将来のコストについて予測を立てるように強いられた場合、背を向けてしまうことがよくあります。

自分のピンチポイントを知る

顧客はそれぞれが全く違った形であなたのプロダクトの価値を知覚します。価格を考慮すればかなりお買い得だと考える人もいるかもしれませんし、一方で価格があなたの求めている金額の10倍でも喜んで支払う人もいるかもしれません。

このような異なるグループを理解することは、主な機能を利用するためには支払わざるを得ないと感じる 「ピンチポイント」を特定するのに役立つ可能性があります。この辺りに関しては多少の当て推量も存在しますが、それは顧客があなたのプロダクトを利用する様子を知る役目も果たします。

例えば、LinkedInが2005年にそのサービスの一部を有料化することに決めたとき、同社は顧客のうち90%が日常的には使わない機能を特定することから始めました。

LinkedInは自社のサービスがカジュアルユーザーよりも、ヘビーユーザーに対して価値があると結論付けました。そのため、同社は機能の10%を分離させました。パワーサーチと他のメンバーとの連絡機能がプレミアムアカウントの土台となりました。

案の定、ヘビーユーザーはより高い料金を惜しまずに支払いました。すぐ前の四半期までの1年間でLinkedInのプレミアムアカウントは2億4800万ドルの収益を生み出しました。

さまざまな顧客に訴求するパッケージを用意することはあなたにとってさらなる利益をもたらしますし、あなたの会社との関係性に対する顧客の印象を向上させます。ただし、今後もさまざまなオプションをサポートする必要があったり、別のプランに切り替えなければならない理由を顧客に説明しなければならなかったりする点に注意してください。

とっさの判断に向けたデザインを行う

従来の経済学が価格を設定するための良い方法ではない理由はもう一つあります。すなわち、人は合理的に行動しないということです。

実のところ、多くの場合、何かを購入するという決断は人間の脳のうち、論理と理性を働かせる部分が作動する前のほんの一瞬で下されるものです。これを行うのに、人は手っ取り早い方法をとります。何か新しいものの価値を評価することに努力を傾けるのではなく、すでに下した決断を当てにするのです。

例として、一足のローファーについて考えましょう。オンライン画像だけでその価値がどれくらいあるかを判断するのは困難です。ですが、そのローファーの値段について判断を下す場合、10代の若者がそのローファーをカットオフ・パンツやパーカーと一緒に来ている写真を見た人の方が、ブリーフケースを手にしたビジネスマンが着ている写真を見た人よりも、その金額は低くなりそうです。

靴の価値の確定 (その人に素材、縫製、その他の要素の算定が必要になる難しい問題) を試みる代わりに、顧客はもっと答えやすい質問を用います。すなわち、「高校生あるいはビジネスマンは靴にどれくらいお金をかけるだろうか? 」というものです。その答えがそのローファーが高いのか、お買い得品なのかを決める基準値になります。

ヒント――顧客があなたのプロダクトを見たときの第一印象を把握することはあなたが価格を設定するのに役立ちます。Dearing教授はある人があなたのプロダクトと関連付けそうな全てのことを書き出すことを勧めています。カッコいいのか、高いのかといったことだけでなく、あなたのプロダクトを買う人がすでに所有していそうな他のプロダクトなども含めましょう。

この出来事はWeeblyで起こりました。Weeblyはウェブサイト制作を容易にするツールを提供しています。同社はウェブサイト上で、自社のサービスが無料で手軽なことを強調していました。

Weeblyの共同創業者兼CEOのDavid Rusenko氏は、この手法はプロダクトが比較的シンプルだった初期には道理にかなっていたと述べています。ところが、人々は無料で手軽なことを三流で安っぽいことと関連付けます。Weeblyのターゲット顧客である中小企業のオーナーは自社のウェブサイトにあまり費用をかけたくはなかったものの、そのサイトを安っぽく見せたくもありませんでした。

Weeblyは長年をかけ、豊富な機能を持ちながらも、コストパフォーマンスに優れたツールへと成長していきました。このことを明確に示すべく、同社はそのイメージを刷新しました。新しいキャッチフレーズ、「あなたの会社と同じくらい、作るサイトもユニークに」はそれが特別なプロダクトであることを伝えています。同社のウェブサイトは現在、制作に100万ドルかかっているかのように見える顧客のウェブサイトを使用したハイクオリティなイメージが満載です。

Rusenko氏は「かつての私たちは自分たちから見れば道理にかなっている言葉を使っていましたが、それは消費者から見ると道理にかなったものではありませんでした」と述べています。

それはLibin氏がプロモーショングッズの配布を禁じた理由でもあります。Libin氏は顧客に対し、Evernoteをストレスボールや30セントのミントと関連付けて欲しいとは思っていません。またLibin氏は、NikeやAppleのような企業が自社のロゴをプロダクト以外のものにはプリントしていないことを指摘しています。そのため、EvernoteがTシャツを作れば、「それは皆さんが喜んでお金を払うような本当に素晴らしいものになるでしょう」、とLibin氏は述べています。

同じく、Libin氏はEvernoteのプレミアムアカウントを割引価格で販売するプロモーションを止めました。例えば、Evernoteを含んだソフトウェア・セットを29ドルで販売する、MacHeistの特別割引のようなものです。

同時に、EvernoteはMoleskineとの契約 (3か月間のプレミアム登録が付いた25ドルのノートブックを生産するもの) を延長しました。そのプロダクトは登録自体よりも値段が高いためです。

Libin氏は次のように語っています。「欲しいものがEvernoteのプレミアムアカウントだけであれば、お買い得ではありません。これは知覚価値を下落させないための方法です」

ヒント――論理は最終的に効力を生じるため、あなたが決める価格は吟味に持ちこたえる必要があります。あなたのプロダクトの値段が低過ぎる場合、その理由を解明しようと試みる人もいるでしょう。何か安価なものが高級なイメージで飾られている場合も、人々はその理由を探ろうとします。100万ドル相当の企業向けソフトウェア契約などの大きな買い物をする場合には、その売り込み方がどれほど優れていようとも、綿密な分析が必要とされます。

おとりを用いた価格設定

雑誌の『The Economist』はかつて、3種類の定期購読パッケージを提供していました。オンライン版が59ドル、印刷版が125ドル、そして印刷版とオンライン版の定期購読を組み合わせたものも125ドルです。

この広告がある教授の目に留まりました。教授は100人の学生たちにどの定期購読を選びたいかと質問しました。セットを選んだのが84人、オンライン版のみを選んだのが16人となりました。印刷版のみの定期購読を選んだ人は一人もいませんでした。

ところが、印刷版のみという選択肢を削除し、学生に59ドルのオンライン版の定期購読と125ドルのセット版のどちらかの選択肢のみを与えると、68人が安い方を選びました。

印刷版のみの定期購読はパッケージとしての価値が対してありません。ですが、顧客がとっさの判断を行う過程には影響を及ぼします。

このような「おとり」パッケージは、明らかに劣った選択肢を与えることで、別のもの (より高価な方である場合が多い) を良く見せます。 オンライン定期購読と印刷版とオンライン版のセット、どちらの方が高い価値を有しているのかを確定する明快な方法はありません。ですが、印刷版のみのものと比較べて、セットの方が明らかにお買い得です。この基準点により、人々はそちらを選ぶ方へとさらに心が傾きます。

同様に、ある企業は高価なプロダクトを手頃な価格に見せるためにおとりを使うかもしれません。よくある戦術は、例えば月額500ドルで最大ユーザー数が10名、月額1,000ドルで最大ユーザー数が25名となる一方、月額たった1,200ドルでユーザー数が無制限になるような企業向けソフトウェアです。

ヒント――人々は自分がすでに持っているものを過大評価する傾向があります。「授かり効果」として知られるパターンです。これはエンタープライズ企業が特に意識すべきものです。たとえあなたの販売しているものの方が明らかに優れているとしても、顧客をその人がすでに所有しているものから引き抜くには、いっそうの努力が必要です。それこそが、まっさらな顧客に販売する方が顧客を競合他社から奪い取るよりも簡単である理由の一つです。

自分の価格設定仮説を立てる

以下のワークシートはあなたのプロダクトの知覚価値とその価格の的確さを測るのに役立てられます。

フィールド (1) には、人々が初めてあなたのプロダクトと接する際に考えるであろう物事を書き出します。左側は誰かがあなたのプロダクトの代わりに使っているかもしれないもの、右側はあなたのプロダクトと一緒に使いそうなものを書くために使用しましょう。

フィールド (2) には、ある人があなたのプロダクトについて行うであろう直感的かつ瞬間的な判断と、その人がさらに綿密な分析を経たうえで下すであろう結論を書き出します。

フィールド (3) はあなたのプロダクトの知覚価値を可視化します。その知覚価値は代替物や補完物による影響を強く受けるはずです。あなたのプロダクトが200ドルかかる何かに取って代わる場合、その知覚価値はおそらくそれより高くはなりません。

フィールド (4) は目標としている市場の広さを特定するのに役立ちます。

価格設定戦略を進めるあいだ、顧客は分析を行う一方で、論理を飛躍させる傾向もある点、つまりお買い得品を求めながらも、恣意的な判断基準に基づくことも多い点を常に自覚しましょう。とりわけ、顧客は選択を間違った場合、自分が窮地に立たされているような気持ちになることを避けます。

あなたが顧客が料金を支払うことを惜しまないプロダクトを提供しながら、こういった欲求にうまく対処できたならば、永続的なビジネスの開発に向けて順調に進んでいくことでしょう。

価格設定ワークシート

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ワークシート

 

著者紹介 

Sequoia Capital (Medium)

アイデアから IPO、そしてそれを超えて、Sequoia は大胆な創業者たちが、伝説的な起業を作ることを助けます。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Pricing Your Product 

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