投資家から先行して資金提供のオファーをもらったときのガイド (Aaron Harris)

資金調達ラウンドは2つの内どちらかの方法で行われます。創業者が資金を求めてそれを獲得する方法か、投資家が資金提供をオファーして、創業者がそれを受け入れる方法のどちらかです。単純に思えるかもしれませんが、その力学は複雑です。

私はこれまで、創業者はどのように資金調達すべきかということについて書いてきました。しかし、YCのシリーズAプログラムを実施する中で、私は多くの企業があらゆるプロセスを全く無視して資金調達をしていることに気付きました。そのような状況はたいてい、資金調達プロセスを実施する準備が整う前の創業者に対して、投資家が資金提供をオファーする場合に起こります。そのこと自体は良いシグナルです。しかし準備不足の創業者は、投資家に先手を打たれたオファーの力学に捕らわれ、次善の結果へと追い込まれてしまう可能性があります。

投資家側が先手を打つオファーには2つのタイプがあります。1つは、創業者が通常の手順を踏まないまま、投資家からタームシートを渡されるタイプです(※1)。そのような状況においては、創業者はピッチデッキを作ったり、パートナーシップを構築するためにピッチをする必要がありません。もう1つは、投資家が実際にはオファーを明言せずに、オファーが存在するかのように創業者に確信させるタイプです。このオファーの場合、1対1の資金調達プロセスが投資家のスケジュールで始まります。

ほとんどの創業者が、投資家はピッチをすべて聞かなくてもオファーを出せるということを知りません。そのようなことが起こり得るのを知らないため、創業者はしばしば騙されて、投資家からの熱烈な関心の表明と投資家からのオファーとを同じものと信じてしまいます。この種のオファーは、投資家にとっての利益になります。なぜなら、この種のオファーをすることへの期待を減らすことになるからです。誤解のないように言えば、オファーと言えるのは、タームシートの形になっている場合のみです (※2)。タームシートがない全てのオファーは、創業者にもっと情報を開示させようとするものでしかありません。

投資家が先手を打つオファーのための下準備

投資家から先手を打たれるオファーは、根拠もなく現れません。一般的に創業者は、時に意図することなく、そのための下準備をしています。創業者が投資家と合うたびに、投資家はオファーを出すべきかどうか査定しています。そのことに気付いている創業者は、本当の友人同士の間では1杯のコーヒーもご馳走されないということを知っています。

私が気付いた事実は、小規模ながら高いモチベーションを持つ一連の投資家たちと、頻繁にではなくても定期的に会っている創業者は、全般的に資金調達時に最も多くの選択肢を提示される傾向にある、ということです。そして彼らはしばしば、先んじてタームシートを受け取る可能性が高いと言えます。これは私がかつて信じていたことと矛盾します。それまで私は、創業者は積極的に資金調達を考えている場合にのみ、投資家と会うべきだと信じていました。しかし現在の過度に資本化された世界では、創業者は常に資金調達について考えている必要があります。なぜなら、投資家は常に資金をどこに提供するべきかについて考えているからです。

このことは、私がシードラウンド後の創業者に与える助言を変えました。私は創業者に対し、自分が良いだろうと思う投資家たちのリストを当たり、その中からぴったりと思われる良い投資家たちを見つけ出すよう話すようになりました。この段階で創業者は、その投資家たちに自分の会社に対する興味を維持させ、全面的な意思決定のための十分な情報を集められていなくても問題ない、と納得させておく必要があります。そのような比較的カジュアルなミーティングでは、創業者は自分が積極的に資金調達を考えているかどうか明確に伝えることが重要です (※3)。

このバランスは微妙です。この方法で創業者があまりにも多くの投資家と会い過ぎると、気が散ると同時に、起業家というよりも社交家のように見えてしまうリスクもあります。創業者があまりに多くの情報を共有したり、熱心に売り込み過ぎたりすれば、投資家はその創業者が積極的に資金調達を考えており、そのために行動していると信じてしまいます。

このバランスに対する完璧な方法はありません。投資家が先手のオファーを行う時の理由は、たいていの場合、その創業者が資金調達を始めようとしていると考えて、全てのプロセスに先回りしたいと思うからです。

先手のオファーを受けるかどうか決める

もし自分が先手のオファーを受けていると思われる状況にいると気付いた場合に、やるべきことを紹介します。

  1. タームシートをもらっているかどうか確認してください。もしもらっていなければ、それは先手のオファーではありません。
  2. もしタームシートを受け取っているなら、その投資家に自分の会社をさらに多く所有してもらいたいかどうか、自分ひとりで考えてみてください。もし答えがNOなら、丁寧に断りましょう。
  3. もしその投資家に会社をさらに多く所有してもらいたいと思うなら、申し出を受けている投資が、次のラウンド前に完了しておく必要のあることに対して適切な金額かどうか考えてください。
  4. もし金額が適切だと思われれば、投資家が求めているエクイティの量は自分が安心できる量かどうか考えてください。
  5. もし上記のすべての質問に対する答えが「YES」なら、それ以上何もせず申し出を受けましょう。

もしいずれかの質問の答えが「NO」であれば、自分が資金調達プロセスを始めたいかどうか決める必要があります。ここで、例のカジュアルなコーヒーミーティング中に行った下準備が役立ちます。コーヒーミーティング中に築いた投資家たちとの関係が、実際の資金調達プロセスへと素早く引き込めることにつながるのです。この点については、次の記事を参照してください: https://blog.ycombinator.com/process-and-leverage-in-fundraising/

 

注:
1. 資金調達を考えていない企業にも、投資家が署名入りのタームシートを渡すケースを実際に見てきました。

2. ここでは主にプライスドエクイティラウンドについて言及しています。その場合、実際のタームシートは存在しなくても、この論法は安全のため維持され、同じように言い換えられます。

3. このような早い段階でのコーヒーミーティングの頻度や戦術は、YCAの間にかなりの量の議論のテーマとなります。

 

著者紹介

Aaron Harris

Aaron は YC のパートナーです。彼は Y Combinator から投資を受けた Tutorspree の共同創業者でもあります。Tutorscpree より前に、彼は Bridgewater Associates で働いており、分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。また Harvard で歴史と文学に関する AB を取得しています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  A Guide to Preemptive Funding Offers (2019) 

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