テック系企業は春節をどう祝うか: ゲーム、ミーム、景品

中国文化で最大の祝日である春節(旧正月)は、伝統的に家族の集まりや花火、10億人以上が見る国営テレビの番組、赤い封筒(お金入り)のギフトで祝われてきました。大手テック企業のプラットフォームにとって、赤い封筒をプレゼントする伝統には別の重要性があります。決済情報を獲得する機会です。

WeChatが2013年に開始したWeChat Payが、その後スーパーアプリになったきっかけは、春節でした。デジタルの赤い封筒をプレゼントする機能を活用したのが功を奏しました。デジタル封筒を渡して、銀行からその現金を引き出すには、利用者は口座情報を入力する必要があります。WeChatでは2014年の春節中、利用者が4000万通の赤い封筒を贈りました。2015年にはその数字は10億を越えています

過去数年、AppleCokeNikeといった世界的ブランドが、こぞって春節に的を絞ったマーケティングに出資しています。春節を中心にキャンペーンを張るのは真新しいことではありません。(今年の限定商品の売れ筋はGucci、Burberry、Disneyなどのものでしたが、1997年の当時は、Häagen-Dazsが中国市場をアイスクリーム入りの月餅で急襲しました)。しかし、WeChatが示したように、そのポテンシャルは物理的な商品に留まりません。この投稿では、中国の大手消費者向けアプリがどのようにAR、ゲーム、ミーム、景品を活用して春節を祝っているか、そして米国企業がそれにどう倣うかを見ていきます。

日毎のゲームドロップ

今年の春節イベントへ向け、Douyin(TikTokの中国名)は共有可能な動画を作成できる一連のARゲームをローンチしました。これらのゲームは毎日リリースされ、仮想地図の中で提供されます。デジタル遊園地のようなものです。これらのARベースのゲームはかなり短かく、たいてい1分以内に終了し、プレイヤースコアで締めくくられます。これらは本質的に、エンゲージメントを向上させるのに優れた媒体です。しかしさらに重要なことに、そうしたゲームはDouyinの真の力を明らかにします。ミームを通じてコンテンツ制作の障壁を下げているのです。

なぜなら、これらのゲームはプレイするのも覚えるのも簡単で、どの利用者でも何か楽しくて共有可能なものを制作できるからです。ゲームプレイ自体が十分な動機にならなくても、各ゲームでは、デジタルキャッシュの赤い封筒やスポンサークーポンと交換できるユーザーポイントを獲得できます。動画を公開すれば、最初の閲覧者数人も赤い封筒を獲得できます。

これが、毎日16個のドロップが落とされる、Douyinのゲームのデジタルマップです。

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Douyinは今年の春節のスポンサー賞を通じ、計2億9000万米ドルをプレゼントすることを約束しました。そのうち7200万ドルは、ゲームのプレイや他の利用者のゲーム投稿を見ることで獲得できます。各赤い封筒の金額はランダムであり、1500ドルを獲得した複数の利用者がそのことをシェアするとバズりました。今年のゲームの例を紹介します(一部はマルチプレイヤーゲームです):


沢山のプレゼントと赤い封筒

中にお金の入った赤い封筒を家族や友達、同僚に贈るのは、春節の伝統の大きな部分を占めています。しかし、人々は次第に、伝統的な封筒を贈ることから遠ざかり、WeChatやAlipayを使ってデジタルの赤い封筒を送り合うようになってきています。人々が物理的に集まっているのに、携帯電話に釘付けになり、赤い封筒をめぐり競い合うのは、春節前日のお決まりのジョークになりました。

今年、Douyinは自社版の赤い封筒プレゼントを導入しました。ライブストリーマーが赤い封筒をプレゼントできるようにすることに加え、Douyinは自身でも、利用者が現金を獲得できるHQスタイルのトリビアゲームを毎日主催しています。トリビアゲームでは、利用者は短いビデオクリップを見て答えを見つけます。その後、広告主のDouyinアカウントへのリンクが表示されます。コマーシャルを見た後にブランドをワンタップでフォローできるようなものです。

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2017年と2018年の春節へ向け、AlipayはAR借り物競争を主催しました。バーチャルの赤い封筒を見つけ出したい人は、ヒントや大体のGPS位置を入手し、宝物を隠した人にメッセージを送り、追加のヒントを求めることができます。封筒を見つけたプレイヤーは、アプリを使って場所をスキャンすると、自分のAlipayアカウントに即座に入金されます。2018年には、2億5000万人以上の人々がAlipayの春節イベントに参加しました。

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今年、Tencentの短編動画アプリであるWeSeeも、セレブ動画キャンペーンを実施しました。毎日午後7時に行われる赤い封筒のドロップの動画を投稿してもらうため、WeSeeは一群の有名人に入会してもらいました。WeSeeの年一度のプレゼントには今年、1億5000万ドル近い賞金が含まれますが、これらはその一端に過ぎません。

スポンサーシップとモバイルの組み合わせ

春節に合わせた年一度の番組、中国中央電視台春節聯歓晩会は2019年、11億人以上の視聴者を誇りました。しかし、ポップカルチャーとモバイルの統合は、視聴者数の大きさより重要です。Tencentは2015年、中国中央電視台春節聯歓晩会の放映中に利用者が特定の瞬間に電話を振るという伝統を始めました。ランダムな現金が中に入った5億通のスポンサー付き赤いデジタル封筒を集めるというものです。中国中央電視台春節聯歓晩会のスポンサーシップにわずか800万ドルを支払ったTencentは、2億人以上の利用者と結び付いた決済情報を獲得しました。

AlibabaやBaiduなどのテック企業は2015年以来、中国中央電視台春節聯歓晩会の主要なスポンサーであり(現在は広告主)、視聴者に何億ドルものお金をプレゼントしてきました。利用者を獲得する絶好の機会と見られています。Baiduは昨年、1億3400万ドル相当のデジタルの赤い封筒をプレゼントしました。中国中央電視台春節聯歓晩会の番組中、求められた利用者はアプリを開いて賞金を獲得することができます。Bytedanceの競合相手であるKwaiは今年、1億4600万ドル相当の赤いデジタル封筒をプレゼントする予定です。一方で、正式なeコマースパートナーであるAlibabaのTaobaoは、イベント中のプロモーションで1億4600万ドルをプレゼントする予定です。これらは全てモバイルを通じて行われます。例えばTaobaoは、無作為に選んだ5万人の利用者の買い物かごに保存された商品を代わりに購入することを計画しています。

祝祭の背後にある機会

春節はテック企業が新しい機能をリリースしたり、注目を集めるのに絶好の機会です。例えば、WeChatのウォレットといった一流製品の利用者を短期間で増やしたり、Douyinの毎日のゲームドロップなどの反響の大きいアプリ内イベントを構築したりすることです。こうした期間限定イベントを成功させるには、エンジニアリングや事業開発への多大な取り組みが必要ですが、WeChat Payで証明されたように、こうしたバズる瞬間はアプリの行く末を左右する可能性があります。

リソースや製品計画の観点から見て、こうした祝祭日のイベントは、中国のテック業界を取り巻くより大きな思想を端的に表しています。壁に色々と投げつけてみて、何がくっつくかを見てみることも時には重要です。利用者が新しい物事を試すことを一番受け入れてくれる、一年で最大の祝祭期間中ほど、機能をローンチするのに適したタイミングがあるでしょうか。

Douyinの春節ゲームにはヒット作もありますが、失敗作もあります。いずれにせよ、プラットフォーム自体は勝ちます。どのゲームが一番関心を引き寄せているかを知ることができるだけでなく、その利用者は自分の動画作品の主人公になる体験に夢中になっています。  

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アプリは生きた実験であり、イノベーションしない限り、利用者のマインドシェアを失うリスクがあります。祝祭日ーこそ、新しいアイデアを試すのに最適なきっかけなのかもしれません。

春節おめでとうございます!新年快乐!武汉加油!

 

著者紹介

Connie Chan

Avery Segal

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Games, Memes, and Giveaways: How Tech Celebrates Chinese New Year (2020)

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