10倍の売上をもたらす顧客はあなたの周りに潜んでいる (a16z)

多くのスタートアップ企業にとって、フォーカスを置く市場セグメントを見つけるのは至難の業です。その過程の早期の段階では、どの市場セグメントに属する顧客であれ、顧客の満足度を向上させ、Product/Market Fit (PMF) の追求を行います。そうした初期顧客は、購入プロセスがそれほど厳しくなく、成約までの時間が短い零細企業であることも多いです。さて、あなたが小口顧客を対象に解決しているのと全く同じ問題への全く同じソリューションを、遥かに大口の顧客が切望している状況があるとしましょう。しかし高価格市場に移行する自信を持てないために、そうした重要な機会を活用せず、一連の初期顧客に基づいて低価格市場で足場を築こうとするのは簡単にできるでしょう。企業の戦略的な意思決定として低価格市場に留まることもありますが、そうでない場合、取引のテンポを損なうことなく取引当たりの利益を向上させたければ、高価格市場に移行するのはとても良い方法です。

年間契約価値(ACV)が1万ドルである顧客を10人抱えているならば、その10倍の規模の顧客を見つけましょう。あなたが思っている以上に、準備は整っています。

型にはまった考えが処方箋として頼りになることは稀ですが、高価格市場への移行を少なくとも検討する上で、原動力となる事象が判明しています:一定の価格帯で一連の顧客を確立すると、製品やGo-to-Marketの大規模なシフトを行うことなく、10倍の規模を持つ顧客をほぼ確実に獲得することができます。

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この投稿は、@davidu による過去のツイッターストームに基づいています。https://twitter.com/davidu/status/1131212127878828032

年間1万ドル支払う顧客を複数獲得した時点で、遥かに大口の顧客が全く同じ問題を抱えていて、且つその問題の規模もより大きいものである可能性が高い、というのが「10倍顧客理論」の核心です。また、十分な数の1万ドル顧客が「足による投票」を行い、あなたの製品を妥当と認めた時点で、10万ドル顧客のアーリーアダプターは十分な市場検証がされていることを理解してくれるので、あなたの会社の顧客規模を次の段階に引き上げてくれるでしょう。

10倍の跳躍を行うのに必要な労力は、あなたが思っているほどではなく、ACVが10万ドルの顧客を相手にしたときほどの労力は必要ありません。

大口顧客に固有の機能要望に応えたり、セキュリティやコンプライアンス要件に準拠するためにエンジニアリングサイクルを割いたり、実装プロセスを洗練する必要があるかもしれません。しかし、その顧客が探しているのはあなたのコアプロダクトであり、主に営業戦略をシフトすることで、10万ドルの取引をもたらしてくれる可能性があります。加えて、10倍の跳躍をサポートするために行う細かな調整は、遅かれ早かれ実施する必要があります。これを行うことにより、10万ドルから100万ドルの取引への次の跳躍が、さらに容易になります。

100万ドルへの跳躍は、1万ドルのACVから10万ドルへの跳躍よりも遥かに大きな功績に思えますが、そうでもありません。こう考えてください:あなたが会社として成長中であるとします。現時点で数十もの顧客が製品を1万ドルで購入しており、10万ドルの価格帯で購入する顧客も増えています。営業戦略や製品マーケティング資料が洗練され、オンボーディングや実装の取り組みは活気に満ちています。製品の変化は漸進的なものかもしれませんが、会社は劇的に成熟しました。その結果、100万ドルの契約を結ぶのに必要な機能・実装上の変更は、10万ドルの場合よりも大抵少なく済みます。

10倍顧客の階段を一段登れば、その次の一段はより楽になることが多いです。

1万ドル顧客と取引する権利を得ると、10万ドルの扉が開かれます。10万ドル顧客と取引し始めると、100万ドルの取引の扉を叩いていることになります。100万ドル顧客を勝ち取り、実装し、サポートするのに必要なエネルギー、リソース、時間は、10万ドル顧客との取引を成功させるのに必要なそれと似通っていることが多いです。組織が消費する体力がほとんど同じなのであれば、自社のテクノロジーで最大のインパクトを与えられる可能性のある分野に、視野を集中させるべきではないでしょうか?ここで、製品を継続的に改善する必要がないと言っているわけではありません。当然それも必要ですが、取引を行う全ての市場セグメントに当てはまるということです。

私たちは、ある会社がACV10万ドルを支払うアーリーアダプターを複数獲得した時点で、その10倍の規模の問題を解決するために、10倍の額を支払えるより大規模な企業がどこかに潜んでいる、というパターンを常に目にしています。あとは見つけるだけです!見つけたとしても、お楽しみは100万ドルでは終わりません。幸運を祈ります!
 

著者紹介

David Ulevitch

David UlevitchはAndreessen Horowitzのジェネラルパートナーで、エンタープライズとSaaSへの投資を中心に担当しています。以前は、2015年にシスコに買収されたクラウド型セキュリティサービスのOpenDNSの創設者兼CEOを務めていました。彼のビジョンとリーダーシップは、今日では1万社以上の企業顧客にまたがる世界中の8,500万人以上の人々を保護するクラウド配信型セキュリティサービスの創出に貢献しました。シスコでは、年収24億ドルの事業であるシスコセキュリティの上級副社長兼ゼネラルマネージャーとして、同社のグローバルセキュリティ戦略、ポートフォリオ、アーキテクチャを監督しました。

OpenDNS の前には、権威ある DNS サービスである EveryDNS を設立し、世界最大の無料 DNS サービスに成長させ、2010 年に Dyn (現 Oracle) に売却しました。

David はセントルイスのワシントン大学で人類学の学士号を取得しています。

Davidは、Andreessen Horowitzの以下のポートフォリオ会社の取締役を務めています。AnyRoad、Orderful、Superhuman、Tandem、WorkBoard。

Peter Lauten

Peter Lauten は Andreessen Horowitz のパートナーで、エンタープライズ・アプリケーションへのアーリーステージ投資を専門としています。彼の投資対象には、ナレッジワーカーを支援する次世代のソフトウェア、企業の老舗企業に対する動きとしてのボトムアップによる市場投入、成熟した産業を垂直SaaSで再構築するベテランチームなどが含まれます。

2016年にa16zに入社する前、ピーターはニューヨークで2年間、投資銀行のアナリストとして働いていました。デューク大学で経済学を学び、サウスカロライナ州の田舎で育ちました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The 10x Customer Hiding in Plain Sight (2019)

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