創造的破壊として知られる経済学的プロセスの中では、新たなテクノロジーが旧体制にとってかわり、最終的には旧体制を破壊します。金融サービスでこれが最も明白なのは、証券会社における最近の構造変化です。こうした変化を牽引している要因に、Robinhoodなどの無料トレーディングアプリの台頭があります。
先月、Charles Schwabが、米国株やETF、オプション取引に対して、以前は取引ごとに4.95ドルだった手数料を廃止すると発表しました。(多数の同業他社もそれに追随しました。)収益損失の恐れがある中、会社の株価は約15%下落しました。しかし同社は実際には、10月に、新たに14万2,000の証券口座の増加を見ました。これは前月比で31%増であり、2018年10月との比較では7%増です。
これは既存大手企業がわざわざ「自らを破壊」しているということなのでしょうか。そうでもありません。Charles Schwabがいかにして資金を手にしたかを詳しく見ると、第3四半期の会社の収益における手数料の割合はわずか6%です。純収益の70%が利息収入で、そこには顧客の口座の残金でCharles Schwabが集めた利息も含まれています。直近の四半期では、クライアントは資産の11.4%を現金として残し、Charles Schwabは有利子資産で2%以上を手にしました。ここでの教訓は、たとえ企業が手数料の収益を失ったとしても、その一部は現金の利息で埋め合わせることができるということです。さらに、Schwabは、貸付および収入サービスに精力的に取り組むことを発表しました。現金資産の活用で、利ざやが拡大することが予想されます。
Schwabは手数料の廃止により、収益が比較的小さい収益源を手放しました。同社は、依然として、ある意味で、顧客の無関心と誤った情報のおかげで収益を上げています。本来であれば、人々は自分の現金を預金口座に密かにとっておくのではなく、投資しなければいけないからです。(そして、もし預金したとしても、それに相当する市場価格の支払いを受けて然るべきです)。人々はそれを知らないだけです。
貸付と収入の管理による収益は、既に競争によって減っています。かつての手数料の収益と同じです。これには二つの原因があります。まず、純利益の利ざやは過去15年間で着実に小さくなってきました。これが部分的には中央銀行の活動によるものと言える一方、ソフトウェアがこの傾向を加速しています。金融の自動化によって、消費者は、最善かつ最低料金の形式で借金する方向へ動くので、銀行の利ざやは縮小し続けるでしょう。第二に、現金管理口座(そして銀行口座一般)は増加してきており、利ざやをゼロにしています。多くのスタートアップがこのような口座を、資産運用の自動化の将来のための土台と見ています。顧客の優先銀行口座と給料小切手を手にするものは誰でも、すべてのキャッシュフローを経由させる「ルーター」を所有することになり、貸付の自動化が可能になります。これを追求するにあたり、現金管理と預金は、いわば戦略の積み上げブロックです。既存大手企業もスタートアップも共に、そこにたどり着くためには、利ざやを犠牲にすることはやむを得ないと考えています。
もしCharles Schwabとその他の既存大手金融会社がこのような変化に上手に対応することができれば、取るに足らない新たな挑戦者の先を行くことができるかもしれません。もし失敗すれば、Fintech革命の脚注程度の存在に終わってしまう可能性もあるでしょう。
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この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Does Zero-Fee Trading Pay Off? (2019)