正しいユーザーメトリクスを選択する (Sequoia Capital)

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以前、ゴールと評価指標を正しく設定することにより成功を定義する日本語訳)方法について話しました。目標値を設定することは成功を定義し、進捗をモニターすることに役立ちます。あなたにとって最も大事な一つの指標を明確な目標とタイムフレームに結びつけることで、ミッションを戦略へ、そしてロードマップ、イニシアチブ、戦術へと導いてくれます。正しい指標を設定することはプロダクトの成功にとって非常に重要ですが、最も大事な指標を一つ選ぶことは難しいことかもしれません。この記事では、あなたのプロダクトを成功へと導くために最適な指標の選び方についてお話しします。

あなたのプロダクトの成功にとって最も重要な一つの指標は何でしょうか? その答えはそれぞれの企業によって異なります。Facebookならアクティブユーザーです。WhatsAppなら送信数です。eBayなら商品の総数です。PayPalなら支払い高の総額です。最も重要な指標が特定されたら、プロダクトの健全性の評価と管理のためにそれを使うことができます。指標の成功の基準を設定し、指標を観察し、何が指標を動かし、指標とともにあなたのプロダクトを正しい方向に強く押し出すのか。それらを理解することで、管理が可能となります。

問題の種類により、最適な指標を特定する上でそれぞれに固有の課題があります。ここでは議論の目的のために、アクティブユーザー数が最も重要な指標であるプロダクトを想定してみましょう。そのカテゴリーの中では、イントラデイ(日中)ユーザー数、1日のアクティブユーザー数(DAU)、週間アクティブユーザー数(WAU)、月間アクティブユーザー数(MAU)のうちどれを追うのが良いでしょうか? 通常これらの指標はすべて相関しており、うち一つだけを選ぶことは合理的ではありません。しかしその中で他の指標よりも良い指標があるのでしょうか? 正しい指標を選ぶために考慮すべき3つの点があります:

  1. プロダクトのビジョン:プロダクトがどのように使用されるのか、時とともにそれがどう変遷していくのかのビジョンをどのように描いていますか? プロダクトは週毎に利用されると考えていますか? それならWAUが成功へと導く最善の指標となるでしょう。しかし人がデスクトップ使用からモバイル使用へと移っていくことが想定されるなら、DAUを目標の指標に選ぶことを検討するとよいかもしれません。モバイルプラットフォームでは使用頻度が高まる傾向があるためです。
  2. 現在のプロダクト使用:あなたにプロダクトのビジョンはあるとして、実際にユーザーは今プロダクトをどのように使っているでしょうか? もし一日に複数回使われているなら、あなたの最重要な指標としてDAUかイントラデイ(1日あたり)の指標(セッション数や1時間のアクティブユーザー数)を選ぶのが理にかなっているかもしれません。
  3. 競合:競合プロダクトはどのように使われているでしょうか? 競合プロダクトが毎日使用されているのに対して、あなたのプロダクトは週毎の使用となっていますか? もしそうなら、人のエンゲージメントがより少ないあなたのプロダクトは競合環境で成功しませんから、DAUを指標として使いましょう。日毎の利用目標を設定することで、あなたはプロダクトに関して新たに必要となる決断を迫られることになるかもしれません。

プロダクトがどのように使用されるかは正しい指標設定のために極めて重要ですから、もう少し掘り下げてみましょう。

プロダクト使用率

どんなプロダクトも、使われ方は意図されたプロダクトの目的によります。職場での使われることが想定されたプロダクトに週末のユーザーは多くないでしょうし、ソーシャルなプロダクトは毎日等しく使われる可能性が高いでしょう。結局のところ、どんなプロダクトの使われ方も、様々なデバイスやプラットフォームでの様々に異なる使い方が混ざり合ったものです。この混ざり合い方を理解することがあなたのプロダクトに合ったゴール指標を定義する上で非常に重要です。ここでは、様々なプロダクト仕様のタイプの概要を説明します。イントラデイ(日中)、デイリー(1日あたり)、ウィークリー(週間)、マンスリー(月間)、クォーターリー(四半期毎)のプロダクト使用率を見ていきます。

イントラデイ(日中)使用の指標

1日に複数回使用されるプロダクトはイントラデイ(日中)型プロダクトです。プロダクト使用がデスクトップから携帯電話へとますます移行するにつれ、イントラデイ使用のプロダクトが増えました。大手のソーシャル、サーチ、ブラウザプロダクトのいくつかは通常このカテゴリーに分類されます。もしあなたのプロダクトが日中使用を想定して設計されているなら、成功を導くために使える二つの主要な指標があります:

  1. 1時間当たりのアクティブユーザー数:時間毎のアクティブユーザー数(HAU: Hourly Active User)を定義し、登録ユーザーが1日何回HAUとして登録したかを確認します。HAU数が大きいほど、プロダクトは日中に使われているということです。
  2. ユーザー毎の1日当たりのセッション数:もしユーザー毎の1日のセッションの数が大きければ、プロダクトの日中の使用率は高いでしょう。

ユーザー毎の1日当たりのセッション数はプロダクトがどれくらいの頻度で使用されるかを示すよい指標となります。iMessageやWhatsApp、Facebook Messenger、KakaoTalk等のメッセージ用プロダクトはどれも日中に何度も頻繁に使われています。FacebookやInstagram、Snapchat等のソーシャルプロダクトも日中に複数回使用されていますが、メッセージプロダクトほど頻繁ではありません。また日によって複数回使用されるけれども毎日ではないプロダクトもあります。旅行、出会い、ナビゲーションプロダクトは日中に散発的に使用されるこのカテゴリーに分類されます。図1は様々なプロダクトのユーザー1人当たりの1日のセッション数を示しています。予想されることかもしれませんが、主要のメッセージング、ソーシャルおよびブラウザプロダクトはデイリー(1日当たり)のセッション数が高水準です。それに比べて、ほとんどの人は買い物や天気チェックを1日に何回も、それも毎日はしません。この資料のすべての図表はApp Annieによるものです。

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図1


デイリーでの使用率の指標

その名前の通り、デイリープロダクトとは毎日使用されるプロダクトです。多くのモバイルプロダクトはデイリーの使用率も高くなり、また1時間当たりの使用率も比較的高くなります。追うべき主要な指標は3つあります:

  • L5+/7 (日本語訳) これは週に5日以上アクティブなユーザーが何%いるかを示す指標です。L5+/L7の%が大きい場合、プロダクトはデイリーの使用率でモニターするべきです。L1+/7はWAUと同じであることに注意してください。
  • L21+/28 これは1カ月に21日以上アクティブなユーザーが何%いるかを示す指標です。L21+/L28の%が大きい場合、プロダクトはデイリーの使用率でモニターするべきです。
  • DAU/WAU。DAU/WAUが60%以上の場合はプロダクトが週に5日以上使用されているということであり、プロダクトはデイリーユースプロダクト(daily usage product)として見てもよいことを意味します。

月間使用率が著しく高い、いくつかのおなじみのプロダクトのDAU/WAUを見てみましょう。(図2)

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図2

Samsung Experience Homeが最も高いDAU/WAU比率を有しています。Samsung Experience HomeはGalaxyデバイス用に最適化されたユーザーインターフェースを提供する公式ランチャーであり、すべてのSamsung携帯端末にプリインストールされてきます。驚きではありませんが、このプロダクトのDAU/MAUが高いのはすべてのユーザーが毎日携帯を開くからです。多くのソーシャルプロダクトが頻繁に使用され、ほとんどがデイリーユースプロダクトです。Microsoft Outlookは主に仕事用に使われるメールクライアントですから、週に5日使用されているものと想定されます。Outlookの正規化されたDAU/WAUは84%に近く、週の平日は毎日使用されていることが確認されます。これらのプロダクトはすべて日中も使用されているものです。私たちが知る限り、日中使用率の目標値を公に設定している会社はありません。Facebookのような会社は、日中アクティビティのもう一つのプロキシのようなタイムスペント(滞在時間)の目標値を掲げています。これは彼らが設定している1日当たりアクティブユーザーの目標値に加えて設定しているものです。測定や運用が複雑なため、現在のイントラデイ(日中)の指標は扱いにくいものとなっています。

表が示すように、音楽アプリ(Pandora、Spotify等)、ネット通販プロダクト(Walmart、Amazon等)、およびビデオプロダクト(Netflix、YouTube)はコミュニティに広く毎日は使われていません。しかし、これらのプロダクトと毎日エンゲージする一部のプロダクトユーザーが、L7やL28等の追加データで特定されます。さらに、この表はGoogleの Calendar、Maps、Photosのプロダクトが毎日は使用されないユーティリティプロダクトであることを示しています。

様々なユーザーにおけるプロダクト使用率の分散および分布は、プロダクトが90%以上のDAU/WAUに到達することが非常に稀であることを意味します。ゆえにDAU/WAU60%は、プロダクトを毎日使用する人とそれよりずっと低い頻度で使用する人がいることを示唆します。総計のDAU/WAUが60%程度という結果を生むのはこのような様々なグループのミックスによるものです。この60%をプロダクトにとって最適なアクティブユーザー指標を特定するための閾値とするルールは、概ねすべての使用ケースで有用です。HAUの場合は、時間毎の使用率がもっとも高いいくつかの製品の経験的な使用活動に基づいて、より低い50%という閾値を使用します。

ウィークリー(週間)使用の指標

ウィークリーで使用されるプロダクトでは、追うべき主要な指標はWAU/MAUとなります。平均的なユーザーがプロダクトを月に2〜3週間開く、つまりがWAU/MAUが60%以上なら、プロダクトは週毎に使用されるプロダクトと分類されます。

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図3

これ以前のセクションで議論したのと同じプロダクトについて、私たちはWAU/MAUを計算しました(図3)。WAU/MAUは、人が月のうちプロダクトを連続して何週使うかのパーセンテージと考えることができます。これも驚きはないですが、表はソーシャルプロダクトではユーザーが毎週戻ってくる率が高いことを示しています。Microsoft Outlookも毎週使われています。しかし、これらのプロダクトはDAU/MAUが高いため、これらは毎日使用されるデイリープロダクトと分類し、主要指標としてデイリー(1日当たり)アクティブユーザー数を設定するのが理にかなっています。

それに比べ、SpotifyとYouTubeは毎日は使われず、ほぼ毎週は使われています。結果、これらはデイリープロダクトよりウィークリープロダクトとした方が相応しいでしょう。

Netflix、Walmart、Amazonは毎日使われていませんが、月に大体2〜3週使われています。60%ルールを常にクリアする訳ではありませんが、野心的に狙うならばMAUよりWAUの目標値を設定する方が理にかなうでしょう。

マンスリー(月間)・クォータリー(四半期毎)の使用の指標

マンスリー使用のプロダクトでは、追うべき主要な指標はMAU/QAUとなります。平均的なユーザーがプロダクトを3カ月のうち2カ月開く、つまりMAU/QAUが60%なら、プロダクトはマンスリー使用のプロダクトです。同様に、QAU/YAUが60%だとクォータリー使用のプロダクトとなります(YAUとは年間アクティブユーザー(yearly active users)です)。

月毎に使用されるプロダクトは多数あります。上で示されたように、VenmoおよびPayPalは定期的に使われていますが、多くのユーザーにとってウィークリープロダクトと言えるほど頻繁には使用されていません。VenmoのMAU/QAUは67%で、PayPalは78%です。これは、これら二つのプロダクトはコミュニティに月毎に使用されていることを意味します。同様に、月毎ではなく四半期毎に使用される会社も特定することができます。

使用率指標のフレームワークを作る

1時間、1日間、週間、月間、四半期、年間のアクティブユーザーを理解することはプロダクトユーザーを分類するフレームワーク作りに役立ちます。各プロダクトについてHAU、DAU、MAU、QAUを特定でき、あるプロダクトのユーザーの使用パターンを理解しやすくなります(表1)。一般的に言って、プロダクトが主にデイリーに使われていたら、ウィークリー、マンスリーでも使われている可能性が高いでしょう。結果、フレームワークを左から右へと動く中で最初に60%の閾値を超える値を見つければ十分です。

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表1

次に、このフレームワークを実際の会社に当てはめることができます。下の表に、テック企業10社のアメリカのユーザーにおけるDAU/MAU、WAU/MAU、MAU/QAU、およびQAU/YAUの比率をまとめました(表2)。FacebookはDAU/WAU比率82%で、毎日使用されています。Amazonは月に3週間程度使用され、ウィークリーのプロダクトとなっています。Walmart、Uber、Netflix、VenmoおよびPayPalのようなプロダクトは、ほとんどの人にとってマンスリー使用となっており、毎日・毎週の使用ではありません。GrouponおよびeBayは年に2四半期を少し下回る程度の使用となっていますが、少なくとも四半期毎に使用されることを目指すべきでしょう。

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表2

指標に関する追加検討事項

指標選定において追加検討すべきものとしては、以下の要素も含まれます:

  • 分布、ミックス効果および総計:総計では、プロダクトの使用率は様々な異なる種類のユーザーのミックスから導かれます。ほとんどすべてのプロダクトには頻繁に使用するユーザーとそうではないユーザーがいます。ここで議論されるユーザー比率には、プロダクトがどれくらい頻繁に使用されるかのパーセンテージの総計が示されます。しかし、総計には詳細が隠れているため、さらなるインサイトを明らかにすることで分布をより深く理解することができます。例えば、UberのDAU/WAUは25%程度です。もし88%のユーザーがプロダクトを週に1度使っており、12%が週に7日使っていたとすれば、それらの平均は25%となります。これは、ユーザーミックスの分布が、有意に多いユーザーセグメントにプロダクトが本当に毎日使われているのかを理解するために重要であることを意味しています。プロダクトが二峰性である場合は、野心的な目標値を設定しましょう。Uberの場合なら、週間より1日当たりの目標値を選びましょう。
  • 比率を制限する値:DAU/WAUは1/7より低くなることはないこと、DAU/MAUは1/4より低くなることはないこと(MAUが28日を超えるものとして定義される場合)は指摘しておく価値はあるでしょう。その結果、eBayのDAU/WAU(14%)は可能な最小値に近く、それによりほぼすべてのeBayユーザーは多くて週に1度はeBayとエンゲージしていることが示されます。ですから、eBayは明らかにデイリー使用のプロダクトではありません。
  • プロダクトは変化するが使用率の動きは遅い:使用率は動きの遅い指標であり、ある任意の時点におけるプロダクトの全貌を示します。そのため、使用率の変化を常に捉えられるわけではありません。例えば、DAU/MAUは新規ユーザーのプロダクトエンゲージの変化をすぐには反映しません。コホートリテンション指標の方がDAU/MAUよりずっと早く新規ユーザーの使用態度の変化を捉えることができます。より新しいコホートの方がリテンションが良好で、古いコホートがチャーンより早く復活していれば、DAU/MAUは間違いなく改善します。使用率に変化の予兆がある場合、あなたのプロダクトの主要指標を変えることは理にかなっているかもしれません。
  • 他の種類の指標への応用:この資料で作成したフレームワークはアクティブユーザーにのみ適用します。タイムスペント(滞在時間)、収益、コンバージョンレート等にはそれら専用のフレームワークが必要です。

まとめ

  • 正しいユーザー指標の選定はビジョン、使用率、競合に左右されます。
  • 使用率を注意深く観察することで、成功を導く正しい指標選定に役立ちます。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Selecting the Right User Metric (2019)

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