ECの「動画ファースト」な未来 (a16z)

私たちは今後、TikTokのような動画アプリで買い物をするようになるでしょう。買うものがインスタント麺であろうと高級セーターであろうと、短い動画クリップこそがネット通販の未来であることがますます明らかになってきています。これらはついつい見ずにはいられないコマーシャルの類と考えればよいでしょう——しかも、購入するための直リンク付きです。

アメリカでは、動画についての通常のマネタイズシステムには限界があります。最大の動画プラットフォームであるYouTubeでは、報酬はまだ概ね広告を通じて獲得するものとなっています。しかしほとんどのクリエイターにとって、それでは倹しい暮らしにしかなりません。2018年のあるレポートによると、動画クリエイターの上位3パーセントがYouTubeの全ビュー数の90パーセントを占めるとしています。人も羨むその3パーセントに入り込むことができた人ですら、年間広告収入として$16,800程度しか稼げていませんでした。

そして今、私たちは、TikTok、Instagram、YouTube、Pinterestのような短編動画コンテンツプラットフォームの隆盛により、ネイティブECの新しい時代へと突入しています。農家から独立系工芸作家や服飾デザイナーまで、様々な起業家たちが、自分で録画した動画クリップを通じて買い手と直接つながることができます。まもなく私たちは動画アプリをエンタテインメントのためのものとしてだけでなく、小売りのためのものとして捉えるようになるでしょう。

この移行により、既存ブランドや単独クリエイター、新興ビジネスにとって巨大なチャンスが生まれます。このフォーマットではA/Bテストの費用は非常に安く済みますが、このことはつまり、売り手は即時的なフィードバックというメリットを享受することができることを意味しています。ネット通販と動画の実験が今後も続く中、ブランドはまた、研究開発において大衆による知見も活用することができるようになります。

ショートビデオによるマネタイズは、すでにアジアでは始まっています。中国最大のネット通販プラットフォームであるTaobaoでは、商品ページの42パーセントがすでにショートビデオを掲載しており、ライブストリーミングも急速に成長しています。2018年1月~8月まで、同社はライブストリーミングを通じて150億ドル以上を売り上げ、前年比400パーセント増となっています。ゆえに、ショートビデオアプリがアメリカのネット通販における次の最先端であることは、驚きではありません。こうした傾向は、ネイティブショップの隆盛や人気のサードパーティプラットフォームとの統合により加速されます(アマゾンの製品ページその他ショッピングページにも、より多くの動画が組み込まれる可能性が高いでしょう)。以下は、中国でブランドがネット通販のためにショートビデオエンタテインメントアプリを活用している事例です。

本格的なファーム・トゥ・テーブル(産地直送)

中国の動画アプリで新たなインフルエンサーの一派が生まれています——地方の農家です。これらの農家は毎日農園からライブストリーミングを行い、ショートビデオを活用して自社農園の果実のみずみずしさや珍しい品種をアピールしています。青果店を通すのではなく直接消費者に販売することで、農家はずっと多くの消費者とつながり、より多く儲けることができます。一方、視聴者は果物の裏側の「顔」と出会い、独立系生産者を支援したり、地元の市場で買えるものよりも新鮮な農産物を手に入れたりすることができます。

例えばFengさんは四川省の中規模のフルーツインフルエンサーで、218,000人のフォロワーに配信しています。彼女の果樹園ではサトウキビとザクロを育てていますが、彼女はハート型の形状により「シュガーハート」と名づけられた林檎で最もよく知られています。普通のスーパーの林檎とはまったく異なるものです。

製品テストの実地版

アマゾンで買い物をする人の70パーセントは、検索結果の最初のページ以降クリックすることはありません。これはタイトル、価格、写真、評価の星等、同プラットフォームの均一化された製品リスティングが発見ではなく検索のために作られているからです。結果、販売はSEO重視型となっており、新しい商品や革新的な商品を見つけることはさほど重視されていません。

これと対照的に、Douyin(TikTokの中国版)やKwaiのような発見型動画プラットフォームでは視聴者を獲得するための一つのシンプルなルールがあります——視聴者を楽しませることです。検索なしでは、携帯の画面保護フィルムのような毎日の生活用品の口コミポテンシャルは下がるのではないかと思われるかもしれません。しかしDouyinの事例では、そうではないことが示されています。最も安全な画面保護製品であることを言葉で訴えるより、落下動画や未想定使用事例を通して、その丈夫さを見せてみればよいわけです。

エンタテインメントとしてのファッション

未来の買い物はインタラクティブなものになります。静止画像の中をスクロールしていったり、カテゴリー毎にブラウズしたりするのではなく、モデルが服を次々と試着するところを見ることができます——そして、その1着1着が購入可能となります。Douyinで活動するファッションインフルエンサーにとって、これがすでに当たり前になっています。15秒の動画1本で、5~10着の服を展示したりします。このような方法でのショッピングは楽しいものです。律儀に写真をクリックしていくというより、チャレンジ動画を観賞する感じに近いものがあります。

Click-to-buy(クリック・トゥ・バイ)の開封ショッピング

ショッパーが最近の買い物をリアルタイムで開封するところを録画する「開封動画」は、YouTubeで非常に人気となっています。このようなコンテンツはワクワク感を重ねていき、最後に中身が明かされるもので、ユーザーの純粋な第一印象を捉えます。このフォーマットはショートビデオにもよく対応します。特にぱっとしないキッチン整理キットのようなものでも、このフォーマットなら魅力的な商品に見せることができます。

製品の裏の作り手の技を見せる

安価な製造と自動化の時代には直観に反しているように聞こえるかもしれませんが、手作り製品の市場は盛り上がっています。アメリカのほとんどの手作り製品用プラットフォームは、文章と写真に大きく依存していますが(Etsyがその典型です)、動画のほうが媒体としてはるかに優れています。動画フォーマットは商品の裏にある職人技を見せることができるだけでなく、消費者がクリエイターとやりとりすることを可能にします。
Wan Shishanさんは人生のほとんどの間、伝統的な紙傘を日本に輸出することで、わずかな収入を得てきました。しかし4月にDouyinアカウントを開設し、自らの芸術的な制作過程を投稿すると(この工芸は2500年の歴史を持つものです)、最初の1カ月で$15,000を稼ぎました。今では80万人以上のフォロワーを持ち、以下の動画は30万以上のいいね!がついています。

ライフスタイルブランドとしての食

ショートビデオを通じて製品を売る方法は無数にあります。今では、ごく普通の食品もライフスタイルブランドとして提示することが可能です。例えば、以下のインスタント麺の動画(ほとんどTVコマーシャルのような雰囲気です)は23万以上のいいね!がつき、5千回以上シェアされています。

ちょっとしたハウツーもの

ハウツーものは美容の領域では定番となりましたが、クリエイターにとっても有用なツールになりえます。以下の売り手は、自分の写真本の販売促進のためにハウツー動画を製作しています。いわば自分の製品の信頼性を高めるために、ショートビデオを活用しているわけです。細切れの動画を使って、視聴者にスマートフォンを使ってすばらしい写真を撮るテクニックを教えています。これらの動画は、製品を提示するのではなく、本の価値を実際の活用展開を通して示すものです。製品ページでは見込み購入者に対し、本の基本的な詳細に留まらず、目次やWeChatのユーザー体験談のスクリーンショット画像等の付加的情報も提供します。

AIが促進する衝動買い

従来型のネット通販プラットフォームでの購入は、ユーザーの意図に依存します。顧客は通常、製品を検索し、検索結果の上位から一つの製品を選択します。しかしDouyinのAIの使い方では、ユーザーが検索しようと思わないようなものの衝動買いを促します。その一例が、この$4の折りたたみショッピングバッグです。支払い情報と送付先住所はアプリに自動的に保存され、どんなインフォマーシャルよりも効率的でユーザーフレンドリーな買い物体験にしています。

ショートビデオの力

アメリカでは長い間、ビデオクリエイターにとっては広告が確立されたマネタイズモデルでした。しかしYoutuberが広告収入を求めて闘いを繰り広げる中、新規のインフルエンサーが生計を立てることはますます難しくなってきています。Taobao、Kwai、Douyin等の中国アプリが示したように、動画アプリはコンテンツのマネタイズ、製品の販売、そして視聴者に直接つながるための強力な選択肢を提示しています。

より多くのアプリがスーパーアプリへと変化する中、今後「クリック・トゥ・パーチェス」はそこら中で見られるようになるでしょう。しかしショートビデオの可能性は、単なる取引の段階を超えて、マーケティングや製品発見の段階へと展開し、職人技やハウツー、製品テスト、その他多くのことをアピールできる場となります。2018年の調査では、アメリカのミレニアル世代の85パーセントが動画を見てから製品やサービスを購入したことがあると答えています。動画アプリがネイティブショップを立ち上げたり、サードパーティプラットフォームと統合したりするようになるにつれ、この統計の数値も上がる可能性が高いでしょう。

 

著者紹介

Connie Chan

Avery Segal

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Video-First Future of Ecommerce (2019)

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