スタートアップの成長が止まった「ヤバい」瞬間にするべきこと (a16z)

「恋愛関係はサメのようなものだと思うんだ。常に前に進み続けなければ、死んでしまう。そして僕たちの手の中にあるのは、死んだサメだと思うんだ」– 映画『アニー・ホール』より

ほとんどの高成長ビジネスは、成長が予期せず減速するか完全に止まってしまう時期を経験します。私がアドバイスを提供してきたほとんどの企業の経営陣に、そのような胃がキリキリとするような時期がどこかの時点で訪れています。私が OpenTable、eBay、Reel.com を経営していたときも、そのような事態に直面しました。そして Amazon や Facebook を含む今日最強のインターネット企業の多くにもこのようなことが起こったと聞きます。

ハイテク企業のCEOは可能な限り長期間成長を維持できるよう大変な努力をします。官民の投資家はともにほとんどの投資サイクルの間、成長を何より最重視しますし、最近のサイクルも例外ではありません。成長が最も重要な部分であり、お金が流れるポイントです。その理由は、リターンの大部分は「ブレイク」する一握りの企業が挙げているからです。そして成長していない企業は、ブレイクするほど大きくはなれません。

もちろん、会社を利益に向けてうまく経営していくためのKPI(主要業績評価指標)はいくつかあり、私もあちこちでそれについて書いてきましたが、ほとんどの成長企業も成長軌道が妨げられた時期を経験しています。それは徐々に起こることもありますが、驚くほど多くのケースで突然に起こっています:ビジネスがある日成長していたかと思うと、次の日には成長が止まっているのです。

私はこれらの成長における一時的な障害を、CEOの「ヤバい!」タイミングと好んで呼ぶようになりました。では、成長のロケットがガタついてしまったときはどうすればよいでしょうか?

パニくる。平静を装わない

このようなタイミングに対する起業家の反応は一つか二つの極端なものに分類されます:まずは超常的に落ち着いたCEOで、指標が変化するかどうかじっくり観察しようと考えるタイプ。彼・彼女はちょっとでもパニックしたところを見られたらチーム全員がパニクってしまうと恐れ、精いっぱい平静を装います。そして一方、パニクって取り乱すタイプのCEOは、非常ベルのスイッチを入れるのです。それはビル全体に鳴り響き全従業員の耳の中に鳴り続けます。

私がどちらのアプローチを勧めるかって? もちろん、パニクってしまう方です!

なぜか?「成長」ビジネスにおける予期せぬ成長の減速は会社の存続に関わるリスクを示しているからです。会社の歴史における成長率は、長期で見れば一つの方向(下)にしか動かないようです。超成長企業においても、成長率は地面に向かって落ちていく傾向があります…それこそが、私がこの現象を「重力」と呼ぶ理由です。

いったん重力の力を受けると、ビジネスの成長を再度加速させることは非常に難しくなります。成長の減速は、会社が再び以前のレベルの成長率で前進することがない可能性を強く示唆します。これが起こりながらも長期に渡り持続した企業の希少な例があります:Amazon は2010〜2011年にこれを達成し、今日の企業価値を導いた大きな要因となっています。私が OpenTable でのテニュア期間中にもこれを達成し、6四半期で4倍成長に導きました。

反重力空間へ

しかし成長は魔法のように回復することはありません。

もしCEOが具体的に何が成長の減速を引き起こしたのかを解明できれば、それを是正する機会が与えられます。ええ、まだパニクっていることでしょう — でも、事態を立て直すプランを持つことができます。そのプランにたどり着くためのプロセスは下記の通りです:

他のことはすべて忘れて、原因解明に専念する。

eBayでは、私たちはこのような事態を「911」(アメリカで日本の110番に相当するもの)と呼ぶことで、いわば非常事態宣言を行い、成長低下の原因を分析することが至上命題であると明確に位置付けました。私たちは全員に総力を挙げさせました:会議や出張はキャンセルさせ、作戦司令室を設置し、大量の食料とカフェインを持ち込みました。

根本原因の解明に必要なスキルや専門性をもつ主要人物を巻き込む。

不信感を招かないようにと、社内で事態を秘密にしておこうとするのは不毛な試みです。まず第一に、遅かれ早かれ社員は知ることになります(そして率直に言って、CEOが現実と向き合っていないように見えることほど組織の不信感を招くものはありません)。第二に、社員との間に壁を立てるよりは、彼らを召集するほうがずっとマシです。うまく協調する集団のほうが、わずか数人よりもずっと多くのことをカバーできます。

根本原因を一心不乱に探る。

成長は理由なく急停止するわけではありません。通常は何かが変わったことによるものであり、社外の動きによることもあります。重要なトラフィックの上流ソースで変化があったのかもしれません。例えば Google がSEOアルゴリズムを変更したり、Facebook が NewsFeed のアルゴリズムを変更したり等です。あるいは重要なパートナーによりサイトパフォーマンスに影響をもたらしたのかもしれません。例えば支払い処理プロバイダで問題が発生したりといったことです。あなたの仕事は、もしそれがあなたのコントロールの及ぶ範囲内のことであればそれを逆転させること、そうでなければ別の方法で対処することです。

事態の原因は自社にあると想定すること、絶対的にそうではないと証明されるまでは。

成長の急な落ち込みの原因が会社の完全なコントロール下にある何かにあったケースが何度あったことか、お伝えしきれません。率直に言ってこれは最良のシナリオとなります。なぜなら社内は完全にコントロール下にあるわけですから。私のこれまでの会社では、自社サイトで新たなコードを展開する際に主要な機能が壊れてしまったり機能が低下してしまったりしたことが原因となったことが多いです。良い知らせとしては、この場合はすぐにそれを直せば良いだけのことなのでわかりやすいということです。(しかし必ず翌日には、なぜそれが起こってしまったのかを把握するためチームによる事後分析を求めたものです。)原因がわかったら、二度と起こらないようにします。

根本原因の解明はシステマティックに。

eBayではこのプロセスを「タマネギの逆皮むき」と呼んでいました。最も高いレベルから始めて何が変わったのかの物証を見つけ、それを手がかりにして細部に落とし込みます。問題はいつ発生したのでしょうか? それは突然起こったのか、徐々に起こったのでしょうか? すべての場所で発生したのでしょうか? すべてのプラットフォーム上(ウェブサイト、ネイティブアプリ)にまたがって起こったのでしょうか? オーガニックとパートナートラフィック両方で起こったのでしょうか、各パートナー間で常に発生していたのでしょうか? ファネル上部の問題だったのでしょうか、それともファネル中のコンバージョンにおける問題だったのでしょうか? 競合はどうしたのでしょうか、そしていつ? カスタマーサポート組織は顧客からいつもとまったく違うことを聞いていたりしたのでしょうか?

分割して取り組むことで、最速で答えに到達する。

作戦司令室を設置したら、数時間おきにミーティングを行いましょう。中枢となるコアグループが考えられる原因をブレインストーミングすることから始め、チームメンバーに委譲してそれらを調べ上げさせます。定期的にチームを再召集してわかったことを共有させ、タマネギの皮むきの逆を行うように、次に調べる部分の優先順位を付け直します。根本原因を究明できるまでこれを続けます。

必要であればプランBを検討…

もしスタートアップの神様が微笑めば、あなたは問題の原因を突き止め修正することができるでしょう。でももしスタートアップの神様が微笑まず、原因の究明も是正方法も解明できないときは、ビジネスのためにプランBに取り組み始めるときです。プランBは通常、死につつあるサメを手にしていることが周囲にバレるよりも早く、結果的に会社を売却するための戦略的なプロセスを始めるという内容です。これはReel.comで、1999年11月にAmazonのDVD・ビデオカテゴリーの立ち上げにより会社存続の危機が直ちに明らかになった際に起きたことです。(残念なことに、ビジネスを売却できる前にサメは死んでしまいました。Reel.comは2000年6月に営業を停止したのです。)

急速な成長減速に密接に関連した状況として、競合会社があなたの会社を追い抜き始めるときがあります。ほとんどの消費者セグメントでは、時を経て一社が抜きん出てくる傾向があります。ネットワーク効果によるものかもしれませんし、あるいはより優秀な従業員やより良い条件で資金を獲得することができているせいかもしれません。しかし主要競合他社の後手に脱落することはあなたの会社の大きな存続の危機となることともなりうるため、この場合も「まずいぞ!」戦略を採用するメリットがあります。これはあなたがそのような状況下でも素晴らしいビジネスを構築ができないことを意味するわけではありません。でももしあなたが独り勝ちを狙うなら、ビジネスをまるごとプランBに変更することも検討してもよいかもしれません。

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最も優秀なCEOは状況の主導権を握りすぐに行動します。言い訳をせず、言い訳を受け付けることもしません。彼らは成長は会社のコントロール下にあるものと想定し(実際はそうでない場合であっても)、成長を取り戻すためには死に物狂いで努力します。このような本能を持ったCEOが経営する会社は、最も成功している会社と高い相関を見せます。

ですから、成長が減速したり止まったりした場合は、どうぞパニクってください。そうなるより早くパニクってもOKです。どのみちパニクりたくなるでしょうし、私はあなたを応援します! あなたには、そのような場合のプランもできていることでしょう。

この記事はRe/codeに初掲載されたものです。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Jeff Jordan

Jeff Jordan は Andreessen Horowitz のジェネラルパートナーです。彼は以前 OpenTable の CEO であり、会長でした。彼は OpenTable を率い、国内外の成長を加速させ、IPO に導きました。OpenTable の前には、Jeff は PayPal の社長を勤め、オンライン決済のグローバルスタンダードの会社として樹立させることに責任を負っていました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The ‘Oh, Shit!’ Moment When Growth Stops (2015)

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