文化の震源としての CEO
元 CEO であり上級管理職であった者として、かつての私は CEO が会社の文化に及ぼす大きな影響についてきちんと理解していませんでした。文化が重要だということだけは、ずっと以前から知っていたのですが。
会社の組織は CEO の言動と特徴を反映するもので、それが文化を確立します。オープンなコミュニケーションの環境を育てれば、その組織はオープンなコミュニケーションの文化を引き継ぎます。きめ細かな経営をすれば、組織が経営的にきめ細かなものになります。政治的に動けば、組織が政治的になります。悪態ばかりつけば、組織が口汚くなります。怒ってばかりいれば、組織が怒りを見せます。広い執務室を持てば、誰もが広い仕事部屋を欲しがります。コーヒーのマグカップに何が描かれていようと、どんな「カルチャー」スライドを作ろうと、そんなことは関係ありません。あなたが CEO として毎日何をしているか、どんな言動をするかが、会社の文化を定めるのです。
機能不全
最良の意図を持っていてさえも、会社が文化の機能不全に陥ることはよくあります。それは、リーダーが文化について現実と相容れない認識を持っていた場合に、あるいはリーダーが明文化された事柄と違う言動をした場合に起こります。
最も研究され尽くした文化の機能不全の一つは、以前にエネルギー貿易の巨大会社であった Enron で起こりました。その CEO (Ken Skilling) や数人の経営幹部たちが、詐欺、不正と違法な金融慣行の廉で逮捕されたのです。彼らは不誠実で、私的な取引をし、私腹を肥やす文化を助長したため、会社を破壊する結果となりました。皮肉にも、Enron 社の倫理規定には四つの重要な原則として、意思疎通、敬意、誠実さと卓越が挙げられていました。そうなのです。文化は重要であり、CEO がそれを定めるのです。
文化の機能不全が起こるのは大企業に限られたことではありません。私が XenSource に来た時に、そこは 50 人の会社でしたが、文化が機能不全を起こしていました。文化が素晴らしいものであり、イノベーションとコラボレーションを支えるものであるべきだと創業者たちのチームが信じていたにもかかわらず、機能不全に陥っていました。はっきりしたその兆候が二つありました。1. 従業員たちが、創業者たちとは非常に違った文化的観点を描き出していた、2. 反応が人によってまちまちで、ほとんど統率のとれない無法状態のような文化が見え隠れしていた、ということです。まちまちであることの一つの明白な実際の結果として、組織の中に二つの技術的取り組みが進行し、それらが互いに競争し合いました。建前上「協力的で、非政治的」な文化を持つはずの会社の中で、二つの技術チームが互いに対抗し、どちらが勝つかと競い合うのが実態でした。この競争活動が、結局は会社が意図していた文化を蝕み、弱体化させたのです。
機能不全を食い止める
私はしばしば CEO の自己認識こそが企業が成功する上で重要なことの一つだとお話ししています。XenSource の場合、リーダーたちは文化的な「意図」を信奉し言葉にしていましたが、会社の中でそれと非常に違ったことを実践し、それを許してしまっていました。かなり機能不全を起こしている文化によって、この会社はほとんど破綻に瀕していました。だから、自分の信じていることが、会社の中で本当の意味で起こっているようにしましょう。
機能不全を食い止めるためにはリーダーシップが必要で、単純ではあっても重要な、いくつかの行動を起こす必要があります。組織のために重要な文化的属性を、前もって明確にし、それを文章に書いて、それが何かを人々に知らせ、そして「有言実行」することです。あなた自身がその文化を実践して模範となり、文化を再検討する仕組みを組織の奥深くに据えるのです。次のようなことを問いかけてみましょう。
- この組織の文化は定められた属性に合致していますか?
- 相違点はどこにありますか?
- 強力で一貫性のある会社の文化的骨格を保つために、どんな正しいことを、どんな良くないことをしていますか?
文化の逆説:文化は変えられない、なぜならそれは私たちの文化の一部でないから
文化は、意図的にしても、そうでないにしても、会社の初期の時代に形成されます。日々の活動や言動が積み重なり、それが会社の文化を形作る要素となります。その種の初期の実践例としては、1) いつも創業者チームが会社の新採用に応募する人たち全員を面接すること、2) 会社の行動すべてにおいて製品指向の焦点を置くことなどがあります。そのような実践が受け入れられ繰り返されることで、それが文化となり、会社が活動する方法を定めるものとなります。
けれども、会社が成長するにつれて、初期の時代にはうまく行っていたことが、それほど有効でなくなってくるかもしれません。結果として、二つの互いに矛盾する文化的属性のどちらかを選ばなければならないこともあります。
例えば「いつも創業者チームが新しい人たちを面接しなければならない」という属性は、新採用の人たちが会社にぴったり合うことを確保するための、素晴らしい文化的実践です。でも、会社が十分に素早く面接をすることができなくて志望する人たちが他所へ行ってしまい会社の成長に支障が出たとしたら、意味がないのではないでしょうか。あなたなら、文化の中のどの部分を変更しますか?成長の速度を抑えますか?それとも採用のプラクティスを変えますか?どちらを変更しても、文化に影響が及びます。
テクノロジー系の創業者にとって最も困難な側面の一つは、創業者チームの得意分野以外での採用をする場合です。セールス、マーケティング、財務などで採用する際には、はっきりとした問題になります。その良い実例はテクノロジー系の創業者がエンジニアを採用するテクニックを販売部門に適用してしまった場合で、パートナーの Ben Horowitz が最近そのことをこのブログに書いています。ここでの懸念は、テクノロジー界の外にいる人たちを連れてくれば会社の文化が壊れてしまうのではないかということです。それならば、テクノロジー系の人たちだけを雇ってエンジニアリング以外のさまざまな部門の仕事もさせるべきでしょうか、それとも文化に新たなものを加えつつ異質な組織を会社の中に組み込むようにするべきでしょうか?ここでもやはり、過去の実践と文化に固執してテクノロジー系の人たちだけを雇えば、卓越した財務部門やセールス部門を作ろうという意図に逆行してしまうかもしれません。
変化の舵取りをする
既存の文化が未来の成長の妨げになることがあるのですから、会社を統率する者が移行の舵取りをしなければなりません。実践や文化の変更は、まずは何かがある特定の方法で実行されているのがなぜか、そこからどんな結果を意図しているのかを問うことから始めるべきです。意図した結果を失わないようにすることの方を、プラクティスよりも優先すべきです。
さきほどの例、つまり「創業者チームが志望者全員を面接すべし」という例に戻って考えてみましょう。ここでの意図した結果とは、新たに採用する従業員たち全員が十分な力量と知性を持ち、組織の文化と起源を理解しているようにすることです。問題はシステムが拡大可能なものではないことで、とりわけ全世界から志望者を募るようになり、創業者たちが対処し切れないほどのペースで増えて行けば手に負えません。
そこで、プラクティスを変えることになります。例えば、重要な従業員に「アンバサダー」の権限を与えて、創業者チームの代理として働いてもらうこともできるでしょう。あるいは、創業者チームの全員が志望者全員を面接する代わりに、創業者のうち一人だけが新しい志望者全員を面接するという方法もあるかもしれません。もしも意図する結果の一部として志望者が創業者に会って会社の感じを掴めるだけでもよいならば、新規採用者が入社した後で昼食か夕食の席を創業者たちと共にする方法もあります。強力かつ拡張可能な面接手続きと新人研修や社内指導教育のシステムを開発することで、運営上の視点から変更の舵取りをしつつ、意図した結果を失わずに済むことができるでしょう。
文化をマネジメントする
文化をマネジメントするという考え方は、少々強権的に見えるかもしれません。とりわけ、威圧的な規則や官僚組織に縛られないことを誇りとするテクノロジー会社ならばなおさらでしょう。けれども、文化をマネジメントできないことは、成長をマネジメントできないことや、出費をマネジメントできないことと同列に考えられます。あるいはまた、何もマネジメントできなければ何もリードできないとも言えます…
いつも頭の片隅に留めておきましょう:
- 自己認識。自己認識を受け入れられない人は、CEO になるべきではありません。
- あなたは何を成し遂げたいですか?最終的な目的は何ですか?
- あなたが最も理解しにくい分野に、エネルギーを向けましょう。
どんな組織でも強力な文化こそがその骨格で、CEO はその旗手であり、変化の主体です。最近 Fast Company に載った記事の中で、GitHub の共同創業者であり CEO の Tom Preston-Werner が、彼の共同創業者たちと共にどうやって会社の文化について考え抜きそれを管理して、10 人の会社から 160 人の会社へと育て上げたかについて、彼の考え方を語っています。年齢、経歴、経験などに関係なく、文化は CEO と共に発展するものであり、素晴らしい文化を作り出す過程は、その組織の核心を成す価値を、再検討し、模範となるために。日々着実に働くリーダーシップを必要とするのです。
著者紹介 (本記事投稿時の情報)
Peter Levine は Andreessen Horowitz のジェネラルパートナーです。彼は以前 Citrix の Data Center & Cloud Division の上級副社長でありジェネラルマネージャーとして、売上、プロダクトマネジメント、ビジネスデベロップメント、戦略の方針について責任を負っていました。Peter は 2007 年に、XenSource が $500M で買収されたことにより Citrix に入社しました。XenSource で彼は CEO として、600 人の従業員を率い、Microsoft や Symantec、HP、NEC、Dell といった顧客と XenServer の製品ファミリに関する戦略的な契約を確立しました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Building a Culture That Works (2013)