なぜスタートアップを始めるべきなのか? (Michael Seibel)

多くの人が自問することです。

次に述べる事実の1つかまたはそれ以上についてしばしば考え込みます。
1.大多数のスタートアップは失敗に終わる
2.才能豊かで専門的技術を持った人は比較的簡単に、しかも高給の仕事が見つかる
3.大企業では、往々にしてその規模だからこそ起こり得る超難題に取り組む機会が与えられる

なぜスタートアップを始めるべきなのかという問いに対する私の答えはシンプルです。レールが敷かれておらず成功する確率も低い、そして失敗した場合の責任は自らにある(大企業でのほとんどの仕事の真逆)といった状況でしか本領を発揮しないタイプの人間がいます。

どのように私が自分のこういった一面に気付いたのかお話します。

高校

私が6年生から12年生まで通った公立の学校は熱心な学校でした。早くから生徒たちは英才クラスと通常クラスに振り分けられます。英才クラスの生徒たちにはより優秀な教師とより面白い課題が与えられ、彼らは一流大学に進学することが多かったです。私も賢かったのですが、「英才」には少し及ばず、通常クラスに振り分けられました。8年生になるまでに悟ったのは、一旦通常クラスに入れられてしまえば、その判断は簡単には覆らないということでした。私はそのことに怒りを覚え、それが英才コースを目指して頑張る原動力となりました。私は通常クラスでトップの成績をとったほか、より高度なクラスへの移動を推薦してもらえるように両親と一緒に先生たちに働きかけました。また、選択科目や英才クラスの生徒たちがメンバーのほとんどを占めるクラブ活動(憲法や模擬国連)でも優秀な成績を収めなければなりませんでした。11年生の時点ではすでに上のクラスに移ることができていましたが、私のやる気が失せることはありませんでした。英才コースの生徒たちと同じくらい賢くなりたいと願うのではなく、私は彼らのさらに上を目指せることに気付きました。みながバイオリンを弾くなか、私は学校を代表する運動選手になりました。みなが適当な気持ちで地域活動に参加するなか、私は見習いとして救助隊に入り、救急車に乗り込んで地域住民を助けたほか、夏の間には地方裁判所でボランティア活動を行いました。高校を卒業するまでに、この頑張りは十分に報われました。成績はとても良く、APクラスもたくさん履修し、願書を出した大学にはハーバード以外全て合格しました(神様ありがとう、イェール万歳!)。

大学

そしてイェール大学を退学になりました。何があったのか、お話させてください。イェールとはエスタブリッシュメントの縮図のようなところで、この学校のリベラルアーツ的な環境において、私は実用的な価値があることを学んでいるような気持ちにはなりませんでした(政治科学を専攻)。数年のうちに授業に対する関心は消え失せ、学校にも行かなくなり、すぐに成績も下がりました。学者になるつもりはありませんでしたが、イェール大学での全てが学者養成のためのものであるように感じました。4年生になる前に成績不振で退学となりました。退学処分からおよそ2カ月が経った頃、私はまた怒りを覚えました。大学や友人たちだけでなく、家族のなかにも私が大学を卒業しないまま終わると思っている人たちがいることに気付いたからです。すぐにやる気を取り戻しました。ペンシルベニア大学での良い仕事にありつき、政府や政策に関する問題に取り組んだほか、憲法の授業の教育助手を務め、開廷中の最高裁にも行きました(友人たちにはイェール大学を退学になった私がペンシルベニア大学で教育助手をしていることが面白く映ったようです)。1年が経ち、私は復学しました。優秀な成績をとり、素晴らしい友人にも恵まれました(Justin Kan もその一人)。そして2005年に卒業しました。

Justin.tv / Twitch.tv

スタートアップをやることは考えてもいませんでしたが、高校や大学での体験を振り返ってみると、成功に向けて自分をやる気にさせるためには、私は負け犬になる必要があったのでしょう。スタートアップは典型的な負け犬です。99パーセントの確率で失敗するのですから。これは、ワクワク感を維持するために自分たちの最初のアイデアを信じぬく必要もなかったくらい、私をやる気にさせました(覚えていてください、私たちはオンラインのリアリティーTV番組としてスタートしました)。Justin.tv と Twitch の過程のほぼ全てにおいて、私たちは失敗すると言われてきました。私たちは2007年に YC から資金提供を受けましたが、その当時の知名度は今とは比べものにならないほど低く、大多数の投資家は私たちに見向きもしませんでした。デモデーの後だって、どれだけ頑張ってもエンジェル投資家から集められたのは180,000ドルだけでした。事業を構築していくなか、私たちはトップクラスの VC を引き込むことも、引っ張りだこのエンジニアを採用することもできず、ビデオスタートアップは収益化の見込めない酷い金食い虫と考えられていた時代のなか、生き残りをかけて常に奮闘していました。5年間のうち、潰れかけたことが5度あります。受け取った回線容量の請求書が口座にある金額よりも大きかったこともあれば、Justin と Emmett からお金を借りなければならなかったこともあり、2カ月足らずのランウェイしかなく、ひと月の支出が100万ドルだったこともあります。こうした逆境の全てこそが、私たちががむしゃらに頑張るために必要としていたものでした。何をやっても死なないし、逃げもしない。私たちが成功したのはスタートから8年が経った時でした。テックに興味のあるみなさん(特に大企業に勤めている、または入社を希望している人たち)、次の質問を自分にしてみてください。

1.負け犬になるのが好きですか?
2.ほとんどの人が嫌がるような大きなチャレンジに挑んでいくタイプですか?
3.成功しても失敗しても自分の責任という状況において頑張れるタイプですか?

もし全ての質問に対する答えがイエスだった場合、もしかするとスタートアップを始めるのがあなたには向いているのかもしれません。これは、大企業での多くの仕事では得られない経験です。多くの人にとって、大企業で高い給料を貰って長く働けば働くほど、個人的な支出は増える一方で、スタートアップを始めるチャンスは減ります。例えそれが彼らの最終的な目標であったとしてもです。

テック系のスタートアップを始めたらお金持ちになるという保証はできませんが(実際のところむしろ確率的には逆です)、それが、あなたがやってみようと自分で選択できることのなかで最も困難だけれどもやりがいのあることの一つであることは保証できます。この経験は、自らの限界を乗り越え、より早く学習するようあなたを仕向けるだけでなく、ときには不可能が可能であることを教えてくれるはずです。


このエッセイの草稿に目を通してくれた Craig Cannon、Adora Cheung、Aaron Harris、Daniel Gross、Daniel Gackle に感謝します。

 著者紹介

Michael Seibel

Michael Seiebl は YC の CEO です。彼は Justin.tv と Socialcam の共同創業者であり、CEO でした。Socialcam は Autodesk に 2012 年に売却され、Emmett Shear の下で Justin.tv は Twitch.tv となり、Amazon に 2014 年に売却されました。スタートアップに関わる前、彼は US の上院議員選挙で財務ディレクターを1年勤め、2005 年に Yale University を Political Science の分野で BA を取って卒業しました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Why Should I Start a Startup? (2017)

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