プロダクト・ツァイトガイスト・フィット (PZF): 次に来るものを作る方法 (a16z)

Product Market Fit  (PMF) がスタートアップにとって最も重要であることは、シリコンバレーの自明の理です。その捕らえどころのない目標に到達する創業者の能力が、ユニコーン企業の途方もない超ド級の成功物語と大多数のスタートアップとを隔てています。大多数のスタートアップは、すばやく息絶えるか、突然息絶えるか、ゆっくりと気づかないうちに先細りになります。

私は、創業者としての経験から、また、スタートアップとの対話の中で、PMFを探す作業はもどかしいほど漠然としていると気づきました。誰もがそれが必要であると言いますが、達成する方法については、ぼんやりとした一般論しか示してくれません。ほとんどの手引きは「ユーザーの声を聞け」に集約されてしまいます。よいアドバイスですが、それでも肝心な最初のユーザーを(ましてや反復に必要な人々や資本を)獲得する方法については、答えが出ないままです。

事実は、人が何か新しいことを試すためには、異なる動機が必要だということです。機能ではなく、感情の面で彼らに訴えかけるものです。この一見して単純なアイデアにより、強力な事業上の優位性を創出することができます。これが Product Zeitgeist Fit (PZF: プロダクト・ツァイトガイスト・フィット、プロダクトと時代精神の一致)と私が呼ぶ概念で、プロダクトが時代の空気に共鳴する場合に起きます。Product Zeitgeist Fit をすることで、ユーザーおよび従業員は、皆さんに成功してほしいと思うようになります。またそれにより、他の利害関係者(メディアおよびトレンドウォッチャー、大企業、その他のビルダー)も、次に来る大きな変化を予測しやすくなります。

“The Allure of Product Zeitgeist Fit”の全プレゼン資料をここからダウンロード。

PZFは、どのように機能するのでしょうか?

時代精神を制御し、育成することで、時間と労力の節約ができ、PMFへ向かうにあたって支援を得ることができます。Product Zeitgeist Fit は、次の長年の疑問に(ハイテクプラットフォームなどの要因にとどまらない)解答を与えています——つまり、とくに消費者テクノロジーにおいて、機能するものとそうでないものがある理由です。全く見知らぬ人を自分の家に泊めるような、非常に奇妙でぎこちなく見えるものが世界的現象になり得る理由や、非公開のソーシャル・ネットワークのような非常に賢いものが、まだ . . . 少しもそのようにならない理由を説明する助けになります。そして、オンラインのペットフード配達が一つの地域でだめになり、15年後に別の地域では爆発的人気を博する理由を説明する助けとなり得ます。

PZFがあるなら、プロダクトがユーザーと共鳴する理由は、それが他のものよりよいからではなく、それが特定の人々の集団にとって、その特定の時代と文化的に極めて関連してるように感じられるからです。ユーザーは皆さんの会社のプロダクトを好きかもしれないし、好きでないかもしれません。しかし、何らかの理由でその成功を願っています。競合相手の「より優れた」プロダクトを嫌っているからかもしれません。現行のプロダクトが特定の価値や野心に訴えるからかもしれません。何が原動力かは別として、PZFは、それを持つものに不公平なほどの優位性を与えます。それは、勝者と敗者を分ける可能性のあるものです。

ほとんどのスタートアップが失敗するのは、テクノロジーを役立たせることができなかったり、競争に負けたりするからではありません。無関心が原因です。単純に言えば、ほとんどの企業は誰も関心を示さないからローンチできないのです。メディアはいうまでもなく、ユーザー、従業員、投資家が誰も関心を示さなかったからです。1,000人が肩をすくめることによる失敗です。

時代風潮に乗っている時、会社の軌道を変えることのできる4つの力により、人々の熱意を引き起こすことができます——

  • アーリーステージの顧客
  • アーリーステージの従業員
  • エンジェルおよびシードの投資家
  • これらの最先端のアイデアを網羅するメディアや他の分析家

そのような4つの集団が皆さんの行なっていることを気にかけていれば、不可能なことが突如、可能になります。それがスタートを切る契機になります。

ほとんどのスタートアップの失敗は無関心に由来します。単純に言えば、ほとんどの企業は誰も関心を示さないからローンチできないのです。メディアはいうまでもなく、ユーザー、従業員、投資家が誰も関心を示さなかったからです。1,000人が肩をすくめることによる失敗です。

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私が明確にしておきたいのは、PZFは物語の終わりではなく、始まりだということです。PMF、機能的なユースケース、そして大勢による採用を獲得するためには、依然として苦労して進まなければいけません。しかし、PZFを見つけることは、PMFに向かって縫うように進む過程において、そうでなければ得られなかっただろう1,000のチャンスを手にするようなものです。

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PZFが、単なる哲学を超えて、どのように役立っているかを説明する最近の例がいくつかあります。

暗号通貨

2009年の金融危機の高まりで、Wall Streetや大手銀行への怒りが爆発しました。従来の中央集権型の金融機関への信頼は目に見えて低下しました。10年が過ぎて、私たちの経験や社会に悪影響を与えるそれらの大規模プラットフォームおよび企業を何とかしようとする機運が増していました。

それらのアイデア——Wall Streetへの欲求不満、金融機関への不信、FAANGer(「FAANG」企業への怒り(anger)を表す造語)としか名付けようのない感情——は、クリプト・コミュニティが構築していたものとつながっていました。暗号通貨は、フライウィールを回転させるに足るだけのエネルギーや人々の熱意、そして融資を手にしました。インターネットマネーへの試みはいままでにも何度となくありましたが、それが本当に盛り上がったのは2009年(Bitcoin白書が発表された年)だけのことです。信じられなかったら、BitcoinのGenesisブロックを見てください。それが一連の流れの発端です。

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コメント欄に、金融救済措置についてのSatoshiのメッセージが刻まれています。正確な動機は不明ですが、従来の金融体系の機能不全に関する気風が、初期のクリプトカレンシーをめぐる多大な熱意を煽りました。

しかし、ここにクリプトカレンシーについての問題があります——主流にある人たちにとって、それを利用するのは依然としてそれほど簡単ではないという問題です。それにもかかわらず、人々は相変わらずそれを利用し、それに基づいてプロダクトを構築し、それに投資し、それについて書いています。こうしたことが、PMFに向けて進む過程において、プロダクトがPZFを持てるようにしています。

クリーンミート

インターネットマネーの概念のように、ベジ・バーガーのアイデアは新しくはありませんが、時代精神と共鳴しているので、ここ数年で息を吹き返したものです。私たちは近年、気候変動にまつわる緊急性が増大しているのを目にしてきました。それは必然的に、西洋の食事習慣の影響に関する議論を盛り上げます。それと同時に、メディアが工業型農業に関する道徳や規範の問題の主を前面に出してきました。それらの2つのアイデア——工業型農業と気候変動——はクリーンミートを生産している会社に、今度こそそのアイデアを生かすために必要な活気を与えました。

けれども、誰かこれらのバーガーのどれかを実際に食べてみた人はいますか?おいしいものもあれば、(個人的意見ですが)ひどいものもあります。そして、健康上の利点については、答えの出ない疑問があります。それにもかかわらず、人々はバーガーを買うために相変わらず列をなしています。優秀な科学者は相変わらずそれに取り組んでいます。投資家は相変わらずそれに投資しています。大企業は相変わらず、提携関係を結ぼうとしています。(まだ)肉よりも優れているわけではありませんが、PZFのおかげで大きな成功の機会を手にしました。

所得分配契約(ISA)

ISAは、ユーザー(大抵は学生)が将来の収入の何割かと引き換えに、何か(大抵は授業料)を手にすることです。インターネットマネーやベジ・バーガーのように、これも新しいアイデアではありませんが、時機を得たもののように思われます。

私たちの教育制度における学生の負債の爆発的増大は、ニュースやソーシャルメディア、政治をまたいで中心的な話題となっています。同時に、伝統的な学術機関の信頼は損なわれつつあります。入試やマーケティングをめぐるスキャンダルや、再現性の危機についての新たな情報を耳にするたびに、人々はますます不信感を強めます。これら2つのアイデア(学術機関への不信感、および膨大な学生の負債)は、今度こそ実際に前進するために必要な勢いを、ISAおよびそれを利用している企業や学校に与えました。

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当然、ISAは、消費者行動の変化や消費者保護、規制、投資家へのリターンといった、複雑に絡み合う様々な要因に対処する必要があります。しかし、優秀な人材が、相変わらずそれに取り組み、それについて議論を重ね、役立たせようとしています。ISAにPMFがあるのかどうかは、現時点では不明です。けれども、PZFがあるおかげで、今度こそ成功を掴むための途方もない機会を手にしています。

これらはわずか3つの例です。現代の時代精神の内に湧き上がっているアイデアには、あらゆる種類のものがあります。プライバシープロダクト、アテンションエコノミーへの不満、服飾などのすべてのもののコンマリ(近藤麻理恵)化、新たなソーシャル・ネットワークへの欲求(これについては、最近多くの試みがありました)などです。これらのアイデアの上に地位を築いた創業者は、全員が現在、見事に有利になっています。これが時代精神のすばらしい点です——非公開のソーシャル・ネットワークのようなものが、8年前にはうまくいかなかったからといって、現在もうまくいく可能性がないということにはなりません。

PZFを見つける方法

PZFのような捉えどころのないものを、どのようにして特定するのでしょうか。ここに、実践の中でPZFを見つけるための4つのテストを挙げます。

  •  “ナード・ヒート”—— a16zのパートナー、Chris Dixonの造語です。これは、最も才能豊かで、最も勤勉で、最も必要とされている人々(プロダクトマネージャー、エンジニア、データサイエンティスト)が、自分たちが取り組み、胸を踊らせ、仕上げようとしているプロダクトに、非常に興味をそそられている状態を指します。このとき、彼らが最終的にそれを実現し、傍流を超えて主流に向けて動かす見込みが非常に高くなります。
  • デスパイト(despite: にもかかわらず)・テスト”—— あるプロダクトについて、それが世間にある最高のものではないのに、あるいは、場合によっては、本当にひどいものであるにもかかわらず(以下の例を参照してください)、ユーザーがそれを使用しているとするならば、それはすばらしい兆候です。プロダクトが単なる機能以上に、何か感情に訴えるものがあるということを示しています。人々は、単にそれが必要なのではなく、欲しいと感じています。
  • Tシャツ・テスト”—— 会社と無関係の人が、そのTシャツを着たり、ノートパソコンにそのステッカーを貼っていたり、その靴下を履いていたりするとします。そうした行動は、その会社のアイデアとつながりたいという、人々の欲求を表しています。それは、そのアイデアがプロダクトの枠を超えて、ムーブメントになっていることを示す兆候です。
  • 眉テスト”—— アーリーステージの時期において、PZFのあるプロダクトは、誤解をまねいたり、論争的であると感じられたりするものです。初めてプロダクトを目にした人の何人かは、そのアイデアに眉をひそめるかもしれません。しかし、それらのプロダクトに取り組んできた人々にとっては、たとえ一時的に欠陥があったとしても、大きくて重要な問題に対する、非常に洗練された解決策であることは明らかです。それはあまりにも明らかなので、ひとたびそのように認識した人にとっては、ほとんど自明なことのように思われます。

PZFはスタートアップを好みます

実際に時代精神に乗る(あるいは乗らない)ものを観察して、私はイノベーションに向けての重要な暗示を持つ、3つの傾向に気づきました。

こうしたことがらは、「世代的な性質」をもつ傾向があります。また、それらは「反動的」で、非常にわかりやすい「悪役」を設けるかたちで通常は組織されています。前世代の意図せぬ結果や、やりすぎたり見過ごしてきたりした部分に対して、反発するのが私たちの常です。そのため、時代精神も絶えず変化しています。それはつまり、とくに消費者テクノロジーの分野において、従来のやりかたを革新したり破壊したりする企業が入り込む余地があるということです。強大な既存企業や硬直化が話題になることが多いにもかかわらず、私がハイテク企業の次世代について楽観的な理由はそれです。

創業者の皆さんへ―— 皆さんにとって重要であり、かつ今この瞬間において、ある特定の集団の共鳴を得られるアイデアを探してください。アーリーステージでは、皆さんは新入社員、提携先、投資家、そして外の世界全体に対して、そうしたアイデアに忠実な仕方で自分の物語を構築しなければいけません。自分の会社の業務内容ではなく、その存在意義を語ってください。自社製品の信頼性を維持し、会社の使命を念頭にプロダクトの意思決定をするようにしてください。最後に、皆さんが雇用する人が、皆さんと同じぐらいに、これらのアイデアに共鳴しているようにしてください。すべての人に、皆さんを応援する理由を与えてください。PZFに到達することができたなら、PMFに到達する上での、疑いようのない強みを手にすることになるからです。

そして、未来を創造したいというよりも、ただ未来を予測したいと考えている人は、壊れていたり、ひどい出来であったりするにもかかわらず、人々が相変わらず気に入っているものを探してください。4つの基準を当てはめてみてください—— つまり、ひそめられた眉、Tシャツ、ナード・ヒート、問題があるにもかかわらず製品を使用している人々、です。先行する世代に対して反発しているもの、時代の雰囲気に共鳴しているものを探してください。そこにこそが製品と時代精神の一致があり、最終的にはそこに未来があります。

 

著者紹介

D’Arcy Coolican

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Product Zeitgeist Fit: A Cheat Code for Spotting and Building the Next Big Thing (2019)

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