この記事の要約
- スタートアップはおもちゃから始めることで、ユーザーからの期待を低くできて、期待を上回れば口コミが起こる
- 最初からシリアスなものに取り組もうとすると悪いことが起こる:リスクを避け、そこに市場があることのシグナルを大企業に送り、また最初から最適化しようとしてしまう
- おもちゃを企業へと育て上げる人は、自分で作ったおもちゃを強迫的にユーザーに押し付け、フィードバックに応じてそれを妄執的に改善する人たち
テクノロジー系の大企業では、設立当時、おもちゃのように見えたものがいくつかあります (1) 。古典的な企業設立の観点からすると、このようなことは起こるべきではありません。おもちゃは楽しむためのものです。企業、特に大企業は、お金を儲けるためのものです。おもちゃは小さく、機能が限られています。大企業は多数の部門から構成され、膨大な数の機能を果たします。
おもちゃが企業になるというこのトレンドは、歴史とも噛み合いません。Standard Oil、US Steel、Boeing らは共に、ビジネスのために設立された大企業のシンボルのようなものです。これらの企業のうち、おもちゃのように見えた段階を経たものはありません。しかし、スタートアップは違うと言えるかもしれません。なぜなら、人々がそれらにアプローチのする際の期待やシリアスさが違うからです。
期待
人々にツールを与え、これは重大な問題を完璧に解決します、と言ったとしましょう。するとユーザーはそのツールのどんな小さな欠陥に対しても怒るでしょう。一方、誰かにおもちゃを与えて、「見てください!私が作ったんです。面白いでしょう。こんなことができるんです」と言ったとしましょう。あなたはポジティブな反応を期待します。それは高い期待を上回るよりも、低い期待を上回る方がずっと簡単だからです。あなたは物質的に幸福なユーザーを得るチャンスを増やしたと言えます。
幸福の度合いは、初期のユーザーを考慮する際、重要な要素です。人々は自分たちを幸福にしてくれるものと、より多くの時間を過ごします。特にそんな期待をしていなかった場合に。幸福なユーザーからはフィードバックを得るのも簡単です。彼らは、あなたがその製品の質を改善させることができることを知っています。そしてそうした改善は、また彼らをより幸福にしてくれます。さらに彼らはそのクールな新製品の話を友達にするでしょう。これは、マーケティングなどというブラックな小細工に身を染めずに、ユーザーを獲得することができるということです。
人々をどれほど幸福にするかと、どれほど怒らせるかという観点から、自分が作成したものを見てみましょう。すると実験が容易になり、未知の市場に出品するのも容易になるでしょう。それは賭け金が低いからというだけではありません。自分の仕事をどれほどシリアスに受け取っているか、他人があなたの仕事をどれほどシリアスに受け取るかということなのです。少なくとも出だしでは。
シリアスさ
企業はお金を儲けるためのもので、顧客を念頭に事業を展開するものです。これはとてもシリアスであると同時に、リスクを伴う怖いものです。一方、おもちゃは遊ぶためのもの、新しいことを試すためのものです。これはまったくシリアスではありません。
あなたの目標が、おもちゃをスタートアップに育て上げ、スタートアップを大企業に育て上げることである場合、このことは快く耳に響かないかもしれません。最初からシリアスでなければならないからです。しかし、最初からシリアスだと、さまざなことが悪方向に転換します。
まず最初に、最終的に大企業を作るという目的に明確に沿わないアイデアは、試したくなくなります。これはシリアスなものを作っている人の目が、すぐ売上に行ってしまうということです。彼らはリスクを避け、その結果イノベーションも避けることになってしまいます。新技術の基に立つ企業は、非凡なアイデアを活用しなければなりません。これらは大企業では一定の基準を満たさないので、パスできないアイデアです。さもなければ、既存の大企業がすでにやっているでしょう。
Facebookはこの最適な例です。当初ユーザーは、ハーバード大学の学生寮から、先にキャンパスのパーティで出会った他の学生をこのサイトで見つけ、メッセージを送ることができたのみでした。これはバカバカしいことだと、誰もがそう思いました。これをおもちゃ以上のものと考えた人はほとんどいなかったのです。それで開発者たちは時間を掛けることができました。楽しくないことは、楽しい方向に持って行こうとしました。シリアスなビジネスを、楽しい方向に持って行こうとする人はあまりいないと思います。Facebookは当初から長時間、幸福に利用するユーザーがいたのです。
次に、おもちゃをあまりにシリアスに扱った場合、悪い方向に転換してしまうということもあります。それは、すでに市場で幅を利かせている、より資金に恵まれた企業に対して、何か重要な収益性の高いものがあるという合図を送ってしまうということです。これは良いことではありません。それらの企業が早くからそのおもちゃに注意を払い、真似するか、買い取るか、抹殺してしまうからです。巨大なホテルチェーンには、Airbnbは非常に長い間いたずらなヒップスターように映っていました。しかし、これらホテルがAirbnbがただのおもちゃではなかったと気付きた時、すでに遅かったのです。その時点までに、Airbnbにはホテルによる攻撃を打破するに十分な顧客、収入、資金があったのです。
3番目に悪い方向に転換してしまうことは、シリアスなビジネスなら最適化すべきだと思うことを、当初から即座に最適化し始めてしまうということです。それは利益とマージンです。これらは長期的には重要なことです。しかし、余りに早くから利益とマージンに焦点を当てると、早期スタートアップにとっては不可能な一連の対策を押し付けてしまうことになりかねません。
スタートアップには焦点を当てる時間も能力も限られています。最初の段階では、ユーザーが気に入り、それを使って遊んだり試したりしたくなるものを作成することに焦点が当てられる必要があります。初期から長時間使用してくれるユーザーのみが、スタートアップの成長の力とチャンスの真のベースなのです。それ以外のことに焦点を当てると、より資金に恵まれ、組織化され、広範囲に及ぶ企業の陰にたちまち隠れてしまうでしょう。
おもちゃが企業に育つ時
すべてのおもちゃが最終的に大企業に成長するわけではありません。同じように、すべての大企業がおもちゃから始まったわけでもありません。
創業者のモチベーションとゴールは、おもちゃに人気が出たか出ないかと同じほど重要です。物作りをする人のほとんどは、これらの物が企業にまで育って欲しいとは思っていません。それは素晴らしいことです。この世のために作られたすべての面白いものの裏に、商業的理由が潜んでいたら残念でならないからです。
おもちゃを企業へと育て上げる人は一般的に、自分で作ったおもちゃを強迫的にユーザーに押し付け、フィードバックに応じてそれを妄執的に改善する人たちです。その後、彼らは物作りのスキルとは一線を画する新しい一連のスキルをマスターしなければなりません。雇用、マネジメント、事業運営、資金調達などです。
このような経路を辿る人はほとんどいません。だからこそ、そのような人物が現れると興奮が絶えません。作ったおもちゃを長期的なビジネスに結び付ける能力があると思われる創業者に出会うことが稀にあります。そんな時、そのおもちゃがビジネスに成り得るかどうかなどわからなくても、ふつう、資金を提供してしまうことでしょう。
注:
1. 2つの例: Facebookは当初、暇つぶしのためのものでした。Appleはビジネスに成り得る前に、ハッカーがパソコンを構築する援助をしていました。
著者紹介
Aaron は YC のパートナーです。彼は Y Combinator から投資を受けた Tutorspree の共同創業者でもあります。Tutorscpree より前に、彼は Bridgewater Associates で働いており、分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。また Harvard で歴史と文学に関する AB を取得しています。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Why Toys? (2018)