スタートアップのアイデア、プロダクト、チーム、実行力 パート1 (Startup School 2014 #01, Sam Altman, Dustin Moskovitz)

目次

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CS183Bへようこそ。Y Combinator社長のSam Altmanです。9年前、私はStanford大学の学生でしたが、起業するために中退し、ここ数年は投資家として活動しています。つまり、YCでスタートアップについて教えて9年になります。講義の大半はそれぞれのスタートアップに特化した内容ですが、うち3割は共通して当てはまるものです。この講義では、その3割に関して皆さんにお話ししたいと思います。わずか3割ですが、皆さんのお役に立てると思います。

YCではこの講義を何度も開催していますが、全て非公開でした。講義が録画されるのは今回が初めてです。今回のゲストスピーカーには、YCの授業と同じ内容で話をしてもらう予定です。私たちは現在725社に投資を行っている実績がありますので、皆さんの役に立つアドバイスを多数紹介できると確信しています。私たちは全てのスタートアップに投資することはできませんが、一般的に応用できるようなアドバイスをさせていただければと思います。

私が担当する講義は3つです。YCを含め、各ゲストスピーカーは、市場価値10億ドル以上の企業の設立に携わった方たちです。そのため、彼らのアドバイスは理論ではなく、経験に基づくものです。

この講義は、ビジネスを始め、それを急成長させ、最終的に大企業にすることを目標としている人々を対象としています。講義のほとんどは他のケースには当てはまらないかもしれません。あらかじめ皆さんに注意していただきたいのは、私のアドバイスは、大企業やスタートアップ以外の組織ではうまく機能しないかもしれないということです。それでも興味深い内容です。スタートアップは未来を見据えたものであり、それを理解する価値はあると思います。ただ、スタートアップは一般企業とは全く違ったものです。そこで、本日と木曜日は、スタートアップとして最大限の成功を収めるために皆さんが熟知しておくべき4つのポイントについて概要をお話しします。そしてコースを通じて、各ゲストスピーカーがそれぞれのポイントについてより詳しい講義を行います。

アイデア、プロダクト、チーム、実行力:パートI

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皆さんに必要となるのは4つ、素晴らしいアイデア、素晴らしいプロダクト、素晴らしいチーム、そして素晴らしい実行力です。これらは重複する部分もありますが、分かりやすくするために個別にお話しします。

これらのポイントをおさえても、なお失敗するかもしれません。結果はいわば、アイデア、プロダクト、実行力、チーム、そして運を掛け合わせたようなもので、運はゼロから1万までランダムな数字です。本当にそれだけの違いがあるのです。しかし、自分でコントロールできる4つをうまくおさえれば、少なくともある程度の成功は収められる可能性があります。

スタートアップが面白いことの1つに、驚くほど公平な土俵での戦いだということがあります。経験が浅い若者でも、経験豊富な年長者でも起業できます。また、スタートアップに関して私が特に気に入っている点は、資金が乏しいことや無名であるなど他の事業環境では不利になることも、スタートアップにとっては大きな資産になるということです。

起業の方法について話をする前に、スタートアップを始める理由について話をしたいと思います。私はこの講義をするにあたり、少々躊躇する部分があります。単に起業する目的でスタートアップを始めるべきではないからです。より簡単にお金持ちになる方法はたくさんあり、スタートアップを始めた者は必ず決まって、「こんなに難しく苦しいものだとは思わなかった」と言っています。自分を突き動かす特定の課題があり、会社の設立がそれを解決する最善策だと思う場合のみスタートアップを始めるべきです。

まず特別な情熱ありきで、スタートアップをするのは2番目です。実際、YCで行っている授業はすべてこの考えに基づいています。そこで本日の講義の後半では、Dustin Moskovitzにスタートアップを始める理由について話してもらいます。この講義に対する注目度の高さに驚きましたので、スタートアップを始める理由について多くの時間を割くことにしました。

アイデア

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まず、4つのポイントの1番目は素晴らしいアイデアです。昨今、アイデアは重要ではないとよく言われます。実際、起業するにあたり、構想に多大な時間をかけるのは得策ではありません。とりあえず始め、壁にものを投げつけ、落ちずに残っているものに目をやるべきで、やる価値があるか、うまくいくか、などと考えるのにわずかな時間も割くべきではありません。

ピボットは素晴らしく、多ければ多いほど良いとされています。これはあながち間違いではなく、物事は全く予想できない形で進化していきます。プロダクトが実際にユーザーの手に渡るまでわからないこともあります。そして素晴らしい実行力は、素晴らしいアイデアより少なくとも10倍重要で100倍困難なものです。

ピボットではなく優れたアイデアを

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しかし、これはかなり大げさです。悪いアイデアが悪いことに変わりはなく、ピボットがもてはやされる現代社会は最適ではないと思われます。実行力が優れていても、アイデアが稚拙であれば、うまくいきません。もちろん例外もありますが、優良企業の大半はピボットではなく素晴らしいアイデアから始まっているのです。

成功しているピボットは、思いつきで作ったアイデアではなく、創業者自身が望んだ方向へのピボットである場合がほとんどです。Airbnbが誕生したのは、Brian Cheskyが家賃を払えなかったけれども、家に空きスペースがあったからです。一般的に、ピボットを重ねてもそれで大企業にはなりません。私自身もかつてアイデアはさほど重要ではないと考えていましたが、それは間違いだったと今は確信しています。

アイデアの定義を話すとなると、とても広範にわたります。アイデアには、市場の規模や成長率、会社の成長戦略、防御戦略などが含まれます。アイデアを評価する際は、プロダクトだけでなくこれら全てについてよく検討する必要があります。アイデアがうまくいけば、10年は関わることになるのですから、そのビジネスが有する重要な価値や防御性について事前に熟考しておくことは意味があります。計画自体に価値がなくても、計画を立てることに意味があるのですが、今日のスタートアップの多くはこれを欠いています。

長期的に物事を考えることは一般的にあまりみられませんが、特にスタートアップではその傾向があります。長期的に物事を考えれば、大きなメリットが生まれます。覚えておいてほしいのは、時を経てアイデアは拡大し、より野心的になっていくということです。世界制覇への過程で全部を理解しておく必要は確かにありませんが、スタートアップを始めるにあたっては中核となる素晴らしいアイデア、興味深く発展させていけるアイデアが必要です。

アイデアを練るときに、創業者がよく間違っているもう1つの点は、模倣されにくいビジネスをいつの日か築かなければならないことです。これは素晴らしいアイデアの重要なポイントです。

繰り返しますが、初めにアイデアありきで、スタートアップは2番目です。これは非常に重要な点です。自分が探求せずにいられないアイデアが浮かぶまで起業してはいけません。また、アイデアを選ぶ方法はこうです。いくつかのアイデアがあったら、仕事のことを考えていない時に最もよく頭に浮かぶアイデアを選んでください。自分が本当に愛するアイデアを思い付くまで待てばよかったと創業者が言うのを何度も聞きました。

ミッション志向型であること

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この点に関するもう1つの見方として、トップ企業は、そのほとんどがミッション志向型であるということです。重要なミッションがあると思わなければ、大企業が必要とする力を束ねることは困難です。また、素晴らしい創業精神がないと非常に困難です。ミッション志向型のアイデアは、皆さん自身がそれに打ち込めるという点でもメリットがあります。素晴らしいスタートアップを作り上げるには、だいたい10年ほどの長い月日を要します。自分が築くものを愛し信じられなければ、途中であきらめてしまう可能性が高いです。私が知る限り、「このミッションは本当に重要である」と信じること以外にスタートアップの苦しみを乗り越える方法はありません。多くの創業者、特に学生の創業者は、自身のスタートアップはわずか2~3年で軌道に乗り、その後は本当に好きなものに取り組めると考えています。しかし、ほとんどはそうはなりません。優れたスタートアップは軌道に乗るまで10年を費やすのが普通です。

ミッション志向型企業の第三のメリットは、社外の人々が進んで手を差し伸べてくれるということです。何かから派生したようなプロジェクトよりも、困難で重要なプロジェクトの方がよりサポートを得られるでしょう。スタートアップに関して言えば、容易なスタートアップよりも困難なスタートアップの方が設立しやすいでしょう。これは人々がなかなか理解できない反直観的なものです。ミッション志向型がいかに重要かを誇張するのは難しいため、最後にもう一度言わせてください。新しい考えがほとんどないまま既存のアイデアを真似る派生的企業が人々を魅了することはなく、チームをやる気にさせて成功することもないのです。

来週Paul Grahamがスタートアップのアイデアを練る方法について講義をします。これは多くの創業者が苦労している点ですが、実践を重ねれば上達するものであり、その努力をする価値があるものだと私は思います。

悪いように見えて良いアイデアを選ぶ

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素晴らしいアイデアを考える際に最も難しい点は、最良のアイデアが初めはとてもひどく見えるということです。たとえば、ウェブポータルとしての機能を持たない13番目の検索エンジンはどうでしょう。ほとんどの人は無意味だと考えました。検索はするけれど、それは大した問題ではありませんでした。ポータルに価値があるからです。お金のない大学生だけを対象とした第10位のソーシャルネットワーク、これもひどいですね。MySpaceがすでに成功しているのに、誰が大学生相手のビジネスをしたいと思うでしょうか。あるいは、見知らぬ人の家に泊まるアイデアも実にくだらないものに思われました。

これらはすべてひどいアイデアのようでしたが、結果的に成功しました。素晴らしいアイデアだと思われていたら、多くの人がそれに手を出していたでしょう。Peter Thielが5番目の講義で取り上げますが、独占的事業となるアイデアが必要です。しかし、独占的事業はすぐに手に入りません。独占し急成長が期待できる小さな市場を見つけるのです。これが、一部の素晴らしいスタートアップのアイデアが、当初は実にくだらないものと映る理由です。「私のプロダクトは、今は一部のユーザーにしか受け入れられていないが、将来的にはほとんど全ての人が私のプロダクトを使うようになるだろう」と言えれば、そのアイデアは優れているのです。

自分の考えを信じ、他人の否定的な意見は無視するということは、よく持ち上がるテーマです。難しいのは、これが紙一重の差だということです、ということです。ある一面では正しく、別の一面ではまともではないのです。しかし、素晴らしいアイデアを考え出しても大半の人からは酷評されることを肝に銘じておいてください。皆さんはそのような人々と競合することがないということですから、酷評を喜ぶべきなのです。

これは、他人に自分のアイデアを明かすことがさほど危険でないことの理由でもあります。真に素晴らしいアイデアは、盗む価値があるようには見えません。皆さんが求めるべきは、「ひどいアイデアだと思われるのはわかっているが、実は素晴らしいアイデアだといえる具体的な理由はある」と言えるものです。変な奴と見られながら、実際は正しい人間であることです。そして、他に手掛けている人が少ないアイデアを探すのです。最初は立派なアイデアでなくても良いのです。

創業者、特に初めてスタートアップを立ち上げる創業者によく見られる間違いは、初めての自社プロダクト、つまり自分の最初のアイデアが完璧でなければならないと考えていることです。しかし、その必要はありません。必要なのは特定の小さな市場を支配し、そこから拡大していくことです。優れた企業の大半はそのように始まっています。評判が良くなくても正しいことを目指すのです。くだらないアイデアのようでありながら、実は優れているものを見つけてください。

10年後に大きな市場を狙う

また、市場がいかに拡大していくかについても時間をかけて考えておきたいことです。皆さんが必要とするのは、10年で大きくなる市場です。大半の投資家は足元の市場規模のみに注目し、市場がどのように進化していくかを全く考えていません。

実際、これは投資家全体が犯す最大の失敗の1つであると私は考えます。彼らの思考はスタートアップ自体の成長には向けられますが、市場の成長には向けられません。私は足元の市場規模よりも成長率を重視し、市場が頭打ちになる要因があるかどうかにも留意します。皆さんもこの点に考えを向ける必要があります。私が投資先として好むのは、大規模ながら低成長市場にある企業よりも小規模ながら急成長中の市場で活躍している企業です。

この種の小規模で急成長する市場の大きなメリットの1つは、顧客がソリューションを切望していて、不完全でも急速に改善が進むであろうプロダクトを受け入れてくれることです。そして学生であることの大きなメリット(2つある最大のメリットのうちの1つ)は、どの市場が急成長するか、年長者よりも優れた直観で判断できる可能性があるということです。学生が通常理解できない、または理解するのに時間を要するもう1つの点は、存在しようとしない市場は作り出せないということです。基本的にスタートアップではあらゆることを変えることができますが、市場ではそうはいきません。そのため、自分が参入する市場が成長軌道にあり続けるか確信を持つべく、またはできるだけ確信が持てるよう、よく検討する必要があります。

適切な市場を説明するには、様々な言い方があります。例えば、他者の波に乗る、上りのエレベーターに乗る、ムーブメントの一部となるなどです。これらはすべて急成長しそうな市場を狙うという意味です。現時点では小規模に見えるかもしれないし、実際小規模かもしれませんが、急成長する見込みがあることを、他者ではなく自分だけが分かっている市場です。

それが世界のどこで起きているかを考えてみてください。スタートアップを成功させるには、この種の追い風を利用する必要があります。

面白いのは、そのような追い風が、おそらく以前よりも今吹いているということです。Marc Andreessenが言っているように、ソフトウェアは世界中に普及しています。まさに至る所に存在し、そこから非常に多くの素晴らしいアイデアが生まれています。その中から自分が本当に関心のあるものを1つ見つけるだけでいいのです。

なぜ今?

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素晴らしいアイデアについてもう1つ、Sequoiaの有名な質問があります。なぜ今なのか (Why Now?)。なぜこのアイデアで、この会社を立ち上げるのに今が絶好の時期なのか。なぜ2年前にできなかったのか。なぜ2年後では遅すぎるのか。私たちが関わり成功を収めたスタートアップの大半は皆、素晴らしいアイデアとこの質問に対する素晴らしい答えを持っていました。もし答えが見つからなければ、少なくとも疑念を抱くべきです。

一般的に、自分自身が必要とするものを作り出すのがベストです。この場合、顧客の声を聞くよりも、はるかに深く理解して最初のプロダクトを作ることができます。自分には必要でなく、他者が必要としているものを作る場合は、大きなデメリットがあると理解したうえで、顧客のあらゆる声に耳を傾けてください。可能であれば顧客のオフィス内で仕事をするようにし、不可能であれば1日に何度も顧客と話す機会を作ってください。

説明しやすく理解しやすいもの

素晴らしいスタートアップのアイデアに関して少し反直観的なもう1つの点は、大抵の場合それらは非常に説明し易く、非常に理解し易いことです。自分のやっていることを1文で説明できなかったら、大抵は複雑すぎるということです。少ない言葉で明確に表現できるようなビジョンでなければなりません。そして素晴らしいアイデアとは、実に快適な検索エンジンでありながらポータルのような他の機能を持たないGoogleのように、何か重要な点で既存の企業とは大きく異なっているか、SpaceXのように全く新しいものです。既存企業を模倣しながら、わずかな、あるいはこじつけの差別化要因(デザインが美しいX、赤ワインを好む人向けのYなど)をアピールする企業は大抵失敗に終わります。

学生であることのメリットは新しいテクノロジと共同創業者

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先ほどお話ししましたように、学生であることのメリットの1つは、新しいテクノロジーに関して非常に良い視点を持っていることです。素晴らしいアイデアを学ぶには時間を要するため、直ちに取り掛かってください。学生時代にもっとやっておけば良かったと人々が言うのをいつも耳にするからです。

学生であることのもう1つのメリットは、将来の共同創業者と出会えることです。皆さんは今、将来共に起業できる人に出会える素晴らしい環境にいることをお分かりですか。特定のスタートアップを学ぶよりもっと重要なのは、将来の共同創業者と知り合うことだといつも学生に話しています。

例: 50 Cent

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多くの人は表現したいことや作りたいものを最初に考えて、そしてそのアイデアのための聴衆を探す。あなたは逆のアングルから考えなければならない。公衆を最初に考えるということを。彼らの変化するニーズ、そしてトレンドにフォーカスを置き続ける必要がある。彼らのデマンドからはじめて、適切な供給を作り上げよう。

では、このセクションの最後に、50 Centの話を紹介したいと思います。彼がVitamin Waterについて聞かれた時のことです。特に読み上げませんが、ここに顧客が求めるものや市場の需要を考える重要性が書かれています。大半の人、特に学生はそれをしていません。もしこの1つをできれば、市場第一の思考方法を学ぶことができれば、スタートアップを始める大半の人よりかなり有利に立てるでしょう。市場第一、顧客第一で考えられていないことは、Y Combinatorアプリで最も頻繁に目にする間違いかもしれません。

プロダクト

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次に、素晴らしいプロダクトの作り方についてお話します。繰り返しになりますが、ここでのプロダクトとは、カスタマーサポート、プロダクトを説明するコピー、自社プロダクトと顧客の交流に絡むあらゆるものを含む非常に広義なものと定義しています。

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真に優れた会社を築くには、まず素晴らしいアイデアを素晴らしいプロダクトに昇華させる必要があります。これは実に困難ながら極めて重要であり、そして幸いにして実に楽しいことです。素晴らしいプロダクトとは常にこれまで存在しなかったものであり、何を作り出すかのアドバイスをすることは難しいですが、素晴らしいプロダクトの作り方に関する数多くのアドバイスには共通性があります。

創業者にとって最も重要な任務は、会社が素晴らしいプロダクトを作り出せるようにすることです。素晴らしいプロダクトを作ることが何よりも先決です。実際に成功を収めたスタートアップの創業者のほとんどは、創業当時、常にコンピュータの前に座りっぱなしでプロダクト開発をしていたか、顧客と話をしていたと言っています。ずっとそのような状況で、それ以外のことはほとんど何もしていないのです。もし時間の使い方が自分とは全然違うという人は、大いに疑ってみなければなりません。資金集めやメディア露出、雇用、事業開発など創業者が解決する問題は他にもありますが、それは素晴らしいプロダクトがあれば実に簡単に解決できるものです。まずは素晴らしいプロダクトを開発することが重要です。第1段階は、ユーザーが愛してくれるものを作ることです。YCでは創業者に、自社プロダクトに取り組み、ユーザーと話し、運動し、そして食べて寝る、それ以外は必要ないと話しています。先ほど話した、PR、記者会見、アドバイザーの採用、パートナーシップなど、他のことは全て無視してください。ユーザーの声を聞いて可能な限り良いものを作り出してください。

ユーザーが愛してくれるものを作れ

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皆さんの仕事は、ユーザーが愛してくれるものを作り出すことです。大成功を収めている企業でそれを最初にやらなかった企業はほとんどありません。計画だけが素晴らしいスタートアップの多くは失敗に終わります。彼らは単に人々に好まれるものを作っているだけだからです。人々がそこそこ欲しいものを作っていたのでは、失敗します。ですから、これら2つ(訳注:ユーザーが愛してくれるものを作ること、ユーザーと話すこと)をやるべきです。

まず、YCで繰り返し話しているのは、多くのユーザーが好むより少数のユーザーが愛してくれるものを作る方が良いということです。もちろん、少数のユーザーが愛してくれるものを作り出せればベストですが、最初のバージョンでそれを成し遂げられる可能性はまずありません。スタートアップではできないのが普通です。

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ですから現実的には、この図のグレーかオレンジを選ぶことになります。多くのユーザーにある程度好かれるものを作るか、少数のユーザーに大いに愛されるものを作るか、です。

少数のユーザーに愛されるプロダクトを作れ

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これは非常に重要なポイントです。少数のユーザーに愛されるプロダクトを作り出してください。多くの人に好まれるものから多くの人に愛されるものへと発展させるより、少数のユーザーに愛されるものから多くのユーザーに愛されるものへと発展させる方がずっと簡単です。これがうまくいけば、それ以外のことで多くの間違いを犯すかもしれません。これがうまくいかなければ、それ以外のことを全て正しくやれるかもしれませんが、それでも失敗はするでしょう。ですから、スタートアップを始める者は、軌道に乗るまでは、この点だけに留意すべきです。

(参加者)前のスライドをもう一度見せてもらえますか。

スタートアップには選択肢があります。最も良いのは、多くの人々に本当に愛されるプロダクトを作り出すことです。しかし、現実にはそううまくはいきません。なぜならそのようなチャンスがあった場合、GoogleやFacebookがものにしてしまうからです。曲線の下部分、つまり自分が作り出せるものには限度があります。ですので、多くのユーザーにある程度好まれるもの、あるいは少数のユーザーに大いに愛されるものを作ることになります。愛情の総量は一定で、どう分散させるかが問題、ということです。(参加者の笑い)スタートアップの最初のプロダクトには、この幸福量保存の法則のようなものがあるのです。

スタートアップで常に悩みの種となるのが、このどちらを選ぶかということです。これらは等しいようですね。曲線下の面積が同じだからです。しかし、今回見てきたように、実は同じではありません。一部の人々に愛されるものを作り出せば、多くの人に愛されるものへと発展させることは、はるかに簡単です。しかし、迷いがあるまま、あるいはあまり情熱がないまま始めて、そして発展させようとしても、多くの人々に愛されるものは作り出せないでしょう。ポイントは、少数のユーザーを見つけ、彼らに自社のプロダクトを愛してもらうことです。

愛してくれているかどうかは口コミで測る

自社プロダクトが愛されているかどうかを把握する方法に、口コミによる成長があります。ユーザーに愛されるものを作り出せれば、ユーザーはそれを友人へ紹介してくれます。これは消費者向けプロダクトだけでなく企業向けプロダクトにもあてはまります。人は自分が心から良いと思ったら友人に伝える、ここに有機的成長が期待できます。

パートナーシップはトラブルの前兆

自分たちを援助してくれる大きなパートナーシップがあるから成長していなくても大丈夫だと言う人がいたら、これは深刻なトラブルの前兆です。セールスやマーケティングはとても重要で、これについては2クラスの講義を行う予定です。

優れたプロダクトが勝つ

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素晴らしいプロダクトは長期的グロースハッキングを実現させる極意です。皆さんはまずこの点をちゃんと理解しなければなりません。素晴らしいプロダクト作りを後回しにすると、仕事は容易にいきません。人に愛されるプロダクトよりも先に成長を目指すと、ほぼ確実に時間を浪費することになります。成功した企業は必ずと言っていいほど、非常に素晴らしいプロダクトを作り出し、口コミによって成長しています。長い目で見ると、素晴らしいプロダクトが勝つのです。競合他社が多額の資金調達をしていることや、今後何をするかを気にする必要はありません。彼らは、いずれにしてもさほど成功しないでしょう。競争に敗れて終わりを迎えるスタートアップはごくわずかです。スタートアップのほとんどは、ユーザーに愛されるものを自社で作り出せず、他のことに時間を費やしたために終わりを迎えるのです。ですから何よりもまず、ユーザーに愛されるものを作り出すことを考えてください。

シンプルなものから始める

ユーザーに愛されるものを作り出すためのもう1つのアドバイスは、シンプルなものから始めることです。シンプルなものであれば、もっと簡単に素晴らしいプロダクトを作れます。最終的な計画が非常に複雑なものであっても(そうあってほしいのですが)、初めは最も小さいと思われる問題に取り組みます。素晴らしいプロダクトを作り出すのは困難ですから、できるだけ表面積の少ない事柄から始めましょう。実際に成功を収めている会社とその原点について、そして皆さんが真に愛するプロダクトについて考えてみてください。それらのプロダクトは通常、非常に使い易く、特に簡単に使い始めることができます。Facebookの最初のバージョンは滑稽なほどシンプルでした。Googleの最初のバージョンはテキストボックス1つとボタンが2つあるだけの単なるウェブページでしたが、それが最高の結果をもたらし、シンプルさがユーザーに高く評価されました。iPhoneは従来のどのスマートフォンよりもはるかに使い易く、ユーザーに本当に愛された初めてのスマートフォンとなりました。

シンプルが良いことのもう1つの理由は、1つのことを極限まで突き詰めることを余儀なくされ、また人々に愛されるものを作り出すためにはそれが必要だからです。

偏執的になれ

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成功を収めた創業者たちに彼らの自社プロダクトに対する考え方を聞いてみると、「fanatical(偏執的)」という言葉がいつも出てきます。創業者たちは、細部に至るまで品質に熱狂的にこだわった、プロダクトを正確に説明するための試作品を熱狂的に作り上げた、カスタマーサポートがあるべき姿を熱狂的に考えた、などです。実際に成功を収めたYC企業に共通するのは、創業者が就寝中、夜中にユーザーがメールを送ってきても1時間以内に回答を返信できるようPagerdutyをチケットシステムに連携させたということです。企業は設立当初にこれをやっています。創業者は、プロダクトに不具合が起こったら苦痛で、寝ていても起きてその不具合を解消したいものです。彼らは不良品を出荷しませんが、出してしまった場合は実に迅速に対応します。素晴らしいプロダクトを作り出すにはある程度の「熱狂的行為」が必要なのは間違いありません。

ユーザーを自ら集めよう

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フィードバックサイクルを支えてくれるユーザーは必要ですが、そうしたユーザー集めは機械任せではなく自ら行う必要があります。Googleに広告を出して初期ユーザーを集めるようなことはしないでください。ユーザーを多数集める必要はなく、毎日フィードバックをして最終的に皆さんのプロダクトを愛してくれるユーザーがある程度いれば十分です。ですから、Google Adwordsを使って集めるのではなく、良いユーザーを世界に何人か、自分の手で見つけてください。

Pinterestは誰もがそのアプリを冗談だと思っていた頃、Ben Silbermannはコーヒーショップで赤の他人に話しかけて最初のPinterestユーザーを集めました。これは本当の話で、彼はPalo Altoを歩き回って、「私が作ったプロダクトを使ってくれませんか」と声を掛けて回っていました。また、Palo AltoにあるApple Storeをぶらつき、店員に見つかって追い出される前に全てのブラウザをPinterestのホームページに素早く設定するということを好んでやっていました。店にやって来た客はそれを見て「えっ、何これ?」と驚かされます。これはスケールしないことをするという重要な例です。この話に関するPaul Grahamのエッセイをまだ読んでいない方は、是非読んでみてください。

自分の力でユーザーを見つけてください。そして、目標は皆さんを愛してくれる少人数のグループを見つけ出すことだということを覚えておいてください。そのグループをとてもよく理解し、ぐっと近くに寄り添ってください。彼らの声に耳を傾ければ、喜んでフィードバックをしてくれるでしょう。社内向けのプロダクトを開発していても、外部のユーザーの意見を聞いてください。そうすれば、対価を払ってもらえるプロダクトの作り方が学べるでしょう。彼らから愛してもらえるために出来るだけのことをやって、それを彼らに知ってもらってください。彼らは次のユーザーを獲得するための協力者にもなってくれるのですから。

プロダクトのフィードバックループを作ろう

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ユーザーからのフィードバックをプロダクトに関する意思決定に反映するエンジンを社内に築きましょう。ユーザーとフィードバックのやり取りを繰り返してください。気に入った点と気に入らなかった点を尋ね、彼らがプロダクトを使うのを見てください。何にお金を払うか聞いてください。皆さんの会社がなくなったらがっかりするか尋ねてください。どうすればプロダクトを友人に推奨してもらえるか、誰かに勧めたことがあるか聞いてみてださい。

こうしたフィードバックのループは、できる限り密にする必要があります。プロダクトを毎週10%改良していけば、それは複利でどんどん積み上がっていきます。ソフトウェアを扱うスタートアップに見られるメリットの1つは、フィードバックのやり取りを非常に短時間でできることです。フィードバックは数時間で収集できます。優良企業は最も密なフィードバックのループを持っています。これを自社が存続する限り維持することも必要ですが、設立当初は特に重要です。

幸い、これらは全て実行可能です。困難で多大な努力を要しますが、魔法などはありません。少なくとも単純明快な計画で、いずれは素晴らしいプロダクトが完成するでしょう。

優れた創業者は直接ユーザーと関係を築きます。設立当初はセールスやカスタマーサポートを自ら行います。このループを企業文化に根付かせることは非常に重要です。なぜかStanford大学のスタートアップによく見られる特定の問題なのですが、学生はすぐにセールスやカスタマーサポートのスタッフを雇いたがります。しかし、これは自分でやることです。それ以外の道はありません。

適切なメトリクスを測る

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この点に関して誠実であるためには、メトリクスが必須となります。CEOが評価することを会社が成し遂げるというのは偽りなき事実です。インターネットサービスを構築しているのであれば、登録総数などは無視し(それらについて話をしない、社内の人間にも話させない)、成長率やアクティブユーザー、活動レベル、コホートの継続率、収益、ネットプロモータースコアなどに注目することが大切です。そして、それらが正しい方向にない場合は誠実に向き合ってください。スタートアップには成長が必要であり、これらは素晴らしいプロダクトの指標となります。

では、素晴らしいプロダクトの作り方についてはこの辺で終わりにします。もう一度強調しておきたいのは、これを理解できなければ、講義で話される以外のことは何の役にも立ちません。これがうまくいくまでは基本的には他のことを無視して構いません。良く言えば、これはスタートアップを始めるにあたって、最も楽しい部分です。

本日はここまでにして、この続きは木曜にしましょう。この後は、スタートアップを始める理由についてDustinが講義を行います。Dustin、よろしくお願いします。

スタートアップを始める理由 (Dustin Moskovitz)

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Samからスタートアップを始める理由について講義をしてほしいと頼まれました。スタートアップを始める一般的な理由はいろいろと耳にします。どの理由が自分に当てはまるのかを理解することは重要です。なぜなら、特定の状況下でのみ意味をなす理由もあれば、皆さんを道に迷わす理由もあるからです。ハリウッドやマスコミは起業家精神をとかく美化しがちで、皆さんはそれに惑わされているかもしれません。そこで私は、誤っていると思われる考えについて解明したいと思います。皆さんにより明確な意思決定をしてもらうためです。その後、スタートアップを始める理由で、私が最も良いと思うものについてお話しします。これはSamが先ほど話した内容ととても関連があります。しかし意外にも、それは最もよく言われる理由ではないと思っています。普通、人はその他の理由で、または会社を始めるためだけに起業しようとします。

起業家になる理由

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では、4つの一般的な理由を挙げてみましょう。それは、華やかであること、ボスになれること、特に自分のスケジュールに関してですが柔軟性があること、そして成熟期の会社に入るよりも大きな影響力を持ったり多くのお金を稼いだりできるチャンスがあることです。

起業家は華やかである?

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皆さんはこのコンセプトをよくご存知かもしれません。1年前に皆さんの多くが読んでくださったMediumのコラムを書いた時、私はメディアの話は少々バランスを欠いており、起業家精神がかなり美化されていると思いました。映画『The Social Network』 が公開された時、起業家を目指すことの悪い面が多く描かれていましたが、いつもパーティーで大騒ぎしながら、次から次へと素晴らしいひらめきが生まれる様が実にクールに描写されていました。

私が思うに、現実はそれほど華やかではなく、起業家であるには苦しい一面があります。もっと重要なことは、実際はたくさんの困難な仕事だけに時間が費やされることです。これはすでにSamが説明していますが、机に突っ伏して、カスタマーサポートのメールに対応し、営業活動をし、難しいエンジニアリングの問題を解決するというようなことばかりです。ですから、皆さんは目を大きく開いて始めることが本当に重要なのです。さらに、これは非常にストレスがたまるものです。昨今メディアでもよく話題となっていますが、ちょうど先週『The Economist』に「Entrepreneurs anonymous」というタイトルの記事が掲載され、机の下に隠れている創業者や、創業者の鬱について紹介されていました。ですので、これは現実的な話です。現実から目を背けないでください。起業した者に待っているのは、極めて困難な道のりなのです。

実際は起業家は常にストレスフル

なぜそんなにストレスが多いのでしょうか。いくつか理由がありますが、1つは、大きな責任を背負うからです。どんな職業にある人も失敗への不安を持っています。心理学の主な領域です。しかし起業家の場合は、失敗をすると、自分だけでなく、自分についていこうと決心してくれた人々に対する不安も抱えることになります。これが大変なストレスとなります。中には、生活がかかっている人もいます。そうでなくとも、彼らは人生の最高ともいえる年月を創業者に託そうと決心したわけです。ですから、彼らの時間という機会費用に対する責任があります。何か起きた場合のために常に待機状態にあり、重要な問題が起きたら(必ずしも午前3時とは限りませんが、一部のスタートアップではあり得ることです)それに対処することになります。結局のところ、このようなものです。休暇中でも週末でも関係ありません。いかなる時も気を緩めることなく、問題に対処できるよう気持ちの準備をしていなければなりません。特にこの種のストレスに苦しめられる例が資金調達です。

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『The Social Network』のある場面を見てみましょう。皆パーティーを楽しみつつ仕事をしています(誰かがシャンパンを振りまいています)。『The Social Network』はこうした場面の描写に長い時間を費やしています。Markはここにはいません。彼を嫌われ者として描写することにも時間が費やされています。

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これは、実際のPalo Altoからの場面です。彼はこの机に突っ伏して、集中し、多くの時間を過ごしていました。Markは嫌な奴でしたが、この場面では反社会的で軽蔑されることを好む者というより、面白く憎めない人間のように描かれています。これは、社交的というよりも、仕事に没頭する彼の意欲を表現しているのです。

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次に、考えが浮かんだ瞬間を描いた場面があります。『A Beautiful Mind』の一場面のようですが、実際にその場面を真似たようです。パーティーの様子を挿入しながら様々な場面が描写されていますが、私たちがいたのはずっとあのテーブルです。この写真を見ると、Markは全く同じ位置にいますが違う服を着ています。つまり、これは全く別の日なのです。実際はこのような感じです。

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これは先ほど紹介した『Economist』の記事ですが、この点を今説明しました。

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もう1つのストレスは、無用なメディアでの注目です。華やかであるとはメディアから肯定的注目を集めることでもあり、雑誌『Time』の表紙を飾ったりPerson of the Yearに選ばれたりすることはうれしいものです。結婚式の写真で『People』の表紙を飾るのはあまり愉快でないかもしれませんが。皆さんはどうかわかりませんが、私は本当に嫌ですね。Valleywagに自分の講義を分析されて心がズタズタになる、これは決して望むことではありません。誰も望みません。

起業家がコミットメントを持って仕事をしていると人が言うのを聞くことはめったにありません。人は、起業する段階で、非常にストレスを感じ、物事がうまくいかず、気に入らなかったらすぐに投げ出してしまいます。創業者にとって投げ出してしまうことは可能ですが、それは実に格好悪く、今後のキャリアの大きな汚点となります。順調であれば10年、順調でなくとも5年程度は仕事に専念することになります。つまり、会社が順調にいかないことを判断するのに3年、会社の着地点をうまく見つけられたら、その後買収企業で2年です。その前に放り出してしまえば、金銭的に窮地に追い込まれるだけでなく、会社の全従業員を窮地に追い込むことにもなります。つまり、運がよければ、ひどいスタートアップのアイデアで、すぐに失敗するでしょうが、ほとんどの場合はそうはならないということです。

私自身、こうしたストレスをたくさん感じてきました。特にFacebookの立ち上げ時がそうでした。不健康で、体も動かさず、過度なストレスからほぼ半年毎に腰を痛めました。これは21~22才の頃の話ですが、本当に異常な状況でした。会社を始めるなら、こういう状況が訪れると承知しておいてください。皆さんは実際にこうした状況に対処せねばならず、それが皆さんの重要な責務の1つなのです。Ben Horowitzは、CEOの第一の役割は自分の心理状態を管理することであるとよく話しています。これはもっともで、皆さんもそうできるようになってください。

起業家は自分以外のすべてがボス

もう1つの理由は、特に他社で別の仕事をしていた場合に当てはまるのではないでしょうか。この会社を経営している人々は全ての意思決定をし、こんな馬鹿げたやり方で時間を全部費やしていて間抜けだ。自分は起業して、もっとうまくやる、自分が全てのルールを決める。こんな調子です。

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結構な話で、実に理にかなっていますね。しかし、私が投稿したコラムを読んだ皆さんなら、どういう事態になるか、分かっていただけると思います。では、ちょっとこの引用を読んでみてください。

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人は皆、自分が起業した会社のCEOとなりピラミッドの頂点に立つというビジョンを持っています。これをモチベーションとする人もいるですが、現実は全く違います。

現実はこうです。自分以外の人全てがボスなのです。会社の従業員、顧客、パートナー、ユーザー、メディアなどです。私はこんなに多くのボスを持ったことがなったし、こんなに多くの人に説明責任を負わなければならなかったこともありません。

大半のCEOの時間は他の人への報告に費やされています。少なくとも私や私の知っているCEOはそう感じています。人に権力や権限を行使したければ、軍隊か政界に入ることです。起業家にはならないでください。

—Phil Libin

この言葉に私は強く共感します。1つ指摘しておきたいのは、経営者の意思決定の実体は微妙な意味合いを持つということです。自分が馬鹿だと思った人々はおそらくそうではなく、彼らを様々な方向に引きずり込もうとする人々の前で実に困難な決断を下しただけなのです。つまり、私がCEOとしていつも自分の時間やエネルギーを費やしていることは、他者が私へ持ってくる問題や、他者が作った優先事項への対処であり、それらはたいてい対立するものです。人々はそれぞれ違った方向を目指し、顧客はそれぞれ違うことを望みます。自分の意見があったとしても、重要なのは、できるだけ人を失望させず、困難な状況を乗り切ることなのです。

日常においても、たとえば月曜日、会社をいかに良くしていくかという大きな計画に取り組むつもりで、出社したとします。しかし、重要な従業員が会社を辞めると言い出したら、それが私の最優先課題となります。このようなことに自分の時間がとられるのです。

自由に働ける!(24時間中!)

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「ボスになれる」という理由の中に、自分のスケジュールに関する柔軟性を挙げました。これは実に魅力的ですが、現実はこうです。

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起業家になれば、はっきり言って自由な時間をいくらか持てますが、これは1日24時間自由に働くことができるという意味なのです!

—Phil Libin

 この言葉にも私は強く共感します。常に待機状態でいなければならないからです。つまり、1日の全てを仕事に費やすことはないかもしれませんが、働く時間とそうでない時間を自分でコントロールできないのです。

起業家は会社のロールモデルであり、これは非常に重要です。会社の従業員なら、順調な週もあればそうでない週もあり、やる気が出ずに何日か休みを取りたいと思う週もあるでしょう。しかし、皆さんが起業家ならそれではいけません。チームは皆さんの仕事ぶりに敏感に反応し、皆さんがアクセルから足を離したら、彼らもそうするでしょう。

とにかく起業家は働き詰めになります。アイデアに対する真の情熱があれば、その情熱に突き動かされるでしょう。皆さんが有能な投資家と仕事をしているなら、有能なパートナーと仕事をしているなら、彼らは身を粉にして働き、またそれを皆さんにも求めるでしょう。

いいとこ取りができるだとか、週4日働くだけでいいなどと言う企業もあります。皆さんがTim Ferrisなら、週12時間勤務も可能かもしれません。実に魅力的ですが、これが成立するのは1つの市場を狙う小さな事業の起業家となるような特定の場合です。多少は納得できますが、2~3人追い抜くとすぐに力を入れてフルタイムのコミットをしなければならなくなります。

より多くのお金を稼いでより大きなインパクトができる…とは限らない

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「より多くのお金を稼ぎ、より大きな影響力を持つ」

これは重要な点で、特にAsanaに応募してくるような人から最もよく耳にします。彼らは、「もっと小さな会社で働くか、起業をしたい。分け前が大きくなるし、会社の事業への影響力が高まるし、より多くのエクイティを手にし、たくさんのお金を稼げることができるからです」と言います。では、これが正しいか検証してみましょう。

起業家の期待値は、スタートアップで働くことに比べればそれほど大きくないのでは?

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金銭的報酬とインパクト
実在企業 評価額 100番目の従業員のアップサイド(10bp)
Dropbox 100億ドル 1000万ドル
Facebook 2兆ドル 2億ドル

最初に起業する会社 理論的評価額 創業者のアップサイド(10%)
「ペットシッターのUber」 1億ドル 1000万ドル
「宇宙旅行のUber」 20億ドル 2億ドル

これらの表について説明しましょう。少々複雑ですが、まず左から説明します。これらはDropboxとFacebookに関する現在の評価額、そしてこれらの企業に100番目の従業員として入社した場合、特に経験豊富、比較的経験豊富なエンジニアで、業界経験は5年程度あり、約10ベースポイントのオファーを受ける可能性が高い場合に得られるであろう金額を示しています。数年前Dropboxに入社している場合、すでに確定させているアップサイドは約1000万ドルであり、そこからさらに増えていきます。数年前の創業時Facebookに入社している場合、すでに約2億ドル(約200億円)という大金を獲得しています。例えば2009年に1000番目の従業員としてFacebookに入社したとしても2000万ドル(約20億円)獲得しています。これは途方もない数字で、起業家としてどれだけのお金を稼げるかを考える際にはこのようにベンチマーキングを行う必要があります。

右側の表の2社は、皆さんが起業する架空の会社です。「ペットシッターのUber」は実に素晴らしいアイデアで、うまく実行すれば1億ドル規模の会社にできる可能性があり、その時点で創業者の取り分は約10%の見込みです。もちろんこのシェアは大きく変動し、これより多いシェアの創業者もこれよりずっと少ないシェアの創業者もいますが、株式の希薄化やオプションプールの設定を何度か経て、このあたりに落ち着く可能性が高いです。それ以上のシェアを保有する場合は、創業者と従業員間のエクイティ分配に関するSamの投稿を読むことをお勧めします。もっと多く従業員に分ける必要があるかもしれません。

基本的には、1億ドル規模の会社を起業できると強い自信があるなら、まだ存在さえしていないスタートアップに対して、2009年当時のFacebookや2014年当時のDropbox以上の自信を持っていなければならないことは言うまでもありません。しかし、やってみる価値はあります。皆さんに1億ドル相当のアイデアがあって確固たる自信があるなら、私も検討してみましょう。

自分は「宇宙旅行のUber」の起業に適した起業家だと思う場合、これは20億ドル規模の壮大なアイデアで、実際に巨額のリターンを得られるでしょうし、やってみるべきです。さらに、これはわずか4年後の価値であり、このアイデアはそれ以後も確実に拡大していくでしょう。この会社の起業を考えている人がいたら、この講義を聴く必要もないでしょう。直ちに起業に取り掛かってください。

Google や Facebook で働いたほうがインパクトが大きい

では、なぜこのような金銭的報酬とインパクトになるのでしょうか。金銭的報酬は社会に及ぼす影響力と実に強い相関関係にあると思います。そう思えない人のために、エクイティの話は忘れて、いくつか具体例を挙げてお話しましょう。

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なぜ成熟段階の企業へ入社すると多大な影響力を持つのでしょうか。それは、次のようなフォースマルチプライヤー(増強要因)があるからです。Facebookなら10億人のユーザー、Googleでも10億人のユーザーというように、成熟企業には既存の巨大なユーザーベースがあり、足場となるインフラがすでに整っています。これはAWSのような新規スタートアップなど、多くの素晴らしい独立系サービスプロバイダーにとってより当てはまることなのですが、通常それらが保有するごく小さな特許技術を、成熟企業が維持してくれるのです。これはスタート地点としては実に素晴らしいことです。そして、チームの中で働くことは、皆さんのアイデアを素晴らしいものに昇華させるうえで役立つでしょう。

具体例ですが、約1500番目の社員としてGoogleに入社したBret Taylorは、Googleマップを開発しました。皆さんも日々使っていると思いますが、私もGoogleマップを使って今日ここに来ました。今や世界中で数億人の人々がこれを使っています。彼はGoogleマップの開発のために起業する必要なしに、たまたま大きな金銭的報酬を得ましたが、ここでのポイントはやはり多大な影響力です。

私の共同創業者であるJustin Rosensteinは、Bretの少し後にGoogleに入社しました。GoogleではPMを務めていましたが、サイドプロジェクトのような感じでスタンドアローンのアプリだったチャットの試作品を製作することになりました。それは、この右上にあるようにGmailに統合されています。彼がこれを手掛ける前は、Ajaxやブラウザ上でチャットすることは全く考えられなかったのですが、彼はチームにちょっとしたデモンストレーションを行い、それを実現させたのでした。これはおそらく、皆さんの多くがほぼ毎日使用しているプロダクトでしょう。

もっと興味深いことは、JustinがGoogleを退社しFacebookの約250番目の社員となって間もなく、Andrew BosworthやLeah Pearlmanなどの面々と共にハッカソンのプロジェクトを率いて、Likeボタンを生み出したことでしょう。これはウェブ上でも最も有名な要素の1つであり、人々のウェブの使い方を一変させました。この場合もそれを実現させるための起業は必要ありませんでした。もし起業を試みていれば、ほぼ間違いなく失敗に終わっていたでしょう。なぜなら、これを実現させるために本当に必要だったのは、Facebookの普及力だったからです。

重要なことは、どんな会社を作ろうとしているか、その背景と、どこで実際にそれを実現できるかということを頭に入れておくことです。

起業する最も良い理由は「そうするしかなかったから」

 

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では、起業する最も良い理由とは何でしょうか。

この点についてすでにSamが少し話していますが、基本的には「自分にはこうするしかなかったから」という理由です。

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皆さんはこのアイデアに多大な情熱を持ち、それを行うべき人間であり、それを実現させねばならないから、です。では、これをどのように解釈するのでしょうか。

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これは言葉遊びですが、皆さんは2つの意味でやるしかないのです。1つは、皆さんはアイデアに対して相当な情熱を持っているため自分でやらねばならず、とにかくやるということです。これは非常に重要です。先に説明したような起業家となることに伴う困難を全て克服するためには、そうした情熱が必要となるからです。さらに、優秀な人材を集めるためにも情熱が必要となります。皆さんが情熱を持っていなければ、彼らは感づきます。情熱のある起業家は世の中に大勢いて、彼らにはそれらの起業家の下で働くという手もあるのです。つまり、情熱は起業家になるために差し出す賭け金なのです。情熱がないと大きな問題となり得るということは、皆さんの潜在意識の中にもあるでしょう。

違う方向から解釈をすると、皆さんがそうすることを世界が求めているということです。これは、アイデアは重要で世界をより良くするものであり、それゆえに世界がこのアイデアを必要としていることです。世界が必要としているものでなければ、他に世界が必要とすることをやってください。皆さんの時間はとても貴重です。世の中には素晴らしいアイデアが溢れ、それらは皆さん自身のものではなく、既存企業のアイデアかもしれませんが、優れたものになりそうな何かに取り組むことはできます。

2つ目の意味は、皆さんがそうすることを世界が求めているということです。皆さんは何らかの意味で、この問題に適しているのです。そうでなければ、皆さんの時間を別のことに費やした方がよいということかもしれません。その場合、最善のシナリオは、その問題に適したチームを打ち負かして、世界にとって次善の結果となることです。しかし、あまり気分の良いものではありません。

Asana を起業した理由は「自分がそうするしかなかったから」 

Asanaでの私自身の経験に照らし合わせると、Asanaを起業する前のJustinと私はあまり起業に乗り気ではなく、Facebookで大きな問題に取り組んでいました。私たちは基本的に、昼間はずっと通常のプロジェクトに取り組み、夜は社内で使用されていたこのタスクマネジメントシステムに取り組んでいました。これはまさに私たちにはアイデアに対する情熱があったからであり、この仕事が有する価値があまりに明確で、他のことには手を出すことができませんでした。

そしてある時点で、私たちは困難な話し合いをせざるを得ませんでした。では、起業しなければ、何の意味があるのか。私たちはこれがFacebookにもたらす影響を理解しており、世界にとって有益であると確信していました。さらに、これを作ろうとする者は他にいないことも確信していました。問題は長い間放置され、それに対する漸進的なソリューションが開発されているのを見てきましたが、私たちが最善のソリューションを提供できなければ多大な価値が机上の理論のまま終わってしまうと感じていました。私たちは仕事に没頭し、まさにアイデアは私たちの中から力強く世界に羽ばたいていきました。これこそ皆さんが起業をする際に求めるべきもので、自分が素晴らしいアイデアを持っているかどうかを判断する方法なのです。

では、ここで終わりにします。お勧めの本を何冊かここに置いておきます。

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ご清聴ありがとうございました。

 

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。なお原文は講義の書き起こしであり、整形された文章ではありません。今回、文章としての読みやすさを高めるために、適宜改行し、見出しも訳者がつけました。
原文: Lecture 1: Welcome, and Ideas, Products, Teams and Execution Part I & Why to Start a Startup (2014)

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