なぜセールスパーソンに成果報酬を払うべきなのか? (a16z)

「今日耳にするようなインチキ一つにつき1ドルもらえてたら、今頃は億万長者だ」
ビッグ・ショーン、The One

このタイトルを書いていて少し奇妙な気分になりました。「なぜエンジニアに大画面のモニターを与える必要があるのか?」という質問に少し似ているからです。この質問をしなければならない人は、おそらくその答えを理解できないでしょう。手短な答えとしては、優秀なエンジニアに働いて欲しくないのなら与えなければいい、それなしでエンジニアが働いてくれたとしても、彼らの生産性は下がる、というものです。このことはセールス担当者とコミッションについても同じことが言えます。

にもかかわらず、この質問を受けることが増えてきているので、回答してみようと思います。まず、私が「セールス担当者」と言うときは、それは本物のセールス担当を意図しています。ネットを通じて入った注文を処理する人間や、すでに購入意思が固まっている顧客をサポートする人のことではありません。普通のセールス担当よりも10倍単位で多く売り上げるような、優秀なセールス担当がいるような状況です。価値を説明し、組織を導き、政治関係を整理し、取引を獲得しなければならないような状況。このような、本物のセールス担当者のことです。

さて、なぜセールス担当にコミッション(成果報酬、歩合)を払う必要があるのでしょうか? エンジニアのように給与と長期インセンティブでは働かないのでしょうか?

あなたが年間に1千万ドル相当の製品を売れる優秀なセールス担当者だったとしましょう。会社Aがコミッションを払う場合、あなたが自分のやれることをわかっていれば、あなたは1年に100万ドル稼ぐことができます。一方、会社Bは「文化的理由」によりコミッションは支払わないとし、年間20万ドルを提供します。どちらで働きますか? また、あなたが何か売れればラッキーというようなダメなセールス担当だとして、業績ベースのコミッション文化の会社ではクビになっても、コミッション制のないプレッシャーの低い会社でなら生き残れるかもしれません。どちらで働きますか?

文化と言えば、セールスの文化がエンジニアリングの文化と異なるべき理由はあるのでしょうか? それを理解するには、自分に次のことを尋ねてみましょう。あなたの抱えるエンジニアはプログラミングが好きですか? たまに本業とは別に、楽しみでプログラミングをやったりしますか? それはよいことですね。ただセールス担当は企業ソフトウェアを楽しみで売るなどということは絶対にしないと私は断言できます。

セールスは非常に競争が激しい仕事です。その「競争が激しい」と言う言葉こそ、優れた業績を叩き出すセールス組織のカギなのです。セールスで優れた成績を出すためには、競合相手を売り負かさなければいけません。競合相手は他社製品かもしれません。セールス先の会社の社内プロジェクトかもしれません。あるいはターゲット顧客の、何もしたくないという根強い意思かもしれません。結局のところ、これはファイト、戦いなのです。組織から最大のファイトを引き出すには? 賞金を提供するのです。昔からボクシングではこう言われています。「これはプロの賞金付きファイトです。賞金が掛からなければ、ファイトではありません」

賞金と競争は健全なセールス文化を構築するために極めて重要です。では不健全なセールス文化とは何でしょうか? 政治で統制された文化です。そのような文化ではセールス担当は非常に政治的な環境に売り込まなくてはならないため、避けたがります。売る内容に基づいてセールス担当者を評価し、給与を与えないのならば、何に基づいて評価し給与を与えるのでしょう? 他者との協調性ですか? 上司に媚びることですか? 大口を叩きながら何も達成しないことですか? 政治やセールス関係の人は本能的にわかっているのではないでしょうか。CEOが「あなたは会社の文化にいかに適合するか、という点において評価されます」と言うとき、セールス担当には「客観的な財務指標は捨て去り、王様の主観的な意志を重んじます」と聞こえるでしょう。

優れた起業家は優れたイノベーターであり、イノベーターはイノベーションを起こすことが大好きです。しかしセールス報酬にイノベーションを起こす前に、旧式のシステムの強みを理解しておくようにしましょう。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Ben Horowitz

Ben Horowitz は、Andreessen Horowitz の共同創業者兼ジェネラルパートナーの一人であり、New York Times のベストセラーである Hard Thing about Hard Things の著者です。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Why Must You Pay Sales People Commissions? (2017)

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