皆さん、こんにちは。How to Start a Startupの最終講義へようこそ。これまでの講義ではスタートアップ初期段階に皆さんが考えるべきことをお話ししてきましたが、この最終講義では、今までと少々異なり、創業後しばらくは考える必要のないことについて説明します。
皆さんのほぼ全員とはProduct/Market Fit (PMF) ステージ到達後まで再びお話しする機会はないでしょうから、今回はスタートアップの規模が拡大するにつれて創業者が考える必要があること、新たな段階に移行する上で多くの創業者が失敗することを列挙したいと思います。
本日お話しするトピックです。
- マネジメント
- HR
- 会社の生産性
- 法務、財務、会計、税務
- 起業家の心理
- マーケティングとPR
- 取引
繰り返しますが、ここにはコードの書き方やユーザーとの対話は入っていません。つまり、幾つかの例外はありますが、これらについてはProduct/Market Fitに到達するまで無視してもらって構いません。
大半の企業にとって、これらのことは創業後12~24か月の間に重要になります。どこかにこれらを書き留めておいて、時が来たら振り返ってください。
マネジメント
最初のトピックはマネジメントです。
組織構造を作る
創業当初にはマネジメントは存在しませんが、この段階にはそうした組織構造が適しています。
社員が20~25人になるまでは、大半の会社は全員が創業者に報告するという完全にフラットな構造となっています。これがいいのです。創業者にとって必要なのです。なぜなら、これがこのステージでは生産性という点で最適な構造だからです。
人々が認識していないのは、構造の欠如が裏目に出る時はものごとが一斉に上手くいかなくなることです。社員20人の時に上手くいっていたことが、30人になった時には悲惨な結果を招きます。
誰が上司なのかをはっきりさせる
こうした変化が起こることを創業者は認識しておく必要があります。組織を複雑な構造にする必要はありません。実際、そうすべきではありません。ここで必要なのは、全社員が自分の上司は誰なのかを理解し、各社員が1人の上司を持つことです。各上司は、誰から直接報告を受けるかを理解している必要があります。
社員を効果的にチーム分けすることができれば理想ですが、もっとも重要なことは明確な報告体制が確立されていて、全員がそれを理解していることです。その体制が明瞭で簡潔であることが最も重要です。確実にこうした体制を確立できないと悲惨な結果になります。
組織構造にイノベーションを求めない
創業当初には構造が存在しなくても問題は生じないので、構造がないことがクールに感じられます。「斬新な経営管理論を採用して、構造はあえて設けないようにしよう」とする会社は沢山あります。自社のプロダクトとビジネスモデルに関するイノベーションを推進する必要があるからです。
経営構造はイノベーションを求めるべき場所ではありません。何も持たない愚を犯してはいけませんが、きわめて複雑な何かを持つという別の間違いを犯さないでください。多くの人がこの間違いを犯してしまいます。
自分が誰かの上司であるのがクールであり、単なる社員であるのはクールでないと考えます。そのため、この件はこの人に報告し、あの件はあの人に報告する。そして、この分野についてはこの人に報告し、別の分野については別の人に報告するという複雑で入り組んだマトリックス経営構造が考え出されるのです。これは間違っています。
仕事が製品作りから会社作りに代わる
創業者の仕事における重要なシフトの第一の例です。Product/Market Fit (PMF) 到達前は、第一優先事項は優れたプロダクトを作ることですが、社員が25人を超えて会社が大きくなるにつれ、創業者の主な仕事は優れたプロダクト作りから優れた会社作りにシフトし、生涯をかけて取り組む仕事になります。これは創業者が経験する最大のシフトでしょう。
起業家から経営者に変化するときの失敗事例
創業者が経営者に変わっていく段階でよく見られる4つの失敗事例があります。これからそのもっとも一般的な4つの失敗を説明します。
1) シニアの採用を躊躇する
1つ目の失敗は「中高年齢者の採用を躊躇すること」です。通常、中高年齢者の採用はスタートアップの初期においては間違いです。この段階では、仕事を次々とこなす人材が求められ、身を粉にして働く意欲と適性が経験よりも重視されます。
やがて、会社がスケールし始めると基本的な経営構造の導入が必要になり、かつて会社を立ち上げたエグゼクティブなどの中高年齢者をチームに加えることが重要となります。
ほとんどの創業者は非常に有能なエグゼクティブを採用したのち、そのエグゼクティブが事業の大部分を引き受けて会社に成功をもたらすことになってはじめて、「ああ、もっと早くこうしておけばよかった!」と言います。しかし、ほぼ全員がこの間違いを犯し、時間を無駄にしてしまいます。経験豊富なシニアエグゼクティブの採用に躊躇しないことです。
2) ヒーローモードになる
2つ目の失敗は「ヒーローモード」です。ここではカスタマーサービスチームのリーダーを例にして話をします。こうしたリーダーは、自ら手本となって部下をリードしようとします。これはスタート地点としては良いのですが、率先垂範の極端な例です。
リーダーは「私が望むのは、自分のチームが私に言われたからではなく自ら一生懸命働こうとする姿だ。だから、私が手本を示す。1日18時間働き、バリバリ仕事をする姿を部下に見せてやるのだ」と言います。
しかし、やがて会社は成長し始めます。彼らは一般に、多くの仕事を他者に振ることに抵抗を覚えますが、会社は成長し始め、仕事量は増え続けます。すると、彼らは1日19時間、20時間働かなければならなくなります。
事業がうまくいっていないことは明らかです。しかし、彼らは立ち止まって人を採用することはしないでしょう。なぜなら、「自分が1日でも仕事をしなかったら、仕事に遅れが出てしまう」と考えるからです。
このケースでヒーローモードから脱却する唯一の方法は、「私は現場を離れてサポートチームにもう3名補充するから、2週間か3週間仕事が遅れるだろう。そこまで遅れるという予想は我々の成長率から計算したものだ。次は同じ轍を踏まず、先手を打って採用を行うようにする」と言うことです。
しかし、実際にはどこかで妥協をする必要があり、「スタッフを補充する必要があるが、そうすると他で影響が出てくるだろう」と言う必要があります。これが正しい回答です。間違った回答は、燃え尽きるまでヒーローモードでいることで、それが大半の人が選んでしまう道です。
3) 不適切な権限移譲
3つ目の間違いは、「不適切な権限移譲」です。創業者の多くはそれまで人を管理した経験がありません。マネジャーを管理したことがないのは確かです。
不適切な権限移譲とは、「我々は今度この大仕事をやることになった。君は調査を実施し、あらゆるデータとトレードオフを私に報告してくれ。私が意思決定し、君に伝えるから、そのとおり実行してくれ。」と言うことです。これが多くの創業者が行う権限移譲のやり方です。しかし、これでは社員の士気は下がり、確実にスケールしません。
ちょっとした違いですが、「君は有能だから私は君を採用した。この件は君にやってもらいたい。考慮すべき点はこうだ。私の考えはこうだ。だが最終決断は君に任せる。私は君を全面的に信頼している。どんな決断を下したかを後で教えてほしい。」と言えることが重要です。
こうすれば権限移譲の目的が達成されます。Steve Jobsが前者のやり方でうまくやることができたのは事実です。あらゆる意思決定を自分で行い、社員は我慢しました。創業者は皆、我こそは次のSteve Jobsだと思っています。そして多くの人は彼のやり方を選択します。しかし、99.9%の人には後者のやり方のほうが遥かに有効です。
4) 文化を作らない
4つ目の問題は、個人的組織に関する問題です。プロダクト作りに取り組んでいる時、会社経営のやり方や社員が組んでいることに関するコミュニケーションという観点からは組織はさほどきちんとしている必要はありません。
しかし、自分がすべきこと、他の社員がしていること、および社員にフォローアップすべきことを何らかの方法で把握できる個人的組織を作り出せないと、後でしっぺ返しがくるでしょう。会社がスケールし始める早期にこうした組織を作り上げることがとても重要です。
私たちが創業者から何度も耳にするのは、ある2つのことをもっと早くやっておくべきだったということです。
(「どう」やるかをコード化することと、「なぜ」やるかをコード化する)
仕事をする上で、その方法とその理由を書き留めておくことです。
これら2つのこと、方法と理由は実に重要です。創業初期には一緒に昼食や夕食を取る時に、「プロダクト作りについての考えはこうだ。生産の方法はこうだ。カスタマーサポートの方法はこうだ。」と社員に伝えるだけで済みます。
しかしながら、会社が大きくなるにつれて、そんなことを続けるのは不可能になります。創業者がそれをしなければ、他の誰かがすることになります。しかし、創業者がそれを書き留め、Wikipediaや全社員が目にする何かに掲示しておけば、創業者が法律を作ることになります。
創業者が書き留めたものが会社の法律になります。そして、それを社員全員に周知させておけば、社員数が100人や1,000人になっても、社員はそれを読んで「なるほど。自分たちの仕事はこういうものか」と理解できるわけです。
創業者がそれをしなければ、採用担当マネジャーや会社勤務の最初の週にできた友人から伝えられたことが口づてに広まることになります。
ですから、自分の会社がどんな風に仕事をしているか、なぜそれをしているのかを書き留めておくことです。なぜそれをしているのかは企業文化としての価値観となります。
Brian Chesky はかつて、このことを上手く表現しました。私が知っている創業者は皆、これら2つ、方法と理由を創業当初に書き留めておいて会社が成長する過程でこれらを指標として確立しておけば良かったと言っています。
やがてこれらは現実となります。これは自分だけにできるもっとも大きなレバレッジを生むことの1つです。
HR
次のトピックは「HR(人事管理)」です。HRは大半の人がスタートアップの第1フェーズで気に掛けていないもう1つのことで、気に掛けないのが正解です。これもまた、コードを書くことでもなく、ユーザーと対話することでもないからです。
しかし、HRをないがしろにし続けることは大きな間違いです。
私が思うに、大半の創業者がHRをないがしろにするのは、TVのシチュエーションコメディ番組「Human Resources」の大変な状態を連想するからではないでしょうか。しかし、HRは創業者の足を引っ張るものでなく、実際には創業者を後押しするものです。
創業者は大抵、「人材は当社のもっとも重要な資産だ」とする一方、「当社にHRは必要ない」と言います。その真意は、「当社ではHRは不要だ。TVの『Human Resources』のような酷い状態にしたくない」ということです。
優れたHRに必要なものは多くありません。まず、明確な構造です。これはすでにお話しているように、社員のキャリアパスに関することです。
パフォーマンスフィードバックを構造化する
次がもっとも重要なことの1つである「パフォーマンスフィードバック」です。これも創業初期においては自然に行われます。創業初期には、社員は自分のパフォーマンスを把握しています。しかし、社員数が25人、30人、45人と増えるに従い、それらはうやむやになってしまいます。
パフォーマンスフィードバックは複雑である必要はなく、非常にシンプルなもので構わないのです。しかし、その実施方法を定めるとともに、頻繁に行う必要があります。社員のパフォーマンスを迅速に評価する必要があります。
社員のパフォーマンスが悪い場合にはそれを把握し、そのような社員は解雇する必要があります。パフォーマンスが良い場合にもそれを把握する必要があります。そして、パフォーマンスと報酬を明確にリンクさせる必要があります。これが次のトピックです。
報酬を構造化する
スタートアップ初期には社員の報酬は創業者との交渉で決まり、それが会社全体で行なわれます。社員数が増えるにつれて、会社組織のものと感じるかもしれませんが、ここで導入する価値があるのが「報酬レンジ」です。
つまり、中堅エンジニアはこのレンジ、上級エンジニアはこのレンジ、昇進すれば次はこのレンジと決めておくのです。こうしておけば、ものごとは非常に公平になります。
社員全員が自分以外の報酬を知るようになれば、メルトダウンのような悲惨な事態が訪れるでしょう。しかし、創業初期にこうした報酬レンジを導入しておけば、少なくとも公平さは保たれ、多くの不毛な交渉を回避できます。
エクイティを社員に与える
HRに関して私がとても重要だと思うのがエクイティ(株式)です。多くの場合、初期入社組に対してはすぐ理解して、多くのエクイティを与えています。しかし、最後まで多くのエクイティを与え続けるべきです。
この点について、常に投資家が間違った助言をしてきます。YCはそうではないと思いますが、世のあらゆる投資家は間違った助言をしてきます。創業者は社員に多くのエクイティを与えるべきです。これにより、至る所で希釈化が起こります。
そうですよね、創業者である皆さんにおいても投資家においても等しく希釈化が起きるわけです。一般に、創業者はなぜかこれは良いことであると理解しています。一方、投資家は非常に近視眼的で、自分が保有する株式の希釈化を嫌がるため、創業者によるエクイティ付与に口出しします。
しかし、YCで収集された多くのデータによれば、最も成功している会社、および投資家が最も投資に成功している会社は、多くのエクイティを社員に与えています。来る年も来る年も、ずっと与え続けています。
そこで私は、「会社はますます大きくなっていくのだから、今後10年間、会社(株式)の3~5%を毎年与えることを考えるべきだ」と創業者に言っています。つまり、一回の付与数は小さくても最終的には多くの株式を社員は受け取れます。自社の社員を評価しているのならこれは非常に重要であり、実行すべきです。
べスティングスケジュールを提示する
具体的には株式付与はリフレッシャー(割増)型とし、なるべく早く制度を作っておく必要があります。4年間在職中に3年べスティングを受けた社員が退職を考え始める状況は避けたいです。
ですから、社員に対しては常にベスティングスケジュールを提示する必要があります。リフレッシャー(割増)型付与を予定している場合、社員の計画を早く把握するのです。
これに関しては世の中で様々なシステムが新たに導入されていますが、私が個人的に良いと思うのは6年間のベスティングです。なぜなら、会社を作り上げるには相応の時間を要すると思うからです。
これは、年を追うごとに付与が多くなってゆくピラミッド型システムです。つまり、4年目には1年目より多くのベスティングが行われるようにするのです。これは概念で、様々な呼称がありますが、要は株式付与数量が自動的に毎年増えるようにすることです。毎年、同数の株式を増やすのです。
どんな内容であれ、この時点でオプション管理のシステムを導入しておくことです。
よく見られるのは、誰かにExcelのスプレッドシートで管理させるやり方ですが、担当者が正しく理解せず誤った管理を行ったために社員や会社に数千万ドルの被害をもたらしている事例を私は目にしています。オプション管理のための優れたシステムやソフトウェアたくさんあり、この時点でそれらを導入しておく必要があります。
ルールの見直し
HR関連で他に触れておくべきポイントとしては、社員50人前後になったら多くのルールを見直す必要があります。一般的なのは、「セクハラ研修とダイバーシティ研修」の導入です。
導入すべきルールは他にもたくさんありますが、社員が50人を超えたらHRに関して遵守すべきルールが増えることだけは心に留めておいてください。
燃え尽き症候群の監視
次は「チームの燃え尽き状況の監視」です。これもProduct/Market Fit次第です。短距離走がこの時点でマラソンになるのです。この時点で、創業者は社員が永遠に週100時間働き続けることを望んでいません。社員に休暇を取ってほしいと思うようになります。新たな課題を見つけたり新たなことに取り組んだりしてほしいと考えます。
会社全体が同時に燃え尽きてしまったとしたらどうなるでしょう。そうやって会社が終わりを迎えることはしばしばあります。
採用プロセスの導入
これは同時に「採用プロセス」を導入する絶好の機会でもあります。大半の創業者が後悔するもう1つの点は、「フルタイムの採用担当者」を雇わなかったことです。
フルタイムの採用担当者はすべてが動き始めたらすぐに採用すべきです。しかし、創業初期に採用するのは誤りで、早すぎるペースで人材を採用して会社が崩壊するのがオチです。
しかし、大半の創業者は後手に回っています。採用プロセスに関する秘訣はたくさんあります。
例えば、会社は社員が300~400人になるまで、あらゆるオファーをする前に社内のメーリングリストか、他の何らかの方法でオファーをアナウンスするべきだと思います。なぜなら、時間の半分はこのことに費やしているからです。
社内の人間はその社員の良いところや悪いところについて何か知っているはずです。私が知っているこれを導入している会社はとても満足しています。
さらに、社員の成長のためのプログラムを導入する絶好の機会でもあります。つまり、創業者は誰かが入社する時に入社の最初の週にはどんなことをするかを理解しています。
彼らはどのように実力をつけ成長できるのか、学ぶべきすべてのことを社員はどのように学ぶのか、同じ視点でものごとを考えるパートナーが見つかるのか。見つかれば、会社について考えるうえで役立ちます。
ダイバーシティを考える
創業12~24か月までに考えておくべきことの1つが、「チーム内のダイバーシティ」です。
多くの場合この問題に直面するのは、エンジニアリングチームの最初の15~20人を採用する時全員男性を採用した会社です。この時点で会社には企業文化が生まれ、自然に育っていきます。
この間違いを犯した大半の創業者は、創業初期にチームに多様な人材を揃えるべきだったと後悔しています。これが問題になるのはエンジニアリングチームだけではありませんが、もっともよく目にするのがエンジニアリングチームであり、創業初期に上手く対応すれば長期間にわたってチームをずっと早く成長させることができるでしょう。
他に考えるべき点は、初期入社組社員の処遇です。一般的によく見受けられるのは、会社が初期入社組社員を追い越して進化していくことです。
会社が非常に優秀なエンジニアを採用した後、エンジニアリングチームが大きくなり、エンジニアリング担当VPが必要になります。そして、初期入社組のエンジニアはエンジニアリング担当VPになりたがります。
創業者はその希望を受け入れることはできませんが、その初期入社組社員に会社を辞められては困ります。彼らは会社の文化の重要な部分を担っています。彼らは多くの知識があり、社内で慕われています。
創業者は先を見越して行動する必要があると思います。「当社へ来てくれた最初の10~15人の社員は、会社の成長に伴い、どんなキャリアパスを求めているのか」と考える必要があります。
それにはまず、彼らと話をすることです。極めて直接的かつ率直に話をすることです。席に座らせて、「あなたはこの会社でどんなキャリアパスを進みたいのかを聞かせてほしい」と切り出すのです。
会社の生産性
次は「会社の生産性」です。大抵の場合は少人数のチームは当然ながら生産的であるため、創業初期には考える必要はありません。しかし、会社が成長するにつれ、生産性を維持する努力をしないと、社員数の2乗の勢いで低下します。
なぜなら、結節の接合部のようなものだからです。一対の人は通信オーバーヘッドを増加させます。
成長期でも、社員数が25~50人となった時点で生産性を維持するために導入しようとするシステムについて考え始めないと、ものごとは皆さんの想像以上に早く急停止を迎えるでしょう。
アラインメント
成長途上の会社が生産性を維持するために重要な2つ目の言葉は、「アラインメント(方向性の整合)」です。
会社の生産性が低下する理由は、社員が価値観が共有できず同じ優先順位を持っていないか、あるいは盛んにお互いの足を引っ張り合っているかのどちらかですが、後者のほうが明らかに問題です。しかし、全社員が同じ方向に向くようにすることができれば、戦いの半分以上に勝ったも同然です。
明確なロードマップと目標を持つ
アラインメントのためにまず必要となるのは、非常に明確なロードマップと目標で、社員全員がライフサイクル上の自社のポジションに応じて、今後3~6か月または1年のロードマップを理解している必要があります。
私が好んでやっている古典的なテストを紹介します。こうしたスケールの問題に取り組み始めている会社を訪ねた時、私は創業者に「社内からランダムに10人選んで『この会社が目下掲げている目標の上位3つは何か』と尋ねたら、その10人は全員同じ答えをするでしょうか」と尋ねるのです。そして、相手の創業者は必ず「ええ、勿論です」と言います。
そこで実際に尋ねてみると、トップ3の目標とその順番について社員は100%異なった答えをしました。創業者にとっては信じられない結果であり、「会社の目標は3か月前に全社員に伝えていたのに、なぜ社員は覚えていないのか」と言います。
しかし、ロードマップと目標に関するメッセージは繰り返し伝えることが非常に重要なのです。これを十分に行っている創業者はほとんどいません。これができていれば、「これが当社の目標です。我々はこれを理解し、目指しています」と社員は答えるでしょう。
これは意識していなければできないことです。ロードマップや目標を社員が理解していなければ、そういう発言は出てくることはないでしょう。
自分の価値を早い段階で理解することについてはすでにお話ししていますが、繰り返し言わせてください。なぜなら、それは会社が適切な意思決定をする上でも大いに役立つからです。
意思決定のためのフレームワークを全員が理解しているなら、そしてその全員が有能な人間なら、同じ意思決定に至るでしょう。
創業者はプロセスではなく優れたプロダクトによって会社を運営し続けたいと考えています。ある程度のプロセスを導入する必要があるため、当然のことです。
しかし、プロセスのためのプロセスを導入してはいけません。常に優れたプロダクトにフォーカスすべきです。そのために多くの会社が試みている簡単な方法の1つは、「毎日何かを世に送り出す」ことです。
透明性とリズムを持つ
それを行う場合、少なくともデリバリーにフォーカスし続けることになります。そして、コミュニケーションにおける「透明性とリズム」が実に重要です。
創業者の多くがもっと早く取り組む必要があるのは、創業者とCEO直属の経営幹部のみのミーティングを毎週行うことです。全員参加のミーティングを開催すべき頻度について正解はわかりませんが、少なくとも月1回は行って会社全体の成果とロードマップを検討する場とすることが非常に重要です。
そして、向こう3か月でやり遂げることの計画を立て、その計画の当該年度の目標における位置づけを四半期ごとに決めることも非常に重要です。
オフサイトミーティングを行う
一般に十分に行われていないことのひとつが「オフサイトミーティング」です。私たちが関与し成功している会社の非常に多くがオフサイトミーティングを数多く開催しています。
オフサイトミーティングとは、週末に優秀な社員を山小屋などに集めて、会社が成長した暁にはどんな風になっていたいか、今すべきもっとも重要なことは何か、すべきことでしていないことは何かを語る場です。社員をオフィスの外に連れ出し、日常の業務から切り離すのです。
私が知っているオフサイトミーティング実践者は皆、これは時間を費やすだけの価値があると考えています。
つまり、これらの生産性に関するあらゆる計画が目指しているのは、長期にわたって多くの価値を生み出す会社作りなのです。そして、ここでは「長期にわたって」が重要となります。
創業者はこれらすべてを避け、創業者の威光で優れた次のバージョンをリリースできるかもしれません。しかし、それはバージョン10や11までは続かないでしょう。
会社の生産性のゴールはイノベーションを繰り返せるようになること
ビジネスにおいてもっとも大きな困難の1つは、イノベーションを繰り返し、成長しながらも持続する優れた文化を持つ会社を作ることです。その事例を振り返ってみると、大半の会社は失敗しています。大半の会社は創業者の努力によって1つの成功を収めた後、以降のプロダクトに関するイノベーションはあまり行いません。
実に困難なことであるイノベーションを行う方法を模索している創業者が、30~40年間あるいはそれ以上にわたって優れたプロダクトを世に送り出しているAppleのような何かを会得するには相当な時間が掛かります。
会社のメカニクス
これらは高度に戦術的な「技巧」です。まさに、リストに書きとめ、後から思い出すことです。
会計
創業当初、大半の創業者は会計に関するあらゆることを気に掛けず、運が良ければ靴箱にいっぱいの領収書を保管しているかもしれません。確実に財務報告書の類は存在しません。これは会計関連の業務を整備しておく絶好の機会です。
創業から18か月程度でものごとが上手くいっている時は、「帳簿をきちんとまとめておきたい。毎年監査を受けるようにしたい。会計事務所と新たな関係を築きたい」として会計業務をアウトソーシングできます。これらは簡単にできますし、それだけの価値があることは確かです。
これは法律文書を整備する絶好の機会ともなります。なぜなら、この段階なら修正が容易だからです。
会社が締結したすべての契約書に目を通させて整備する仕事を誰かに任せたとしましょう。そして、地主が自分の会社とのリースを解約しようとした時にリースの書類を誰も見つけられないとしたらどうでしょう。
どういうわけか、そうした事態は度々起こりますが、誰かが書類を見つけることができるでしょう。さらに、社員の誰かがPIAAに署名していなかったなど、何らかの不備があることも多いですが、この時点なら修正は容易です。
次の資金調達ラウンド中などでは修正はかなり困難になります。何度も言いますが、これは混沌とした状態にちょっとした秩序をもたらす絶好の機会なのです。
「FF株」は、普通株の評価を損なうことなく創業者が将来のラウンドで販売可能な創業者向けの特殊な株式です。かつては創業者の大半が会社立ち上げ時に設定しており、Founders Fundが普及させたためにFF株と呼ばれています。
しかし、これは実に好ましくない兆候となりました。会社に何もない時に自分自身のエクイティばかり考えている創業者は大抵失敗するとわかったのです。創業者がシードラウンドでFF株を続ける時は非常に好ましくない兆候であると投資家は学びました。
実際、大半の創業者は会社が10億ドルほどの価値を持つようになるまで自分の持株を売りたがりません。創業者は次の資金調達ラウンドでものごとが順調に進み始めてやっと、安全にこれを設定し、以後2~4年で売却できます。Bラウンドに進む頃まで覚えておくといいと思います。
IPと商標
次は「IP(知的財産権)、商標、特許」ですが、実際にはIPと商標です。
特許出願しようと考える何かを公表してから12か月以内であれば特許を出願できますが、その期間を過ぎると出願は非常に困難になります。ですから、自社製品の発売または最初の公表から11か月後が暫定特許出願の絶好の機会となります。
私たちがお勧めするのは、とにかく暫定特許出願をしておくことです。そうすることで特許事務所内の列に自分の場所を確保でき、出願をすべきか否かを判断する1年の猶予期間が生まれます。これに掛かる費用はわずか1,000ドル程度で、本出願よりは遥かに手間がかかりません。
そして大抵の場合、本出願が必要かどうか判明するのは1年後になります。しかし、このワンステップを経ておけば、少なくとも別の選択肢を手にすることになります。
またこれは、米国と主な海外市場向けに商標登録を行う絶好の機会となります。繰り返しますが、この段階で商標登録を行っていないと、大半の人は後悔する羽目になります。する場合は、すべてのドメインを把握する絶好の機会です。
財務
次はFP&A(財務計画および分析)です。ここはFP&Aを任せる人について考え始める絶好の機会でもあります。大半の会社は、もう手遅れとなるまで自社の財務モデルの欠点を把握することはありません。
非常に優れたビジネスモデルを誰か、例えば非常に優秀と思われるPayPalの元CFOで同社のFP&Aモデルを作ったRoelf Bothaなどに作らせれば、そのスプレッドシートの一番上のシートは1500行に及ぶことがわかっていますが、そうしたレベルでの詳細なものとなります。
しかし、そのおかげでビジネスを最適化して、大半の人が理解していないレベルで理解することができます。大半の場合、社員が数百人になるまでこうした役割の人を採用しませんが、それより早い段階で採用する価値があるといえます。
資金調達担当者を雇う
私が考えるに、早い段階で採用する価値がありながらほとんどの創業者がそうしていないもう1つの人材はフルタイムの資金調達担当者です。
例えば、Bラウンド後に非常に優秀な人物を採用して、その人にはフルタイムで資金調達を担当してもらうとします。そして、創業者は「Cラウンドの資金調達までに他の方法を取った場合の評価の倍にしたい。」と言います。
この場合、投資銀行家などを採用したり社内の誰かに任せたりするよりは、ほぼ確実によい結果を得られます。そして、はるかに安い金額で済ませることができるとともに、希釈化は事実上半分になります。
この最適化は有用性に気づくことが難しく、採用されないことが多いものの1つです。
税務
次は「税務ストラクチャリング」で、これも重要なポイントです。ビジネスが回り始めた時、少々時間を費やして会社の租税構造を検討するべきです。
正直に言いますと、私は税務ストラクチャリングを詳しく理解していません。私にとっては退屈な話だからです。しかし、IPをアイルランドの会社に譲渡して米国の会社にライセンスバックするとします。すると法人税を払わずに済むのです。
但し、これが可能なのは比較的初期だけで、大規模な公開会社に成長して自身はこれを行わずに、これを行っている会社と競合している会社にとっては大きな問題となります。ですから、税務ストラクチャリングは取り組むべき価値があるのです。
起業家の心理
今回の一連の講義では、多くの人が創業者としての「自身の心理状態」について説明しました。
今までのスピーカーが触れることはありませんでしたが、創業者の心理状態は悪化することはあれ、好転することはありません。
会社が成長するにつれ、創業者は他者との接触が増えてきます。気分はさらに高まることもあれば、落ち込み方も一段とひどくなります。
これについては早い段階で考え、こういうことが起きると認識しておく必要があります。そして、自身が経験する振幅の拡大を通じて自身の心理状態を管理しようと努めることです。
悪口を言う人は無視する
成功し始めると起きるもう1つのことは、大半の人が応援する存在、いわゆる負け犬から多くの人が憎悪の対象とする存在へと変化するにつれて、「あんなくだらない会社が資金調達をしたとは信じられない。不愉快極まりない」といったコメントがインターネット上に出始めることです。
こういうものを目にするのは不愉快で少々嫌な思いをしますが、こうしたことを創業者が重要だと思っている記者が書き始め、これは延々と続きます。皆さんが成功すればするほど続きます。こうしたことには早いうちに慣れておく必要がありますが、そうできない場合は今後ずっと悩まされることになります。
長期的なコミットメントと戦略を考える
これは会社の長期的な道程について考え始めるよい機会でもあります。
長期的思考をする創業者はほとんどいません。大半の創業者が考えるのは1年後くらいで、「3年後に会社を売却しよう。そうしたらVCになろうか、それともビーチでのんびり暮らそうか」などと考えています。
自分が手掛けていることに長期的にコミットする創業者はほとんどいないため、コミットする人は非常に有利です。ここが共同創業者と顔を突き合わせて「我々はこれに長期的に取り組んでゆこう。今後10年取り組むと想定した戦略を考えよう」と話し合う絶好の機会となります。そういうことを考えるだけでも、成功のための大きなレバレッジとなるでしょう。
バーンアウト(燃え尽き症候群)を監視する
休暇を取りましょう。私たちが目にするもう1つの共通点は、創業者は3~4年間で2日以上の休暇を取らずに仕事に没頭するということです。これは1~2年程度は通用しますが、やがて燃え尽きてしまいます。
フォーカスを失っていないかを確認する
この他、フォーカスを喪失することによっても創業者は進むべき道から外れてしまいます。燃え尽きの兆候です。
会社経営に疲れ切ってしまった時は、より簡単なことか、より満足の得られることをしたくなります。カンファレンスに行って、自分がいかに優秀な人物か褒めてもらいたくなります。
しかし、これらはすべて実際にビジネスを成長させるものではないことはご存知のとおりです。
YC卒業生で私たちの投資先である会社で見られるもっとも一般的な失敗事例は、YC時代は自社に対する驚くべきフォーカスを見せていた会社が卒業後は他者への助言やカンファレンス出席など、他の様々なことに手を広げてしまうことです。
フォーカスは成功の第一要件です。フォーカスを失う理由はたくさんありますが、そうならないよう懸命に戦うことです。
買収への興味を無視する
これはフォーカスに関する特殊な例です。成功し始めるにつれ、自分の会社を買収しようとするオファーがたくさん届くようになります。これで気をよくしてしまい、「すごい。自分もこれで金持ちの仲間入りだ」と考えてしまいます。
羨望の眼差しで見られる存在になり、M&A交渉は実に楽しく感じられます。しかし、これは会社にとって最大の命取りとなることの1つです。
買収交渉が始まると気もそぞろになり、実現しなければ落ち込みます。オファーが来たとしてもかなり低い金額です。自分はもう十分やったという気分になっていた状態では、オファーを受けてしまうのです。
一般的には、かなり低い金額での売却を厭わない限り、買収の話合いを始めてはいけません。奇跡的に高い金額のオファーが来ていることを期待して内容を確認するのもいけません。
交渉が成立する時はわかります。顔を合わせる前に高値のオファーをもちかけてくるからです。しかし、これは会社にとって致命的な話となります。
スタートアップは創業者が抜けたときに失敗する
念のため皆さんに言っておきたいのは、ある段階でスタートアップが終わりを迎える原因の1つとして、創業者が会社を投げ出してしまうことがあります。
会社を畳むべき時もありますが、心理状態の管理に失敗して止めるべきでない時に止めてしまうとそれが致命傷となってしまいます。それが大半のスタートアップにとっての最終的死因となります。
スタートアップを放棄したり諦めたりする必要があるところまで追い込まれないように自身の心理状態を管理できれば、遥かに良い結果がもたらされます。
マーケティングとPR
「マーケティングおよびPR」は、しばらくは気に掛けなくてよいと教えている部分です。創業当初は皆、マスコミは自分たちを助けてくれる存在と考えます。
私たちは、そのような単純な話ではないといつも伝えています。マスコミが創業者のスタートアップを助けてはくれないことは、まぎれもない事実です。
しかし、創業者が成功し始めるにつれ、創業者自身が時間を費やす必要がある相手となります。つまり、自社製品が成功すると、今まで相手にしてこなかったマスコミに対して少しは目を向ける必要がでてきます。
キーメッセージを自分で考える
創業者がすべきもっとも重要な2つのうち1つは、キーメッセージは自分で考えることです。社内のマーケティング部門のトップや広告代理店に任せてはいけません。創業者は自社のメッセージに込める主張を考え出す必要があります。
一度発信された主張は容易に覆すことはできません。マスコミがこちらに関する論調を決めた後にこれを変えるのは非常に困難です。
起業家自身がジャーナリストと知り合いになる
もう1つの重要なことは、創業者自身がキーとなるジャーナリストと知り合いになることです。
広告代理店は常にこうした動きを阻止しようとします。なぜなら、彼らは自らの存在理由が必要だからで、「ジャーナリストとの関係は私たちが管理しましょう。インタビューは私たちが手配します」などと言ってきます。
広告代理店と話をしたがるジャーナリストはいません。彼らは創業者から直接話を聞けるほうがはるかに嬉しいのです。創業者が採り得る最大のPRテクニックは広告代理店を使わないことです。
創業者は、緊密な関係を築くことができ、好意を持ってくれている、そして理解を示してくれる3~4人のジャーナリストを選ぶべきです。創業者自身が彼らに連絡を取れば、自分が話した内容をすべて記事にしてくれるでしょう。
そして、創業者に関心を寄せるとともに理解を示し、会社に関心を寄せてくれるでしょう。これは広告代理店経由でニュース満載のメールを読みもしない200人の相手に送る通常の戦略よりも遥かに優れています。これはすぐさま開始すべき重要なことだと思います。
取引
この段階までくると、社内で新規事業開発が重要となり始める時でもあります。基本的に、創業初期には取引などは気に掛ける必要がありませんが、資金調達とセールスは例外かもしれません。
一方、この段階では資金調達とセールスが重要になるのです。資金調達も含め会社で行われるあらゆること、または多くのことが取引として類されます。
ではここで、取引に関する1分間の速習コースを行います。
ここで理解すべき重要なポイントは5つあります。
すべては優れたプロダクトから始まる
それらについてはこれまでたくさん説明してきましたが、「優れたプロダクト作り」をしなければすべてが無意味です。ですから、誰かに何かを一緒にしてもらおうとする前に優れたプロダクト作りはすんでいると仮定してください。
人脈づくりを行う
これからあなたが何らかの大きな取引をしようとしている人との「人脈作り」は非常に重要です。
どういうわけか、大半、少なくとも多くの創業者はこれに失敗します。しかし、これは取引のために必要で、自分はこの人たちを自社製品の流通や資金調達などに利用していると誰も思いたくはありません。
ですから、実際に取引相手のことや、彼らと自分が一緒にやろうとしていることを大事にする何らかの方法を見つけることです。心の中で、この相手とはこれ1回限りの取引と挑戦的に考えてはいけません。相手そしてその相手がこの取引から得るものに実際に関心を持つ必要があります。
競争の力学を持つ
次は「競争の力学」で、これは交渉の基本原則です。創業者の多くは、これを資金調達時に初めて学びます。しかし実は、これはあらゆることで重要です。取引をまとめたり有利な条件を引き出したりするには、競争状態を作り出すことです。
つまり、この取引は当事者Aではなく、当事者Bとの間で行うという状況です。そういう選択肢が必ずあるわけではありませんが、通常はあります。そして、これこそが取引を成立させ前進させるのです。
粘り強くい続ける
次は「粘り強さ」です。これは前回の講義でTyler(Bosmeny)が説明しましたので、ここで詳しくは触れません。しかし1点言っておきたいのは、創業者はほとんどの場合、コンフォートゾーンを抜け出すものです。
欲しいものを欲しがる
そして5番目のポイントは、「自分が欲するものを要求する必要がある」ということです。これは私が今でも、そして間違いなく私たちが関係する大半の創業者が苦手としているものの1つです。
取引で何かを望む場合は、とにかくそれを要求することです。大抵の場合、部屋中に笑われることなく望むものを手に入れられるかもしれません。しかしどこかの時点で、強気だの背伸びし過ぎだのと感じられたとしても、実際に「私がしたいのはこれです」と言う必要があります。
まとめ
では、最後に、ある画像をお見せして、このパートを終わりにしましょう。
これはAirbnb創業者の1人が、会社を立ち上げる別の創業者のために名刺か何かに書いたもので、私がある時これを目にし、写真を撮っておいたものです。
それはじつの簡潔にまとめられていて、ここに書こうとしたのは、彼が覚えていたYCombinatorのプロセスでした。私がこれを気に入っているのは、名刺に書かれていて、非常にシンプルかつ実行可能に思えるからです。
しかし、創業者はProduct/Market Fitを見つけようとしています。プロダクトを作ろうとし、2つの歯車のギャップを埋めようとしています。それを行う唯一の方法は、外に出てユーザーと会うことです。ユーザーと非常に緊密な関係を築くことができなければ、これを達成することはできません。
そして、彼はこのグラフをYCのホワイトボードか何かに書きました。これはYCにおける通過儀礼の1つのようなものですが、このグラフは新しい会社がどのように適応していくかの流れを表しています。
マスコミで発表すると急上昇し、その後下落して消滅します。そしてある時点で、少なくともある1点で完全に死んだようになり、X軸を割り込んだようになります。そこから少しは回復しますが、好転するまでこの非常に長い悲しみの谷が続きます。Airbnbのケースでは、グラフが上向きになり始めるまで千日を要しました。
そしてこの虚しい期待の波状線を経て、ようやく、やっと、ついに成長し始めます。3年後です。
つまり、スタートアップの立ち上げはこのように非常に長いプロセスを経て行われるのです。これは非常に報いのあるものであり、実に長いプロセスですが実行可能です。私がこの図を大いに気に入っているのは、そのことが表現されているからです。
講義は以上です。
Q&A
あと10分ほど時間がありますので、本日説明したことやこれまでの講義に関する質問があればお受けします。質問のある方はいらっしゃいますか。
はい、どうぞ。
多様性の在り方
受講者1
ダイバーシティが重要と仰っていましたが、以前の講義ではダイバーシティは重要ではなく、自分自身とよく似ていて信頼を寄せてくれている人物を採用すべきというお話でした。
Sam
ダイバーシティが重要とする私の説明と自分と似た人物を採用すべきという過去のスピーカーの説明とどう折り合いをつけるかということですね。
両者の違いは、創業者が必要とするのは経歴のダイバーシティということです。しかし、ビジョンのダイバーシティは必要ありません。会社がトラブルに陥るのは、会社がすべきことに関してまったく違う考え方をする社員や一丸となって仕事に取り組まない社員がいる時です。そうした社員は必要ありません。
創業者がすべきは自分がその人となりを知っていて、信頼し、一緒に働ける人を採用することですが、チームの全員がまったく同じ経歴を持つ場合は単一文化になってしまい、往々にして将来的に問題を引き起こすことになります。それでも成功している会社も中にはありますので、必ずとは言い切れませんが。
私たちは皆さんに、自分が知っていて以前一緒に働いたことがある人を採用するよう言いました。しかし、他のメンバーを補完し同じ目標を目指すことができる人を採用するようにしてください。まったく同じ人ではより良いスキルセットが加わるだけになってしまいます。
個人の生産性を向上させる方法
受講者2
個人レベルで生産性を補う方法はありますか。個人レベルのほかに高度なレベルについてもお聞かせください。
Sam
生産性のシステムを維持する方法についてですね。
効果があると思って私が実行していることの1つが、1枚の紙に今後3~12か月の時間枠で目標を書き込み、毎日見返すことです。
それとは別に、日々の短期的目標を1日1ページで書いておきます。1週間で何かをする必要がある場合は、7ページ使って書き留めておきます。
また、全社員や彼らが取り組んでいること、私が彼らに伝える必要があること、彼らと話題にすべきこと、彼らと前回話したことのリストも作ります。
つまり、誰かと話をする時は常に、その人に関することをまとめたリストを見返して万全の状態で臨むのです。これは実に効果があります。
失敗の仕方
受講者3
スタートアップの成長についてはたくさん語られていますが、大半のスタートアップは失敗します。潔く失敗する方法に関して何かアドバイスはありますか。
Sam
すばらしい質問ですね。講義で取り上げるべきでした。
潔く失敗する方法ですね。大半のスタートアップは失敗し、シリコンバレーは失敗を好んでいるとさえ言えます。
それでも失敗は良くないことです。皆さんは失敗しないようにすべきです。「失敗はすばらしい」という風潮には私は同意しかねますが、失敗は大半の人に、大半の場合に起こるとみられています。ここは非常に寛容な環境といえます。
しかし、それは皆さんが失敗に関して率直かつ倫理的で、他人を悪い状況に陥れない場合に限ります。つまり、失敗した場合はまず投資家にそれを伝えることです。
次に、資金を使い切ってはいけません。会社が抱えている多くの借金を踏み倒し、社員がある日出社したらオフィスのドアがロックされているという状況は避けるべきです。
会社やものごとが上手くいきそうにないとわかった時、創業者は投資家に「申し訳ありません、上手くいきそうにありません」と伝える必要があります。そう聞いて驚く人はいないでしょう。
私はこれまでしてきたあらゆる投資に関して損をすると予想しているか、損をすると覚悟しています。大抵の投資は損をする一方、勝者は100倍のリターンを手にすることを私は理解しています。それでいいのです。
人々は物わかりがよく協力的でしょう。しかし、他者には早く伝える必要があります。驚かせるのは避けるべきです。会社がなくなると知った社員にショックを与えないようにするとともに、適切な方法で会社を畳む必要があります。
社員の職探しをサポートし、キャッシュフローの問題が生じないよう2~4週間分の退職金を支払うことです。これらすべてが実に重要です。
外国人創業者の数
受講者4
YCにはこれまでどれくらいの外国人創業者が参加していたのですか。
Sam
Y Cに参加していた外国人創業者の人数ですね。今回のバッチではおそらく増えていると思いますが、前回のバッチでは私たちが投資した創業者の41%は米国以外の30か国の出身でした。これは実に大きな割合です。
スタートアップを始める場所
受講者4
スタートアップを始めるのに最適な場所はどこだと思われますか。
Sam
シリコンバレー以外でスタートアップを始めるのに良い場所はあるかということですね。私が思うに、やはりシリコンバレーが一番です。
しかし、その圧倒的な地位は少々揺らぎ始めているかもしれません。なぜなら、コスト面で割に合わなくなってきているからです。率直に言うと、私がこれから会社を立ち上げるとしたら、やはりシリコンバレーを選びます。他の場所は考えないでしょう。
過去数年の企業のデータを見ても、多くの企業がシリコンバレーを選んでいます。しかし、シアトルやロサンゼルス、そして米国以外の多くの場所も理に叶っていると思います。
受講者4
米国以外ではどこがいいですか。
Sam
私は様々な都市で直感的感覚を持てるほど十分な時間を過ごしていないため、これは回答に窮する質問ですね。しかし、私が挙げる一般的な場所以外で話題になっているものにスタートアップハブがあります。ともかく、ここでは個人的な推奨は控えさせていただきます。
プロCEOを雇うタイミング
受講者5
創業者がプロのCEO経験者の採用を考え始めるべき時はいつでしょうか。
Sam
創業者がプロのCEOを採用すべき時期ですね。
そんな時期はありません。テクノロジー業界で最も成功している会社を見ると、長年にわたって創業者が経営者となっています。終身経営者となっている会社もあります。プロのCEOを雇う会社もありますが、 プロのCEOが優れた会社を作ってくれるわけではないと気付くのです。そのため、Larry PageはCEOに復帰したのです。
私が思うに、長期間にわたって会社のCEOにとどまりたくない者は起業すべきではありません。確信はありませんが、その例外もあると思います。
しかし一般的には、本日の講義で私が話したように、10年のうち9年を創業者として優れたプロダクト作りから優れた会社作りへのシフトに携わることが優れた会社を作ることになるのです。これにやり甲斐を感じていないなら、真剣に再考するべきだと思います。
製品作りから会社作りへの移行の注意点
受講者6
優れたプロダクト作りから優れた会社作りへシフトしようとしている時に注意すべきもっとも一般的かつ深刻な危険信号は何ですか。
Sam
優れた会社作りへのシフト時に犯すもっとも一般的な間違いは何かということですね。その大半は本日の講義で触れたと思います。大抵の場合に人は失敗することを知っていましたので、私はここであらゆることを説明しようと試みたわけです。はい、どうぞ。
YC と関わる方法
受講7
投資を受ける前にYCに関わる方法はありますか。
Sam
投資を受ける前にYCに関わる方法ですか。ありません。意図的に用意していません。1つ言えるのは、YCカンパニーで働いていて後に応募する場合、おそらくですが、いやおそらくではなく確実に、それらの会社の創業者から強い推薦をもらえればYC入学にプラスになるということです。
つまり、YCカンパニーで働くことはプラスになりますが、それ以外に皆さんができることは多くありません。意図的にそうなっているのです。
プレメド(医学部進学者向けコース)のようなプレスタートアップはありません。何であれ自分がしていることに集中することです。そしてスタートアップを始める時には、YCや他の組織が皆さんをサポートしてくれます。
私たちが投資している創業者の大半は、投資前に面識はありませんでした。私たちと知り合いになったり関わったりする必要はありません。そういう仕組みになっているのです。
YCがスタートアップを選ぶ基準
受講者8
YCへの入学はHarvard(University)への入学よりも難しいというデータでしたが、それではスタートアップを選抜する基準は何ですか。時とともにその基準は変化しているのでしょうか。
Sam
スタートアップを選ぶ基準とは何か、そしてその基準は厳しくなっているか、変化しているかということですね。
私たちが確認する必要がある2つのポイントは、優れた創業者と優れたアイデアです。この両方が揃っていない会社には投資しません。しかし、その基準は変わっていません。これは不変の基準です。
YC出願者のプールはかなり増えていますが、増加分の大半、多くはスタートアップを始めるべきでない人々、つまり起業はクールだから応募しているだけの人々です。
ですから、アイデアに強い情熱を持っていて、そのアイデアが優れたもので、自身が優秀な人物で、ものごとを成し遂げて実行していれば、受付番号が後ろのほうでもYCに入学できるチャンスはかなりあると思います。
市場の学び方
受講者9
魅力を感じながら必ずしもその全貌を知らない特定の市場に対するお勧めの考え方や方法はありますか。
Sam
魅力を感じながら多くを知らない市場があるとして、どうすべきかということですね。これには2つの考え方があります。
1つは、その市場に飛び込んで学ぶことです。それで成功しているケースは山ほどあります。もう1つは、その市場の他社で働くか、その市場で1~2年何かをするかです。
私はどちらかというと後者が好みですが、よく学び相手が落ち着かないほどユーザーに近づくことを厭わないのであれば、どちらのケースにせよ上手くいくでしょう。また、それには多くのデメリットがあるとも思えません。
すべての条件が同じとして、私ならその市場について詳しく学ぶために数年間費やすと思いますが、皆さんがそうする必要はないと思います。
YC の今後について
受講者10
YCに関して質問があります。YCはシリコンバレーにおけるパートナーシップ推進にとてもすばらしい仕事をしてきたと思います。実際、私は今後3年間でそうしたパートナーシップの一部に投資する予定です。YCが市場に送り出す会社は年間180社に上り、個々のYCカンパニーをフォローするのは難しくなっているように思われます。
多くの会社をフォローできないために、それらの会社は非常に洗練されていなければならなかったために、会社は世界やアイデアについて考えなければならなかったために、YCと距離を置く人々が出てくると思いますか。
Sam
私たちが大きくなるにつれて投資家はYCカンパニーへの投資を減らすと思うかということですね。思いません。まったく思いません。これに関するトレンドは間違いなく違う方向にあります。
ポートフォリオの半分はYCカンパニーではなく、それが4分の3になる日を楽しみにしていると言う投資家が増えています。私はこれが問題だとはまったく思いません。私が抱える問題トップ100リストに入ってくる問題だとは思いません。その反対かもしれません。
次を最後の質問にしましょう。
資金調達の時期
受講者11
創業者グループがシードラウンドあるいはシリーズAをすべき時期はいつですか。
Sam
一般的には、資金調達はアイデアを見つけ出して投資家からの約束の初期徴候が見えるまで待つのがよいです。
資金調達は会社にとってある種のプレッシャーとなります。プレッシャーとなる時もあります。資金調達をしてしまったら、いつまでも探索フェーズでいることはできません。事を急ぐ必要があります。
資金調達をしていなくてアイデアが上手くいっていない場合は、上手くいくことが見つかるまで足を止めてピボットすることができます。しかし、資金調達をしていてアイデアが上手くいっていない場合は厄介なことになります。
説得力が曖昧な何らかのアイデアにピボットする必要がありますが、これはよいことでありません。例えば10~20万ドル以上の資金調達が必要であっても、必要でないのが理想的ですが、ものごとが上手く回り始めるまで、あるいは少なくとも好転の兆しが見えるまで待つことができるのなら、そうするほうがずっとよいと思います。
皆さん、どうもありがとうございました。楽しい時間を過ごすことができました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 20: Later-Stage Advice (2014)