企業文化を作る方法 (Startup School 2014 #10)

 

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企業文化とは何か

Alfred Lin
私もスライドを使って少し話をさせてもらいますが、本日のメインスピーカーは後で登場するBrianで、彼がどのようにしてAirbnbの文化を築いたのかお話ししていただきます。

皆さんはこれまでのプレゼンテーションを通して、スタートアップの手法について既に理解していると思います。チームの作り方、プロダクトの作り方、ビジネスを立ち上げて成長させる方法を学びました。

そして、人々が喜ぶビジネスの築き方についても学びました。独占力を持ち、特別かつ唯一無二の大きな会社を作る方法を学びました。そして皆さんが狙っている市場は紙飛行機ビジネスの市場よりほんの少し大きいくらいのサイズ、完璧ですね。では、次に何をすれば良いのでしょうか?

文化はチームをスケールさせるために重要

ここでお話ししたいのが、ビジネスおよびチームをスケールさせるために極めて重要なものは文化であるということです。

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本日の講義が終わる頃には、「文化とは何か?なぜ重要なのか?会社のコアとなる価値観をいかにして作り上げるか?」を理解し、ハイパフォーマンスチームを生み出すために必要な、コアとなる価値観および文化に関連する要素について、そして文化を最適に活用する方法について考えていただけたら幸いです。

文化とは何か

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文化とは何でしょうか?誰か定義が分かる人はいますか?(会場:チーム内のシンプルな価値観?)いいですね。今、ネットで検索しましたか?それはWebsterの辞書にも載っている定義です。でも、ここはStanfordで、これはひっかけ問題みたいなものです。CSの講義で、すぐに答えが出るような質問はありません。

ここで聞きたいのは、企業文化とは何か?ということです。文化と言えば、一般的には社会やグループ、場所、物事に関して語ることができますが、今日は企業文化について考えます。

企業文化は「ミッションを追求するために、チームメンバーのそれぞれが持つ日々のコアバリューと行動」

では、企業文化とは、どう定義できるでしょうか?先程出た定義に少し手を加えてみましょう。

ここで企業文化の定義に関するヒントを出します。

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「会社の(C)達成のためにチームの各員が日々遵守すべき(A)と(B)」。

答えは人それぞれです。

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(A)には「推測」、「信念」、「価値観(バリュー)」などが入りますが、私の一押しは「コアとなる価値観」です。

(B)には「品行」を入れる人もいますが、私は「行動」を入れるのが好きです。どう行動するか、ということです。

(C)を「目標」とすると少し弱く、「大きく、困難かつ大胆な目標」では少し硬いです。ここは「ミッション」にすると良いでしょう。

企業文化はなぜ重要か

企業文化の定義は分かりました。では、私たちは企業文化で何をすればいいのでしょうか?

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なぜ企業文化が重要なのでしょうか?

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Gandhiの言葉に、「信念が変われば、思考も変わる。思考が変われば、言葉も変わる。言葉が変われば、行動も変わる。行動が変われば、習慣も変わる。習慣が変われば、価値観も変わる。価値観が変われば、運命も変わる」というものがあります。企業に良い文化がなければ、より良い運命を目指すことはできません。

企業文化は意思決定の第一原則になる

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企業文化が重要なのは、それが意思決定の時に立ち返る第一原則(First principles)となるからです。会社にとって重要な価値観に向かって社員の足並みをそろえる(Alignment)方法となるからです。会社にとって頼りになる、一定の安定力(Stability)をもたらし、社員間の信頼(Trust)にもつながります。

また、すべきこと・すべきでないことを明確にするためのリストにもなります。より重要なのが、「すべきでないこと」です。

企業文化は人材の維持に効果的

そして、もう一つ重要なのが、企業文化があることで会社にとって必要な人材を維持できるということです。誰もがあなたの会社に適しているわけではありません。

しかし、明確な企業文化や、しっかりとしたコアとなる価値観があれば、会社にいてほしくない人(Exclusion)、いてほしい人(Retention)を選ぶのに悩まなくて済みます。これらの頭文字をつなぐとFASTERとなります。つまり、企業文化とは会社の成長を早めるものなのです。

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企業文化が重要である理由は、もう1つあります。企業文化というと、どうも漠然としたものと考えられがちですが、実はより科学的なものなのです。これは1994年から2013年までのS&P 500、Russell 3000、Fortune 100「働きがいのある会社」ランキングの株式市場指数です。

多くの人々が働きたいと考える「働きがいのある会社」にランクインしている企業の株式リターンは11.8%で、S&P 500、Russell 3000に入っている企業の約2倍となっています。つまり、社員を大切にしていて、お互いが信頼し合える、しっかりとした企業文化のある会社は本当にパワーを持っているのです。

企業文化のワークシート

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「では、どうやってそのような価値観を生み出し、企業文化を定義すればよいのでしょうか?」と、よく聞かれます。

まずは会社のリーダーや創業者が「自分にとって最も重要な価値観は何か?」「その中で、ビジネスでもっとも重要なものは?」「一緒に働きたいタイプの社員とは?」「彼らの価値観は?」と自問する必要があります。

こうした作業を通して、一連の価値観を明確化できるのです。逆に、一緒に働きたくないタイプの人についても考えてみます。「彼らの持つ価値観とは?」と自問してみましょう。そして、その反対の価値観を考えてみます。そうすることで、自分の会社にふさわしい価値観を検討できるかもしれません。

最後に、価値観は会社のミッションをサポートするものでなければならないということを覚えておいてください。その価値観がミッションをサポートしていないとしたら、それは何かが欠けているということです。

そして最終的なチェックになりますが、価値観とは、信用できるもので、ミッションとユニークにマッチしているものでなくてはなりません。

Zappos での例

Zapposでは、「ミッションとユニークに関連している」という点で、優れたカスタマーサービスを提供する文化づくりにフォーカスしていました。

私たちにとって最も重要なコアとなる価値観とは、サービスを通じて人々に「わぁ(wow)!」という感動を提供することでした。顧客に奉仕する精神を持ち、優れたカスタマーサービス、つまり「わぁ(wow)!」という体験を提供したい、という考えを非常に明確に掲げていたのです。

私は、このことについて詳しく書き出してありました。人々をサポートし、サービスを通じて「わぁ(wow)!」という体験を提供し、社員や顧客、ブランドパートナー、投資家をサポートする、ということです。

反対の価値観を考えてみる

「反対の価値観を考えてみる」という点では、私たちは傲慢な人とは仕事をしたくない、と考えました。そのため、Zapposにおけるコアとなる価値観の1つは「謙虚であること」になりました。これが、信用できてミッションとユニークに関連している、コアとなる価値観のつくり方に関する2つの例です。

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このプロセスで、いくつかのコアとなる価値観を挙げていくことができるでしょう。それは、正直であること、誠実であること、またはサービス、チームワークといったものかもしれません。

リストアップしてから絞る

リストアップしてみても良いです。3つくらいからスタートして、最終的には10、30個になっても構いません。これができれば良いスタートと言えます。Zapposがこのプロセスにあった時、当時の社員全員に自分のコアとなる価値観は何か尋ねたところ、37個が挙げられました。そこから10個程度に絞り込むのに、1年かかりました。

なぜそれだけの時間がかかったのか知りたいという人もいるでしょう。例えば、「正直」という言葉を思いついたとしたら、少し考えてみてください。誰もが企業文化が正直なものであって欲しいと思うはずです。毎日嘘をつかれたいなんて人はいないのですから。

では「サービス」とは何を意味するのでしょうか?このプロセスにおいては、より深く掘り下げていく必要があります。「チームワーク」が大切といった話は誰でもしますが、学校のスポーツチームとプロ野球チームではチームワークのレベルが違います。どのように「チームワーク」を掘り下げればよいのでしょうか?チームに適さないものとは何でしょうか?

コミュニケーションや学ぶことと関係しているものも多いので、そこから深く掘り下げられるかもしれません。Zapposではこう考えました。自分たちのチームは賢い人だらけです。そうした人たちが、どちらが正しいのか、正しくないのかと議論するのは、賢い時間の使い方ではありません。

私たちが望んだのは、皆がアイデアをより良いものにするために協力し、お互いを高め合うことでした。誰が正しいのかを決めるのではなく、会社にとってより良いアイデアを生み出すのです。つまり、私たちは「一番は会社、次に部署、次にチーム、最後に個人」という考えを会社の原則にしたかったのです。では、どうやってこれを実現させるのでしょうか?

より深く掘り下げて説明しましょう。

ハイパフォーマンスなチームの特徴

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ハイパフォーマンスチームが持つ優れた要素として、私が気に入っているものがあります。『The Five Dysfunctions of a Team』の著者であるPatrick Lencioniが考えた、このピラミッドです。

彼の分析が興味深いのは、彼はチームの失敗について分析していることです。お互いを信頼できないチームは、ほとんどが失敗します。逆にお互いを信頼できていたとしても、なぜ信頼が必要なのでしょうか?お互いを信頼し合っていれば、ディベートや議論を通じて正しい答えにたどり着くことができます。

議論やディベートがなければ、それは何もわかっていない人が、同じく何もわかっていない人に何かを教えているのと同じ、非常に危険な状態です。何かにコミットせずにどうやってそれが正しい答えだと確信できるのでしょうか?

確信できない状態でコミットするのは恐ろしいですから、そのような状態でコミットしたい人はいないでしょう。

では、仮にコミットできる次のレベルに進んだとしましょう。そこではどのような間違いが起きるのでしょうか?人は自分がコミットしたことに責任を負いたくないものです。そして、自分がコミットしたことに責任を負わなければ、成果を得ることはできません。

会社をブラックボックスと考えると、業績であれ優れたプロダクトであれ、何でもアウトプットとなります。そして、重要なインプットの1つが企業文化なのです。

企業文化のためのベストプラクティス

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最適な活用方法についてはこれからの質疑応答の中で出てくると思いますが、先ほどお話ししたように、ミッションと価値観を一体化させる必要があるのです。

次はパフォーマンスです。会社の価値観については、思っている以上に真剣に、深く、長く考える必要があります。

多くの会社が、採用面接において技術やスキルがフィットするか、担当分野で優秀であるかを見ますが、企業文化にフィットしているか、その人が会社のミッションに共感し、それに沿って働いてくれるかどうかは見ていません。これは大きな間違いだと思います。

世界一のエンジニアを採用することができても、その人が会社のミッションに共感していなければ、心を込めた仕事はしてくれないでしょう。これは文化について考え始める時の1つのポイントです。面接の段階からパフォーマンス評価へ、そして日常的な習慣へと進むことで、優れた文化作りを進めていくことができます。

最後に説明するポイントは、文化とはカスタマーサービスやフィットネス、「母性とアップルパイ」と同様に、誰も否定できないものです。

誰もが優れたカスタマーサービスを提供したいと思っていますし、どんな会社も優れた企業文化を持ちたいと思っています。しかし、それを日常的な習慣にできていない会社が多いのです。

日常的な習慣としていなければ、フィットネスとは言えません。いずれは体形が崩れ、体重も増え、「無茶なダイエットをしないと元の体形に戻れない」となるわけです。そんなことが成功するはずはありません。文化もこれと同じようなものなのです。

まとめ

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では、すべての点について説明し終えたと思いますので、Brianとの質疑応答に入りましょう。

Airbnb での文化

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Brian Chesky
皆さん、こんにちは。ここは静かですね。(会場:笑い声)良かった、今ので少し緊張が解けました。静かにこちらを凝視している人だらけの部屋ほど恐ろしいものはないですから、これで少し楽になりました。

Alfred Lin
私は5~10分話をしましたが、Brianはもう少し長くお願いします。ではBrian、Airbnbや会社作りにとって企業文化が重要であると理解するに至ったプロセスを聞かせてください。

Airbnb の経緯

Brian Chesky
では、私たちの経験を少しお話ししようと思います。Airbnb誕生の経緯をご存知の方もいると思いますので、ここではコンパクトにまとめた話をしたいと思います。

Airbnbは私たちが最初からやりたいと思っていた会社ではありませんでした。当時、私は仕事を辞めてロサンゼルスに住んでいましたが、ある時サンフランシスコに引越し、Rhode Island School of Design時代からの友人、Joe Gebbiaとルームメイトになりました。

部屋の家賃は1,150ドルでしたが、私の預金残高は1,000ドルという状況でした。その週末に、国際的なデザインコンベンションがサンフランシスコで開催されることになっており、周辺のホテルはどこも満室でした。

そこで私たちはイベント期間中、自分たちの部屋をB&B(朝食付きの宿)にすることを思いつきました。私はベッドを持っていませんでしたが、Joeがエアーベッドを3つ持っていました。そこでクローゼットからこの3つのエアーベッドを引っ張り出し、「The Air Bed and Breakfast」と名付けました。それがAirbnbの始まりでした。

ちなみに、私はこのストーリーを既に1万回くらい話していますが、かつての私は、これを何度も話すことになるとは思ってもいませんでした。私は大学にも行きましたが、ソーシャルワーカーの両親は私が美術大学に行くとは思いもせず、私が卒業しても仕事に就けないのではと心配していました。ほとんどの親が同じような心配をすると思います。

「絶対に健康保険がある会社に入ってちょうだい」と母に言われ続けた私は、結果的にAirbnbを始めました。そんな私に母が「結局、健康保険がある会社には入らなかったのね」と言ったのを覚えています。

凄いことをやろうとして始めたわけではない

この話をした理由は、Airbnbは何かものすごいことをやろうと思って始めた会社ではない、ということを伝えたかったからです。家賃を払うために始めたことであり、私たちはまず家賃問題を解決してから、何か大きなことをやろうと思っていました。

結果として、この問題解決が、大きなアイデアへとつながっていったのです。プロダクトの作り方については他の人も話していると思うので、今回、特に触れないでおきます。

優れたチームと会社を作る

作るべきはチームと優れた会社です。

Airbnb創業当初、共同創業者はJoe、Nate、そして私の3人でした。Airbnbが成功を収めたることができたのは、私が実に幸運な人間だったからだと思います。Airbnbというアイデアを生み出したから幸運だったわけではなく、単にチームを組んだから幸運だった、というわけでもありません。他のアイデアを生み出していたとしても、成功することができたでしょう。

私が幸運だったと思うのは、一緒にビジネスをスタートアップしたいと思える、そして自分が尊敬できる、偉大な2人と出会えたことです。2人が優秀すぎて、一緒にいると自分が萎縮してしまうくらいです。

まずは、才能豊かで一緒にいると自分が少々気後れするくらい優秀な人々とチームを組むことだと思います。なぜなら、そういった人々と一緒に仕事をするために自分も成長しなければと必死になれるからです。

2008年の創業当時、一緒に働いていた私たちは家族のようなものでした。創業者とは両親、会社とは子どものようなものです。子どもとは、両親の関係を様々な側面で映し出すものです。両親が体裁だけ良くて実は仲が悪かったりすると、率直な表現になりますが子どもはグレてしまいます。そんな事態になってはいけません。すばらしい文化が必要なのです。

創業当初のJoe、Nate、そして私はまさに家族で、1日18時間、週7日一緒に働いていました。Y Combinator時代、私たちは一緒に働き、一緒に食事をして、ジムにも一緒に行きました。一緒にジャンプスーツを持っていたかもしれないほどです。さすがにそこまではいきませんでしたが、私たちはまるでミッションに向かう特殊部隊のようでした。

私たちはお互いを信頼し、それぞれが責任を持って仕事をしていて、これが会社のDNAとなりました。そして私たちは、プロダクト作りの段階からフェーズ2、つまりプロダクトを作り続けられる会社作りについて考える必要があると思い始めました。

プロダクトの作り方、Product/Market Fit (PMF) の見つけ方について様々な議論が交わされるわけですが、それができたら、会社を確立させる必要があります。もとのプロダクトに関するアイデアがどれだけ素晴らしくても、優れた会社を作れなければ、プロダクトは長続きしません。そこで、私たちは長続きする会社を作りたいと思ったわけです。

長続きする会社を作りたい

私たちが目指したのは長続きする会社でした。そこで私たちは、長続きしている会社には共通点があることに気付きました。明確なミッションと価値観を持ち、それを社内で共有した上でユニークな仕事をしている、ということです。それが彼らを特別な会社にしているのです。

そこでJoe、Nate、そして私の3人は、様々な会社について調べ始めました。Appleには、「情熱を持つ者が世界を変えられる」というSteve Jobsのコアとなる価値観がありました。Jobsは「Appleのプロダクトが変わっていっても、価値観が変わることは決してない」と言っていました。私たちはAmazonやNike、創業当初の会社について多く学びました。

これを国家に当てはめることもできます。国家にも、より長く存続させるためのコアとなる価値観や宣言があります。私たちは目的を持つ必要性に気付き、文化は設計するものだと知りました。

これが接点にもつながりました。私たちはSequoiaから投資を受けていて、ちょうどその頃ZapposのAlfredがSequoiaに加わったところでした。「Zapposにはすばらしい文化がある」と聞いていたので、私たちはラスベガスに行ってTonyと会い、多くを学びました。

Alfred Lin
で、何を学んだのですか?

文化のコツ

Brian Chesky
(会場:笑い声)突っ込んできますね。私たち3人が学んだのは、「文化」が長続きする会社を作るのだとしたら、そこには2つのコツがあるということでした。

1つが「ふるまい方」で、これは50年後には変わっている可能性があります。しきたりやふるまいは変わっていくものです。しかし、同時に、決して変わらないものも必要なのです。その会社がその会社であるための基礎となるもの、長期間存続できる原則やアイデアです。

私が思うに、誠実さや正直さはコアとなる価値観ではありません。こうしたものは誰もが持っているべき価値観なのです。

その会社独自の価値観を3つ、5つ、6つ程度考え出す必要があります。これは自分の人生においても考え続けることができることかもしれません。

自分が他人と違っている点は何か、誰かに自分について3~4個のことだけを伝えられるとしたら、相手に何を知ってもらいたいと思うでしょうか。Zapposは社員が100人になった時に、このコアとなる価値観を10個、書き出したそうです。

私がTonyから学んだことは、「社員が100人規模になる前に、会社のコアとなる価値観を書き出しておこう」ということでした。先ほどSamと話をしていましたが、「社員を採用する前にコアとなる価値観を書き出した会社はAirbnbだけだと思う」と言われました。

最初の社員を採用するまで約半年かける

Alfred Lin
最初の社員を採用するまでどれくらいの時間がかかりましたか?

Brian Chesky
最初の社員はエンジニア第1号でしたが、採用までに4~5か月かかったと思います。数千人のファイルに目を通し、数百人と面接したと思います。

採用前にコアとなる価値観を書き出す

Alfred Lin
その人を採用する時までのどの時点で、コアとなる価値観を書き出したのですか?創業初日ですか?2日目、3日目ですか?

Brian Chesky
始めたのは2009年1月頃でY Combinator時代だったと思います。そこから6~7か月掛けて練り上げていきました。私たちがY Combinatorを卒業したのが2009年4月で、最初のエンジニアを採用したのが7月頃でしたから、大体6か月ですね。

「最初のエンジニアを採用するのになぜそんなに時間をかけたのか?」と聞かれることがあります。私は、最初のエンジニアの採用は会社のDNAチップを作るようなものだと思っていました。会社が成功すれば、このエンジニアに似たような人を1,000人採用することになります。

これはユーザーのために必要な新機能3つを開発してもらうために誰かを採用するといった話ではなく、「自分はこの人のような人間100人、1,000人と一緒に働きたいか?」という、より長期的、より永続的な話だったのです。

会社の人材にはバックグランドや年齢という多様性が必要です。しかし、価値観の多様性は必要ではありません。皆が同じ信念を持つ必要があります。ここに多様性があってはならないのです。

Airbnb の6つのバリュー

Alfred Lin
Airbnbの価値観とは何でしたか?

Brian Chesky
6つのコアとなる価値観がありますが、ここではそのうちの3つをお話しします。1つ目のコアとなる価値観は、ミッションを信奉していることです。

つまり、ミッションのために働いてくれる人を採用したいということです。高く評価されている会社だから、オフィスのデザインが好きだから、単に仕事が欲しいから、カッコいい会社だから、という理由で応募してくる人は求めていません。私たちが求めているのは、決して変わることがない1つのこと、すなわち会社のミッションのために働いてくれる人なのです。

Airbnbのミッションについて少し話をしましょう。Airbnbのミッションといえば、「宿泊する部屋や家を予約できる、世界を旅するためのサービス」と思う人が多いでしょう。確かにそれが私たちの提供するサービスですが、私たちがこのサービスを提供している理由ではありません。私たちのミッションは何かという質問に答えるのにぴったりの話があります。

2012年、私はSebastianというホストと会いました。私たちは世界各地のホストと実際に会って話を聞くこともあるのです。Sebastianは50代後半くらいでロンドン北部に住んでいます。彼は私に会うと「Brian、あなたの会社のウェブサイトで絶対に使わない言葉が1つありますね」と言いました。私が「どんな言葉ですか?」と聞くと、彼は「友情、ですよ。この友情について少し話をしたいのですが…」と言いました。私が「聞かせてください」と頼むと、彼はこんな話を聞かせてくれました。

「半年前、私の家の前で派手な暴動が起こり、とても怖い思いをしました。その翌日、心配した母親が電話を掛けてきたので、『大丈夫だよ』と私は答えました。母親は続けて『家は大丈夫なの?』と尋ねてきたので、『家も大丈夫だよ』と答えました。ここからが面白いのですが、暴動が発生してから私の母親が電話してくるまで24時間。その間に、以前Airbnbを利用して私の家に泊まったゲスト7人から私の安否を気遣う電話があったのです。考えてみてください。私の家を利用したゲストのうち7人が、実の母親より早く電話をくれたんですよ」。

この話はどちらかと言えばゲストよりも彼の母親に関して突っ込むところが多いかもしれませんね。(会場:笑い声)しかし、この夏の通常またはピークの日においては、北朝鮮、イラン、シリア、キューバを除く世界190か国のユーザー425,000人が誰かの家に泊まっていました。

Sebastianの話は、Airbnbはどんな会社かを表しています。Airbnbとは単なる部屋の予約や旅行サービスを提供しているのではありません。私たちは世界を一つにする手助けをしたいのです。人々が旅先で温かく迎えられたと感じられるようにすることで、それを実現したいと考えています。

Airbnbのミッションは、世界中のどこに行っても温かく迎えられたと感じてもらうことにあります。5年後、20年後も私たちは部屋や家の提供をしているかどうかは分かりません。しかし、私たちの目的は常に「温かく人を迎え、人々の輪を広げること」であると断言できます。これが、より永続的なアイデアなのです。

ミッションに共感する人を採用する

私たちが人を採用する時には、まずこのミッションに共感し、信奉しているかを確認します。

ミッションに共感するには、ミッションに生きる必要があります。ミッションを信じているか?ミッションに関するストーリーを持っているか?プロダクトを使ったことがあるか?プロダクトを信じているか?と確認する必要があります。

余命1年でもこの会社で働きたいか?

Samとの話で思い出したのですが、私は以前、面接の時にクレイジーな質問をしていました。私はAirbnbの最初の300人の採用面接をしたのですが、応募者は私のことをノイローゼだと思ったかもしれませんし、実際その通りかもしれないですね。

私がいつもしていた質問は「あなたが余命1年だとしても、この仕事をしたいですか?」というものでした。後に、これに「はい」と答える人は自分の家族を愛さないような人かもしれないと気付き、1年の部分を10年に変えました。

人は自分の人生に残された時間を好きなように使うべきです。最後の10年間にしたいと思うことは、残さずしておくべきです。私が皆さんに本当に考えてほしいことは、10年というのは自分が大切に思っている何かをするのに十分な時間で、質問の答えがAirbnbである必要はない、ということです。

答えが旅行でも起業でも良いのです。そういう人はAirbnbに来るのではなく、自分のやりたいことをやるべきなのです。

古いたとえ話があります。レンガを積んでいる2人の男がいました。誰かがやって来て「何をしているのですか?」と声をかけると、一方の男は「壁を作っているのです」と答え、もう一方の男は「大聖堂を建てているのです」と答えました。世の中には「仕事」と「天職」があります。

私たちが採用したいのは単に仕事を求めている人ではなく、天職と思って働いてくれる人なのです。これが1つ目の価値観、ミッションを信奉していることなのです。

節約

他にしたい話もありますので、価値観の話はあと1つだけにしましょう。2つ目のコアとなる価値観は節約に関係しています。ところで、どの会社でも創業に関するストーリーは何千人もの人に繰り返し話すことになるものです。

子ども時代の話と似ていて、成長してから振り返るようになるのです。Airbnbについては、Marc Andreessenが先日の講義で「成功した最悪のアイデア」と言っていたと思います。今でも忘れませんが、私たちは世間の人からクレイジーだと思われていました。

このアイデアをいろんな人に話した時のことを覚えています。Paul Grahamに「Airbnbというアイデアがあります」という話をした時、彼は「実際に使っている人がいるのですか?」と聞いてきました。私が「はい」と答えると、彼は「その人たちはどうかしているんじゃないのか?」と言いました。

面接は失敗だ、Paul Grahamに気に入られなかったと私は思いました。そこで私たちはこれまでの資金調達の経緯を次のように話しました。Y CombinatorのパートナーであるMichael Seibelが、私とJoeをシリコンバレーの投資家15人に紹介してくれました。その中の何人かはここの講義にスピーカーとして来ていますが、私たちは15人全員からノーと言われました。会社の10%を15万ドルで買うことができたのに、です。私たちは全員からノーと言われました。誰もがクレイジーな話だと思っていました。他人の家に泊まりたがる人間がいるものか、と。

クレジットカードで借金をする

そこで私たちはクレジットカードを使って資金を調達しました。子どもが野球カードのコレクションを入れたりするのに使っているカードフォルダーがありますよね?私たちはあれにクレジットカードを入れていました。それだけ多くのクレジットカードを持っていたわけで、本当に借金まみれでした。

そして2008年の秋、私たちは民主党と共和党の全国大会向けの宿泊先を提供しました。提供する部屋数があまり多くなかったこともあり、私たちはクレイジーなアイデアを思いつきました。創業の翌年、Airbnbウェブサイトの訪問者は1日に100人、予約は2件という有り様で、うまくいっているとは言えない状況でした。

曲をリリースしたけれど1年後にやっと1日3人しか聞いていないようなものです。大ヒットは望めない状態でしょう。しかし、私は信じていました。JoeとNateも信じていました。

毎日のように新しいアイデアを試す

借金まみれのなかで思い付いたアイデアがこれです。

民主党と共和党の全国大会向けにエアーベッドと朝食付きの住居を提供していたのですから、例えば民主党の全国大会専用の朝食用シリアルを作ったらどうかと考えたのです。そこで思いついたアイデアがObamaをテーマにしたシリアルで、Obama-O’s:the breakfast of change(改革の朝食)と名付けました。

そして次に、共和党のJohn McCainをテーマにしたシリアルを思いつきました。McCainが元海軍大佐だということから、Captain-McCain’s:a maverick in every bite(どの一口にも異端者が)と名付けました。

一文無しだった私たちはGeneral Millsに何度も電話をしたのですが、「電話をかけてくるのをやめないと、接近禁止命令を出してもらうぞ」と言われてしまいました。結局、RISDの同窓生のコネで探した地元の会社に千箱のシリアルを作ってもらうことができました。

それをメディアに送ってみると、1週間後には全国ネットのテレビやニュースで取り上げられ、この朝食用シリアルで4万ドルの売上を手にすることができました。

2008年はウェブサイトからの売上が5,000ドル、朝食用シリアルからの売上が4万ドルでした。母親からは「今度はシリアル会社を始めたの?」と言われたことを覚えています。母親の言葉よりも、実際にそのとおりだったのが辛いところでした。

シリアルな起業家になる

この話をする理由は、2つ目のコアとなる価値観が「シリアルな起業家になれ」だからです。ヘタな駄洒落で申し訳ありません。私が言いたいのは、私たちは「制約が創造力につながる」と信じているということです。

8億ドルを手に入れたら、その途端に闘志は失われてしまうものです。「5万ドルの契約が必要です」「これが必要です」「あれが必要です」と言うのは簡単です。困った状況下において節約の努力をせず、クリエイティブである努力もせず、「何もできない」と言う人がいたら、私はあのシリアルの箱を見せます。Obama-O’sの事例も、闘志と節約が必要であることを示しているのです。

繰り返しますが、創業時のDNAの多くが、会社の価値観、原則となるのです。もう皆さんわかっていると思いますが、そんなことはどうでもいいと思う人は、そこにいるべきではありません。どうでもいいとは思わないというだけで、そこにいるべきという意味でもありません。起業家になるためには、創造性と何事にも立ち向かう闘志が必要です。それが私たちの学んだ価値観の一部です。

文化は短期的な成果を生まない

Alfred Lin
そろそろ質疑応答時間で聞きたいことをそれぞれ考え始めてほしい時間ですが、その前に私からいくつか質問があります。

すばらしいストーリーばかりでしたが、ここにいるのは非常に疑り深い人々です。ここはCS学科の講義ですから、どちらかというと左脳派と言えます。今の話は少し感情論的で右脳派な感じがします。しっかりとした企業文化を持っていると、重要かつ困難な決断をする際、どのように役立つのでしょうか?

Brian Chesky
文化に関するあることをお話ししましょう。文化について、一般的に話されていないことが3つあります。

1つ目は、企業文化について語られることがないということです。誰も文化について語らず、しっかりとした企業文化を持つ必要性についても語りません。優れたプロダクト作りや成長、アドプションに関する記事は山ほどあるのに、文化に関する記事はごくわずかです。文化とはソフトで曖昧な理解し難いものです。それが1つ目の問題です。

2つ目の問題は、文化は測定し難いということです。往々にして、測定し難いものは軽視されます。これら2つは非常に難しい問題です。

3つ目が一番大きな問題なのですが、文化が短期間では結果を生み出せないということです。もし、会社をスタートアップして1年後に売却したいのであれば、文化なんか放っておいて、早く人を採用するべきです。文化を気にしていると社員の採用には時間がかかり、何かを決断するのも慎重になり、短期的には成長が遅くなる可能性がありますが、これが会社への投資なのです。

何がユニークなのかを明確にするべき

まず、自分の会社がどうユニークなのかを明確にする必要があります。それができたら、その個性を信じてくれる人を採用する必要があります。そして、その価値観に基づいて採用や解雇をしていく必要があります。

私たちが面接をする時は、それを何度も何度も繰り返し、その人が一流の人材であるかと、私たちの企業文化にフィットしているかを確認します。私はかつて、面接の最終段階に「あなたが世界中の誰でも雇えるとします。それでも目の前にいる人を雇いますか?」という質問を社員にしていました。

私たちは世界一のビジョンを持っているのですから、世界一の人材を雇うべきですよね?採用に関わる者は皆、前の人より優れた人材を採用しなければなりません。ハードルを上げ続けるわけです。

バリューの面接をする

そして、私たちの会社には自分の関係している部門以外を担当する「コアとなる価値観の面接官」というチームを作っています。つまり、応募者がエンジニアの場合、コアとなる価値観の面接官はエンジニア以外の人が担当します。応募者の技術が高いという先入観で「この人は優秀です」などと判断されるのを避けるためです。

コアとなる価値観の面接官は応募者の価値観を見極めるためだけに面接を行い、会社にとって大切なことをその人も大切に思っているかを確認します。非常に優秀な人であってもお断りしたことが何度もあります。「長期的に考えると、一緒に働くには適していない」と判断したからです。これが1つ目です。

文化に合わない人たちを雇わない

私たちが非常に難しい決断を迫られた事例があります。2011年の中旬、私たちのビジネスの大半は米国内でした。その頃、Samwer brothersと呼ばれる男たちが資金を出してクローンサイトを作っていたのですが、聞いたことがありますか?

彼らはインターネット会社のクローンサイトを作るのが商売で、最近上場も果たしました。彼らは目を付けた米国内のウェブサイトのクローンを作り、それをオリジナルの会社に売りつけようとするのです。これは自分の頭に銃を突きつけられるようなものです。

彼らは当時世界最速で成長していたサイトのGrouponのクローンサイトを作りましたが、Grouponのクローン作りをやめたと思ったら今度はAirbnbのクローンを作り始めました。当時のAirbnbは社員40人、収益700万ドルでした。

彼らは私たちのクローンサイトを作り、30日後には400人もの社員を雇っていました。そして、そのクローンサイトを私たちに売ろうとしたのです。買わなければ、Airbnbが国際展開するチャンスを潰されてしまうという状況でした。

Airbnbの問題は、世界中に事業展開をしていないことでした。欧州をカバーしていない旅行サイトはメール機能のない携帯電話のようなものです。私たちは窮地に陥っていました。

社内で協議をしましたが、クローンサイトを買収すべきか、という現実的な判断とは別に、価値観に関する判断がありました。事業の国際展開を失うリスクを抱えるくらいなら買収をしてしまい、国際展開を守るべきだというのが現実的な判断だったのかもしれません。

しかし結局、私たちは買収をしないことにしました。買収をしなかった理由は、彼らの文化が気に入らなかったからです。そんな会社の社員を400人も受け入れたくありませんでした。

私はこの時、自分たちは信念のある宣教師で、彼らは報酬目当ての傭兵のようだと思っていました。彼らは信念に基づいて行動しているのではなく、手っ取り早く金儲けすることだけを考えているように思えました。

私は宣教師の方が傭兵よりも長続きするに決まっていると信じていました。また、インターネットクローンを作る会社に対抗する最高の方法は、彼ら自身にクローンサイトを長期間運営させることだと思っていました。「子どもを産んだからには、ちゃんと育てなさいよ」ということです。

私たちの決断は、非常に物議を呼ぶものであったと思います。多くの人から「クローンサイトを買収すべきだ」と言われました。しかし私たちは買収をしませんでした。それで良かったと思っています。

Alfred Lin
欧州からの収益は何%くらいですか?

Brian Chesky
50%以上です。

Alfred Lin
上手くやっていますね。どなたか質問はありますか?私はまだまだ聞きたいことがありますが…誰もいませんか?Zapposのステートメントに、「文化とブランドは1枚のコインの裏と表である」というものがあります。

Airbnbには優れた文化と優れたブランドがあります。ブランディングについて話してもらえませんか?ブランディングは私たちがあまり得意としない分野ですし、フォーカスしない傾向にある価値観です。

ブランドと企業文化

Brian Chesky
先ほどSamにその話をしたばかりです。過去を振り返ってもシリコンバレーは文化とブランドに関してはあまり得意としていないですし、語られることも稀です。確かに文化とブランドは1枚のコインの裏と表です。

企業文化とは社内に存在し、長期にわたって社員に信奉してもらいたいと思う原則や信念ですが、社内で起きていることは最終的に外部にも知れ渡り、社内に留めておくことはできません。

そしてブランドとは、会社の外にいる人々がその会社に抱くイメージを決めるものです。つまり、会社が明確なミッションを持ち、皆がそのミッションを理解した上で社内に浸透していることが、文化と価値観両方にとって最善の策だと思います。

ブランドとは、世間がその人やその人の会社についてどう思うかです。これはブランドを伝える人、つまりその会社の社員にかかっていると言えます。文化が脆弱だとそれはできません。

情熱を持って仕事をする社員がいる会社には、情熱を持った顧客がついてくるのです。これがいわゆる「強いブランド力を持つ会社」です。Zapposは実に強いブランド力を持っていました。

他にも多くの会社がありますが、Googleもその1つで、企業文化を非常に大切にしています。「この人はGoogle的か?」という質問があるほどです。Google的とは、あらゆるデジタル文化に対応できる能力を持ち合わせている人といった意味です。Googleはユニークかつ非常にしっかりとした企業文化を持っています。

問われているのは文化の良し悪しではなく、しっかりとしているか否かなのです。そして、誰かにとって良い文化が自分にとっても良い文化であるとは限りません。

私は「ブランド」は非常に重要であると思います。ブランドとはまさに会社とその顧客とをつなぐものであるため、会社に非常にしっかりとした文化があれば、ブランドは浸透していくでしょう。

ブランドに関して最後にお話しすることは、ブランドについて語る際、多くの人が自分たちの売っているものについて語っているということです。例えばAppleが、「私たちはコンピュータを売っています。新しい画面はより大きくて速いです」と言って、ビットやバイトについて語る、といった感じです。

これについてSteve Jobsが非常に重要な話をしていたのを覚えています。1997年の話ですが、「勝つための方法は、ビットやバイトについて話すことではなく、自分たちが重視するものは何か、自分たちのコアとなる価値観とは何かを話すことだ。私たちは『情熱を持つ者が世界を変えられる』と信じている」とJobsは言っていました。

そして、Appleは「Think Different」キャンペーンを展開しました。つまり、Appleは大規模なルネッサンスを成し遂げる前に世界でもっとも価値ある会社になっていたのです。

彼らが行ったThink Differentキャンペーンとはつまり、彼らの信念を表現していたわけです。Appleのコンピュータを買うことはつまり、「私も彼らの信念に共感しています」と言っているのと同じなのです。

会社にはそのコアとなる、深い意味を持った信念が必要であり、それがない会社は単なるツールに過ぎないのです。そして、ツールはコモディティ価格で売られることになります。

企業文化とバリューを伝える方法

Alfred Lin
企業文化やコアとなる価値観を外部に伝える方法が知りたい場合、どうすれば良いのですか?

Brian Chesky
つまり、創業当時のAirbnbがどのように外部に事業を伝えていたかということですね。

創業当初の私たちはツールという立ち位置でのコミュニケーションをしていたため、そこから多くのことを学びました。

私たちは実際、「Airbnbは安くて手頃な、ホテルに代わる宿泊先」といった宣伝をしていましたし、「ホテルなんてやめて、Airbnbで節約しよう」が当時のキャッチフレーズでした。これはかなり昔の話ですが、時が経つにつれて、これは自分たちのアイデアを狭め、低下させるやり方だと気付きました。

そこで「人間らしい旅をしよう」というキャッチフレーズに変更しました。このフレーズは長く使われませんでしたが、要するに旅行が大量生産品のように味気ないものになってしまっていることを訴え、自分たちはそれとは違う世界があると信じていることを伝えたかったのです。

旅先で孤独を感じたり、よそ者扱いされたりすることなく、世界をかつての村のような場所、人と人との触れ合いを通して「もてなし」を受けられる場所、1人の人間として接してもらうことで温かく迎えられたと感じられる場所に戻したい、ということなのです。

人生でどれだけの成功を収めようと、旅先では自分もそんなに大した人間ではないのだと気付かされることが多々あります。TSAのチェックを通過し、典型的なホテルに泊まり、時には問題も起きます。

私たちは、そうした味気ない体験ではない、人々が特別な気分を味わえる体験を創り出したかったのです。創業当初は、そうしたストーリーをあちこちで唱えて回りました。

CEO の仕事はビジョンを明確化すること

私はAirbnbのストーリーを1万回は話しているでしょうし、これはある意味で文化に関わる話なのです。先日ある人から、「CEOの仕事とは何ですか?」と尋ねられました。

CEOの仕事は数多くありますが、主な仕事はビジョンを明確化することです。ビジョンを明確化するには、戦略を立て、企業文化にフィットする人材を採用する必要があります。

この3つをきちんと行っていれば会社は成り立ち、きっと成功を収めることができるでしょう。

正しいビジョン、優れた戦略、そしてそれを実行する人材。これが揃ったら、後はCEOが繰り返しビジョンを明確化していくことです。

人を採用する時であろうと、投資家と話をする時であろうと、資金調達をする時であろうと、PRのインタビューを受ける時であろうと、教室で講義をする時であろうと、常に自分の会社の価値観を強化していくのがCEOの仕事なのです。

顧客へメールを送る時も同じです。これを何度も何度も行っていくうちに価値観は変化し、その度により良いものになっていきます。つまり、価値観は進化するのです。

Q&A

ユーザーに文化を浸透させる方法

Q, (聞こえず)

とても良い質問ですね。ホストにAirbnbの文化を浸透させる方法ですか?

これについては、「かなり良い成果をあげているものの、まだ課題が残っている」というのが答えでしょうか。

私たちがAirbnbを始めた時、Craig Newmarkの教えを参考にしました。CraigはCraigslistの創業者です。Airbnbは誰でも利用できるものでなければなりません。自分の家を貸したい人に対してはそれを可能にするサイトでなければなりません。

私たちは会社の理念や価値観を説いて回っていたので、多くの人がAirbnbの価値観に賛同してくれました。しかし、ホストの中には会社の価値観に賛同していたわけではなく、部屋を貸して金儲けできるからという理由でAirbnbを利用しようとしている人もいました。そして、全員がAirbnbの文化にフィットしていたわけではありませんでした。

実際にそうした人々が多くの問題を起こしていて、これは私にとって教訓となりました。創業当初の私は、ホストも会社の価値観と完全にマッチしている必要があるとまでは思い至らなかったのです。

そこで実際にホストと会い、自分たちと同じような人間を引き入れていきました。私たちとホストはパートナーのようなもので、彼らにも私たちが掲げる企業文化を信奉してもらう必要があると気付いたのです。

現在Airbnbには、スーパーホストプログラムと呼ばれるプログラムがあります。このプログラムではホストの皆さんにAirbnbの価値観を持っているか実証してもらい、合格の証であるバッジを与えられた人には優先的に顧客サポートや宿泊客の紹介が行われるようになっています。

また、Airbnbの価値観に対する理解を深めてもらうため、ホスト全員を集める重要なコンベンションも開催しています。

つまり、先ほどの質問に対しては、私たちはかなり遅いスタートを切りましたが、あらゆる段階で企業文化の浸透に努めている、というのが答えになります。

オープンソースに貢献する文化

Q
Airbnbはオープンソースコミュニティにすばらしい貢献をしていますが、それがAirbnbの文化や価値観に貢献している点があると思いますか?

Brian Chesky
全体的に見て、2つの点でAirbnbと関連しているのではないかと思います。

私たちは非常にオープンな文化を持っています。人が他者とシェアできる、分け与えることができる世界を信じていますし、それがコミュニティや業界の強化に貢献すると信じています。

そして私は、社内で何でも話し合うことを理念としています。もちろん、顧客やクライアントのプライバシーに関することを除いてですが。

オープンソースの文化とエンジニアリングに関してですが、私たちはチームの特異性は守るべきだと思っていました。そのためにも、オープンにするべきではないと思われるソースコードが沢山ありました。

どんな会社でも競合他社から自分の会社を守るための「壕」は必要です。守りたいと思ったテクノロジーもありましたが、同時に外部とシェアしたいとも感じていました。

そこで私たちは、Airbnbの壕を「世界で一番のユーザーエクスペリエンスの提供」にしようと思いました。これには非常に大きなネットワーク効果があります。この方がテクノロジーを守ることより重要だと考えたので、テクノロジーの方はシェアしようと決めました。

これは企業の価値観に関連していると思います。なぜなら、これは私がそうしろと勧めたからではなく、Airbnbの文化に対する価値観を共有していると思って採用したエンジニアが、そうするべきだと判断して実行されたことだからです。

愛されるプロダクトを作る

Q
全国大会の話をされていましたが、お金がなくてウェブサイトユーザーからの収益しかなかった時は何をされたのでしょうか?スケールアップのためには、何をしましたか?どのようにしてユーザーをサイトに集めたのでしょうか?

Brian Chesky
文化に関する質問ではありませんが、お答えしましょう。

私が今まで受けたなかで最高のアドバイスはPaul Grahamからのものかもしれません。それは「100万人の人にそこそこ好きでいてもらうよりも、100人の人に愛される方が良い」というものでした。100人に愛される方が良いのです。

なぜかと言うと、100万人の顧客やユーザーがあなたのアプリを使ってそこそこ満足している場合、彼らをあなたの会社のファンにするのはとても難しいからです。

100万人もの人をいっぺんに自分の会社のファンにする方法を私は知りません。しかし、本当に愛してくれる100人のユーザーがいて、彼らがあなたの会社やプロダクトに熱い情熱を持ってくれたら、その1人1人が他の100人にウワサを広めてくれるでしょう。会社やアイデアに通じるあらゆるムーブメントはわずか100人から始まるのです。

これが非常に重要となる理由は、Paulから教わったもう1つの教訓にあります。それは、「まず、愛してくれるユーザー100人を獲得すること。そしてスケールしないことをすること」というものです。

100万人のユーザーがいたらその全員に会うことは難しいですが、100人のユーザーなら実際に会って話を聞くことができます。私たちが実行したのがまさにこれでした。

Joe、Nate、そして私は民主党全国大会が開催されていたニューヨークやデンバーでユーザーが泊まっている家を一軒一軒回り、自分たちも宿泊をしながら実際に生活を共にしました。

iPhoneを買っても、Steve Jobsが家に泊まりに来たりはしませんよね。しかし、私は行きます。ユーザーと生活を共にすることは非常に重要でした。ユーザーと打ち解け、彼らと情熱を共有していくわけです。

つまり、大勢の人の問題を解決しようとするのではなく、100人、または個人のレベルに戻るのです。その人にしかできない、素晴らしい体験を提供できたらどうでしょう?

まず1人からスタートし、その1人を完璧に満足させます。ちなみに1人を満足させるためのサービスを開発するのはそれほど難しい話ではありません。

大勢と個人の両方を同時に満足させようとすると、問題が起きるのです。そこで私たちが最初にしたのが、ユーザーの家を一軒一軒回り、彼らの記憶に残る時間を作ることでした。

写真を自分たちで撮りに行く

最後にもう1つの事例をお話ししましょう。現在Airbnbでは、申込ボタンをクリックして自宅のデータを送れば、後日プロの写真家がやって来て無料で自宅の写真を撮ってくれる、というシステムがあります。

私たちは世界中に5,000人の写真家を抱えていて、これまでに何千軒もの家の写真を撮影してきました。これは世界最大のオンデマンド型写真家グループの1つかもしれません。

このシステムが生まれたのは、Joeと私がニューヨークである女性ホストの家に滞在していた時だったと思います。彼女の家はものすごくステキだったのですが、写真は全くステキではなかったのです。そこで私たちは「なぜもっと良い写真を載せないのですか?」と尋ねました。

これは2008年の話で、まだ高性能カメラ時代に入る前のことです。彼女は機械にあまり強くなくて、携帯電話で撮影した写真を自分のコンピュータに転送する方法を知らなかったのです。

そこで私が「代わりに私たちが撮影してあげましょう」と彼女に言ったわけです。実際には「クリックひとつで誰かが訪ねてきて、プロ級の写真を撮ってくれるとしたらどうですか?」と言ったのですが、彼女は「そんな魔法みたいなことができたらステキね」と言いました。

その翌日、私は「撮影に来ましたよ」と彼女の家を訪ね、家の写真を撮りました。そして、「すばらしい写真撮影サービスを始めました」というメールを人々に送りました。ボタンをクリックするだけでプロのカメラマンがやって来て家の写真を撮ってくれます、と。そして、ボタンが押されたら私にアラートが届くようにしました。

私たちはブルックリンでカメラを1台借りて、2009年の1月、雪の中を歩きながらホストの家を撮影して回りました。何のテクノロジーも活用しない手作業での撮影で、スプレッドシートだけを使ってやっていました。写真撮影のためのプログラムが欲しいなどと言ってNateの手を煩わせたくなかったので。

その後、私たちは契約カメラマンを雇い始めました。そこでインターンを雇って契約カメラマンを管理してもらったのですが、しばらくするとこの契約社員を管理するインターンを管理するフルタイムのポジションを作ることになりました。

私たちは管理すべき人間が膨大な数になるまでツールを作りませんでした。契約カメラマンの人数が数百人になって初めて、私たちは写真撮影に必要なあらゆるツールを開発しました。私たちがツール開発に踏み切ったのは「完璧なサービス」とは何かをしっかりと把握してからでした。

Airbnb の強み

Q
もう1つ質問があります。Airbnb特有のこうした状況を考えると、Airbnbはテクノロジー企業というよりマーケティング企業であると考える人も多いのではないでしょうか?

Brian Chesky
いい質問ですね。これには、あるストーリーを紹介しながらお答えしましょう。

Alfred Lin
今の質問を補足するためにまず私からいくつか質問をさせてください。現在Airbnbは専有技術を持っていますか?

Brian Chesky
はい。

Alfred Lin
会社を守るための壕を持っていますか?

Brian Chesky
はい。

Alfred Lin
ネットワーク効果はありますか?

Brian Chesky
はい。

Alfred Lin
プライシングの力はありますか?

Brian Chesky
はい。

Alfred Lin
ブランド力に優れていますか?

Brian Chesky
そう思います。

Alfred Lin
独占企業ですか?

Brian Chesky
その質問にはお答えしないでおきます。

Alfred Lin
質問に戻りましょう。今の質問はひとまず忘れてください。ネットワーク効果を持つ会社は順調な滑り出しができますし、素早く進出します。世間からは単にラッキーなだけだと思われがちですよね。

Brian Chesky
その質問には是非、お答えしましょう。これは実にもっともな質問で、実際私はよくそう言われるので、答えたいと思っていたのです。1年か1年半前のことだったと思いますが、ある日、Sequoia CapitalのオーナーであるDoug Leoneから「君の仕事は最悪だね」と言われました。「それは一体どういう意味ですか?」と私が尋ねると、「私のポートフォリオの中で君ほど割に合わない仕事をしているCEOはいないよ」と言われました。「どうしてそう思うのか教えてください」と私は言いました。

すると彼に、「そもそも君たちの会社はテクノロジー企業だろう」と言われました。確かに私は、自分たちは本質的にはテクノロジー企業だと考えていましたのでそう答えました。

すると「だったら、ポートフォリオ内の他の会社と同じ問題を抱えていることになる。だがそれに加えて、君たちの会社は190か国で事業展開をしている。つまり、どのように国際化するべきかしっかり考えなければいけないわけだ。世界のあらゆる国で人を採用する必要があるじゃないか」と言われました。

実際、私たちは北朝鮮、イラン、シリア、キューバを除くすべての国で事業を展開しています。そして私たちは支払会社です。年間取引額は数十億ドルに上り、カリフォルニア州でビジネスライセンスを取得しなければなりませんでした。深刻な不正行為やリスクの可能性を抱えていますから、Fort Knoxと同じくらいの厳重管理も必要です。彼は、「普通、こうなった時点で会社は潰れていく。しかし、君は他のことを心配する必要がある。それは信頼と安全だ」と言いました。

現在、Airbnbを利用して425,000人が他人の家に寝泊まりしています。テキサス出身の女性が1人で中東に滞在している状況を考えてみてください。その逆でも構いません。そこで起こるかもしれない文化的な対立や誤解を考えてみてください。一晩に425,000人です。

これはオークランド市長になるようなものです。オークランド市長になったつもりで、市内で今晩起こったあらゆることを想像してみてください。信頼と安全が必要だと分かるはずです。

さらに規制の問題もあります。Airbnbは3万か所に上る都市で事業を展開していますが、都市毎にルールや法律が異なり、その多くは異なる時代、今のようなテクノロジーが生まれる前に制定されたものです。

次に、検索と検索結果の問題があります。Googleは非常に優れた検索エンジンで、あらゆる検索結果がヒットします。しかし、検索している人にとって本当に適切な答えはそのうち1~2個しかないことも明らかです。Airbnbはパリに4万人のホストを抱えています。すべての人が満足できる最高のパリの家などありません。つまり、私たちには高度なマッチング能力と、それを実現させるためのテクノロジーが必要となります。

もう1つの例を紹介しましょう。Facebookはデジタルプロダクトです。彼らのプロダクトはウェブサイトです。Airbnbのプロダクトは現実世界での体験です。私たちは単なるオンラインプロダクトではなく、オフラインプロダクトでもあるのです。要するに、私たちはテクノロジーにおいても、デザインにおいても、そしてブランディングにおいても世界のトップレベルでなくてはなりません。

そして、私たちはその地域にとって良いものであると各国の政府に理解してもらう必要があります。私たちがクレイジーな会社ではなく、現実的なことをしているんだということを人々に理解してもらうために、世界でもトップレベルの信頼と安全を提供する必要があります。膨大な量の支払いやリスクも管理しているのですから。今の話は文化については何も触れていないですね、文化に関するものではありませんでした。結論ですが、私はAirbnbをマーケティング企業だとは思っていません。

Alfred Lin
ありがとうございました。

Brian Chesky
皆さん、ありがとうございました。

 

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 10: Culture (2014)

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