プレッシャーを感じているのか、プレッシャーを与えているのか? (Ben Horowitz)

「自分の言うことが俺に影響を与えるなんて思う奴はバカ過ぎる
俺よりうまくできると思うなら、やってみろよ」
——カニエ・ウエスト、"Cold"

ビジネスの力学のうち、明らかながらもあまり理解されていないものとして以下のものがあります:「ある任意の会社について、同社が大きくなればなるほど、同社がダメになる機会が発生する」というものです。

もう一つ、明白でありながらあまりよく理解されていない法則があります:「会社がダメになればなるほど、文句を言ってあなたのせいにする人が増える」というものです。

この二つを合わせると、「何らかの対策を講じなければ、あなたの会社が大きくなるほど人は文句を言ってあなたを責める」と言うことです。

単純なようですが、CEOはしばしばこのロジックを理解できず、批判に圧倒されてしまい、自分に自信を失って、もう会社の経営はできない、などと思い込んでしまいます。こうなると、私が “Why We Prefer Founding CEOs”(なぜ創業者CEOが好ましいのか)"で説明したように、悲惨な事態になります。

あなたが論理的で視野の広い人ならば、批判が10倍に増えれば真摯に受け止めずにはいられないでしょう。より重要なこととして、10倍に増えた批判を人格攻撃として受け止めずにはいられないでしょう。ではどうすればCEOは自分の従業員からの苦情で神経がすり減らずにすむのでしょうか?答えはシンプルなCEOの格言にあります:「プレッシャーを与えるか、自分がプレッシャーを受けるか、二つに一つ」なのです。

まず、圧倒されてスパイラル状態に陥る場合を考えることから始めましょう。会社が成長するにつれ、人は文句を言い始めます。営業努力に関することから、無料スナックコーナーにオーガニックのおやつが少ないといったことまで、あらゆる苦情が上がってきます。一方その間、あなたは恐ろしい競合他社に突きつけられた製品戦略の問題を解決しようと頑張っています。あなたはほとんどの苦情に対して何が答えとなるのかわからないので、後回しにしてわかるものに集中します。苦情に付随する問題は徐々に大きくなります。あなたの従業員は問題が対処されていないことに苛立ち、さらに苦情の声を上げます。そしてあなたのCEOとしてのあり方に信頼を失い始めます。

最高の防御は良い攻撃である

この悪循環を食い止めるには、プレッシャーを感じるのをやめ、逆にプレッシャーを与え始めることです。最も基本的な方法は、問題をチームに任せることです。これによりプレッシャーはあなたから離れて組織側へと移り、さらにチームをエンパワーする(力づける)ことができるというメリットも付いてきます。

この時点で、私の本を読んでくれたみなさんはこう思っているでしょう:「でもベン、そこが難しいところじゃないでしょう。難しいのは委任することじゃなくて、実際に問題があるということを幹部が認めない場合とか、問題に理論上のオーナーがいない場合とか、問題が部門間をまたぐ場合とか、幹部に突き返されるようなときでしょう」。これらを順番に見ていきましょう。

問題があることに幹部が根本的に同意しない

こんなケースを想像してみましょう。製品のバグの数について従業員が苦情を言っているので、あなたはエンジニアリング部門長に品質改善を求めます。部門長は「わかりました、ボス」とは言わないかもしれません。むしろこう言う可能性が高いでしょう:「どんな定義を根拠に仰っていますか?」おそらく部門長にはあなたよりもずっと多くの品質管理に関するデータがあり、あなたが議論に勝つことは難しいでしょう。しかしあなたは従業員が正しいことをわかっていて、だからこそ、そもそも従業員が間違っているとは言わなかったのです。

議論が行き詰まる原因は、「品質」というものが抽象的なままでは解決可能な問題にはならないからです。実際のところ、抽象的なままの問題のほとんどにこの性質があります。解決したいならば、具体的にしなければいけません。このケースにおいてこれをするのは厄介です。なぜなら、バグがまったくないソフトウェアをすべてのバージョンで作ってきたソフトウェア会社などないからです。ゼロが無理だとしたら、バグがいくつあれば多すぎると見なすのでしょう? 取っかかりとしては、自分がよくわかる形に置き換えることが最善の方法です。これは場合によっては、より定性的な議論に移ることになります。例えば、あなたがよくわかるバグを3つ選び、それを例として使いましょう。それらがなぜ特に有害なのか説明し、自分のできる限りで分類してみましょう。幹部に、そのようなバグが入ったまま出荷してはいけないこと、またもし出荷されてしまったなら会社はそれらが解決されるまで放置してはいけないことを理解してもらいましょう。それから具体的な行動を依頼します——あなたが定義した分類の中で残っている未解決のバグの正確な数、またいつまでに直せるかを報告させましょう。そして、今後仕組みとしてどのように改善していくか、提案書を提出するようお願いしましょう。最後に、その件を優先案件とするために、あなたがどんな犠牲を払うつもりがあるかを伝えましょう(スケジュール、機能等の点で)。具体的に落とし込むことでチームにとって解決できる問題となるので、チームの意欲も向上します。また、あなたがこの件を非常に真剣に捉えていることも明確に伝わります。

問題が部門間をまたぐものであるとき

営業担当者たちが見込み客不足に関していつも文句を言っているとしましょう。あなたには、彼らが映画「摩天楼を夢見て」のジャック・レモンのように感じられます。しかしマーケティング部門長に話を聞くと、マーケティング部門では見込み客獲得目標の150%を達成していることがわかりました。どうしますか?多くの問題が考えられます——見込み客の定義が違う、ターゲット顧客像が違う、誰かがウソをついている、等々。それぞれを解決したい誘惑にかられますが、自分で解決する誘惑には抗いましょう。その代わり両方の幹部に同席させ、両者間で合意してもらう必要があることがあると伝えるのです。例えば見込み客の共通の定義、任意の見込み客が条件を満たすかどうか判定する方法、そしてマーケティング部門長と営業部門長の二人ともが納得できるようなマーケティング部門長の次の四半期の目標について等です。明確な期限を与えた上で、言い訳は一切受け付けない、士気が下がった営業担当者があふれている状態を見過ごすわけにはいかない、と伝えるのです。プレッシャーを与えましょう。

理論上の「オーナー」がいない

問題のオーナーがいない、言い換えれば「誰の問題とは言えない」ときもあります。この2四半期で顧客のチャーン(解約)が増加しています。重要な問題であり、放置すればミッションクリティカルになりかねません。でも現時点で、会社にとって最重要事項ではありません。CEOによる問題の先送りをさらに促進することとして、これがカスタマーサポートの問題なのか、営業の問題なのか、サービスの問題なのか、製品品質の問題なのか、この4つすべての組み合わせなのかがわかりません。現実にはおそらくCEOの問題でしょうが、それが会社の最重要事項ではない場合、CEO個人に解決させようとするのは最善の方法ではないかもしれません。ではどうするか?理論上誰の問題かとは関係なしに、委任する人を決めるのです。このケースでは、営業部門長に委任するのがよいかもしれません。なぜなら、この問題を解決する動機は営業部門長にとって最も強いはずだからです——これが解決されない場合、営業部門長は、数字を達成するためにこれまで頑張ってきた取引をやり直さなければならなくなるためです。解約されたアカウント1件1件を深掘りし、根本原因を分析し、チームに定期的に報告するよう求めましょう。根本原因が特定されたら、部門間で共有する問題解決プランを提案するよう求めます。

これは色々な面で不完全な戦略です。問題は単に、営業の見通しがまずいことにあり、部門長がそれをごまかそうとするかもしれません。グループ間の関係が悪く、横から言われることを聞きたがらないかもしれません。あるいは営業部門長がエンジニアリングやカスタマーサポートでできることをよく把握できていないかもしれません。確かに不完全ですが、何もしないよりははるかにマシなのです。CEOが抱えるものが多すぎてプレッシャーを与えることをしない場合、得てしてこの「何もしない」という状況になりがちです。

委任した幹部が突き返してくる

あなたの会社のエンジニアリングスケジュールは予測不可能で、エンジニアリングのスループットも芳しくないため、あなたはエンジニアリングのVPに問題解決を求めます。VPはこんな反論をします:「スケジュールがどんどん押していくのは、プロダクトマネジメントチームが優先事項をしょっちゅう変えて、エンジニア達を複数プロジェクト間で行ったり来たりさせるからですよ」。あなたは言います:「そうですか。ではプロダクトマネジメントチームと話をして、やめさせるように言います」。プロダクトマネジメントのVPは返します:「やめるのは構いませんが、大型案件をまとめて四半期の目標を達成するには、やらなくてはいけないこともあるわけですからね」。営業本部長に話せば、こう返されます:「私に目標達成させたいのですか、させたくないのですか?」。

このケースでは、全員が十分にエンパワーされていないため、正しい意思決定をしてあなたが求めるものを提供することができないのです。委任のカギはより良いエンパワーメントです。単にエンジニアリング本部長にすべてのことに「ノー」と言える力を与えることもできますが、その場合売上予測を逃し、さらに大きな問題を抱えることになるかもしれません。より良いアプローチは、変更プロセスを正規化することです。プロジェクトの開始以降、その定義、リソース、優先事項、スケジュールを変更することは可能だけれども、そのためにはすべての関係者とCEOとの正式な会議が必要だと言えばよいのです。会議では、すべての変更点とそれによりもたらされる結果が議論され、決断が下されます。そのようなプロセスを導入すると、変更の件数が著しく減ることに気づくでしょう。変更を難しくするだけで、数値目標を達成するための他の方法を考えるよう、チームにプレッシャーを与えることができるのです。

この時点では、エンジニアリング本部長が自分の運命をコントロールできるほどのエンパワーはしていませんが、チームがあなたの求めるものを提供できる程度にはエンパワーできていることになります。

幹部の評価にプレッシャーを利用する

創業者のCEOは幹部の評価に悩むことが多いです。「うちのマーケティング本部長が世界レベルに優秀かどうか、どうすればわかるのだろう?自分にマーケティングの経験がないのに」。そんな場合も、多くのプレッシャーを与えることは、幹部を評価する際に自分の勘を研ぎ澄ますのに良い方法です。

もし幹部に常にプレッシャーを与えていても結果が得られないなら、そのポジションの人間をアップグレードする必要性はかなり高いでしょう。そもそも幹部にたくさんお金を払ったり、充実したストックオプションパッケージを提供したりすることの意義は、あなたにかかるプレッシャーを減らしてあなたがレバレッジを効かせられるようにすることです。それができない幹部なら、去ってもらうべきです。他のCEOにとっては優秀な幹部なのかもしれませんが、あなたには合いません。

一方、あなたがどう解決してよいのか見当もつかない問題を、任せた幹部が解決してくれた場合、その幹部は非常に貴重な存在です。

最後に

あなたがもし物事に圧倒され、自分に力がないと感じていたら、おそらく周囲に十分プレッシャーを与えきれていない可能性が高いでしょう。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Ben Horowitz

Ben Horowitz は、Andreessen Horowitz の共同創業者兼ジェネラルパートナーの一人であり、New York Times のベストセラーである Hard Thing about Hard Things の著者です。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Do You Feel Pressure or Do You Apply Pressure? (2014)

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