スタートアップのマネジメント (Startup School 2014 #15)

Samからこの講義に関するメールをもらった時、彼は「Ben、マネジメントについて50分の講義をしてもらえますか」と尋ねてきました。私は即座に、「ちょうど300ページのマネジメントに関する本を書き上げたばかりだけれど、あの本じゃちょっと長すぎるな」と考えました。

私には300ページの内容を50分に要約する時間がありませんでした。私はMark Twainのように短い手紙を上手に書く時間がなかったので、長い手紙を書こうと思いますが、この講義ではマネジメントに関する1つのコンセプトのみをお伝えしようと思います。

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多くのCEOが他の何よりもこのコンセプトで失敗しています。それは、彼らが駆け出しの頃から大企業のトップになるまでずっと同じです。まさに「言うは易く行うは難し」ということです。

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このコンセプトを音楽の世界で表現したのがSly & The Family Stoneで、「俺だって正しい時もあるし、間違う時もある。俺の信念は歌の中にある。どんな群れの中にいようと変わりはない」と歌っています。

本日の私の講義の内容はこの楽曲に集約されています。音楽好きな方はここで退出してくださっても構いません。

重要な意思決定をするときには、すべての人の視点で理解すること

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重要な意思決定をする時は、それがどのように解釈されるかをあらゆる視点で理解する必要があります。あなた自身やあなたが話をしている相手の視点だけでなく、その場にいないすべての人の視点で理解しなければなりません。

つまり、重要な意思決定をする時は、その決定について全社的な視点を持てるようになる必要があります。社員一人一人の視点を理解し、それを自身の視点に織り込んで考えなければなりません。

そうしなければ、あなたが行う経営上の意思決定は厄介な副作用を生み出し、危険な結果をもたらす可能性があります。これを実践するのは困難です。なぜなら、多くの場合、あなたはすさまじいプレッシャーの中、意思決定をしなければならないからです。

今日の授業内容

本日の講義内容を説明しましょう。

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私は今日4つのアジェンダを用意しています。1つ目は降格です。これは非常に感情を伴うものです。2つ目は昇給です。これも感情が絡むものです。3つ目はSamのブログ投稿を検討します。このことはSamにも言っていません。300ページの大作を書き上げたばかりの私を、50分の経営に関する講義に招いたことへの仕返しです。

そして最後に、実は私が今着ているTシャツの人物なのですが、歴史上もっとも偉大なこのコンセプトの実践者についてお話しします。さらに、このコンセプトを活用して人類の歴史上で彼が初めて成し遂げたことについてお話します。いわば彼は、私がこれからお話しするテクニックを完璧にマスターした人物です。

では、早速ビジネスケースを考えましょう。

降格か、解雇か

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あなたの会社に一人の役員がいます。彼を降格させますか、それとも解雇しますか。これは実際にあった会話で、あるCEOとともに対応した実際の状況に基づく話です。

概要を説明しましょう。

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そのCEOの会社には自ら採用した優秀な役員がいました。彼は社内の誰よりも懸命に働き、自分がすべきすべての仕事を遂行していました。彼は一生懸命仕事をし、基本的には優秀な人間だったので、社員全員から好かれていました。

しかし、彼は自分の能力が追い付いていない状況に陥っていました。彼には会社から求められる仕事を遂行できる、あるいは競合他社を相手に真に張り合えるような知識やスキルがなかったのです。その役員をこのまま現職にとどめておくことはできませんが、彼は人間的には非常に好ましい人物なのです。

そこで問題となるのが、彼を解雇するか、あるいは降格させ彼の上に誰かを置くかということです。なかなか興味深い問題ですね。皆さんならどのような決断を下しますか。

自分の視点

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皆さんはCEOの立場で考えてください。相手が毎朝6時に出社し、夜の10時まで社内の誰よりも懸命に働く人間だとしたら、実に困難です。「よく頑張ってくれているが、努力だけではAを付けることはできない。残念ながら、君はF評価だ。なぜなら、私は君を解雇するのだから」と言うのは実に難しいことです。

誰もそんな会話をしたくありません。CEOの視点から言えば、降格は都合がいい方法です。なぜなら、彼を社内に残しておくことができるからです。彼は一生懸命働き、その仕事ぶりは他者のお手本になるからです。彼は社内に友人も沢山おり、企業文化の観点からすれば、彼は会社に残れるのですから、win-winの決断と言えます。CEOは誰か別の人を雇ってその役員が出来なかった問題を解決してもらい、新たな問題を作る必要はありません。

役員(解雇対象者)の視点

これを役員の視点で考えてみましょう。

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「降格はごめんだが、解雇は絶対に避けたい。解雇されたら、次の会社でその理由を説明するのが降格よりかなり面倒になる。降格は、実は降格ではないのだ。私は、新しい仕事と、これまでよりは小さな役職を与えられるだけのことなのだ」といった具合です。

理論的には、最終的に企業は全社員を評価するということです。企業は人を採用し、雇い主として社員となった彼らにコミットし、彼らが会社とともに成長していけるようにします。

CEOと実際に交わした会話を紹介しましょう。

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私は「1つ聞いていいですか。その役員が保有しているエクイティパッケージはどれくらいですか」と尋ねました。「どういう意味ですか」と彼は言いました。そこで私はこう続けました。「直接的な報酬水準を知りたいのです。彼の報酬はヴァイスプレジデントレベルですか。彼の持株比率は1.5%ですか。0.4%ですか」。

CEOは少し考えて「彼の持分は完全希釈化後の割合で1.5%だ」と答えました。

それに対し、私はこう言いました。「なるほど。では、あなたが会社のエンジニアだとしたら、持株比率1.5%で迎えられたセールス部門のトップだった者をどう思いますか。エンジニアの持株比率はどれくらいですか。0.1%ですか。0.2%ですか。エンジニアはどれくらいもらっているのですか。もはやセールス部門のトップではないが1.5%の株を持っている人間をエンジニアはどう思うでしょうか」。

「おっと」とつぶやく彼に私は、次のように問いかけました。

「困った事態ですよね。これは公平と言えますか。CEOであるあなたは彼の持株を取り上げますか。あなたにそれができますか。彼の報酬を取り上げることができますか。報酬を取り上げられた彼の生産性はどうなると思いますか。そして、彼が降格させられたことを知った他の社員は、彼に対してこれまでと同じ敬意を払うでしょうか。『あなたはこれまでセールス部門のトップだったが、今はリージョナルマネジャーじゃないか。それなのに、あれをしろ、これをしろと私に命令するのか。電話をしろと言うのか。あなたは降格させられたのに、よくそんな言い方ができるものだ。私は前途有望で、次のセールス担当VPになるんだ』と思うでしょう」。

決断が意味することを多面的に考える

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こうしたことすべてが影響してくるのです。このような問題に直面する時、1人を相手にしていると考えるかもしれません。1人の人間を降格させるか解雇するかという話だと思うかもしれません。その1人にとってこれは何を意味するのでしょうか。

しかし、CEOが実際にしているのは、言わば「エクイティの視点から、特に社内最高レベルの報酬を受けている仕事に失敗するとはどういう意味なのか。そして、自分のエクイティを維持するために必要なことは何か。ただ努力すればよいのか。あるいは結果を出せばよいのか」と考えることなのです。

その答えは状況やレベルによって異なるでしょう。これが外部から連れてきた役員でなく、CEOがそれに値する者として過去に昇進させながら株式を与えられていない人物であったら、決断は違っているかもしれません。

しかしCEOは、自分が相手にしている人物にとってだけではなく、全員にとってそれが何を意味するかを理解する必要があります。

優秀な社員の昇給をするか、しないか

2つ目のアジェンダに移りましょう。

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非常に有能な社員が昇給を求めています。1つ目のケースの社員と異なり、優秀な社員です。あなたは次のように考えます。

自分の視点

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「彼は実に優秀だ。何の理由もなく昇給を求めてきたのではない。自分は昇給に値すると思ったから言ってきたのだ。彼にはここで働き続けてほしい。私は公平でありたい。彼はいい仕事をしている。昇給させれば喜んでくれると私には分かっている。昇給させたぞ。すごいだろう。」といった具合です。

CEOとしては、昇給を求めてきた者には応じたいと考えるでしょう。

昇給を申し出た社員からの視点

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では、彼ら社員の視点ではどうでしょうか。給料を上げてもらったらどう思うでしょうか。

CEOが覚えておくべきは、彼らが昇給を願い出るに至ったのは、ある朝起きて「今日出社したら昇給を申し出よう」と思い付いたわけではないということです。

こうしたことは十分に考え抜いた末に行うことです。他の選択肢を熟考した上での行動です。他社からのオファーがあったのかもしれません。配偶者に以前から言われていたのかもしれません。

これは非常に大事な話です。昇給させれば、相手はものすごく喜ぶでしょう。「どうして給料を上げてくれたのだろう」と猜疑心を抱くかもしれませんが、その可能性は非常に低いです。多くの場合はこんな感じになるでしょう。

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(「シュマネーダンス」の動画を再生)

知らない方のために説明しますと、これはBobby ShmurdaとRowdy Rebelがシュマネーダンスをしている動画です。これが昇給した社員が見せる反応です。「Sheryl Sandbergの本を読んでリーン・イン(一歩踏み出す)してきた彼らを報いてやろう」と言いたくなる場面は沢山あります。

ちなみに、あの本には実に素晴らしいアドバイスが書かれています。私はSherylをけなしているのではないので、誤解しないでください。

ほかの社員からの視点

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しかし、昇給を求めなかった社員の視点から考えてみる必要もあります。昇給を求めなかった社員は求めた社員よりもよい仕事をしているかもしれず、その心中では、「自分は昇給を求めず、実際に昇給しなかった。連中は昇給を求めて、実際に昇給した。これはどういう意味か。まず、このCEOは社員のパフォーマンスを評価していない。昇給を求めてきた者を昇給させているだけだ。そうなると、自分の選択肢は2つに1つだ。1つ目は、本意ではないが、昇給を求める社員になることだ。自分はやるべき仕事をしているのであって、必ずしも昇給を求めたいわけじゃないのだが。2つ目は、辞表を出してきちんと社員のパフォーマンスを評価してくれる別の会社に行くことだ」と考えるでしょう。

このCEOは、昇給してもらえない社員に不快な思いをさせているだけなのです。社内で「シュマネーダンス」をしている者がいたら、完全に他の社員に勘付かれていると思ってください。

彼らは昇給したことで舞い上がることでしょう。「君を昇給させることは他言無用で」と言っても、内緒にしておくことは決してできないのです。

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ここで得られた文化的結論は、「自分には家族に対する受託者責任があるから、常に昇給を求めていこう。そうしなければ、得られたであろう昇給を逃してしまうかもしれない」と社員全員に思わせてしまうということです。

経験豊富なCEOに話を聞けば、そのとおりだという答えが返ってくるでしょう。社員が昇給を求める時に昇給させれば、多くの社員がそうするようになるでしょう。これが奨励的行動というものです。

プロセスが文化を守る

では、CEOはどうすべきなのでしょうか。

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正解は、自社の文化を守るためには形式的になる必要があるということです。

この話をすると、スタートアップ経営者の多くは次のように言います。「形式やプロセスばかりなのはごめんだ。有機的な会社にしたい。ヨガをやりたいし、オーガニックなマリファナだけを吸いたい」。失礼しました、これではまるでPeter Thielですね。Peterは少し前にマリファナを吸っているとして大きな話題になりました。

しかし、実際のところ、そのプロセスが文化を守るのです。プロセスに基づいていれば、私たちはあらゆるインプットを把握し、昇給を求める者に「昇給するつもりはないがあなたの話はぜひ聞きたいので、話しに来てください」とフォーマルな回答をすることができます。

社内の全員と話をすれば、彼らを理解できます。社員のあらゆる仕事を評価できます。つまり、自分が何を評価しどんな意見を持っているのか理解できます。

これは定期的に行うもので、日常ベースで行うものではありません。こちらの準備が素早くできるのであれば、半年毎か四半期毎でもいいでしょう。そして、こうしたプロセスが完了した時点で、昇給の有無を知らせますが、このサイクル以外での昇給は行いません。本人の申請に基づく昇給は行いません。所定のプロセスに従い、それ以外には行わないということです。

かつて私がCEOで多くの役員を擁していた時、会社が大きくなるほどこうしたプロセスを実行することは困難になりました。なぜなら、会社の成長とともにあなたの部下は強気になっていくからです。往々にして、役員になるからにはそれなりに強気である必要があります。大半の会社では、それが役員に上り詰める方法なのです。

私はこんな風に言うでしょう。「プロセスが完了した後に、いつ、何を訴えてきても構いません。私はあなたに見合った分、昇給させますが、その理由が分かりますか。私はそうした訴えに耳を傾けません。すでにプロセスに基づいて決定したからです。あなたに関する情報、そして社員全員の情報はインプットされています。私は多くの社員を擁し、多くのお金を扱い、私が適正と考えるものを社員に与えるのみです」。

プロセスの存在は社員に安心を与えます。なぜなら、いつも悶々とする必要がなくなるからです。例えば、「私は自分に見合ったものを求めているか。自分の能力を評価されているのか。自分はどのように見えているのか。私はCEOの親友ではない。一緒にゴルフをしたこともない。CEOが求めることをしていないのではないか」。

そこで、「会社にはプロセスが存在するのだから、自分がそうしたことに煩わされる必要はない。会社は評価に基づいて社員に公平な処遇を与えるのだから」と納得することができるからです。これがこの問題へのより適切な対処法です。CEOは自分に直接訴えてくる者だけでなく、社員全員の考えていることを把握しているということです。

ストックオプションの行使

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ではここで、皆さんお待ちかねのSamのブログ投稿の考察に移りましょう。非常によいことも書かれていますし、議論してみたい点もあります。

彼の投稿の抜粋です。

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「大半の社員にとって、退職後のオプション行使期間は90日しかない。ここで問題となるのが権利行使価格と行使した年の税金を支払うだけの資金が必要となるということだ」。

これについては後で説明するとして、まず最後まで読んでみましょう。「これは社員が保有するキャッシュよりも多額であることが多い」。

ここが重要な点です。往々にして、社員はオプションを行使できないために会社を辞めて確定済みオプション、すなわち確定している報酬を手放すか、そうした間違った理由で会社に残るかの選択を迫られるわけです。

これは、社員が解雇されるケースでは特に悪い状況です。後でまた触れますが、これは本当に重要なポイントです。

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ブログではさらに、「これは公平な話とは思えない。私はQuoraを創業した「天才的起業家」Adam D'Angeloが考案した最適なソリューションを聞いたことがある。『オプションは付与日から10年間行使可能とする』というアイデアで、これはほぼすべてのケースで有効なはずである。しかし、これには注意を要する幾つかの問題が潜んでいる」といったことが書かれています。

ブログでSamは、「それでも、資産を失うよりは遥かによい話である。これはすべてのスタートアップが採用すべき方針であると私は考える」と締めくくっています。

Samは正しかったでしょうか。すべてのスタートアップが採用すべき方針でしょうか。

まず、この方針がどういうものなのかをもう1度説明させてください。現状、スタートアップで見られるほぼすべてのストックオプションパッケージは次のような仕組みになっています。

社員は一定の期間にわたり株式を付与されます。会社により異なりますが、退職時の行使期間は90日です。そして、その期間中に株式を購入しなければ、株式購入の権利は消失します。自分のものではなくなるわけです。

これは、入社時期によっては、大きな問題になる可能性があります。AirbnbやUberなど、バリュエーションが高い企業の多くは、社員採用時に「希望価格と比較した409A(米国内国歳入法典第409条A項)評価価格では、あなたに付与するオプションはすでに1,000万ドルの価値があります」と伝えます。雇われる方も、「1,000万ドルですって。私も金持ちの仲間入りだ」となります。

ここで会社側が必ずしも教えてくれるとは限らないことがあります。それは、その金額を手にするためには、希望価格が1,000万ドルであるため、社員は退職時におそらく250万ドル必要になるということです。90日以内に250万ドルを用意できなければ、すべて失うということです。受け取れたであろうお金が消えてしまうわけです。Samは、こんな酷い話があるかと考えたのでしょう。そして、皆このルールを変えるべきだとブログに書いたというわけです。

まず誰もが疑問に思うことは、「80年代に始まったこんなルールがなぜ30年も続いているのか」ということです。Samがこれを分かっていたのか、単に直感に基づく発言だったのかは私には分かりませんが、彼は正しかったのです。

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実際、変化がありました。2004年までは、APB(会計原則審議会)意見書第25号「従業員に発行される株式の会計処理」という法律が存在しました。これはストックオプションを規定する古い法律です。あらゆる人を刑務所送りにした法律でもあります。私はAPB意見書第25号違反で実際に逮捕された人を沢山知っていますので、廃止されて本当によかったと思っています。これは非常に紛らわしく分かりにくい法律で、多くの人が内容を理解しておらず、本当に刑務所行きになりました。

この法律が存在していた時代に行使期間10年というオプションを設定していたら、その会社が上場したり買収されたりすることはあり得なかったでしょう。なぜなら、株価と連動した費用が発生するからです。株価が上昇するほど計上すべき報酬費用が増えるのです。

そして最悪なのは、その費用がどの程度になるか分からないことです。まったく予測不可能なため、収益予想もできません。収益は株価と相関するため、それを予測することは無理な話だったのです。株価が上昇するほど多くの費用が掛かる仕組みでした。

その当時、ストックオプションの費用は誰も知り得ない測定不可能なものでした。そのため、契約上の行使期間は例外なく90日に設定されていました。これがそもそもの始まりです。

ですから、このような法律が存在した理由を疑問に思うことはまったく正しいことです。皆さん、講義についてきていますか。理解していますか。これは最初の2つのアジェンダより複雑な内容ですが、非常に重要です。

あなたの視点

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この問題をCEOの視点から考えると、社員を抱えている場合は公平でなくてはなりません。採用した相手に「あなたは4年後に株式を受け取れます。なんて、冗談ですよ」と誰も言いたくありません。特に誰かを解雇する時に、「君はクビだ。実に残念だが、他にも話はある。君の報酬も取り上げるからね」と言いたい人など誰もいないでしょう。

これは実に問題です。そしてCEOが心に留めておくべきことです。

会社を去る人の視点

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会社に残る社員について考えるべきであり、彼らに報いる必要があります。退職する社員の視点で考えれば、これは非常に重要です。なぜなら、これはCEOの名声に関わる話だからです。

「自分が1年働いたとして、その間の報酬はどこにあるのか。行使期間は90日間なんて聞いてなかったぞ。ストックオプション契約書に小さく書いてあったことは覚えているけれど、採用担当マネジャーからは何の話もなかった。ストックオプションを行使するために200万ドル必要なんて一言もなかったし、そんな大金は持っていない。自分が金持ちならオプションを行使できるのか。そんなの不公平だ。自分は解雇された上に騙されたのだ。一体どうしてやろうか。自分がいかに食い物にされたか、皆にぶちまけてやろう」となるでしょう。これはあなたの名声に関わる大きな問題で、方針として検討すべき問題でしょう。

会社に残る人の視点

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さらに、会社に残る社員についても考える必要があります。彼らが自問するであろうことの1つは、「会社を辞めるほうが賢いのか」ということです。

社員というものは、あなたを理解している以上に互いのことを理解しています。どんな会社でも同じです。往々にして、実際に一緒に働いている人のほうが互いをよく理解しているものです。そういう相手が退職するとなれば、「自分も会社を辞めるべきなのだろうか。みんなは何をもらったのか。自分の契約と何が違うのか」と考えるでしょう。

状況の分析

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こうした状況に注目し分析しようとするなら、多くの要素が存在します。第一に、ここシリコンバレー周辺の企業では平均約10%という多くの人間が退職しています。これは特にサンフランシスコでは、その文化ゆえに更に高くなるでしょう。

シリコンバレーの企業では社員向けストックオプションのために年間6~8%程度、ともすれば10%の希釈化が起きています。社員が退職して自分のストックオプションを行使できない場合、それらのオプションは会社のオプションプールに戻って在職中の社員に与えることができます。つまり実際にはさほど希釈化されていないということであり、心に留めておく必要があります。

これはCEOが考慮すべきことです。これに対し何かを実行すべきだと言っているわけではなく、考える必要があるということです。

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第二に、自分に付与された株式をすべて失うというのは会社に残ろうとする非常に大きな動機となります。これにはよい面と悪い面があります。

よい面は、失ったかもしれない人間を自社に留めておけることです。悪い面は、実に不適切な理由で社員を残留させてしまうことです。彼らは黄金の手錠(特別優遇措置)でつながれているのです。あるいは、いないほうがまだましな社員が残留してしまう可能性があります。

一方、ボラティリティが大きい株式の10年のオプションには価値があります。これに関する講義を受けた方は分かると思いますが、ボラティリティと期間こそがオプションの価値を決定するのです。

スタートアップ株式に10年のオプションを設定することは価値がありますが、会社に残る社員はオプションを手にすることはできないことは肝に銘じる必要があります。会社に残る社員が受け取るのは株式のみです。新しい仕事と新しい株式の両方を受け取ることはできません。どちらか1つだけで、両方は手に入れられないのです。

CEOはこの点を熟慮する必要があります。これは難解かつすべての企業が再評価すべき問題です。私はSamのように「すべての企業が採用すべき」とまでは思いませんが、CEOは何が必要かを考えなければなりません。

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では、私から2つの新たな企業文化にかかわる主張を提示しましょう。

1つは、率直な姿勢で社員に向き合うことです。私たちは公平さを重視するゆえに、行使期間10年のオプションをあなたに提供します。あなたが金持ちであろうと貧しかろうと、提供すると約束したものは提供します。すでに決まったことです。

2つ目は、これはどの企業もやっていないので、私がSamの投稿を気に入った理由でもあるのですが、社員に率直に話すことです。つまり、「あなたの給料は会社から保証されていますが、株式を意味あるものにするには、株式を付与され、イグジット、つまり会社が成功するまで会社に留まる必要があります。そうすれば給料以外の報酬を受け取ることができます」と社員に率直に言うことです。

最後に、企業は実際に何らかの価値を有している必要があります。なぜなら、ゼロの10%はゼロだからです。こうした方針を掲げる理由は、私たちは会社に残っている人々を重視するからです。18か月後に転職を予定している人は求めていません。私たちの方針では、そうした人々の人生は確実に狂わされることになります。

以上がこの問題に対処する2つの方法です。これはCEO自身とCEOがどのように企業文化を確立させたいかに大きく左右されます。これらの点を踏まえ、あらゆる人間の視点から考えることが不可欠です。なぜなら、いざという時にはそれが非常に重要になるからです。自分の会社の行く末を左右するからです。

Sam
実を言うと、あのブログを書いた時から考えが少し変わりました。

Ben Horowitz
どんな風にですか。

Sam
会社に残ってもらうにはさらなるインセンティブが必要だと思います。解雇された者もやはり人生を大きく狂わされることになると思うからです。

Ben Horowitz
Samが指摘したように、もう1つ重要なポイントは、社員がどれだけの資金を持っているかです。資金があればオプションを行使できるので、人生を狂わされることはありません。何らかのリスクはありますが、株式は購入できます。お金がなければ、オプション報酬は得られません。

ハイチの革命の実行者

では、私のTシャツに描かれている人物、Toussaint L'Ouvertureの話に移りましょう。

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彼は、本日お話ししたことに最も長けている人物でした。いくつかの非常に有用な事例を一緒に見ていきましょう。

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Toussaintは生まれながらの奴隷でした。しかも、単に奴隷として生を受けたというだけでなく、現在はハイチ共和国として知られるフランス植民地、サン=ドマングという奴隷にとってはもっとも過酷な場所で生まれました。

サン=ドマングにおける奴隷制度は、歴史的にも非常に野蛮な奴隷制度を敷いていた砂糖栽培地域や後の米国よりも更に苛烈なものでした。数字を挙げて説明しましょう。米国では、奴隷制度が続いたおよそ400年間に100万人の奴隷が連れて来られ、奴隷解放時には国内に400万人の奴隷がいました。同時期、カリブ海に位置する砂糖を栽培する国々では200万人の奴隷が連れて来られ、奴隷解放時にはわずか70万人の奴隷が残っていただけでした。

数の面から言えば、約10倍過酷だったわけです。皆さんに聞いてもらいたい一節があります。時間があるかは分かりませんが、構いません。これから読み上げるのは、Toussaintがいた地域の奴隷制度を描写したものです。

鞭打ちが中断されたかと思うと、奴隷の尻に熱した木片が当てられた。塩、コショウ、柑橘類、燃えカス、アロエ、熱い灰が出血している傷口に流し込まれた。手当のためではなく、さらなる苦しみを与えるために。身体部分を切断することは日常茶飯事だった。四肢や耳、時には彼らにとって無償の娯楽である性行為に耽ることができないように陰部も切断された。主人は熱した蝋を奴隷の腕や手、肩にぶちまけた。煮えたぎった極上の砂糖を頭に注いだ。生きたまま火をつけた。弱火で火炙りにした。体に火薬を詰め、マッチで火をつけ、爆死させた。首まで地面に埋めて、その頭に砂糖を塗りつけ、集まってきたハエが頭部を舐め回すようにした。蟻や蜂の巣に閉じ込めた。排泄物を食べさせ、尿を飲ませ、他の奴隷の唾液を舐めさせた。ある開拓者は、怒った時には奴隷に馬乗りになり、その肉体に噛みつくことで有名だった。

彼はこうした奴隷制度の中で育ちました。こうした背景を理解することは実に重要です。なぜなら、奴隷という視点から脱却するのは容易ではなかったからです。

しかし、Toussaintは3段階のビジョンを持っていました。まず、奴隷制度を終わらせる。次に、国の実権を握って支配者となる。そして最後に、自国を世界に認められる国にするというものでした。

彼が考えていたのは単なる奴隷解放ではなく、世界に伍する国作りでした。私がお聞かせした話で、彼の生まれ育った環境を理解いただけたと思います。

敵に勝つこと

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経営の教訓となるのは、敵に勝つということです。ハイチで起きた一連の戦いでは、Toussaintはまず現地人との戦いに勝利し、次にハイチ制圧にただならぬ関心を寄せていた国々、主にスペイン、英国、フランスの軍隊も退けなくてはなりませんでした。それらの国に勝利した彼は、戦いに敗れた敵の兵士や指導者の処遇を考える必要がありました。

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そこで彼は、3つの異なる視点、すなわち自軍兵士の視点、敵の視点、結果として醸成される文化の視点を考慮しました。彼はどんな国を作ろうとしていたのでしょうか。彼が率いる軍隊が国の文化醸成におけるトウモロコシの種の役割を果たそうとしていました。

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まず、自軍兵士の視点です。略奪は許されるのでしょうか。兵士は好んで略奪します。彼らの仕事のようなものです。次に、敵が我々を殺そうとしているのなら、その敵を殺さなくてはならない。これがToussaint率いる兵士、彼にとってもっとも重要な人間である兵士の基本的視点です。

私は略奪を例にしましたが、私が挙げなかったけれど知っておくべきことの幾つかにレイプがあります。非常に興味深いことに、Toussaintは自軍の兵士によるレイプを認めなかっただけでなく、将校が自分の妻を裏切ることも認めませんでした。Toussaint率いる軍では、浮気をした将校は排除されました。なぜなら、彼はその後醸成される文化を懸念していたからです。

彼の思考は、どんな文化が生まれるか、生産的な文化になるだろうか、世界一の文化になるだろうか、それともそれより低いレベルの文化になるだろうか、ということに向けられていたのです。

実際、Toussaintの軍は略奪をしないことで知られていました。彼らにとって、それはすでに習慣となっていました。これは戦いに敗れた側にとってもっとも驚いたことの1つで、戦いに勝利して都市に進軍しながら略奪をしなかったことは白人をも感心させました。

繰り返しますが、これらは彼が文化というものを長期的視点で捉えていたことによるものでした。

これは重要かつ複雑なポイントです。

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Toussaintは、奴隷文化であり砂糖プランテーション文化であるハイチの文化は、彼が欧州人との交渉で経験した欧州の文化と比較してかなり劣るものだと考えていました。そして、命令に従わない者は殴り殺されるか、火薬で吹き飛ばされるという奴隷文化はハイチの文化より更に理不尽なものだと考えていました。

当時まかり通っていたこうしたことこそ、彼が変える必要があった文化だったのです。彼はこの文化をグレードアップする必要があると理解していました。

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英国やスペイン、あるいはフランスに勝利した時にToussaintが採った解決策は、敵軍の優秀な人間を自軍の将軍にすることでした。奴隷革命を率いる人間が自分を殺そうとしている敵に勝利した時、敵将を自軍の一員として受け入れるなどという発想をする人はおそらくいないでしょう。彼が求めていたのは、専門知識でした。そして、更に高いレベルの文化だったのです。

奴隷所有者の扱い

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Toussaintが抱えていたより複雑な2つ目の問題は、奴隷所有者をどうすべきかということでした。奴隷革命を率いて国を掌握した後、奴隷所有者をどう扱うべきでしょうか。

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ここで再び3つの視点で考えましょう。

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奴隷の視点からすれば、当然のことながら奴隷所有者を殺したいと思うでしょう。土地は自分たちのものです。戦いに勝ったのですから。

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Toussaintの視点から考えれば、事態はより複雑です。なぜなら、彼はハイチを世界的な一流国にしたいと考えており、そのために砂糖は実に重要でした。奴隷経済は総じて砂糖経済でした。

その一方で、奴隷であった彼は、しかも前述したような過酷な環境にいた彼は激しい怒りを覚えていたはずです。しかし、彼は砂糖プランテーションを経営する術を知らず、砂糖の取引相手とのビジネス上の関係もありませんでした。

では、何をすべきでしょうか。

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奴隷所有者の視点からすれば、実に興味深いものとなります。Toussaintにはそれが理解できたのです。彼らは奴隷を前提とした労働を基盤とするコスト構造を構築していました。彼らのビジネスは奴隷による労働無くしては成立しないものでした。労働者に賃金を支払わなければならなくなったら、彼らのキャッシュフローは破綻するでしょう。

彼らはまず奴隷に、次に土地を買うために大金を払っていました。彼らにとっては、それがビジネスの仕組みだったのです。経済を根本的に変えてそれが機能するということは考えられません。自らの立場に基づいて権力を持っていることを彼らは理解していたのです。

では、奴隷所有者の処遇はどうなったのでしょうか。

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解決策は、第一に奴隷制度を終わらせる。第二に、奴隷所有者にこれまでどおりの土地所有を認める。そして最後に、奴隷所有者は労働者に報酬を払うというものでした。

奴隷による労働はもはや存在しません。そこでToussaintは、砂糖栽培の資金を捻出するため、奴隷所有者の税金を引き下げました。Toussaintのこのような発想に皆さん感心しているのではないでしょうか。

奴隷所有者を倒した後に彼らの税金を引き下げて、奴隷制度を終わらせたのです。しかし、Toussaintが抱いていた更に大きな目標は、より強固な文化の醸成でした。彼が奴隷所有者にこのような対応をしたのは、ハイチを経済的に前進させ続ける必要があると考えていたためでした。

では、その結果どうなったかを見てみましょう。

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まず、Toussaintの革命は人類歴史上、唯一成功した奴隷革命です。成功した奴隷革命はそれ以前にもありませんでしたし、奴隷制度がこの世に出現しないことを願い、今後も起こらないでしょう。それを成し遂げたのが彼だったのです。

次に、プランテーション所有者は引き続き土地を所有することができました。さらに、彼はNapoleonに勝利しました。急成長する経済と世界に通用する文化を作り上げました。Toussaintが率いるハイチは米国を上回る輸出収入を得ていました。こうしたことが彼の起こした革命の成果でした。

自分の視点だけでなく、自分が嫌悪する人間も含むあらゆる構成員の視点から状況を見ること。これをCEOの立場で行うのは非常に困難です。もしあなたが革命を指揮しているのだとしたら、更に困難なことだったでしょう。

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最後に結論を要約しましょう。皆さんが学び得るもっとも重要なこと、そして成し遂げるのがもっとも困難なことの1つは、自分の身を律しつつ社員やパートナー、話しかけていない人たち、目の前にいない人たちの視点から会社を見ることです。

ありがとうございました。

Q&A

では、質疑応答に移りましょう。

解雇時にどのような話をするべきか

Q
役員を解雇または降格しなくてはならない時、本人とどのような会話をし、本人以外の社員にはどのように説明すべきですか。

Ben Horowitz
いい質問です。そこに至るまでに何らかの失敗があったことは明らかです。あなたは採用、統合に失敗し、相手は自分の仕事に失敗したわけです。

誰かを解雇する時にまずすべきことは、誠実であることです。自分は失敗したと感じているCEOの一般的な反応は、「君が駄目だから解雇するんだ、出ていきなさい」といったものでしょう。しかし、これはよくありません。CEOはそのように感じているかもしれませんが、これは事実に反しています。

もう1つのよくある間違いは、「君が悪いのではない、私が悪いのだ」というように感傷的になり過ぎることです。これではまるで、本心では好きではなかった元カレとのぎこちない別れ話です。

通常、人を採用する時は最高の人材を採用しようと考えます。その仕事にふさわしい人間を採用します。その人材が仕事で失敗する理由は、CEOが採用プロセスで何らかの失敗を犯し、人材と自社のニーズを十分正確にマッチさせなかったからです。

これが失敗の第一の理由であり、前へ進むための第一歩と言えるでしょう。「こういう事態になってしまったが、決断を下した時の私は、私たちについて、あるいはあなたについて十分に理解していなかった。これが現状であり、私たちは先に進むしかない」とCEOはこのように言うべきです。

社員と話をする時は、また別のアプローチが必要です。CEOは誰かの仕事を取り上げることができ、時には取り上げなければなりませんが、人の尊厳まで奪うことはありません。これは私がBill Campbellから学んだことです。社員全員の前で「あの駄目人間を追い出してやったぞ」と言う必要はありません。

実際、そういった発言は不適切です。誰もいい気分になりません。CEOは自分を誇らしく思うかもしれませんが、他の誰もそうは思いません。

ここですべきことは、解雇した社員にその仕事ぶりを感謝し、他の者には「あの社員は次のステージに行くことになった」と伝えることです。解雇する人間について洗いざらい説明する必要はありません。相手の尊厳を傷つけずに送り出し、新たな人生を送ってもらうことがより重要です。

他の社員とのミーティングでCEOが話すべきことは彼らのよい評判です。なぜなら、次の仕事を探そうとする社員は皆、先に解雇された人間に話を聞こうとするからです。

CEOが解雇する人間に関する罵詈雑言を並べ始めるのはよくないことであり、「お互いが悪かった」ではなく「解雇される人間が悪かった」と解釈されてしまいます。解雇する人間に対しては誠実である必要があるだけでなく、社内の人間と話す時は解雇した相手の尊厳を傷つけないようにする必要もあるのです。

ストレスとの向き合い方

Q
あなたが書いた本を昨日読みました。あらゆるストレスとどう向き合っていたのですか。瞑想ですか。ヒップホップですか。

Ben Horowitz
私は以前は身長193cmのイケメンで、明らかに悪い奴でした。これはよく訊かれる質問ですが、それに対する素晴らしい答えはありませんが、私には今そこに座っている素敵な妻がいます。

Toussaintはそのテクニックを彼から拝借したのですが、より劇的な状況で応用しました。Toussaintの軍には英国人、フランス人、スペイン人、奴隷、ムラート(白人と黒人の一代混血児)がおり、当時のハイチにいたムラートの大半は奴隷制度を支持していました。これはまた別の問題ですが、Toussaintのリーダーシップがあまりに優れていたため、誰もが彼の軍に加わりたがったのです。

かつての敵を迎え入れること

Q
かつての敵を自分の味方にするというToussaintのイデオロギーをどう採り入れているのですか。

Ben Horowitz
基本的にToussaintが行ったことは正しいことでした。誰かがあなたの敵で、その相手を味方につける必要がある時、リーダーとしてあなたがよりよい道を相手に示す必要があります。これはビジネスでも同様です。誰かがあなたの競合者で、その相手を味方にしたいとします。

しかし倫理的に考えると、こちらの会社からあちらの会社へと鞍替えする者は迎え入れたくありません。自社の文化やミッションを高尚なものにする必要があります。自分のやり方をより優れたものにする必要があります。軍隊の兵士はそういう点に魅かれたのでした。

VCとしての文化の作り方

Q
ともに働く社員や起業家の中で、他のベンチャーキャピタル企業と差別化された文化をどうやって作り上げたのですか。

Ben Horowitz
その質問は私よりSamに尋ねるほうがよいでしょう。私には分かりません。他のベンチャーキャピタル企業と差別化されたAndreessen Horowitzの文化をどう作り上げたのかという質問でしたが、間違いなく言えるのは目標だと思います。

私たちの会社は創業して5年ほど経ちます。成功したかどうかを判断するのは世間の人ですが、私たちが目指したのは次のようなことでした。

私が起業家だったVC草創期には、起業家や投資家がある程度まで会社を育て上げたら、自分がCEOになるか、あるいは自分たちの代わりに「会社」を作ってくれるCEOを見つけるかが基本的概念でした。

創業者や投資家は特別な存在であるというのが私たちの文化的理念です。私たちは会社とその文化を設計して創業者がCEOに成長するのをサポートするとともに、多くのシステマチックなことを特別なやり方で行います。

2つのもっとも大きな違いを挙げると、まず1つ目は私たちのパートナーはいずれも創業者かCEOであるという点です。ある種の経験が必要とされるオリジナルモデルです。というのは冗談ですが。

CEOのアドバイザーはCEO経験者であるべきです。想像してみてください。私がSamを好きなのもそのためで、彼もかつてはCEOでした。彼はそのことをあまり語りませんが、優れたCEOでした。

2つ目は、従来のプロフェッショナルなCEOは、自分のネットワークから大企業でテクノロジー導入に携わった人やその分野の重要なパートナー、メディアの人間などを連れてきます。私たちは、そうしたネットワークを社内で構築しようとしています。この試みは誰よりも上手くできていると思います。私たちはこうした手法を通じて他社との差別化を図っています。

他人の立場に立って考えるためのヒント

Q
他者の立場になって考えることは非常に重要ですが、ヒントを幾つか教えていただけますか。

Ben Horowitz
経営の世界で他者の立場になって考えることは困難です。日々の生活でも困難ですが、ストレスだらけの経営の世界ではなお一層難しいことです。優れた社員が昇給を求めてきた時、それに応えられないのは非常につらいことです。なぜなら、CEOはその社員を失いたくないですし、その社員も手当たり次第に申し出たのではなく理由があって昇給を求めているからです。

前進、停止、後退するためのプロセスが導入されていない場合、自分自身で立ち止まる必要があります。自分が重要だと理解していることを誰かが尋ねてきた場合、自分はどんな質問にも答えられると思いがちです。例えば、今皆さんが私に質問をしてその答えを知らない場合は、私は賢い人間と思われたいがためにその場を取り繕ってしまいます。

もっとも重要なことは立ち止まることです。自分が非常に重要と理解していることについて熟考していない場合、「この件は非常に重要なことと認識していますが、あらゆる視点から十分な検討をしたいのでいったん持ち帰らせてください。その後に話を続けましょう」と言うべきです。私はよくそうしています。

なぜなら、CEOはこれまで遭遇したことがない問題に直面することが多々あるからです。私を含め、CEOの多くは痛い目に遭いながらこれを学んでいます。この件はこっそり片付けてしまおう。彼らを昇給させたことは誰にも気づかれていないだろう。私の一存で、秘密裏にやってしまおうということがあっても、3週間後に明るみに出て、「自分は一体何をやってしまったのか」と叫ぶことになるわけです。あるいは3か月後、1年後かもしれません。それが1年後だった場合は、本当に大問題です。

些細な感情的問題だと思っていたことが森林火災に発展してしまいます。私たちはこれをキムチ問題と呼んでいます。深い所に漬けるほど辛さが増すからです。今のはコリアンジョークです。これを正しく行うには鍛錬が必要であり、それは非常に困難です。

私の友人であるBill Campbellはこれを非常に得意としています。Billがどんな人物か私に説明しようとする人が後を絶ちませんが、私に言わせればそれらの人が語るBillの長所は間違っています。

彼が優れているのは、社員の視点で会社のことを考えられることです。これを上手くできる者は、傑出したリーダーになれる可能性が高いでしょう。

ありがとうございました。

 

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 15: How to Manage (2014)

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