スタートアップの成長のためのガイド:グロースプログラムをどのように立ち上げ、人を採用し、スケールさせるか

Gustaf Alstromer 氏から格別のご尽力を頂きました。

トップレベルのスタートアップに所属するグロースの専門家25名からのアドバイス

例えばHotmailがユーザーのデフォルトのEメール署名にサインアップのリンクを組み入れていることなどを指す「グロースハック」は、製品がプロダクト・マーケット・フィット (PMF) に至る過程の早期にバイラルグロースを推進する上で、極めて役に立つ可能性があります。しかし、長期的な成長を維持し、数億人のユーザーにリーチするためには、成長に向けた科学的アプローチが必要です。実のところ、グロースの専門家たちは「グロースハッキング」を自分たちが使う言葉でも、自分たちの仕事と関連するものでもないと断言しています。「ハッキング」という言葉からは計画性のない直感的なアプローチという印象を受けますが、現実はかなり正反対です。驚くべき成長を経験したスタートアップが構築していたチームやプロセスは計画的かつ極めて指標駆動型であり、実験を糧として成長していくものです。

グロースに対する科学的アプローチを発展させるべく、最近は多くの企業が (製品、エンジニアリング、マーケティングにおける) 厳格な縦割り型の組織設計から脱却して、部門横断型のグロースチームを構築しているのが見受けられます。誰もが口を揃えて言うように、Facebookはグロースチームのパイオニアです。その最初のグロースチームが10年前に3名で結成され、その効果はたちどころに明らかになりました。Facebookは月間アクティブユーザーが5000万人になった時点 (前月比成長がおおよそ横ばいになった段階) でグロースチームを立ち上げました。今日では月間アクティブユーザー数が20億人にまで達しているFacebookの急拡大、またコア製品であるFacebookの進化にとって、グロースチームとその周辺の計画が主な原動力となりました。Facebookの先例に倣い、成功している消費者向けスタートアップの大半もグロースチームを組織しました。興味深いことに、こういったチームは多くの共通したベストプラクティスを中心としてまとまっていました。

Y Combinator Continuityチームはグロースに一定の形を与えることについて、創業者たちから数多くの質問を受けています。専任のグロースプロダクトマネージャー (PM) を最初に雇うタイミング、グロースチームの構築方法、それを時間と共にスケールアップしていく方法について誰もが知りたがっています。

ですから、私たちは企業 (Facebook、Airbnb、Uber、Stitch Fix、Square、Slack、Instagramなど。全リストは下記) で働く専門家25名と協力し、グロースプログラムの確立に関するベストプラクティスの特定にあたりました。

以下にこのガイドで対象とするテーマを挙げていきます。

グロースに投資するタイミング

資金とリソースを無駄にし、会社の将来を脅かす最悪の方法とは、顧客を定着させられると判明する前からグロース計画に投資することです。言い換えると、「穴あきバケツ」の問題が確かにないことを確認するまで、本格的なグロースチーム (「グロースチームを構築する」の節で説明) を雇用したり、成長に多大な広告費を投じたりしないことが最善策です。このセクションで概説されるプロセスによって、まだ継続率 (retention) を確実に獲得できていないと判定した場合、成長のアプローチを継続率に応用できます。例えば、Stitch Fixは新規顧客獲得に投資する前に、継続率を改善するための実験を行うべく、継続率に焦点を絞ったPMを雇いました。

継続率を確認する

良い継続率を獲得しているかどうかを判定するのに役立つ、この継続率チェックリストから始めましょう。この作業はコア製品チームと一緒に取り組めるはずです。

継続率チェックリスト

良い継続率を獲得しているかどうかを知るために必要な指標とデータ

To Doリスト 事例

適切な指標のセットを選ぶ

収益とリピート行動の先行指標を選びます。見せかけの指標 (アプリダウンロード数) を選んではいけません。ツー・サイド型マーケットプレイスの場合、需要と供給の両サイドについて指標を定める必要があります。

 

Airbnb Logo

需要サイドの指標:

  • 「再予約率」――最初の予約後に再び予約する顧客の割合
  • 「ユーザー当たりの予約泊数」――時系列によるユーザー当たりの予約宿泊数

供給サイドの指標:

  • 「アクティブホスト数」――アクティブな (すなわち予約の入っている) ホストの割合
  • 「アクティブホスト当たりの予約数」――時系列での各コホートにおける各アクティブホスト当たりの予約数

Uber Logo

 需要サイドの指標:

  • 「乗客の継続」――最初の取引後に乗車した乗客の割合
  • アクティブ乗客当たりの乗車回数――時系列による「乗車数 / アクティブ乗客数」の数

供給サイドの指標:

  • ドライバーの定着――最初の取引後に運転したドライバーの割合
  • アクティブドライバー当たりの乗車回数――時系列による「乗車数 / アクティブドライバー数」の数

 コホートについて適切な期間を選ぶ

これは通常、企業に応じて1日、1週間、1か月間になります (通常、短期のものは若い企業に有用で、長期のものは成熟した企業向けです)。

Airbnb Logo

Airbnbのケースでは、利用の速度が遅く、人々がそうそう旅行には行かないことを考慮して、継続を年単位で測定することに焦点を置いています

Uber Logo

 Uberのケースでは、利用の速度が速く、人々による利用が多いことを考慮して、継続を月および週単位で測定することに焦点を置いています。

 第1期間内における最初のユーザー行動を特定する

インストールベースの100%が収益の先行指標となる何らかの行動を取ります。

Airbnb Logo

Airbnbの場合、これは部屋を最低1泊分予約することです (インストールベースの一部のみが毎年「再予約」します。)

Uber Logo

 Uberの場合、これはUberでの最初の乗車か、Uberでの最初の運転に相当します。

第2期間における後続のユーザー行動を特定する

インストールベースのうち、第2期間 (翌日、翌週、翌月、翌年) でも依然としてその行動にエンゲージしている割合を計算しましょう。

Airbnb Logo

Airbnbのケースでは、最初の行動以降に毎年再予約したインストールベースの割合

Uber Logo

 Uberのケースでは、最初の行動以降に毎月Uberに乗車した乗客の割合

 

良い継続率 vs 悪い継続率

この時点で問われる最大の疑問は、「自分の継続は良いものか? 」というものです。

自分の継続が良いものかどうかどうかを判定するため、次の3ステップに目を通しましょう:

  1. 安定した長期間の継続: 長期間の継続は安定していて、X軸と平行になるはずです (Y軸が継続率の指標を表します)。第1期間に続く低下 (例えば、高速度1の製品の場合は2か月目、低速度2の製品の場合は2年目) を確認するのが一般的ですが、最も重要なのは長期間の継続が安定していてX軸と平行になるように徹底することです (これを下記のコホート分析グラフで確認してください)。
  2. 個別の産業における「平均値または中央値」の指標と一致する長期間の継続: 個別の産業内の他の企業と比較してその継続率を評価することが重要です。例えば、ソーシャルネットワークの場合、安定した長期間の継続率が10%だと不十分です。
  3. 新しいコホートほどパフォーマンスが優れているべき:「コホート」とは、その特定の月にサービスを使用し始めた新規顧客のグループを指します。新しいコホートの方が古いコホートよりもパフォーマンスが次第に向上しているかどうかを判定しましょう。新しいコホートの継続の方が古いコホートよりも良くなっている場合、そのことはあなたが自分の製品と価値提案を向上させていることを意味します。

以下に挙げるのは、Airbnbがどのようにパフォーマンスを上げてきたかという例です。最高の継続と考えていいでしょう。下記のグラフは安定した長期間の継続をはっきりと示しています。どの新しいコホートもその前のものよりも良くなっていました。例えば、2年目と3年目の継続率は1年目の継続率よりも向上しています。Airbnbの長期間の定着率は同じ産業内の競合他社の中央値よりも高くなっています。

 

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継続――コホート分析

あなたの具体的な産業内の企業と比較してその継続を評価することが重要です。以下に5つの産業についての長期的な継続率目標の平均値を記しています。

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産業3 期間 長期の期間 長期の目標 中央値
ソーシャルネットワーク4 月ごと 12か月目 45% - 65% 55%
オンデマンド 月ごと 12か月目 20% - 30% 22%
旅行 年ごと 2年目 20% - 35% 29%
Eコマース 月ごと 12か月目 10% -25% 16%
サブスクリプション 月ごと 12か月目 25% - 35% 33%

これらのチェックに合格して良い継続率になっていると分かった時点で、正式なグロースチームを構築するための第一歩を踏み出すことができます。それについては次のセクションで取り上げます。

 

グロースチームを構築する

創業間もない頃は、ほぼ全員がグロースに対して責任を負います。その人たちがプロダクト・マーケット・フィットを固めているためです。 そして、一部の企業はプロダクト・マーケット・フィットを達成したあとでさえ、このことに対して共同で責任を追っているかのように扱います。企業が専任のグロースチームを結成する理由は、望ましい振る舞いや行動を推進させる体系的な実験を始めることにより、プロダクト・マーケット・フィットに向けた燃料を補給する点にあります。持続可能な継続があると判明している場合、ますます増加する新規ユーザーを獲得したり、アクティブ化させたり、定着させたりするあいだに、継続をよりいっそう改善するための専任チームを構築することにも焦点を当てられます。

以下に示すのは最初、つまり1年目のグロースチームの最もよく見られる構成です。

最もよく見られる構成

1年目のグロースチーム = 1名のグロース向けPM + 2-3名のグロースエンジニア + 1-2名のグロースデータサイエンティスト

最初のグロースチームを雇うタイミング:
  1. 大半の企業は製品に取り組んでいるチーム内のエンジニアが約15名になったときに最初の採用を行いました。
  2. 強固な継続が存在している場合には、グロースPM (あなたがグロースのために最初に雇用する人) はそのチーム内の3番目か4番目のPMになる可能性が高くなります。CEOが犯す最もありふれた間違いはグロースに特化したPMを雇うのが遅すぎるというものです。

世の潮流はグロースチームの構築にもっと早い段階から投資する方向へと向かっており、多くの企業は強固なプロダクト・マーケット・フィットと継続を手に入れ次第、できるだけ早く投資を始めています。その上、「適切なタイミングで組織された正式なグロースチームが製品の成長軌道を加速させる」という主張を裏付ける重要な証拠も存在します。

優秀なグロースチームは「防御」としての役目も非常にうまく果たすことが可能です。新機能や機能強化の投入が期待通りに行かず、利用に影響を与えることがよくあります。根本原因を数分 (数日ではありません) 以内に理解して、その問題を軌道修正し、それによってマイナスの影響を抑える力がグロースチームにはあります。Facebookのグロースチームは防御の面で特に優れていると見なされており、Facebookが自社を競合相手と差別化するのを初期の頃からずっと支えてきました。

初期のチームメンバーがその企業での実験の枠組みとグロース文化を確立することになるため、最初の雇用は決定的に重要です。グロースの専門家たち全員が、最初の数名の採用者はその後の雇用やチームの拡大にとっての「磁石」であると見なしています。多くの一流データ・サイエンティストがStitch Fixで働いているのも決して偶然ではありません。その人たちはEric Colson氏 (元Netflixのデータサイエンスおよびエンジニアリング担当副社長で、Stitch Fixによる初期採用者の一人) のリーダーシップの下で働き、彼から学ぶことが動機となっているためです。

成功がグロースチームのみに起因することはあり得ませんが、グロースチームを早い段階から配置することは、その企業の総合的な成長軌道を加速させるのに役立ちます。

通常、グロースチームの最初の採用者はプロダクトマネージャー (PM) です。見事なグロースチームを構築するグロースの専門家が重視するPM、エンジニア、データサイエンティストの特徴にいくつかの強い傾向があることを私たちは発見しました。

理想的なグロースPM候補者

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  1. データ志向: 理想的な候補者はデータに基づいた判断や行動に強くこだわり、好奇心も旺盛です。私たちが会話した専門家は全員、それこそが欠かせない特徴だと述べています。この役割には、グロースの数字が上がったときでさえ、常に「なぜ? 」と問いかけているような人物を求めましょう。私たちが話した専門家の一人は次のように語っていました。「一番怖い日は数字が下がったときです。2番目に怖い日は数字が上がっていて、その理由がわからないときです」。
  2. 以前のグロースの経験: PMには、競争の激しい分野 (例えば、Eコマース、出会い系アプリ、ゲームアプリ、ソーシャルネットワーク) において、グロースの推進を重視している会社での経験があることが重要です。これはつまり、GoogleやAppleのような企業からは引き抜かないということを意味します。それらのチームは競争の激しいグロース戦略に基づいて拡大させたわけではないからです。90%を超える専門家たちが、グロースの経験はチームのリーダーが持っているべき重要な特徴だと述べています。
  3. 元スタートアップ創業者 (おまけ): 興味深いことに、私たちがインタビューしたグロースの専門家のうち60%が元創業者でした。その人たちが素晴らしいPMである理由は何でしょう? それは会社を始めたことのある人は自主的な思考をできる傾向をもち、リスクをとることに慣れていて、高いレベルの忍耐力を備えているからです。多くの実験は失敗することになるため、これが重要になります。
  4. 既存のPM (おまけ): 既存のPMが上記のような特徴をもっているならば、(FacebookとSlackがしたように) その人をグロースPMとして任命するチャンスがあるかもしれません。グロースチームは社内のあらゆる利害関係者と協力しなければなりませんし、すでに社内でソーシャル・キャピタルを築いている誰かがいることにより、チームの発達を加速させることができます。これは素晴らしいことですが、必須事項ではありません。私たちが話したグロースリーダーのうち40%は、グロースチームを率いる以前もすでにその企業のPMでした。AirbnbやUberといった他の企業はこの部門のために特別にグロースPMを雇い入れました。
理想的なグロースエンジニア候補者

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  1. 自発的に行動する人物: その仕事のかなり多くの部分は本当に機能するものを判定する実験を行うことと関連するため、エンジニアは独自の仮説と実験を考え出し、反復することに積極的であるべきです。グロースPMと同じく、グロースエンジニアも隠された見識を明らかにするべく、無限の好奇心をもって、絶えず「なぜ? 」と問いかけ続けている方がいいでしょう。
  2. 失ったコードを嘆かない: これは実験にとても慣れていて、膨大な量の仕事が最終製品まで行き着かないこと知っているはずの人を指します。
  3. スケールしないことをしてもかまわない: テストの多くは小規模でそれほど影響がありません。そのため、かなり新人のエンジニア (たかだか2~4年間の経験) の方が、厳格な要件とロードマップに向かうことに慣れているかもしれない経験年数の多い人物よりも、この考え方に合っている可能性があります。
  4. コミュニケーション能力の高い人物: グロースエンジニアはいくつかの部門 (設計、広告文案作成、データなど) のチームと協力することに特に慣れているべきです。
理想的なデータサイエンティスト候補者

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最後に、データサイエンティストはバランスの取れたグロースチームにとって極めて重要な採用者です。データサイエンティストはあまりに需要があるため、Airbnbは最近、データサイエンティストの育成を専門とする社内大学の創設を発表しました

  1. 実験計画と実験解釈に精通している: グロースは (その他のデータサイエンスの役割よりももっと) 多くの実験の実施に関わっているため、面接プロセスの間に、これに関するテストを行うことが重要です。「ある特定のシナリオ下では、大体どれくらいの大きさのサンプルサイズが必要になるでしょうか? 」や「こういったケースの場合、多重比較をどのように補正するでしょうか? 」といった質問を投げかけることもできます。また、サンプルのデータセットを準備して、ペアコーディング面接の際に分析を実演で行うことも可能です。
  2. コーディング技能: その他のデータサイエンスの役割と比較すると、グロースチームではデータを取得・準備するための作業量がもっと多く必要になります。これは単純に、グロースチームは新しいデータセットや新しいデータロギングを取り扱っていることが多いためです。PythonまたはRでのデータセット整理に関するコーディングを面接で実演させて、この技能をテストすることを提案する人もいました。
  3. 優れたコミュニケーションスキル: コミュニケーションで特に重要となる2つの要素とは、(a) 実験の結果 (とりわけ、実験から正しく推定できることと推定できないこと) を伝達すること、(b) あるグロースへの取り組みに投資することについて説得力のある主張を明確に述べること、です。優れた職歴を持ち、因果推論に強い人物がいいでしょう (計量経済学や実験の経歴があると理想的です)。

「グロースチームの1年目」にやるべきこと

チームを結成した時点で、あなた (とそのチーム) が1年目に実行しなければならない主な取り組みが5つ存在します。それが以下の5つで、それぞれに関するさらに詳しい情報も後述します。

  1. 絶対的目標を (CEOと) 設定し、主要メトリクスを定義する
  2. グロースチャネルを特定する
  3. システムとツールを確立する
  4. ユーザーリサーチを確立する
  5. 反復を続ける
1. 絶対的目標を設定し、主要メトリクスを定義する

最重要なことは絶対的な目標を設定し、ファネルのあらゆる局面を目標の向上に向けて推進することです。Pinterestの元グロース製品リーダーであるCasey Winters氏はこれについて優れた記事を書いています。私たちが「絶対的」という言葉で表現しているのは、率や割合の変化は目標になり得ないということです (例えば、「コンバージョン率を10%向上させる」といった目標を立てるべきではありません)。目標には絶対的な数字が必要です。(例えば、「今年、500万部屋の初回宿泊を達成する」といったもの)。これがチーム全体が超えなければならない絶対的なマイルストーンであることに注意しましょう。

重要な次のステップは絶対的な目標を複数のサブ目標に分解することです。例えば、Airbnbの目標が年間1500万部屋分の宿泊数増だとすると、新規ユーザーと既存ユーザーの両方による絶対的な予約数によってサブ目標を達成しなければならないはずです。Social Capitalのパートナー (また、Facebookの初期グロースチームの一員) であるJonathan Hsu氏は、そのグロースの方程式を共有しています。以下がAirbnbの方程式による分解方法です。

[x] 部屋の宿泊数 = [A] 新規ユーザーによる部屋の宿泊数 + [B] 既存ユーザーによる部屋の宿泊数

同じく、Facebookによる月間アクティブユーザー数 (MAU) の絶対的目標も新規ユーザーと既存ユーザーの両方を組み込んでいます。以下がFacebookのグロースの方程式です。

[x] 月間アクティブユーザー数 = [A] 新規の月間アクティブユーザー数 + [B] 定着している月間アクティブユーザー数 + [C] 復帰した月間アクティブユーザー数

マーケットプレイスの場合、企業は絶対的目標 (およびサブ目標) を供給サイドと需要サイドの両方について定めるはずですし、時にはそれぞれのサイドに取り組むチームを別々に作るでしょう。例えば、Airbnbのケースでは供給サイドの指標にはホストのアクティブ化、品質、継続が含まれるはずです。

チームは時に、その目標をあまりに非現実的なものにしたり、達成するのが簡単すぎるような形で設定したりもします。グロースの専門家による最もよくあるアドバイスは「実力を出し惜しんだもの」と「達成するのが難し過ぎるもの」の中間に設定するというものです。困難な課題に設定しながらも、同時に達成が現実的な形にしてチームのモチベーションを高めたいところです。

グロースの専門家たちは全員、絶対的目標を設定・定義する際にはCEOと連携を取らなければならないと述べています。また、会社がその年に達成しようと目論んでいる内容を全てのチームが認識できるように、その目標は会社全体に伝達される必要があります。CEOが時間をかけ過ぎる、あるいはCEOがその目標を全面的には承認しない結果、社内のチームが連携するのに時間がかかり過ぎることもよくあります。これはグロースチームの1年目の進捗を深刻に妨げるかもしれません。

 
2. グロースチャネルを特定する

絶対的目標とサブ目標が定まったら、次のステップは最初の数回の実験を行うためのチャネルをチームが特定することです。グロースの専門家がチャネルを特定するために利用する最も一般的な枠組みは既存ユーザーの行動に基づくものです。問いかけるべき2つの主な質問は次のものです。

  1. 現在、顧客は解決策の発見またはこの問題の解決をどのように行っているのでしょうか?
  2. 現在、あなたにとって最良のユーザーはあなたの製品をどのように使用しているでしょうか? もっと多くのそういったユーザーに製品をすばやく見つけてもらうために 、何かできることはありますか?

以下の行動はLinkedinのAatif Awan氏が強調したものです。また、私たちはそれらのチャネルを利用した企業の例もいくつか示します。

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ユーザーの行動 調査するチャネル 企業の例
他のユーザーとつながるために必要な製品を使用 製品自体 Facebook、PayPal、Slack
既存ユーザーがその製品について話す 紹介、コミュニティ Uber、Airbnb、Dropbox
自分のペインポイントに対する解決策を見つけるために検索する SEO、SEM Airbnb
専門家にインスピレーションを求める アフィリエイトブロガー、Pinterest、パートナーシップ、コンテンツ Stitch Fix、Glossier、Intercom
顧客生涯価値の高いユーザー 有料広告による獲得 (ソーシャルメディア、サーチエンジン、ネイティブ広告、オフライン) Airbnb、Expedia、Uber

全てのチャネルが全ての企業に関係するわけではありません。ほとんどの製品は早い段階で、実際に機能する1つまたは2つの関連チャネルを得ます。専門家のうち70%弱が、最初の1年以内は紹介が最大のチャネルだったと述べています。時間と共に (ブランドの知名度が増すにつれて)、他のオンライン広告チャネルからの実りも多くなりました。

この法則の例外として、紹介が同じようにはうまくいかなかった場合もありました。例えば20ドルの割引を提供しても、チームのメンバーが他のチームのメンバーを勧誘してSlackに参加させることは期待できません。 

3. システムとツールを確立する

グロースチームを立ち上げるために必要となる極めて重要な4つの要素は以下のものです。

  • 主要な指標と目標を確認するためにデータセットを整備する
  • 顧客とその活動を詳細なレベルで把握し、細分化することを可能にするセグメンテーションツール
  • 実験結果とその背後にある統計的有意性を分析するための正確な実験ダッシュボード
  • 調査結果を検討・分析するための査読プロセス

実験を大規模に実行するためには、チームが適切なシステムとツールを整備しておくことが決定的に重要です。1年目で特に重要となるのが実験ダッシュボードです。基本的に、実験ダッシュボードは、実験または結果を確認するための唯一の接続先となり、社内の大勢の人々が容易に分析することを可能にします。ダッシュボードには次のものが含まれます。

  • 実験群の指標
  • 統制群の指標
  • 統計的有意性を確認・測定するために定められた一連の指標

ダッシュボードはチームがさまざまな実験を行ってアイデアそれぞれを製品に追加することを提案する前に、その結果をテストするのに役立ちます。グロースチームが拡大するにつれて、エンジニアの人数が増加して実験ダッシュボードなしでは手に負えなくなります。規模の大きな企業は通常、週単位で1人のグロースエンジニアにつき1つの実験を行います。そのような将来の状況を念頭に置くと、信頼できるグロース実験ダッシュボードに早くから着手することは極めて重要です。ダッシュボードは非常に貴重な過去の実験のアーカイブにもなり、新たなチームメンバーを迎える、または過去の実験を反復する際にも大いに有用です。

私たちの話した専門家全員が独自社内ツールを大規模に開発する決定を重要視していました。最初は、実験を確認するためにMixpanelOptimizelySupersetChartioといったツールを使用できます。

以下はAirbnbの社内実験ダッシュボードのスクリーンショットです。

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Airbnbはグロースチームの実験を管理するために独自のダッシュボードを開発しました

実験ダッシュボードを正式なものにするには幾度かの反復型開発が必要になる可能性があります。例えば専門家の一人は、幾度かの反復型開発を経て実験ダッシュボードが正式なものになったのは、チーム内のグロースエンジニアが25から30名になってからようやくのことだったと述べています。

査読と個別実験

チームが社内の実験審査プロセスを隔週単位で設定することがよくあります。チームのメンバーは自分の仮説を提示し、その仮説を検証するために実行した実験の結果を共有します。同僚たちはその実験結果に賛同するか否かを判断するために多くの質問を浴びせかけます。年間100件以上の実験を実施するグロースチームは、実験のうちで有益な結果となるのはわずか3分の1のみであると述べます。

成功率がわずか20から30%でしかないとしても、この仕事の核心はエンジニアがより多くのリスクを取るように仕向ける点にあります。

よくある論点は、エンジニアが実験を単独で行うことを認められているか否かという点です。初期段階の企業では、エンジニアが単独でグロース実験を行うことを奨励することもよくあります。しかしながら、そういった企業の一部は規模を拡大するにつれてPMの監督を要求します。とりわけ、品質基準に対する厳正さを増すにつれてそうなります。

もう一つの重要な要素はグロースチームのために経験則をきちんと定めることです。グロースチームは仮説の検証と実験の実行を常に行っています。専門家が利用する特に一般的な経験則の一つは「全ての人に向けてはリリースしないであろうものをテストするな」というものです。 

4. ユーザーリサーチを確立する

データだけで全ての疑問に答えることはできません。その数字の裏側で起こっていることを本当に理解するためには、ユーザーリサーチャーを配置することが同じくらい重要です。

最初の1億人のユーザーは次の1億人のユーザーとは大きく違って見えるでしょう。したがって、以下を行うことが重要です。

  • ユーザーにリアルタイムのフィードバックを求める
  • ユーザー体験を確認するためにInspectletのようなツールを使う
  • サンフランシスコの外に住んでいるユーザーと会う。サンフランシスコが最初の中核市場だった場合は特にそうしましょう。他の市場はサンフランシスコとは大きく異なって見えるでしょう
  • 世界中でユーザーがその製品をどのように使用しているかに注意を払いましょう。言葉の違いに加えて、文化の差もあるかもしれません (例えば、日本に住む人々は人物の写真を許可を得ずに投稿することを好みませんし、製品は現地の人々の嗜好に合わせる必要があるかもしれません)。
  • 一つ一つのユースケースを記録しましょう。ある集団にとって全く普通のことは別のユーザー集団では全く異なる可能性があります。
  • 規模を拡大するにつれて、専任のユーザーリサーチャーをグロースチームに加えることが重要です。 
5. 反復を続ける

上記のロードマップの項目は強力なグロース計画に向けた土台を築くのに役立つ一方、数多くのツール、プロセス、システムは大規模に発達していきます。

グロースチームを置くべき場所はどこか?

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これは企業の間で最も大きく見解が分かれる部分です。Facebookは「独立したグロースチーム」というコンセプトの先駆者でした (その意味は「グロースチームは基本的に企業内の部署である」というものです)。その背後にある論理的根拠とは「仮にMAUの成長に対して、唯一の責任の所在が特定されなければ、誰もそのことに責任感を持たなくなるだろう」というものです。Facebookの場合、これが非常にうまくいきました。つい先日、同社のMAUは20億人に達しました (この数字を達成している世界で唯一のソーシャルネットワークです)。Facebookはさまざまなチーム全体を通して、責任を明確にすることに非常に長けてもいました。独立したグロースチームの賛同者たちはグロース担当責任者がCEOの直属の部下であることが大切だと述べています。

しかし、Uber、Airbnb、Slackといった他の企業は当初は独立したグロースチームだったものの、のちにそれを製品チームに統合させました。見識を深めるためにデータを調べるばかりがグロースチームの意味ではありません。グロースチームは成長を促進するために実験を行い、製品に対して微妙な変化を加えもします。そして、これは規模の拡大ではますます重要になります。したがって、このアプローチの賛同者たちは製品チームとグロースチームが同じ組織内にいることが極めて重要だと述べます。このようなケースでは、グロース担当責任者が製品責任者の直属の部下になります。

伝統的に、企業のマーケティングチームはユーザー獲得の推進 (およびその関連予算) に対して責任を負います。そのため、ここがグロースチームの置かれる初期の部署となることも時々あります。これが (パフォーマンス・マーケティングやユーザー獲得などの) マーケティング部に従前から存在する職務から発展することもよくあります。このようなケースでは、グロース担当責任者はマーケティング責任者の直属の部下となるはずです。このアプローチについての一般的な意見は「指揮命令系統が従来とあまり変わらない」というもので、グロースの専門家の大半はこれを最も望ましくない選択肢として挙げています。

所属部署に関わらず共通する特徴とは、グロースチームは部門横断的な100名を超える人々で構成される可能性があるということです。おおよそ、次のような構成になります。

  • 10% プロダクトマネージャー
  • 50% エンジニア
  • 10%-15% データサイエンティスト
  • 10% 製品マーケティング
  • 10%-15% デザイナー
  • ~5% 研究者

最終目標「グロースはその企業のDNAの中にある」

あなたがスケーラブルなグロース計画を準備できたとき、このガイドが役立つことを願います。これはマーケティングと製品を横断する最新のフロンティアであるため、いまだ進化の途上にあります。適切に行われれば、素晴らしいグロース計画が組織全体に浸透して、根拠に基づく思考法が企業のDNAの一部になることでしょう。

あなたがグロース計画について、他の何らかの共有すべきアドバイスを持っている場合、Twitterの@YCombinatorまたは@AnuHariharanか、Hacker Newsまでご連絡ください。

謝辞

この実践の先駆者となったグロースの専門家たちに謝辞を述べたいと思います。その見識を統合することにより、私たちはこのトレンドを説明することができました。

このガイドにご尽力してくださったSharon Pope氏、Nic Dardenne氏、Craig Cannon氏、Ali Rowghani氏、Daniel Gackle氏、Scott Bell氏に対しても謝辞を述べたいと思います。

注釈

1.「高速度」とは頻繁な利用を意味しています。例えば、毎日、毎週、さらには毎月といった頻度です。

2.「低速度」とはたまの利用を意味します。例えば、毎年や半年に1回といった頻度です。

3.特に明記しない限り、「Second Measure」 (匿名化されたクレジットカード取引データ) のこと。

4.Business insider、http://www.businessinsider.com/whatsapp-engagement-chart-2014-2

 

著者紹介

Anu Hariharan

Anu Hariharan は YC Continuity Fund のパートナーです。Anu は以前 Andreessen Horowitz の投資担当パートナーで、Airbnb、Instacart、Medium、OfferUp、Udacity といったポートフォリオ企業のマネジメントチームと働いていました。それ以前は BCG のプライベートエクイティプラクティスのプリンシパルであり、クアルコムのシニアソフトウェアエンジニアでした。Anu はバージニア工科大学の電気工学の修士号と、ウォートンスクールの MBA を取得しています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  Growth Guide: How to Set Up, Staff and Scale a Growth Program (2017)

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