どうやってリーダーシップを測るのか?

 

あなたは優れたリーダーですか?どうやってそれを知ることができますか?

メトリクスによる経営に強迫的なまでにこだわるスタートアップの文化では、多くの創業者が自身に関するこの重要な質問に答えるのに苦労しています。単純に事業の成功でリーダーを評価したくなるものですが、最も成功している創業者ですら、このやり方ではタイミングと運がかなりの交絡因子になり得ることを知っています。会社の純利益を通してリーダーシップを評価することはまた、どうすればリーダーとしての能力を高められるのかについての手がかりを何も与えてくれません。では、もっと良い方法があるのでしょうか。

本稿では、リーダーシップの評価法について説明します。リーダーとしての能力を向上させたいと願う人々の役に立ってくれればと思います。この評価法は、緊密に仕事をする中で私が素晴らしいと思った4人のリーダーの観察に基づいたものです。その4人とは、Ed Catmull氏(Pixarの創業者)、Steve Jobs氏(PixarのCEO)、John Lasseter氏(Pixarのチーフ・クリエイティブ・オフィサー)、Bob Iger氏(DisneyのCEO)です。驚いたことに、彼らはスタイルの点でも気性の上でも、アプローチにおいても、似ても似つかない人々です。一つのリーダーシップのモデルに当てはまった人は誰もいません。ある人は内向的な科学者で、別の一人は外交的なアーティストでした。一人は大学を中退して企業を興し、その傲慢な態度で悪名高かったのに対して、別の一人は出世の階段を上り詰めたエグゼクティブで、抜群に上品でそつのない人物でした。

そういった違いがあったにも関わらず、彼らは周囲の人々から大きな信頼を勝ち取ることができました。彼らはいずれも3つのことを、それぞれのやり方で極めて上手にすることによって、信頼を得たのです。この3つは偉大なリーダーの根本を成す特徴だと、私は確信しています。この3つがなければ、人は偉大なリーダーになれません。なぜなら、この3つがなければ、信頼を築くことができないからです。そして、本稿末尾の注で詳しく説明している通り、リーダーシップを測る秘訣は、この3つの側面におけるリーダーの能力を測ることなのです。

偉大なリーダーの根本を成す3つの特徴

どんな気性や性格の人でも、どんな私的、または専門的経歴を持つ人でも、偉大なリーダーになることはできるし、かなり異なった形でリーダーシップを発揮しても成功できると、私は確信しています。ただし、リーダーとして信頼され、後を付いていく気にさせるには、以下の3つの領域で秀でていなければなりません。

1. 明晰な思考と明晰なコミュニケーション

偉大なリーダーは明晰(Clear)に考え、明晰にコミュニケーションを取ります。彼らは、人々がそのために一生懸命働いて達成したくなるような未来のビジョンを語ります。もし従業員があなたのミッションと戦略に関して混乱していたり、やる気が起きるものでも達成可能なものでもないと感じたりしていたら、成功するために必要な集中力と強い意志を持ってあなたの後についていくことはないでしょう。1

明晰な言葉を紡ぐ前には、常に明晰な思考があります。コミュニケーションを向上させる上で一番良いのは、あなたが自分の事業で真に重要だと信じているものについて考える時間を、もっと取ることです。何がみんなに理解してもらうべき大切なことかが具体的になったら、それをシンプルな言葉で表現する練習をします。シンプルであることが不可欠です。その素晴らしい一例は、AmazonのJeff Bezos氏が何年か前に自身のチームに伝えたリテール戦略です。 彼のリテール戦略は、シンプルでありながら変わることのない3つの消費者の好みに基づいていました。すなわち、より安く、選択肢はより多く、配達はより速く、という戦略です。今日に至るまで、価格を下げ、選択肢を広げ、配達を迅速化するためにAmazonの従業員が行うことは何であれ、消費者にとって価値を生み、企業戦略を前進させます。Bezos氏が言った通り、「時を経ても変わらないものを中心にして事業戦略を構築できる。…長い時間を経ても真実であると確信できることがあれば、それに多くのエネルギーを注ぎ込むことができる」のです。

会社が成長するにつれ、社内コミュニケーションの準備に時間をかけることがますます重要になってきます。事業の拡大と共に従業員ベースはより多様化し、あなたと個人的な関係を持つ従業員は減少します。このため、従業員は「あなたが何を言わんとしているのか」を察知する可能性が遙かに低くなり、あなたがうまくコミュニケーションを取らなければ、混乱して批判的になる可能性が高まります。

偉大なリーダーは、社内コミュニケーションの準備に多くの時間を割きます。たとえどんなに生まれつきコミュニケーション能力が高くても、その場の思いつきで話をすることはありません。例えば、ShopifyのCEO、Tobi Lütke氏は、上級幹部チームと共に何百時間もかけて年次従業員サミットの準備をします。Lütke氏はこう言います。「私たちはゆるやかに結合しながら、極めてアラインされた会社でありたいのです。サミットはそれを可能にする主たる成功要因です。全社を同期しますから。私たちは途方もない時間をかけて準備します。なぜなら、サミットでうまくコミュニケーションが取れれば、サミットが終わる頃には素晴らしく足並みが揃っているからです。その後は、毎週開くタウンホール・ミーティングを使って、次のサミットまで気持ちが離れすぎないようにできます」

2. 人に関する判断力

偉大なリーダーは人に関する直感力が優れています。とりわけ、権力と責任感のある地位に就く人を選ぶ際には。隠れた可能性を見抜き、野心が能力を上回るケースを感知できます。また、間違って採用したり昇進させたりすることはどうしても起きてしまうものですが、そういう時に彼らはその従業員が指導しても向上できない場合には、状況を正す勇気を持っています。間違ったリーダーを選ぶことや、間違いが起きた時にそれを正せないことほど、組織やリーダーの地位を害するものはありません。最初に採用する際の判断や昇進の決定は、最も重要です。なぜなら、あまりにも多くの部下を解雇してしまえば、リーダーもまた、多くの信頼と信用を失うからです。

誰もが生まれつき人を見抜く直感力に恵まれているわけではありませんが、直感力を磨くことは誰にでもできます。より多くのデータを集めることは、人を選ぶ際により良い判断を下すのに役立ちます。リーダーを採用しようとする時は、その分野の最高の人々にできるだけ多く会って、見抜く技術に磨きをかけるようにしましょう。採用候補のエグゼクティブを知るために、できるだけ多くの時間を割いてください。UberのCTO、Thuan Pham氏は2016年のインタビューで、CEOのTravis Kalanick氏から「30時間に及ぶ1対1の面接を、2週間にわたって受けた」と語っており、その中にはKalanick氏が旅行中にSkypeで行われたものもあったと言います。Pham氏はさらに、「その30時間、じつは私は、それが面接だということを忘れていました。仕事仲間とディスカッションしているみたいだったのです」と語っています。

また、採用候補者の身元照会を徹底的に行い、優れた判断力と高い品格を示す行為の例を挙げてもらうことも役立ちます。なぜなら、こうした特徴を面接で試すのは困難だからです。そして、誤った人物を採用したり昇進させたりして、指導してもそういった人達を向上させられなかった事例から、学ぶ努力をしてください。

3. 人としての誠実さとコミットメント

偉大なリーダーは人として抜きん出た高潔さ(integrity)を備え、自身のミッションに対してとてつもなくコミットしています。高潔さとは、狭い私的な利益に突き動かされるのではなく、自身を超えた意味あるもののために立ち上がることを意味します。自分が常に正しいかのように振る舞うのではなく、間違った時はそれを認めることができ、批判的なフィードバックをオープンに受け取り、向上するために努力する謙虚さがあることを意味します。えこひいきや利害の衝突、不適切な言葉遣い、職場における不適切な人間関係等の信頼を蝕む行動を避けることを意味します。次の質問を自分に投げかけてみることは、有益なテストになります。もし私のチームが、私の私的なコミュニケーションと従業員に対する態度を全て知ることができたなら、私は自分の言動を恥じるだろうか、と。高いハードルですが、偉大なリーダーはこのハードルを克服しようとします。

偉大なリーダーは仕事に時間を惜しまないだけでなく、他の人を鼓舞する形で、仕事を自らの人生の核となるミッションにします。ミッションを達成するために人々を導くことから、深い私的意味と満足感を得ます。私的コミットメントが高い生産性と遂行力へと転換され、ひいては、そのリーダーが率いる組織に同様のパフォーマンスをさせる土台となるのです。

全ては信頼に帰結する

それでは、自分が優れたリーダーかどうかは、どうすればわかるのでしょうか。上で説明した3つの領域に秀でていれば、あなたは優れたリーダーであり、周囲の人々から信頼されます。

このような形で信頼を築くことは、科学でもあり、芸術でもあります。能力と個性が必要なのです。リーダーが未来を明晰に考え、製品と営業と人事の面で組織を正しい場所へ導けば、信頼が生まれます。未来に関するあなたの予測――作るべき製品、行うべき投資、競争環境や技術環境の変化に関する予測――は正確ですか。あなたが組織内のリーダーとして選んだ人々は、リーダーにふさわしい人材ですか。これらの問いに対する答えは、いずれ明らかになりますし、もしこれらの問いの多くに対するあなたの答えが正しければ、あなたは信頼を勝ち取ります。私はこれを、信頼構築の「科学」と見なしています。この科学は、明晰な思考と優れたコミュニケーション、人に関する優れた判断の上に築かれます。

信頼構築の芸術は、より複雑です。こちらは、品格を保ってコミュニケーションを取るリーダーの能力と密接に関連しています。これは、あなたがしかるべき時にしかるべき発言をし、共感と優れた判断力を示す時に築かれます。あなたが私的な成功や富、名声、地位ばかり気にするのではなく、自分自身よりも大きな理想のために立ち上がる時に成長します。あなたが正直に人と接して、自分が知らないことは認め、自分以外の何者かになろうとしない時にも成長します。偉大なリーダーになろうとしてSteve Jobs氏やEd Catmull氏を真似ても、うまくいかないのはこのためです。あなたは自分自身にしかなれません。

ほとんどのリーダーは、信頼構築の科学を理解しています。製品と戦略について明晰に伝え、指導的地位に就く人材を採用したり昇進させたりする際には優れた選択をしなければならないと理解しています。深いコミットメントを示し、すべきことを遂行しなければならないことを理解しています。それでも私の経験では、真の偉大なリーダーは、信頼構築の芸術も理解しています。リーダーは、人を解雇したり、過ちの責任を取ったり、ノーと言うことで人を落胆させたりといった、数々の難しい決断を下さねばなりません。偉大なリーダーは、こうした課題を信頼構築の機会と捉えます。どの一連の行動と、どのコミュニケーション・スタイルを採用すれば従業員からより信頼されるようになるかを、自身に問いかけます。難しい課題に直面した時、彼らは信頼を得るために最大限に活用します。

これが、偉大なリーダーが他の人々に授ける教訓かもしれません。窮地に立たされた時、ある一連の行動と別の一連の行動とを比較する際には、どちらを採った方が人として、またリーダーとしてのあなたに対する信頼感が生まれるかを、自分に問いかけてください。信頼感を生む方を、常に選択してください。

本稿の草稿に目を通してくださったTobi Lütke氏、Tyler Bosmeny氏、Daniel Yanisse氏、David Rusenko氏、Sam Altman氏、Michael Seibel氏、そしてYC Continuityチームに感謝します。

追記

リーダー評価のための調査質問

リーダーシップを測る最良の方法は、偉大なリーダーなら誰もが秀でていなければならない3つの領域――明晰な思考と明晰なコミュニケーション、人に関する判断力、人としての高潔さとコミットメント――におけるリーダーのパフォーマンスを評価することです。この方法でリーダーシップを測るためには、従業員からデータを集める必要がありますが、ほとんどのスタートアップは、これを体系的に行ったことがありません。

どんな企業でも、いずれは従業員の思いを集約してデータに整理する方法を開発する必要があります。事実、優れた人事チームの主たる責務の一つは、従業員の思いを集約して記録し、それを使ってリーダーシップを評価することです※2。スタートアップは50人ほどの規模に達したら、この体系的データ収集に取りかかることを、私はお勧めします。

どのようなデータ収集テクニックを用いるにしても、リーダーシップのパフォーマンスを評価するために正しい質問をすることが重要です。以下の質問サンプルは、より徹底的な従業員調査を行うためのとっかかりになるように作成しました。CEOを評価する質問として書いていますが、社内のどんなリーダーの評価にもたやすく応用できます。目的の一つは、CEOの回答と従業員の回答にどの程度整合性があるかを見ることです。

1. 明晰な思考とコミュニケーション

CEOへの質問

  • 自身の会社のミッションと戦略とキーとなるメトリクス(「Mission-to-Metrics」)を2分以内に書いてください。
  • あなたが一貫して強調して従業員に伝えているテーマを2つないし3つ書いてください。

従業員への質問(在籍者及び離職者)

  • 会社のミッションと戦略は何ですか。
  • 会社の成功を測る上で最も重要な業務指標は何ですか。
  • あなたの仕事はこうした主要成功指標にどのように貢献していますか。
  • 会社が定義するミッションと戦略とメトリクスは、この24カ月間にどの程度の頻度で変更され
  • ましたか。それとも、ずっと同じでしたか。
  • CEOにとって本当に重要なことは何だと思いますか。CEOが一貫して強調して伝えていることは何ですか。
  • CEOはどの程度効果的で明晰に以下のコミュニケーションを行っていますか。 文書、多人数のグループと話す時、少人数のグループと話す時。

2. 人に関する判断力

CEOへの質問

  • 会社であなたが採用したり昇進させたりしたリーダーの能力を評価してください。
  • あなたが昇進させたり採用したりしたものの、実際にはその分野を率いるのに適切ではなかったとあなたが考えるリーダーがいれば、名前を書いてください。
  • 適切な従業員をイグジットさせましたか。それとも、過ちを犯しましたか。

従業員への質問(在籍者及び離職者)

  • CEOは会社で優れたリーダーを選びましたか。
  • あなたはどのリーダーを尊敬していますか。その理由は何ですか。
  • 能力が低いとあなたが考えるリーダーはいますか。その理由は何ですか。
  • この1年間でCEOが交替させたリーダーはいましたか。それはあなたから見て良い判断でしたか。
  • あなたの分野を監督する上級幹部(CEO直属)の長所と短所は何ですか。
  • この1年間で、高い業績を上げながら退職することを選んだ人は、あなたのチームにいましたか。その人はなぜ辞める選択をしたのですか。
  • 離職者への質問:退職するのは、上級幹部に関する懸念が理由ですか。

3. 人としての品格とコミットメント

CEOへの質問

  • あなたが取った行動の中で、従業員があなたの品格に寄せる信頼を損なったとあなたが感じるものはありますか。それは何ですか。
  • あなたは自分のパフォーマンスについてフィードバックを求めますか。従業員のフィードバックに対応して自分の行動を変えた例はありますか。
  • 仕事に対する自分のコミットメントを、どの程度と評価しますか。
  • 自分の直属の部下のコミットメントを、どの程度と評価しますか。

従業員への質問(在籍者及び離職者)

  • CEOの高潔さ/倫理基準を、どの程度と評価しますか。
  • CEOは良く耳を傾け、フィードバックに対してオープンだと思いますか。フィードバックがCEOの行動をポジティブな形で変えた例はありますか。
  • CEOがえこひいきをしたり不適切な関係を持ったり、不適切な言葉を使ったり、利害の衝突に関わったりといった非倫理的行為をするのを見た例はありますか。
  • 匿名で質問した時、従業員/直属の部下は、何がCEOのモチベーションになっていると感じますか。
  • CEOは会社のミッションに対してどの程度の私的コミットメントを示していると、あなたは感じますか。
  • CEOにコミットメントが欠けているのを目にした例はありますか。
  • 他のリーダーや従業員にコミットメントが欠けているのを目にした例はありますか。

 

注釈

※1 「スタートアップのCEOの二つ目の仕事とは何か」で、目的とアラインメントの創出についてより詳細に説明していますので、ご覧ください。

※2 データ収集法としては、CEOもしくは人事担当者による従業員円卓会議や、従業員のイグジット面接の一環として尋ねる構造化された質問、従業員からのフィードバックを収集するための全社会議やチーム会議、外部コンサルタントを起用して行う従業員アンケートや面接、オンラインや電子メールによる従業員アンケート等があります。

 

著者紹介

Ali Rowghani

Ali Rowghani は YC Continuity の CEO であり、グロースステージのスタートアップに対する投資とアドバイスを行っています。Ali はTwitter ではCFOとして、そしてCOOとして。Pixar ではCFOとして、そして戦略策定の上級副社長として二つの素晴らしい会社の成長に貢献してきました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How Do You Measure Leadership? (2017)

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