レイターステージへの軌道に乗っているスタートアップが、起業後12-24ヵ月目に直面していることについて話したいと思っています。ここで話すことは、「スタートアップの始め方レクチャー」の最終講義から多くを引用しています。
マネジメント
Product/Market Fitまでは、素晴らしい製品を作ることが、あなたが最優先させるべき仕事になります。しかし企業が25人を超える従業員を持つまでに成長すると、あなたの主要な仕事は優れた製品を作ることから、素晴らしい企業を作ることへとシフトします。
はじめはあまりマネジメントは必要ありませんし、それで実際うまくいきます。社員が20名以下であれば、彼らは直接創業者に報告を出すでしょう。アーリーステージにおいては、それが理想的です。
しかし20人の従業員の時に機能していたことも、それが40人になると悲惨な結果を招く可能性があります。注意しなければならないのは、痛みを伴う必要性が生じる前に、適切な構造が必要になるということです。
複雑な構造を作るべきではありません。手始めに必要なことは、すべての従業員が自分のマネージャーが誰であるかを知り、全員が1人のマネージャーを持つことだけです。すべてのマネージャーは直属の部下が誰であるかを知っている必要があり、あなたは人々を理にかなうような形でチームに振り分けていきましょう。
明確さと単純さが大切です。私であればマネジメント構造を革新的にしようとは思いません。複雑にしたり、難解にしたりするのはやめましょう。また明確なミッションとゴールを持っていることも重要なことです。そうすればより良い仕事ができるようになり、マネジメントが横暴だと感じられることも少なくなります。
構造の他にも、創業者が陥ってしまいやすいマネジメント上のケースがいくつかあります。
経験あるシニア:通常、初期の段階においては、シニアを採用することは誤りです。しかし会社の規模が成長していく中で、以前会社を作ったことのあるシニアやエグゼクティブを加えることには価値があります。恐れずに彼らを迎え入れましょう。
仕事を抱え込む:会社の規模が成長していくにつれ、多くの創業者が、仕事を他の人々に任せる代わりに、自分でそれを全て抱え込んでしまいます。しばらくはそれでいいかもしれませんが、そのまま企業が成長していくと、あなたには余力がなくなり、仕事の精度も落ちてしまいます。限界を超えてしまう前に、必要な人材を雇い、彼らに仕事を委任することが重要です。
不十分な委任:多くの創業者は、社員に面倒な仕事を押し付けながら、全ての決定権は自分で握っておくといった方法で、仕事を委任しようとします。これは、拡張性の面でも、従業員の効率性の面でも効果的ではありません。そうではなく、社員に決定権を与えましょう。ある問題についてどのように考えているのかを社員に伝え、後の意思決定のプロセスについては、彼らに任せるのです。もし適切な人材を雇用しているのであれば、あなたは安心して彼らに任せることができるはずです。
適切な方法で行えているのであれば、ほとんどの仕事を委任しても安全でしょう。特に、あなたがしたくない仕事は、委任するようにしましょう。自分が本当に関わり続けたいと思っていることは、委任しないようにしましょう。それが、あなたが楽しんでいることであったり、それに参加することで多くの利益が得られると考えていることであれば、あなたはより満足できるからです。
自己管理:自分が何をしなければならないのか、他の人と何をフォローアップしなければならないのかを把握しておく方法を開発することは非常に大切です。スタートしたばかりで、製品にフォーカスしているときにこれを理解することは重要ではありませんが、マネージャーになるときにはこれが重要になります。
意思の伝達:ある時点を過ぎると、全ての人々と一対一で対話を持つことが難しくなります。この状況をうまく切り抜けるために、明確で、簡素な文章で意思伝達すること、そしてそれを全ての人々とシェアすることを学びましょう。これは最も活用できる手段の1つであり、数千人規模まで拡大可能です。少なくとも月に一度、全社員と 「全員参加型」 のミーティングを行うことは、意思伝達のための非常に効果的な方法でもあります。また、直属の部下と1対1のミーティングを持つことも、非常に良いアイデアだと言えます。
HR
ほとんどの創業者は、スタートアップの初期段階においてHRを無視しますが、レイターステージに移行してからもHRを無視し続けることは、大きな間違いです。良いHRは、あなたの成長の速度を大きく早めるのです。
良いHRとは3つのことを意味します:明確なマネジメント構造、職場での問題や悩みについて社員が話せる環境、そして社員が自らのキャリアを発展させられる道筋が用意されていること、です。
社員のために道筋を作ることに関わる重要な要素は、パフォーマンスに対するフィードバックです。軽いもので構いませんが、頻繁にそれを与える必要があります。自分のパフォーマンスが良いのか悪いのか定期的に知ることは、社員の大きな助けとなるのです。
パフォーマンスが給与とどう関係するのかを明確にしておく必要もあります。社員は給与のことを話しますし、そのうち同僚がいくら貰っているのかを、みんなが知ることになります。給与に一貫性がなければ、大惨事を招くことになるでしょう。給与バンドがあれば、社員は自分の公正な給与を知ることができます。例えば、中級エンジニアであればこの範囲、年配のエンジニアであれば、この範囲というように。これで公正さが保たれますし、馬鹿げた交渉に時間を煩わされることもなくなります。
エクイティも、給与の中の重要な要素の一つです。YCカンパニーのデータによると、成功したほとんどの企業は、多くのエクイティを分配しているようです。
私は創業者に、創業から10年間は毎年会社の株の3~5%を分配する計画を立てるべきだと話しています。これは大量のエクイティになりますが、従業員のモチベーションと連携を維持するためには、これを行う必要があります。
またVesting期限が近づいてきている既存の社員に対して、リフレッシュグラントと合わせて、これを行うのも良いアイデアです。このための計画は早めに立てておきましょう。4年のうちの3年をVestしてしまったからといって会社を去ることを考えるような状況に、社員をおくべきではありません。いつでも、社員のVestingスケジュールの先回りをするようにしましょう。
長期的な準備として、チームの燃え尽き症候群に注意してください。会社を作ることは本当にマラソンのようなものであり、社員を週に100時間働かさせ続けることはできません。彼らに休暇を取ってもらい、新しい課題を見つけ、新しいことをしてもらいましょう。
うまくいっているのであれば、12-24カ月の時点で採用プロセスを開始するのも良いでしょう。そして、Product/Market Fitの段階になったら(これより早くてはいけません)、フルタイムのリクルーターを雇用するべきです。最高の人材を獲得することが、間違いなく最も重要なことであり、これに関してできるだけ効果的でありたいものです。
HRに関する他のいくつかのヒント:
多様性のあるチームを作る:12-24カ月の時点以前であっても、多様な観点からチームを作る方法について考えておくことは大切なことです。ヴィジョンの統一性は大事ですが、バックグラウンドに多様性があるのは良いことです。文化に対して視野が狭くなると、大抵あまり効果的でなくなってしまいます。
内定をアナウンスする:最大数百人の社員に向けて、内部のメーリングリストを通して、全ての内定可能性のある人物についてアナウンスします。そうすれば、企業内の誰かが、内定を受けるかもしれない人物の良い評判や、悪い評判について、何かしら知っている場合が多いのです。
オンボーディングを形作る:新しい社員を指導するためのプログラムを持っておきましょう。そうすることで、彼らの最初の1週間がどういうものになるのか、彼らがどう訓練を受けるのかが分かります。
初期からいる社員のためのキャリアパスを用意する:会社の成長に合わせて、10-15人の初期から在籍する社員の将来について、早い段階から考えておくと良いでしょう。彼らは、もしかしたら新しく用意される管理職の役割には適していないかもしれません。それでも彼らには幸せでいてもらいたいものです。彼らは同僚から愛され、生産的なのですから。ですから事前に準備を整え、彼らの進路について直接話すようにしましょう。彼らと向き合って、社内におけるキャリア設計を、彼らがどう描いているか聞いておいてください。
会社の生産性
繰り返しイノベーションを起こせる会社を作ることは、ビジネスにおいて最も難しいことです。ほとんどの企業は、1つの素晴らしいことをして、イノベーションを止めてしまいます。偉大な創業者たちは、これを克服するために懸命に働いています。
アラインメントが鍵になります。社員が同じ方向を向いていなかったり、彼らが優先事項を理解していない場合、企業は非生産的になります。もしチーム全体で同じ方向に向かってアラインできれば、戦いの半分は勝利したも同然なのです。
まず、非常に明確なミッション、ロードマップ、目標を設定することから始めましょう。会社にいる全員が、今後3~6か月、場合によっては今後1年のロードマップを知る必要があります。
会社の規模で四苦八苦している企業によくする古典的なテストがあります。創業者に簡単な質問をしてみてください。「会社のトップ3人の企業目標は何かと10人の社員に聞いたとしたら、彼らは同じことを言えると思いますか?」創業者は100パーセント、「はい」と答えます。そして私が実際にこの質問をしてみると、100パーセントの確率で、同じことを言う社員は現れないものです。
創業者は自分のアイデアを効果的に伝えることができていると思っているので、いつもこの結果に驚くようです。しかし実際には、彼らは自分の考えを必要なだけ明確に、あるいは頻繁には伝えていません。ロードマップと目標を繰り返して、人々が理解し、内面化できるようにすることが重要です。
同様に、透明性のあるコミュニケーションは本当に大切なことです。創業者にとって、直属の部下と毎週経営会議を持つことは重要です。また少なくとも月に一度は、会社全体でミーティングを持つことは、良いアイデアでしょう。これらを利用して、会社全体のロードマップ、直近3か月の軌道、および直近の軌道が長期目標にどのように向かっているかを確認してください。
長期的な生産性に関する他のヒント
オフサイトに行く:最高の人材を通常のワークスペースの外に連れて行き、皆で話をして会社の全体像を考える時間がある週末を過ごしましょう。日常の外に出るとき、人は面白いアイデアを思いつくことがあります。
法的な文章を整理しておく:会社がこれまでに署名したすべての契約書を誰かにまとめてもらうように頼めば、今後の頭痛の種が減るでしょう。
ファイナンシャルプランニング&アナリシス(FP&A)を始める:素晴らしいビジネスモデルを構築できる人物がいれば、ほとんどの人が見落としてしまうようなレベルで物事がどのように動いているかを最適化し、理解することができます。ほとんどの場合は、数百人の従業員を抱えるまでは、この問題に取り組むために誰かを雇うことはありませんが、もっと早くやってみる価値はあるでしょう。
資金調達担当者を雇用する:フルタイムの資金調達担当者は、他の人が勧めるよりもずっと早く雇用する価値があると思います。Bラウンドの後に本当に優秀な人を雇い、彼らにフルタイムでCラウンドに向けての準備をしてもらうなら、後で投資銀行出身者を雇うよりもほぼ確実に良い結果を得ることができるでしょう。また、最終的には支払い額がはるかに少なくなり、希薄化もはるかに少なくなります。
ユニットエコノミクスに注意を払う:すぐにでも、各ユーザーから利益を出す方法を見つける必要があります。歴史的に見ると、優れた企業のほとんどは、収益化を開始してすぐに、たとえ会社全体が長期にわたって損失を出したとしても、良好なユニットエコノミクスを持っていました。製品やサービスを改善するのではなく、ビジネスでもって問題を上塗りしてしまいたくなるかもしれませんが、これはよくある落とし穴です。
自分の足元に注意する:ユニットエコノミクスの視界が良好な時も、銀行に資金があることを常に確認しておく必要があります。銀行に2、3ヵ月分の現金があるだけではいけません。
創業者のメンタル
自分の企業で働き続ければ、段々、それはほぼ確実に大変になっていきます。高いものはより高く、低いものはより低くなります。
成功が増せば、人々はあなたの失敗を願うようになるものです。ジャーナリストやインターネット上の人々は、どうにかしてあなたのしていることを批判しようとするのです。彼らの文章を読むと最低な気分になります。早い段階で、この種の憎しみを持った人々を無視する方法を見つける必要があります。
また同じく早い段階で、そのスタートアップの道のりがどれくらいのものになるのか考え始めておくのも良いでしょう。自分が創設したスタートアップに長期的に参与する創業者は稀ですし、そうできた一握りの人々には、大きな利点があります。次の10年間は会社で働くことを前提とした上で、戦略を立てましょう。ほとんどの創業者は、そこから生まれる多大なメリットを受け取っていません。
自分のために休暇を取ることも忘れてはなりません。3年も4年も本当の休暇を取ることなく働き続ける創業者をよく見かけます。最初の数年はそれでもいいかもしれませんが、そのうち燃え尽きてしまうでしょう。
最後に、フォーカスを失わないようにしましょう。フォーカスすることが、最も大きな成功の条件です。フォーカスを失ってしまう理由はいくつもあります。燃え尽きてしまうことは、確実にそのうちの一つでしょう。潜在的な買収候補企業と話してしまうことも危険です。気を散らさないようにしましょう。
マーケティングとPR
スタートアップには、マーケティングとPRを長い期間無視しておくよう伝えています。あなたのスタートアップを作るのは記事ではありません。
しかし、スタートアップが軌道に乗り始めたら、創業者はマーケティングについて時間を割く必要が出てきます。製品が売れ始めたら、マーケティングについて何も考えない状態から、少しは考える状態へとシフトしましょう。
会社の鍵となるメッセージをPR会社や、マーケティング責任者に委任してはいけません。会社のメッセージが自分自身になることを理解しておくべきです。
重要なジャーナリストと知り合いになっておくこともお勧めします。PR会社に話を聞きに行くジャーナリストはいません。彼らは創業者から話を聞きたがるものです。3人から4人のジャーナリストを選び、密接な関係を結び、彼らに理解してもらうようにしてください。それから、彼らに直接連絡を取るようにしましょう。彼らは会社のことを気にかけてくれるはずです。
ディールメイキング
12-24ヵ月目は、ビジネス開発が重要になり始める時期でもあります。もちろんこれは、優れた製品が既に作られていることを前提としています。
事業開発契約をしようとしているなら、大きな契約をしようとしている相手と個人的な関係を築くようにしましょう。誰も取引の道具として利用されているとは感じたくないので、実際に取引相手を気にかけていることを示すようにしましょう。
そうは言っても、競争的な状況を設定することを忘れてはいけません。これは交渉の基本原則であり、ほとんどの創業者は資金調達からこれを学んでいます。競争的な状況があり、その中で粘り強く続けることで、良い条件と取引が成立します。
最後にお伝えしたいことは、自分が何を欲しているか、自分自身に問わなければならないということです。取引で何かを得たいなら、それを伝えることを恐れてはいけません。笑われて部屋から追い出されるなんてことはまずありませんし、実際にそれを得ることができるかもしれません。
繰り返しになりますが、レイターステージは最初に会社を始めた時とは別物であり、それを認識する必要があります。その地点を越えるときには細心の注意を払い、それに応じて適切な場所に物事を配置してください。
簡単に言えば、人々が理解できる明確で単純な構造化されたマネジメントを行うことです。人々がキャリアを前進させ、報われるための方法を設定しましょう。自分の関心を最も必要としているものにフォーカスし、そうでないものはうまく任せるようにしましょう。社内でのコミュニケーションを明確にし、どう努力すればよいかがわかるようにロードマップを設定しましょう。
もちろんこれらは簡単なことではありませんが、これらを念頭においておくことは大いに役立ちます。繰り返しになりますが、最初からこれらのことを気にする必要はありません。優れた製品を作ることに集中してください。
著者紹介 (本記事投稿時の情報)
Sam Altman は OpenAI のCEO であり、Y Combinator のアドバイザーです。彼は 2014 年から2019年の間、YCの社長でした。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Later Stage Advice for Startups (2016)