プロダクトの健全度を測る (Sequoia Capital)

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。原文: Measuring Product Health (Sequoia Capital, Data Science Team)

目次

 

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良い製品は人間が根深くもっている真のニーズを満たします。心地よい気分にさせ、信頼感を植え付け、人々にその製品と関わり合って熱烈なブランドアンバサダーになりたいと思わせます。健全な製品は幅広い分野に存在しています。たとえば、企業向けのもの、消費者向けのもの、ニッチなニーズが生まれる特定の垂直業界を重視したもの、実用的なもの、効率性を高めるものなどが考えられます。この記事では、成長、継続、スティッキネス、エンゲージメントといった側面を消費者向け企業はどう測定すべきかについて特に焦点を当てながら、健全な製品が有する多角的な側面を詳しく見ていきます。

その製品でうまくいっている部分はどこで、そうでないのはどこですか? 会社はうまく成長していますか? ユーザーは継続していますか? その製品にスティッキネスはありますか? 新しいコホート (共通した因子をもつ集団) は古いコホートと同じような行動をとっていますか? 人々はその製品に愛着を感じていますか? それに深い関心を寄せているコアユーザーたちはいますか? 良い製品は市場に普及し、ユーザーを継続させたり、愛着を感じさせたりして、健全なコンテンツ・ループで定期的にユーザーを呼び戻すうち、きちんと成長していきます。

ユーザーアダプションと成長

総アクティブユーザー数はその製品の影響力を最も正しく表す評価基準です。アダプションと成長を推進することは、製品がポテンシャルを最大限に発揮して最大多数のユーザーに最大の価値を生み出すために重要です。

大切なのは市場全体に照らしながら、製品とユーザーの増加を理解することです。その製品を使っている人数は? その製品にとっての TAM (実現可能な最大の市場規模) は? その製品を使っている人数は TAM と比較するとどうでしょうか? あなたの競合相手が獲得している市場占有率はどれくらいで、それは時間とともにどう変化していますか? 時間とともに TAM はどのように拡大しそうで、あなたの製品が獲得しそうなシェアはどれくらいですか? (図1を参照)

その製品の成長上の特質を理解することも大切です。その製品が成長するスピードは? 有機的に成長していますか? 成長は主に新規ユーザーの獲得が牽引していますか? 市場普及率が上昇するにつれて、成長はどう変化していますか? その製品でチャーンと復帰のバランスはどうなっていますか?

前回の記事では、成長の観点から製品の発達を詳細に検討していきました。健全な製品には成長の段階が複数あり、それはS字カーブに似ています (図2を参照)。多くの製品はまず控えめ、かつ緩やかな成長から始まり (初期段階)、次に成長は傾斜が上向きに弧を描く点まで加速 (成長段階) します。続いて成長が最大に達するまで指数関数的な成長が起こり (超成長段階)、その後は成長が徐々に減少しながら成熟に到達します (成熟段階)。成熟段階では成長がゼロ、またはほとんど起きません。

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その市場から生まれるその製品に対する需要が十分に大きくなかった場合、その製品が成功するのは極めて難しくなります。そのうえ、健全な製品には縮小市場ではなく、成長市場が不可欠です。さもなくば、失敗は必至です。まだ発達中の市場では、自社が需要と共に成長できるよう、その製品を発達させるタイミングを見計らうことが成功にとって極めて重要です。多くの場合、これが非常に困難です。製品の多くはタイミングが原因で失敗します。

では自分が「適切な」スピードで成長しているかどうかはどうやって知るのでしょうか? そんなときは、同じステージにある他社の製品と同一の基準で自社の製品を評価することが役立ちます。市場普及率が同じ水準だった時の類似製品の成長スピードを知ることで、自分の製品が特に優れているかどうかを判断できます。

製品が成長し始めるにつれて、それをインストールする人々がますます増えていき、やがては有効市場におけるインストール数の割合もどんどん大きくなります。したがって、その製品のインストール数やダウンロード数を全体的に把握することがとても役立ちます。

製品の初期ステージでは、インストール数が非常に少ないのが普通で、全ての純増数が新規ユーザーによって牽引されています。チャーン(離脱)や復帰はありません。その対極、健全な製品が成熟に達し、有効市場での普及率が高いときには、チャーンが復帰を相殺して、アクティブユーザー数は時間が経っても安定したままです。この安定性は、以前に継続した各コホートが多かれ少なかれ水平化していることを表しています。

この2つの極の中間に位置する段階では、成長は新規ユーザー、復帰ユーザー、チャーンユーザーのバランスによって決まります。製品が成熟に達する頃では、大きく変化するには遅すぎます。そのため、自社が成長段階にある内に、その製品の持続的な成長を確実にしておきたいところです。

市場のメトリクス

MAU / インストール数

成長を測定するには、インストール数全体に対するパーセンテージとして表される月間アクティブユーザー数 (MAU) と、その市場に対するパーセンテージとして表される総インストール数の両方を追跡するのが役立ちます。

製品の総ダウンロード数について、有効市場での普及率が高い状態に達し始めているならば、「MAU / インストール数」も比較的高くなっているはずです。インスール数が有効市場での最大普及率へと近づくにつれて、新規ユーザーの獲得はもはや純増数を追加するための戦術にはなりません。その製品を試してみるユーザーが残り少なくなっているためです。その結果、純増数は過去にチャーンしたユーザーの復帰に由来すると見て間違いありません。言い換えれば、純増を生じさせるには、より古い時期のコホートの継続率が時間とともに向上する必要があります。一般的に、これは困難です。インストール数に対するアクティブユーザー数の比率が時間とともに小さくなっているならば、その製品は勢いを失っています。非常に強い製品の場合、古い時期のコホートが復帰し始めるため、「MAU / インストール数」が時間とともにゆっくりと増加します。

留意すべき点は、異なるジャンルのアプリでは見せる動きも大きく異なるということです。例えば、どんなゲームにも「賞味期限」が存在します。これはそのゲームが絶頂期にどれほど人気を博していようとも関係ありません。『Empires & Allies』というアプリのケースでは、膨大な数の人がインストールして (図3を参照)、多くがアクティブユーザーとなりました。しかし、そのゲームからチャーンしたユーザーの数も巨大でした。たとえ参加する新規ユーザーが増えても、そのチャーン数があまりにも大きく、MAUは急速に減少しました。安定状態でアクティブユーザーに留まっていたのはダウンロード人口のたった2%で、徐々に増加する新規ユーザーもごくわずかでした。このように、そのゲームは現在ほぼ死にかけており、利用しているのは極めて粘り強いファンのみです。

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成長のメトリクス

MAU / WAU / DAU

第一に追跡すべき成長のメトリクスはアクティブユーザー数です。基本の指標は3つで、その全てが互いに相関しています。任意の1日にその製品をアクティブに使用している人の総数が日間アクティブユーザー数 (DAU)、任意の1週間における特定のアクティブユーザーの数が週間アクティブユーザー数 (WAU)、そして任意の1か月間における特定のアクティブユーザーの数がMAUです。あなたが期待する製品の使用頻度に基づいて最優先するメトリクスを決めましょう。

D/D、W/W、M/M、Y/Y の変動数

前日比 (D/D)、前週比 (W/W)、前月比 (M/M)、前年比 (Y/Y) で変動したアクティブユーザーの人数を把握することも極めて有用です。製品のDAUは変動しやすいかもしれません。一方、その日から連続する7日間の平均値を追跡する方が有意義かもしれません。一般的に、カレンダーに基づくメトリクスではなく、連続期間のメトリクスを用いるのが最適です。例えば、2月と1月のあいだでMAUを比較することは誤解を生じさせる恐れがあります。月によって日数が異なるためです。連続28日間の方がMAUがより望ましいでしょう。ローリングウィンドウ法によって28日間を比較することには、結果をゆがめる恐れのある「曜日」の影響を回避するという更なるメリットもあります。

Quick Ratio

成長会計フレームワークは、成長を「新規ユーザー」「復帰ユーザー」「既存ユーザー」「チャーンユーザー」に分けることで、成長に最も寄与しているのがどの要因かを把握するのに役立ちます。いずれか2つのタイムスタンプ (t1とt2) のあいだで、「成長の変化 = その時間枠内で獲得された新規ユーザーの数 + 期間t1ではアクティブでなかったが、期間t2までに復帰したユーザーの数 - 期間t1には存在していたが、期間t2にはいなかったユーザーの数」という数式が成り立ちます。

Δ growth = 新規ユーザー + 復帰ユーザー - チャーンユーザー

クイックレシオ (新規ユーザーと復帰ユーザーの合計をチャーンユーザーで割った比率) が1より大きいと、純増数はプラスです。1より小さいと、アクティブユーザー数は対前月比で減少しています。ほとんどの場合、会社が成熟に達すると、復帰とチャーンがおおむね互いに相殺し、純増の大半が新規ユーザー数の増加によって起こります。飽和市場の場合、例えばアメリカのFacebookでは、新規ユーザーの獲得が極めて小さく、成長は比較的一定の状態が保たれ、チャーンと復帰は互いに相殺しています。

新規ユーザー数 / MAU

最初期の段階にある企業の場合、全ての成長は新規ユーザーから生じ、チャーンや復帰は存在しません。その後すぐ、新規ユーザーは純増の主な牽引役として大きく寄与し続ける一方で、そのMAU全体における割合が減少します。その企業が成熟するにつれ、新規ユーザーの純増に対する寄与は縮小し、継続ユーザー人口の方がMAU全体で大きな割合を占めるようになります。健全でない企業では、製品が高い市場普及率に達したあとでさえ、新規ユーザーが成長における最大の牽引役のままという場合があります。これは死のスパイラルです。いったん製品が有効市場で高い普及率に達したら、その製品が持続可能なものとなるためには、成長の中で新規ユーザーの獲得から生じる割合は小さくなっていくべきです。

サインアップ数 / インストール数

新規ユーザーの獲得と既存ユーザーの継続は消費者向け企業にとって製品に関する2大注目ポイントです。企業のライフサイクルにおける初期では、新規ユーザーの獲得・継続・エンゲージメントが特に大切です。その製品の継続率がよく、ユーザーが深い愛着を感じているならば、新規ユーザーの成長を高めることに焦点を合わせるのが合理的です。この獲得は複数のチャネルや戦略によって実現できます。例えば、輸入業者への連絡、ソーシャルメディア、広告 (バナー広告、Mobile App Install、ビデオ広告など)、インストールや紹介へのインセンティブ付与、SEO、ASO (アプリストア最適化)、Eメールマーケティング、PRおよび記者発表、アプリ・クロス・プロモーションなどです。自社のユーザーがどこから来ているかを知り、各チャネルの効果を把握することは自社の取り組みに優先付けを行う上で大切です。送受信された招待数、クリック数、ダウンロード数、インストール数、登録数など、獲得ファネル全体をしっかりと理解するとともに、うまくいっている部分といっていない部分を確実に特定しましょう。

成長に関する検討事項

考えられるセグメンテーション 例えば国、デバイス、年齢、性別、電話利用年数ごと、接続性ごと、プラットフォーム、製品寿命など、 自社事業にとって最も意義のあるものに応じた成長の多角的な測定が有用です。リファラーの記録 (ペイド、オーガニック、SEO、アプリストア) をとることは特に大切です。

継続率

継続率はその製品が有用かどうか、自社の製品がProduct/Market Fit (製品と市場のニーズがマッチしている状態) を実現しているかどうかを表す最高のメトリクスと言えます。なぜなら、その製品を試した人々がリピーターとしてそれを再び使うほどそれを気に入ったかどうかがわかるためです。一般的に、新規ユーザーたちと接する製品にとっては初日または初週が重要です。彼らは購入するほど満足していますか? 彼らにはおしゃべりできる親しい友人が何人かいますか? 彼らはその種類の製品に対するメンタルモデルをもっていますか?

健全な継続率を実現し、成功できる製品を作り上げるには、その製品に愛着を抱き、採用し、高い関心を示すようなコアユーザーたちがいなければいけません。開始時には、このユーザーたちの最重要なユースケースに焦点を合わせ、常に彼らのために製品を作り上げましょう。これはユーザーが初めてその製品を「入手」する「魔法のような瞬間 (magical moment)」を生み出すこと、ユーザーの継続を確立する転換点を特定することの両方に関わってきます。

Facebookの場合、Magical Moment とは新規ユーザーが初めて友人の顔を見つけた時です。WhatsAppの場合、ある人が受け取る最初のメッセージがそれです。Amazonの場合、買う人が最初の購入品を受け取るとき、またはカスタマーサービス・チームと最初にやり取りする時かもしれません。

Magical Moment を生み出した時点で、ユーザーがどのように継続しているかを調査しましょう。継続への転換点は製品ごとに異なります。Facebookのケースでは、10日以内に7人の友人とつながることでした。

自社の製品を持続的に成長させるためには、Magical Moment と継続への転換点という両方を特定する必要があります。

継続もまた、製品の成長にとって最重要手段です。継続の弱い製品は長期的に持続可能ではありません。頼りになる長期ユーザーもおらず、有効市場全体を通してユーザーが変動していきます。マーケティングや有料チャネルによるユーザー獲得に投資する前に、継続率に影響を与え、初期コホートの安定した継続に役立ち得る、ありとあらゆる変数を把握するように気を付けましょう。究極目標は長期的な継続ですが、初期の継続は長期的な継続を予測する有力な判断材料となり得ます。継続の絶対値自体は製品の種類 (ソーシャル、ゲーム、メッセージなど) や、測定のために選択した時間枠 (日間、週間、月間など) によって決まりますが、継続率は高いに越したことがないというのは永遠の真理です。

継続のカーブが描く基本的な形は3つです。一つ目は、最悪のシナリオを想定したもので、長期的なコホートの継続が0にまで落ち込みます。これでは最終的に、製品は死に至ります。二つ目のシナリオでは、継続のカーブが0よりも大きな数字で横ばいになります。これはその製品にアクティブユーザーがいる状態を確保してくれます。横ばいの数値が高いほど、抱えるユーザーも多くなります。三つ目のシナリオが最高のものです。ある製品が非常に健全で、Product/Market Fit を強固に実現しているとき、より古いコホートでの継続が増え始める「超成長」段階が訪れるかもしれません。これはEvernoteのスマイル・グラフです (図4)。(最終的には、より高い割合でこれが横ばいになります)。

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継続のメトリクス

Dn / Mn / Wn メトリクス

継続率はコホート単位で評価されます。すなわち、任意の日、週、月に製品をインストールしたユーザーたちを追跡し、そのうち最終的にリピーターとなっているパーセンテージを確認する方法です。その目標とは、ユーザーが長期間にわたって高いレベルで製品を継続することです。しかし、比較的新しい製品の場合、長期的な継続がどうなるかを推定するのは困難です。したがって、長期的な継続を示す初期のメトリクスを特定する必要があります。例えばゲームでは、1日目で継続する人々のパーセンテージ (D1リテンション) が長期的な継続のメトリクスとなります。

長期的な継続を表現する単純なやり方は、あるコホートでおよそ1年 (例えば、364日間) 後に継続した人数を複数の比で分析することです。以下の方程式の通りです。D1リテンション = D1 / D0。これはつまり、1日目で継続させたコホートの比率です。(D0はあるコホート内のインストールした人数で、D1はそのコホート内で製品を1日後もまだ使っていた人数です。) (訳注:D は Day を意味しています)

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全てのコホートで「D7 / D1」が比較的一定に保たれていながらも、D1リテンションが下降を始めている場合、D1リテンションの向上を重視しましょう。なぜなら、これは長期的な継続にとって最大の手段になる可能性が非常に高いためです。同じく、D1リテンションが水平でありながら、D7 / D1が下降している場合、初日よりもむしろ初週にユーザーをエンゲージメントする新たな方法を見つけることを重視しましょう。自社の製品に最も合致するメトリクスを選びましょう。

コホート曲線

Dnリテンションメトリクスに加えて、コホート曲線の分析も極めて重要です。コホート曲線からは継続率が横ばいになるか、超成長を経験するのか、それとも0に落ちるのかが、はるかによく分かります。

健全な継続率のためのヒントはまだいくつかあります。

  • 新しいコホートの継続率を古いコホートの継続率と比較し、それらが長期にわたって健全性を保つように気を付けましょう。
  • 類似製品と同じ基準で継続率を評価しましょう。
  • コホートの継続が横ばいになるように徹底しましょう。高い割合が望ましいです。

スティッキネス

たとえその製品が成長し、ユーザーがよく継続していたとしても、「粘着力」はないかもしれません。継続が人々を製品のリピーターにすることと関係する一方、スティッキネスは人々に自分の意志でリピーターとなることに関係しています。この結果、プッシュ通知のような戦術への依存度を減らすのに役立ちます。ある製品やサービスに粘着力があるとき、消費者はそこにくっついて簡単には離れることができません。例えば、Facebookのスティッキネスはユーザーによる情報を共有したいという衝動、他者の生活に対する好奇心から直接生じています。

スティッキネスのメトリクス

DAU / MAU

これはスティッキネスを示すメトリクスとして最も広く使われています。日間アクティブユーザー数の月間アクティブユーザー数に対する比率からはある製品にどれだけ粘着力があるかがわかります。別の製品におけるこのメトリクスを把握し、自社の製品をそれに照らし合わせることは有益です。例えば、SMS形式のアプリはFacebookなどのソーシャルアプリと比べてはるかに高いDAU/MAUを示します。「DAU / MAU率 = 0.6」とは、その製品を毎月利用している人々のうち60%が毎日利用してもいるということを意味します。一般的に、この数字は製品が非常に健全であることを意味します。成長が初期段階にあるソーシャル製品はDAU / MAUが比較的小さくなりがちで、30%ということもあるかもしれません。参加ユーザーが増えるにつれて (そして市場普及率が増えるにつれて)、DAU / MAUが増え始めます。そのうえ、新しい方のコホートと古い方のコホートで同じように継続率が向上し始めます。具体的なDAU / MAU 率の数値はその事業や製品、期待される使用量に大きく依存します。製品のDAU / MAU率が低いとしても、それが必ずしもうまくいっていないことを意味するわけではありません。コアとなる一連のサブプロダクトは高度なProduct/Market Fitと高度なDAU / MAUを実現しているかもしれません。一方、その中の一部にあまり愛着を感じさせていないサブプロダクトが見つかる可能性はかなり高いです。カジュアルユーザーと愛情の強いユーザーとが混じり合っているせいで、その比率が低いのかもしれません。このような状況の場合、愛着の強いユーザーが増える選択肢を調査すべきです。

起動率

これは製品をインストールした人々のうち、任意の時間枠内にそれを使った人のパーセンテージです。Facebookのようなスティッキネスが高い製品の場合、人々は1日に何度もそのアプリを起動します。スティッキネスが低い製品の場合、起動率は毎月10%以下かもしれません。一般的に、アプリのスティッキネスの高さは起動率の高さと相関関係にあります。(しかし、その製品が通知で牽引される比重が高い場合、たとえその製品がそれほどスティッキーでなくとも、やはり人々はそのアプリを起動するかもしれません。)

Lness

これは任意の時間枠内でのアクセスした日数です。たとえば、「L5+ / 7」は週に少なくとも5回、その製品にアクセスした人々のパーセンテージです。同じく、「L21+ / 28」は任意の月に少なくとも21回リピートした人数を示します。パーセンテージが高ければ高いほど、その製品は強い粘着力をもっています。Lnessを経時的に追跡することで、その製品のスティッキネスを判断するうえでの非常に良い材料となります。

スティッキー継続率または DoD / WoW / MoM 継続率

コホートに基づく継続率はインストールした人々の各グループによる振る舞いを把握するのに役立ちはしますが、最も愛着の強いユーザーたちの行動については何もわかりません。思い出してください、目標は最も愛着の強いコアユーザーたちに向けて製品を作り上げることです。スティッキー継続率はある製品が最も愛着の強い人々に向けてどれほど好結果を出しているかを把握するのに役立ちます。これはDoD / WoW / MoMの継続率を用いて測定されるのが一般的です(訳注 DoD は Day over Day、WoWは Week over Week、MoM は Month over Month の略で、それぞれ前日比、前週比、前月比のこと)。これはその製品を翌日、翌週、翌月にもリピートしている人々の数を指しています (その製品を使い始めた時期は問いません)。例えば、前週比 (WoW) の継続率を測定することで、任意の週におけるアクティブユーザー数の、その前週の合計アクティブユーザー数に対する比率を簡単に得られます。(「新規ユーザーの影響」を排除するため、過去14日間に初めてアクティブになったユーザーは除外してください)。

エンゲージメント

ほとんどの場合、アプリがうまく成長していれば、ユーザーは高いレベルで継続し、スティッキネスのメトリクスも良く、その製品は申し分のない状態にあります。ですが、ユーザーが十分にリピート使用しておらず、十分なコンテンツを作成・消費していないか、その製品の使用に十分な時間を費やしていないケースもまたあり得るでしょう。これらが示すのはエンゲージメント (愛着) の低さです。特にソーシャル製品 (FacebookやInstagramなど) の場合、その製品に費やされた時間こそ、製品が愛着を抱かれているかどうかを示す最もシンプルなメトリクスです。費やされた時間が高いほど、エンゲージメントも高くなります。真のProduct/Market Fitとはある製品が人々に強い愛着を抱かれているときに起こります (とは言え、継続という形でも現れていもいます)。

エンゲージメントを促進するものとは何でしょうか? 自社の製品でエンゲージメントを推進している要素を把握するためのシンプルな枠組みを作ることには価値があります。Facebook、Instagram、Reddit、Snapchatなどのソーシャル製品にはエンゲージメントを促進するための作成 / 消費の枠組みがあります。このエンゲージメントモデルの略図は図5で示しています。ユーザーがコンテンツを作成し、次にそれを他者が見て満足感を得ます。そのコンテンツの消費者は賛成票、コメント、リアクションなどの形でフィードバックを返します。これにより、ユーザーはコンテンツを再び作成したいと思うようになるわけです。この「作成 / 消費ループ」がエンゲージメントを生み出します。これはユーザーのリピート頻度 (セッション数)、消費コンテンツの増加 (閲覧数)、サイト上で過ごす時間の増加によって測定できます。

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エンゲージメントを増やすアプローチは複数あります。たとえば、異なるタイプのコンテンツを作りやすくする、ユーザーが最も関連性の高いコンテンツにつながれるように支援する、適切なコンテンツを適切な順番で表示する、人々がどんなデバイスやネットワーク状況でもコンテンツを容易に消費できるよう徹底する、などです。さらに、コンテンツを作成する個人、インフルエンサー、企業が増えるにつれ、ユーザーが自分の気に入るようなエンゲージメントと関連性の高いコンテンツを目にする可能性もますます高まります。人々がそのコンテンツとインタラクトしやすいように自社の製品を設計することも欠かせません。これがプラスのフィードバック・ループを強化するためです。

もう一つのエンゲージメント・モデルはEコマース・モデルです。たとえば、eBayは売り手と買い手を結び付けます。このモデルでは、利用できる在庫の品質、独自リストの数、買い手に表示する商品の関連性、リストの価値、適切なコンテンツと適切な買い手の適切なタイミングでの結びつけ、購入プロセスの簡略化、利用体験のあらゆる段階における信頼の構築などを重視することで、エンゲージメントを増加できます。ファネルの各部を最適化することでエンゲージメント全体が増加するはずです。

エンゲージメントのメトリクス

これらメトリクスの多くは「作成 / 消費」という枠組みに当てはまる企業特有であることに留意してください。

消費時間 / DAU

このメトリクスは製品が愛着を抱かれているかどうかを色濃く示しています。重ねて言いますが、これは特定の製品、特定の期待されるエンゲージメントに大きく依存しています。消費時間の市場占有率も自社が市場の観点からうまくいっているかどうかを示す良いメトリクスです。

セッション数

任意の日のセッション数も製品が人に愛着を抱かれているかどうかを示すもう一つの良いメトリクスです。このメトリクスの増加は自分がProduct/Market Fitを達成してるかどうかを示す最初期のメトリクスでもあります。(同じく、セッション数の減少も何かがうまくいっていないことを示す最初期の危険信号です。)

消費時間 / セッション数

セッション数と消費時間 / セッション数のどちらも消費時間全体を増加させる手段です。セッション数を増加させる方が消費時間全体を簡単に増加できるのか、それとも消費時間 / セッション数を増加させる方が簡単なのかを把握することは有益です。

利用可能な在庫

ニュース・フィードのある企業 (ByteDance、Instagram、Facebook、LinkedInなど) の場合、ユーザーは見ることができる在庫があって初めてコンテンツを消費できます。利用できる在庫の数とその配信方法を知ることで、コンテンツを収益化できる方法を理解するのに役立ちます。

コンテンツ消費数 (閲覧数)

消費時間というメトリクスは、例えば動画のようなそもそも時間のかかるコンテンツのタイプによって歪められることがよくあります。したがって、在庫に対して人々が消費したコンテンツの件数を把握すると参考になります。在庫が制約となり、その結果としてコンテンツを消費できない人々はいますか?

コンテンツ作成数

各ユーザーは日ごと、週ごと、月ごとに何件のコンテンツを作成していますか? その中で定期的にコンテンツを作成している人は何人いますか? ある製品の総作成量はコンテンツを作成するユーザー数と各自が作成する量に基づきます。作成 / 消費の枠組みにおけるエコシステムの場合、高品質なコンテンツの作成は愛着を抱かせるエコシステムにとって最重要メトリクスです。

コンテンツに対するフィードバック

主なフィードバックのメトリクスは「いいね! 」、コメント、リアクションを追跡することです。「いいね! 」はコメントよりも弱い形式のフィードバックです。ともかく、全てのフィードバックがそのエコシステムにとって大切です。それがなければ、作成量は減少することになります。これが最終的には消費の低下につながります。

エンゲージメントに関する検討事項

考えられるセグメンテーション

国、デバイス、年齢、性別、電話利用年数ごと、接続性ごと、プラットフォーム、製品寿命、コンテンツ形式 (動画、写真、テキストなど)、コンテンツのタイプ (ソーシャル、エンターテインメント、情報、教育など) でメトリクスをセグメント化することを検討してください。

先行指標と遅行指標

あなたがある製品を1日に複数回 (複数のセッション) 使用し、それに多くの時間を費やしているところから想像してみましょう。時間と共に、あなたはその製品に飽きてきて、利用も減り始めます。ですが、あなたはまだ多くの点で愛着を抱いているユーザーであり、週に何度も、月に20回を超えてその製品にアクセスしています。この時点では、DAU、WAU、MAUはまだ変化していません。

ですが結局、あなたが1週間のうちでその製品を使う回数が少なくなるにつれ、WAUやMAUとして記録され続けるとしても、DAUとして記録されることが少なくなります。時間とともに、あなたはもはやWAUではなくなり、続いてMAUでもなくなります。そしてたぶん、これはあなただけではありません。他の多くのユーザーたちも飽きる可能性が高いです。集団レベルでは、このタイプの行動変化はまずセッション数などのエンゲージメント指標として現れます。おそらく、あなたのその製品の使用が変化するにつれ、まずは消費するコンテンツの件数が減り、続いてセッションの数と読む記事の件数が毎回減っていきます。セッション数の下落はDAUの下落を最も早期に示す先行指標です。同じく、DAUの下落はWAUの下落、また究極的にはMAUの下落をも示す先行指標です。

エンゲージしているユーザー / パワーユーザー

最も愛着の強いユーザーは大事にするべき最も大切な人々です。彼らの満足度を維持することは実際には成長と関係しません。彼らがチャーンする可能性は低いためです。しかし、すでに継続についての解説で述べたとおり、体験をコアユーザーにとって心地よく、楽しいものにしていくことで、その製品のターゲットをコアユーザーに合わせることが最良の選択肢です。この記事で定義したメトリクスの多くは最も愛着の強いユーザーについてセグメント化できますし、そうすべきです。愛着を感じているユーザー数は増加していますか? 彼らのセッション数と消費時間量は増えていますか? あまり愛着を感じていないユーザーがより愛着を感じるようになっていますか? このような「パワーユーザー」には何人の友人がいますか? 彼らは何件のコンテンツを作成していますか? その製品で彼らが使用している機能はどれですか? このような質問への回答は、最も愛着の強いグループ向けの素晴らしい体験の構築に役立てられます。

製品にまつわる誤解

良い製品には困難な時期がない

実際はほぼ全ての製品がチャーンや新規ユーザー獲得、エンゲージメントに関わる問題を抱えています。ですが、コアユーザーがまだ愛着を感じていて、さらに彼らの中で強い愛着を感じているものが十分な数に届いていれば、あなたの会社はProduct/Market Fitを実現しています。そしてあなたがProduct/Market Fitを実現しているときには、その製品を正しい軌道に戻し、愛着を感じているユーザーの基盤を拡大する方法が存在しています。

成長戦術は何でも解決できる

すでにProduct/Market Fitを実現しているのであれば、成長戦術はは非常に役立ちますが、Product/Market Fit自体にまつわる問題を解決するのには利用できません。製品はユーザーに価値を提供しなければなりません。例えば、BranchOutの急激な成長は成長戦術によるものでした。そしてそれに続く失墜はProduct/Market Fitの未達成によるものです。

何が何でも急成長すべき

実際は持続的な成長こそが急成長よりもはるかに大切です。継続率が低いままでの成長は最終的にその製品を殺します。

万人向けの製品を作るべき

全てのユーザーを満足させるように努力すべきだ、というのはよくある誤解です。むしろ万人向けの製品を作ることはほぼ確実に誰にも向いていない製品を作ることにつながり、最終的にはその製品に損害を与えます。最も愛着を感じているユーザーに向けて製品を作り上げ、彼らに素晴らしい体験を届けるよう徹底しましょう。

継続が横ばいになっている限り大丈夫

確かな継続の高さは製品の長期的な持続可能性にとって大切です。もちろん、低い数字で継続することは0に急落するよりもましです。ですが、それはまだ持続可能ではないかもしれません。

要点のまとめ

  • 市場の飽和は成長を鈍化させます。成長メトリクスは有効市場 (TAM) に照らして検討するべきです。
  • 継続率は Product/Market Fit を示す最良のメトリクスで、成長のための最重要手段です。「魔法のような瞬間 (magical moment)」はユーザーが製品の提示する中心的価値を理解する助けとなります。また、ユーザーを「転換点」へと導くことは彼らを継続させるのに役立ちます。
  • エンゲージメントは継続を牽引する最重要要素です。製品へのエンゲージメントを牽引する要素についての枠組みを作ることは、ユーザー行動の変化を示す先行指標の特定に役立つうえ、阻止の技術も教えてくれます。

 

この記事はSequoia Capitalのデータサイエンス・チームが制作しました。この記事の寄稿者はJamie Cuffe、Avanika Narayan、Chandra Narayanan、Hem Wadhar、Jenny Wangです。ご質問、ご感想、その他のご意見がございましたら data-science@sequoiacap.com までメールをお寄せください。

 

著者紹介 

Sequoia Capital (Medium)

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この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Measuring Product Health

 

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