スタートアップのファイナンスにおける落とし穴とその回避方法 (Startup School 2019 #09, Kirsty Nathoo)

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Kirsty Nathoo
皆さん、おはようございます。朝9時という早い時間から集まっていただき、ありがとうございます。

Kevinから紹介がありましたが、私はY CombinatorでCFOを務めているKirsty Nathooと申します。私はこれまでにY Combinatorで2,000社近くをサポートし、多くの成功と失敗を目にしてきました。

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本日の講義では、自社のキャッシュや資金に関してスタートアップ企業が犯してしまいがちな大きな間違いについて、例を挙げながら説明し、皆さんに理解していただこうと思います。

キャッシュは血液

スタートアップであろうと家族経営の小さな会社であろうと、あらゆる会社にとって、キャッシュは血液のようなものです。キャッシュが尽きた会社は終わりを迎えます。そうなれば、もはや引き返すことはできません。

実際、キャッシュは驚くほど簡単に無くなります。私たちは、もはや会社を立て直すための軌道修正ができないところまで来ているのに、そのことに気付けなかったスタートアップをたくさん見ています。

アーリーステージの 3 つの落とし穴とレイターステージの 3 つの落とし穴

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まず、アーリーステージにおける3つの落とし穴について説明します。これはおそらく、今の皆さんに最も身近な内容でしょう。その次に、これに続く3つの落とし穴、つまり資金調達を始めて従業員の採用について考え始めた段階の会社が犯してしまう間違いについて説明します。まず、皆さんが注視すべき数字、それを確認する頻度、支出の現実性について説明し、そして従業員の採用に対する考え方や責任についても少し触れたいと思います。

1. 何の数字を見るべきかを知らない 

では、1つずつ説明していきましょう。

1つ目の間違いは、自社の健全性を確認するために注視すべき数字が何であるかを理解していないことです。

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まず銀行残高、キャッシュイン、キャッシュアウトをチェックする

皆さんが把握しておくべきポイントは、銀行残高、キャッシュイン、キャッシュアウトの3つです。

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これは難しいことではなく、理解するのに特別な能力が必要なものでもありません。全てオンラインバンキングや銀行取引明細書から確認できる情報です。経理係や財務ソフトは必要ありません。極めて単純明快なものですが、これらをきちんと見ていない会社がいかに多いかを知ったら、皆さんも驚くことでしょう。

バーンレート

次に、この3つの数字を使えば、別のデータを算出することができます。それがバーンレート、ランウェイ、成長率で、そこから自社がデフォルトアライブかどうか把握することができます。では、順番に見ていきましょう。

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バーンレートとは、純粋にキャッシュアウトからキャッシュインを減じた額です。先ほど言ったように、これは銀行取引明細書で確認できます。事実上、2つの日にち間の銀行残高の変化です。実例で考えれば非常に簡単です。皆さんの会社には25,000ドルの支出と10,000ドルの収益があるとします。この場合、皆さんの会社のバーンレートは15,000ドルです。

支出が少々不規則な場合、例えば弁護士費用のように何か非常に高額な支出が特定の月にだけかかってしまったというケースもあると思います。そういう場合は平均支出からバーンレートを算出することができ、これはよく、平均バーンレートと呼ばれています。より詳しく把握したければ、3か月分程度を見てみると良いでしょう。

ランウェイ

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バーンレートが算出できたら次に確認できるものがランウェイです。ランウェイとはキャッシュが尽きるまでの期間を意味します。銀行残高を平均バーンレートで除した数字が、キャッシュを使い果たすまでの月数になります。

例えば、銀行残高が150,000ドルだとします。先ほど算出したバーンレートは15,000ドルでしたね、この場合、ランウェイは10か月となります。繰り返しになりますが、極めて単純明快です。しかし、自社におけるこれらの数字を理解していない会社や創業者がいかに多いかを知ったら、皆さんも驚くことでしょう。

ここで1つポイントとなるのが、先ほども触れたように、バーンレートは時が経つにつれて変化する可能性があるということです。そして、これは皆さん自身のための数字であり、物事が順調であるように見せかけるための数字ではありません。これは皆さんが自分に嘘をつかないようにするためのものです。

「今月のバーンレートは15,000ドルだったけれど、10,000ドルだったことにしておこう。そうすれば、ランウェイは15か月あることになる」などと言うのは、自分に嘘をついているだけです。そんなことをしても、資金が尽きる日は変わりません。今、安心するためにしているに過ぎません。こうした数字に関しては、自分自身に正直であることが極めて重要です。

成長率

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次に注目すべきものが成長率です。これは2つの期間に着目するもので、2か月目のキャッシュインから1か月目のキャッシュインを減じたものを、1か月目のキャッシュインで除して算出します。これは自社の収益の増加率を表しています。

例えば、7月の収益が10,000ドル、8月の収益が12,000ドルの場合、成長率は20%となります。学校で数学が得意ではなかった人のために補足しますと、安定した成長率は収益がJカーブで成長することを意味します。なぜなら、毎月の成長率が20%で月ごとに数字が伸びていけば、その20%はより大きな数字となっていくからです。

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デフォルトアライブか、デフォルトデッドか

最後の1つは、「自社はデフォルトアライブか、またはその反対のデフォルトデッドか?」です。これは、「支出が一定で自分が計算した収益成長が続く場合、黒字になるのに十分なキャッシュを持っているか?」を見るものです。

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Y Combinatorの創業者の1人であるTrevor Blackwellが、こういった計算をするのに便利な計算機を開発しています。

基本的には、赤いラインの月次支出、スタート地点の緑点の月次収益、そして成長率に合わせて調節可能な傾斜の3つを設定することで、黒字になる時期と必要な資本が算出されます。ちなみにこのスライドで挙げている例は、先ほどまで扱っていたケースとは別の数字設定です。この例では、黒字になるには150,000ドルが必要でそれには2年かかる、という予想になります。

こうした数字の把握は実に重要です。なぜなら、銀行口座に100,000ドルしかない場合、「これは問題だ。収益成長増か支出削減か、いずれかの方法を探る必要がある」と気付くことができるからです。

ここでの全体的な目標は、黒字に至る過程を把握することです。なぜなら、そうなれば自由を手に入れることができるからです。黒字になれば資金調達の必要性が無くなり、経営の自由度が増します。デートと同じで、資金調達の必要がなければガツガツしているように見えず、そうなると投資家はもっとお金を出してもいいかなという気分になります。資金調達が、より容易になるわけです。このオプションを持つことは非常に重要です。

これは、時にスイッチともなります。必ずしも今すぐ黒字になる必要はなく、特定の支出を止めたり、何か特定のことをしたりすれば黒字になれるとわかれば、それは優れたセーフティーネットにもなります。

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これについて詳細に書かれている実に素晴らしいエッセイがあります。これはPaul Grahamが書いたもので、スライドに記載のリンク先で、さらに詳しい情報をご覧いただけます。

多くの起業家はこうした数値を知らない

先ほど言いましたように、私たちが起業家の相談に乗る際、こうした数字は真っ先に尋ねる質問の1つですが、それに答えられない創業者がいかに多いかを知ったら皆さんも驚くことでしょう。

2. 数字を十分な頻度で見ない

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これらの数字は計算も非常に簡単で、とても単純明快です。

次の問題は、創業者が「よし、ランウェイを理解した、収益を理解した、数字は全て把握した」と言って、時が経つにつれてこの数字について忘れてしまうことです。

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しかし実際には、この数字はかなり頻繁に確認する必要があります。四半期毎や月毎ではなく、少なくとも毎週確認する必要があり、ランウェイが短くなっている、あるいは物事があまり安定していない場合は、もっと頻繁に、時には毎日確認する必要があります。

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誰かに尋ねられた際は、いつでも数字を答えられるようになっている必要があります。

例えば、今ここにいる人の中で、会社用の銀行口座を持っていて、その預金残高を把握している人はどれくらいいますか?結構ですね。では、自社のランウェイを把握している人は?挙手は少し減りましたが、悪くないですね。皆さんなかなか優秀で感心しました。

3. 支出を過小評価してしまう

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次は、支出の過小表示についてです。先ほどのデフォルトアライブ計算機の話を思い出してみてください。あのグラフでは会社の支出が一定であると想定していました。しかし現実には、それはほぼあり得ないでしょう。大半のスタートアップでは時が経つにつれて支出は増加します。

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この増加がどうやって起きるのか、理解しておく必要があります。

どんな支出が増えていくのでしょうか?どの程度まで増えていくのでしょうか?時が経つにつれて変わる可能性がある支出の例として、まず自分の時間の過小評価があります。

創業当初は特に、創業者自身があらゆることをこなし、最低賃金または非常に少ない金額しかもらっていなかったり…ちなみにカリフォルニア州では誰でも自分自身に最低賃金を払う必要がありますが…ユーザーを獲得するためにスケールしないことをしていたりします。

これは全く問題ないですし、そうすべきであると私たちが推奨していることです。しかし、これではCAC(顧客獲得コスト)が実際より低く見えてしまいます。そういった仕事を任せるための従業員を雇い始めると、この支出は増えていくことを認識しておく必要があります。

従業員の雇用による支出

従業員の採用で発生するのは、彼らの給与だけではありません。創業者は、会社が採用する全ての人に備品類やデスクスペース、創業する場所によっては健康保険も用意する必要があるでしょう。これらは全て、給与以外の追加支出です。

場所にもよりますが、経験論からすると1人の従業員には給与の約25~50%のコストが追加で必要となります。年俸100,000ドルの従業員の場合、会社が負担する費用の総額は125,000~150,000ドルになります。

先ほども言いましたように、これは簡単に忘れられてしまうポイントです。「年俸100,000ドルでエンジニアを雇うから、かかるコストも100,000ドルだ」と思っていると、実際の負担金額に驚かされるわけです。ですから、こういった追加費用がかかることを意識しておいてください。

CAC が高くなる

最後に、よくあるもう1つの間違いが、広告などによるユーザー獲得コストが一定であると想定してしまうことです。意外に思われるかもしれないですが、初期ユーザーの獲得が最も簡単なのは創業初期の頃であることが多いです。なぜなら、彼らは「そのプロダクトを使いたい」と真っ先に飛び付いた人たちだからです。

しかし、時が経つにつれて、ユーザーを見つけコンバートさせるのはより困難になるため、そのためのコストは増加します。そのことを念頭に置いておく必要があります。現状のコストがどれくらいか把握し、「これらは適切か?どのくらい増えそうか?」と判断し考える必要があります。

なぜなら、数字を把握できていれば、最悪の場合、ランウェイは8か月、といった計算ができるからです。実際には予想以上の進捗を見せて、最終的にはランウェイ10か月分の収益を上げることができたとしたら、それはボーナスみたいなものですよね?問題を解決するための猶予が生まれたわけです。

ランウェイを良く見せることをしない

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ランウェイは見栄を張るための評価指標ではありません。自分が気分良くなるためのものではありませんし、自分自身と競合他社を比較するために使用するものでもありません。これは自社の健全性を知るためのものですから、こうした数字を無視してはいけません。自分に嘘をついてはいけません。自分の気分を良くするためにこれらの数字を操作してはいけません。そんなことをしたら、いずれキャッシュがなくなってしまい、大きなショックを受けるだけです。

4. 責任をアウトソーシングしてしまう

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次は、資金調達や従業員の採用といった、少し先の段階の話です。今のうちから心に留めておくと良い話ですが、現時点では、まだあまり関係がない人も多いかもしれません。

1つ目は責任のアウトソーシングです。多くの場合、CEOは会社が少々複雑になってくると会社の財務書類を作成するための経理係を雇いますが、それはごく自然なことです。私たちもそれを推奨しています。

一般的に、資金調達をする時が、経理係を雇うべき時期と言えます。こうした時期にCEOが帳簿書類を作成するのは正しい時間の使い方とは言えません。CEOには力を入れるべき、もっと大きな仕事があるはずです。

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しかし、経理係が帳簿や数字の管理をしていても、責任は社員全員にある、ということを忘れないでください。CEOは特にそうですが、創業者は全員、こうした数字を把握しておく必要があります。

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外部の経理係が、創業者であるあなたよりビジネスを理解しているということはないでしょう。

多くの場合、彼らの仕事は銀行取引明細書を入手して、お金の出入りを確認し、それらが何なのかの推測に最善を尽くすことになりますが、彼らは必ずしも正しいとは限らず、創業者も彼らが常に100%正しいと期待すべきではありません。なぜなら、彼らはかなり離れたところから物事を見ているからです。

ですから、創業者やチームのメンバーは、経理係が毎月提出してくる各種報告書に目を通し、内容をしっかりと理解し、何かおかしいと思う点があったら質問する義務があります。質問をしてしまうと、自分が数字を理解できていないように見えるのではないかと不安になる人も多いかと思いますが、そんなことはありません。あなたが理解できない数字があるとしたら、それは大抵の場合、報告されている数字の解釈に何らかの間違いが生じているからです。

「今月の収益はもう少し良いと思っていたのに、何が起きているんだろう?なぜこんな数字になっているんだ?」と思った場合、創業者は実際に帳簿を調べて、こういう数字になった経緯を尋ねることができ、間違いがあったことを発見できるかもしれません。

創業者が私のところに泣きついてくる時、おそらく、これが最も多い原因の1つです。創業者たちは完全なパニック状態で私のところにやって来て、「あの経理係がミスをして間違った数字を報告してきたせいで、うちの会社にはもうランウェイがありません。何が起きているのかさっぱりわかりません」と言います。

しかし実際に何が起きているかというと、経理係は創業者に月次報告書を提出していて、それで「よし、任務完了!」と思っているわけです。創業者は報告書に目を通しておらず、何が起きているか理解していませんでした。

こうなると収益改善や問題解決のための資金調達をしてビジネスを立て直す時間はもはや残されておらず、キャッシュが尽きて会社は終わりを迎えます。常にここに目を向けておくことは非常に、非常に重要です。

5. 会社をスケールさせるのが早すぎる

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人を雇うのが早すぎたり、会社をスケールさせるのが早すぎたり、ということはとても簡単に起きます。早くに人を雇ってしまうのは、創業者が従業員の採用に関して非常に大きなプレッシャーを感じているからです。

従業員数は成功の指標ではない

従業員の数というのは、一見、とても簡単に規模測定できる要素のように思えます。創業者同士で話をしていて、最初に聞かれることが多い質問は、「今の従業員数は?」です。そして「25人です」答える人がいれば、「しまった、うちの会社は10人しかいない。これは向こうの会社の方がずっと成功しているということだな」と思う人がいるわけです。しかし、これは全く正しくありません。

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従業員の採用には、彼らの給料以上のコストがかかることはすでに説明しました。

しかし、さらに意識しなければならないのが、1つ1つの採用はビジネスへの投資であるということです。投資するからには、必ずそこからリターンを得られるよう徹底しなくてはなりません。一部の従業員に関しては、その測定は非常に簡単です。

セールススタッフを例に考えてみましょう。彼らの売上が採用にかかるコストを上回っていない場合、ROI(投資収益率)は明らかに良くないと言えます。しかし、コミュニティマネジャーやサポートマネジャーについて考えてみてください。こうした役職を測定するのは、はるかに難しいですね。

そこで、社員全員が会社をより価値のあるものにしようと働いている状態になるよう、目を光らせ、考える、というのがCEOである皆さんの仕事の1つです。

悲しいことですが、それをした結果、成果を出していない社員がいた場合は、早く解雇する覚悟を持つ必要があります。自身の職務を十分に果たしていない社員がいる場合、その人には会社を去ってもらわなくてはなりません。

良いスタートアップは少ない人数で多くのことを成し遂げる

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先ほどもお話ししたように、「社員が多いほど成功している」という考えに陥ってしまうのは、よくあることです。しかし実際、優れた会社というのは、少ない人員で多く成果を生み出します。自分の会社を現実的に測定するためには、従業員当たりの収益率はどのくらいか?と考えてみることです。なぜなら、この数値が高いほど成功していることになるからです。より少ない人員で多くの成果を生み出しているというわけです。

これがアーリーステージから収益を生み出すことにつながり、会社を継続させることができるだろうか、といった心配やプレッシャーからの解放にもつながります。

また創業者は、多額の資金を調達した派手なスタートアップたちと競争しなくてはならないと思い込みがちです。そうしたスタートアップが皆、今はデータサイエンティストを雇っているとなれば、「そうか、データサイエンティストを雇う必要があるのか。自分も雇わなくては」と考えてしまいます。

しかし、実際にはその必要はありません。先ほど言いましたように、優れた会社というのは、少ない人員で多く成果を生み出します。より少ない従業員で本当に優れた会社を作り上げることができれば、それは関係した全ての人にとって素晴らしいことです。

心に留めておいて欲しいのは、お金について慎重になる必要があるということです。これは、「この人を雇う必要がある」、「あの人を雇う必要がある」と軽い気持ちで動いて良い話ではありません。なぜなら、お金を出している投資家は、創業者であるあなたが、いわゆる奇跡を起こすことを求めているからです。投資家は創業者にお金を渡し、それを10倍・100倍にして返してくれるよう求めています。それを実現するためには、自社の支出に注意を払い収益を増やすしかありません。

PMF の前に採用をすることは避ける

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これに関して1つ補足しますと、Product/Market Fitに到達する前にスケールに取り組んでしまうことも、実に起こりやすい危険な間違いです。自社のプロダクトについてまだ模索中でProduct/Market Fitを見つけようとしている段階では、可能な限り支出を抑える必要があります。それが、自分の作るべきものは何かを理解するための時間であるランウェイを生み出すことになり、そうすれば顧客はプロダクトを求めて殺到してくるでしょう。

従業員が多くいるからと言って、PMF に辿り着くのを助けてくれるわけではない

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従業員を増やせばProduct/Market Fitに到達できるという話ではありません。その方が、より早く、またはより効率的に到達できるということはありません。創業者と会話をしていると、「十分なセールスタッフがいないから売上高が伸びない。もう2~3人セールススタッフを雇えば、確実に売上高を伸ばせるのに」といった話をよく聞きます。

私に言わせれば、これはProduct/Market Fitに到達しているとは言えない状態です。Product/Market Fitに到達していれば、顧客がプロダクトを求めて押し寄せてきていて、全ての顧客に対応しようとフル回転状態であるはずです。セールススタッフを増やせば、そういった状態に持っていけるという話ではありません。

また、Product/Market Fitに到達するために、もっと多くの開発者が必要だ、もっと多くのスタッフが必要だと思い込むことも、事態の進展にはつながりません。これに関してよくある会話が、「あと4人、開発者が欲しい。そうすれば、X、Y、Zの機能を盛り込んで、誰もが欲しがるプロダクトを作れるのに」といったものです。

しかし、先ほど言いましたように、Product/Market Fitに到達していれば、そういった豪華な機能を全く搭載していない二流のバージョンゼロであっても、世の中の皆が抱えている大きな問題を解決していることになり、人々は進んでそのプロダクトにお金を出し、皆さんの会社を好きでいてくれます。そうすれば、皆さんはより多くの機能を盛り込んだプロダクトを作り始められますし、そのための従業員を雇い始めることもできます。

6. 資金調達の前にランウェイが少なくなりすぎる

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次にお話しするのは、後戻りができない落とし穴についてです。これ以外の間違いであれば、大概のものは解決することができるでしょう。従業員を採用するのが早すぎた場合は解決方法があるでしょうし、数字がわからなければ学ぶことができます。しかし、この落とし穴に落ちてしまったら、後戻りはできません。それは、「資金調達前にランウェイが少なくなり過ぎた場合、その資金調達には問題が生じる」という落とし穴です。

もうこれ以上の資金調達はできないと思うこと

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第一に、常に「これ以上の資金調達はない。前回の資金調達が最後であり、それを使って黒字化しなくてはならない」と思っておく必要があります。これもまたよくあることですが、創業者と話をしていると、「大丈夫、私の投資家はもう100万ドル投資してくれる予定です。何も問題ありません」と言う人がいます。

投資家にそのような依存をしているとしたら、これは恐ろしいことです。なぜなら、彼らは常に投資してくれるわけではないからです。投資してくれる時もあるかもしれませんが、常にそうとは限りません。

シード投資はPMFに辿り着くことを助ける資金

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シードステージで調達する資金とは、アイデアだけで調達する資金です。創業者は自分が持っているプロダクトに関するアイデアや、確認したいと思っている仮説について投資家に話すことができ、投資家はそれに対して資金を出してくれるでしょう。

シリーズA以降は成長を維持することを期待されるためのお金

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これは、シリーズA以降になると、はるかに難しくなります。創業者には、持続的成長、さらなる多くのアイデア、Product/Market Fitが必要となります。これが、創業から時間が経つにつれて資金調達が非常に難しくなっていく理由です。

ランウェイはレバレッジを与えてくれる

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特に言っておきたいのは、資金調達を後回しにし過ぎないように、ということです。なぜなら、ランウェイが尽きてくると資金調達時のレバレッジが減少するからです。

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例えばランウェイが6か月あって、これから資金調達を始めようと考えている場合、これはかなり恐ろしい話になります。投資家が実際に資金提供のゴーサインを出すまでにさらに3か月かかる可能性があり、その3か月の間に皆さんの現金残高は減り続け、レバレッジを失っていきます。

このグラフを見れば、6か月のランウェイでも、なんとか可能でしょう。しかし、ランウェイ12か月が「資金調達をすべきか、黒字化を目指すべきか検討する時期かもしれない」と考えるポイントであることを頭に入れておく必要があります。

また、ランウェイ6か月となって資金調達に失敗した場合、会社を黒字化させて成功に導くための軌道修正を行う時間は、ほとんど残っていません。

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Y Combinatorのブログにはこれについてさらに詳細に書かれた素晴らしいエッセイが掲載されています。ここにリンクを載せておきましたので、時間がある時に目を通して参考にしていただければ幸いです。

まとめ: 資金ショートをしない方法

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本日の講義のまとめに入りましょう。

大半の会社はキャッシュが尽きて終わりを迎えます。いくつかのポイントに気を付けていれば、キャッシュが尽きないようにするのはとても簡単です。自社のランウェイにおける現金残高を把握しましょう。支出が今後どのように増えていくか把握しましょう。従業員当たり収益率は単なる従業員数よりも優れたメトリックであることを理解しておきましょう。そして、これ以上の資金調達はないと想定しての黒字化までの計画を用意しておきましょう。

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講義は以上になります。ありがとうございました。残り数分ですが、質疑応答の時間にしましょう。

Q&A

黒字化を目指すべきか、成長を採るべきか

話者2
あなたがおっしゃっていた「可能であれば、わずかな資本で黒字化を目指すべき」という話について、気になっていることがあります。ある記事に、「黒字化を目指すのは良くない。価値という意味では、黒字を目指すのではなく、多額の資金を集めて確固たる市場シェアを獲得する道を進むべきである」と書いてありました。こうした意見や、お金で買えるものについてどうお考えですか?

Kirsty Nathoo
「わずかな資本でなるべく早い黒字化を目指すべきか、大金を投じてなるべく早い市場シェアを獲得すべきか。この2つをどうバランスさせるか?」という質問ですね。

これは、会社がどのステージにあるかによると思います。初期の頃においては、支出に慎重で、黒字化に向けた計画を持っているというのは良いことだと思います。そして、必ずしも「計画を立てている=それを実行している」という意味ではありません。

例えば、全ての収益をディスクリプションか何かのマーケティングに投資しているとします。支出を減らすためにはマーケティングを抑える必要があり、その結果、収益も少し減るかもしれません。しかしそうすることで、キャッシュを維持してランウェイを確保することができます。全てはバランスの問題です。

もう1つ覚えておいて欲しいことがあります。当然ながら、投資家は創業者がかなりの速さで資金を使ってくれることを望んでいる、ということです。彼らは、創業者が「お願いです、もっとお金を出してください」と頭を下げにくるのを待っています。バランスを保つにあたり、ある種の緊張状態は存在すると思いますが、要は自分の行いに責任を持って、どうしたら良いかを考えられるよう、十分な時間とランウェイを用意しておくことです。

CFO をいつ雇うべきか?

話者3
聞き取り不能CFOについて再度お聞きますが、non-fintech企業ではどの段階でCFOを雇うべきでしょうか?まずパートタイムのCFOからスタートし、最終的に常勤のプロパーCFOにする、ということでしょうか?

Kirsty Nathoo
なるほど。「CFOはいつ雇うべきか?」という質問ですね?これは実は、かなり後になってからです。おそらく、シリーズAの後でも常勤のCFOは必要ないでしょう。CFO的コンサルティング・サービスや、戦略立案および数字の理解をサポートし、資金調達のためのデッキ作成などを手伝ってくれるサービスはたくさんあります。

常勤のCFOが必要になるのは、実際、かなり後になってからです。しかし、CFOと経理係の違いについて、少なくとも米国においては、普通は経理係の方が先に必要となる、ということを覚えておいてください。

経理係の仕事は、銀行取引明細書に記載されている数字をバランスシートや損益計算書、会計システムに反映させ、報告書を作成することです。そして、それとは別に、毎年納税申告書を作成して申告を行うCPA(会計士)を雇うことにもなるでしょう。

2種類の人材が必要だということです。早い段階で必要なのが経理係、毎年の確定申告を行うために必要なのがCPAです。そして、CFOはそれらの統括、予測や予算の作成などを行いますが、それが必要となるのはある程度時間が経ってからです。それまでは創業者がCFOの役割を果たすべきです。

ツールは使うべきか?

話者5
(聞き取り不能)に関して質問があります。財務予測ツールや財務聞き取り不能ツールは使うべきでしょうか?

Kirsty Nathoo
「どうやって計算をすれば良いのか?」という質問ですね。確かにオンラインのツールはありますね。個人的には、自分で作る方が良いと思います。なぜなら、その方が自分でしっかり考えることができるからです。

私の場合は、昔ながらのスプレッドシートを使うやり方が作業しやすいことが多いです。しかし、もちろんそれ以外の方法もありますし、そうしたものを扱うサービスやスタートアップもたくさんあります。Y Combinatorに応募してくるスタートアップで、こういった予測や進捗の確認をより簡単にしようという企画をたくさん見かけます。では質問はあと1つにして、先に進みましょう。はい、そこの方。

PMF に達していないときに、ピッチに予測を入れるべきか?

話者6
私たちはまだProduct/Market Fitに達していません、(聞き取り不能)

Kirsty Nathoo
まだProduct/Market Fitに達していないのですか?

話者6
はい。(聞き取り不能)まだProduct/Market Fitには(聞き取り不能)私たちのマーケティング(聞き取り不能)

Kirsty Nathoo
投資家向けに、ということですね。シードステージの資金調達中ということですか?なるほど。つまり、「Product/Market Fitに到達していない場合、ピッチデッキに予測を入れるべきか?」という質問ですね。

答えはおそらく、ノーでしょう。シードステージでプロの投資家または経験豊富な投資家と話をしている場合、彼らがそういった数字を見たり、求めてきたりすることはまずないでしょう。彼らが聞いてくるのは、「これはどのくらいの規模になれそうか?」、「市場全体の規模はどのくらいか?」といったことです。月々の成長予測を求められることはないでしょう。

シードステージの資金調達中に投資家からそういった予測を求められたとしたら、その投資家はアーリーステージの会社への投資経験が少ないということでしょう。これは皆さんにとって、その投資家が共に仕事をするのに良い相手であるかどうかを決める際の判断要素になります。

シリーズAに進むまでには、何らかの計画を立てている必要があることは確かです。しかし、シリーズAでは皆さんがProduct/Market Fitに達していること、さらなるアイデアがあることがポイントとなります。予測は常に予測であり、確かなことはわかりません。

さて、時間が来たようです。ありがとうございました。金曜日には私のAMA(Ask Me Anything)の時間がありますので、本日回答できなかった疑問点がありましたら、遠慮なく聞いてください。可能な限り多く回答するようにします。ありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Startup Finance Pitfalls and How to Avoid Them (2019)

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