従業員の維持 (Sam Altman)

優れた製品を生み出すこととユーザーの獲得という点を除いた場合、資金調達が最大の試練になるだろうとほとんどの創業者は考えているようです。実際にその通りなのですが、資金を調達し終えたら、次の最大の試練は採用です。採用は、これ以上難しいことはないと創業者が思うくらいに難しいものです。

しかしその後に来るさらなる大きな試練は、従業員の維持(リテンション)です。スタートアップのよくある失敗は、従業員の最初の約10人をうまく採用し、その多くを18ヶ月後に失うというものです。企業は非常に長い期間を通して価値を作っていくものです。そして価値の創造と並行しながら、組織的な記憶をその場にとどめておくことが重要です。だから要となる創業当初の従業員を失うことは、取り返しのつかないことにもなり得ます。

優れた人材を採用したあと、彼らに会社に留まってもらうことは非常に困難です--特にその理由として、起業がこれほどまでに容易になったことがあります。人材を失うことは避けられませんが、あまりにも多くの人がいなくなると、会社は失敗します。したがって、多くの時間を費やして才能ある人材に継続してもらう方法を考えることには意味があるのです。

後ほどお話する潤沢な株式報酬以外に、私の知るもので、そうした才能ある人材を継続するためのよい戦略が3つあります。

まず一つ目は、ミッションです。従業員がミッションの重要性を信じてあなたの会社で働いているならば、他で得られる多額の金銭に誘惑される可能性は低く、また従業員が自分の会社を立ち上げる時期を先延ばしする可能性が高くなります。「ミッション」は世界を救うといったものである必要はありません。非常に難しい技術的な問題を解決するというものでもいいのです(つまり、おもしろい仕事です)。 しかし非常に難しい技術的な問題が、世界にとって重要であることはよくあることです(例としてGoogle、Palantir、Facebook)。

あなたはミッションを心から信じる必要があります--そのミッションの重要性を自分で納得できなかったら、自分のしていることを真剣に考えてみてください。そして、あなたはミッションを繰り返し話題にしなければなりません。[0]

ミッションを重視しない会社は、才能ある人材に継続してもらうことに問題を抱え、本当に成功し続けるのは難しいとさえ断言できます。

従業員を継続するための二つ目のよい方法は、急速な成長です。成長はとてもおもしろく、誰もが常に新たな試練にさらされていることを意味します(たとえ会社が目に見えて成長していなくても、いつも全員に新しい課題を与える方法を探してください)、また株式によって、従業員は、人生を変えるような資金を期待できます(給料はそこまでのものにはなり得ません)。

三つ目は、すばらしい職場環境です。これは価値基準とチームという、2つの要素で成り立っています。自分の会社の価値基準を明確化するのは難しいですが、そうするよう努力する甲斐はあります。成長過程で見失われやすいですが、企業が採用の際に重視する価値基準を早い段階で設定できれば、自分の望む社風を長期に維持することができます。チームに関して言えば、優れた人材は優れた人材と一緒に仕事をしたがるという決まりごとは真実で、最初の10人を採用する時に決して妥協しないという道理は重要です。優れた人物のほとんどは、他に優れた人物のいない職場環境には長くとどまっていません。

優良企業はこれら3つの戦略すべてを組み合わせており、それによって才能ある人材をとどめておくことができます。

創業者が従業員をとどめようとして犯してしまう共通の間違いは、福利厚生の激しい争いに参入することです。これはうまくいきません--人々が本当は望まない仕事をしているという事実に対する応急処置にはなりえますが、長くは続きません。また、常に他のスタートアップが、何か途方もない福利厚生を持って現れます。もちろん、食事など、時間を節約し、チームの結束を促すようなことをするのはよいことです。

創業者が犯すもう一つの間違いは(私にも心当たりがあります!)、自分の下で働くことがどれほどつらいことなのかを自覚していないことです。--もし前述の3つのことをすべて実行しているにもかかわらず、続々と従業員が去っていく場合は、自分の下で働く人の気持ちについて注意深く考える必要があります。

報酬も非常に重要です。とるべき適切な行動は、早期採用の従業員に株式をとても気前よく付与することです。理由はどうであれ、株式報酬は現在、反対方向に振れています。特によくない企業では、です。創業者は企業の時価総額が上昇し続けることを望むため、その打開策として、創業者と投資家はどちらもオプション・プールを縮小し続けています。彼らにとっては残念なことですが、重要なのは資金調達時の時価総額ではなく、イグジットの時での時価総額です。その意味で彼らは自らにひどい仕打ちをしていると言えるでしょう。スタートアップは大成功するか大失敗するかです。失敗への道へとたどる創業者たちは、ほんのわずかなパーセントの希釈化を避けられたことを祝っているとも言えます。

株式報酬で気前のよさを見せる代わりに、給料で大きく寛大さを見せようとする創業者もいます--例えば、大卒で入社したばかりのエンジニアに年間25万ドルの報酬を渡すことです。これはよくありません。私は何百回もこの試みを目にしてきましたが、うまくいったのを目にしたことがありません。これはお金目当ての人々を引き寄せますが、そのような人物が1年以上会社にとどまることは滅多にありません。彼らは会社やミッションを信じておらず、企業文化を毒します。全従業員への公平で合理的な給料の方がずっといいのです。

従業員の継続ということで言えば、(サンフランシスコの)ベイエリアは独特の課題を抱えています。多くの人は会社に1、2年しかとどまらず、少なくとも、飛び回ることが何らかの格好のよさと関連づけられています(自分で起業することへの社会的圧力があることは言うまでもありません)。何年も一箇所で非常に熱心に仕事をしたい人を見つけるのは難しいことです--短期的な視野を持つ人が多く、企業間での引き抜きが大量に起きています。そして生活費の高さが異常です--人々がより高額の給料を要求し、それが企業にあらゆる種類の試練をもたらし、結果的に従業員の勤務年数が低下します。実際に、ベイエリアのスタートアップへの独占状態に何らかの影響があって、今後短期間で弱体化したなら、その何らかの理由は、従業員継続の課題または経費に関わるものだと私は予想します。[1]

これらすべてのポジィティブな側面は、ほとんどのスタートアップが従業員継続という点で大きく失敗しているということです。そのため、あなたがそれをうまくやれれば、競争でかなり有利な立場に立つことになるでしょう。

 


この原稿の草稿を読んでいただいた Patrick Collison に感謝します。

 

[0] PRは新規採用と同様に重要です--できるだけ頻繁に会社のミッションを繰り返し話題にすべきであり、このことにより、従業員は絶えずミッションについて耳にし続け、友人はそれについて話題にし続けます。

[1] 企業価値評価と投資規模が上昇し続けることで明確に得をするのは、私の思いつく限りでは、ベイエリアの不動産所有者だけです。それらのほとんどは、上昇し続けるオフィス賃貸料か、またはより高額なアパート賃貸料を支払うためのより高額な給料に割り当てられているように見えます。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Sam Altman

Sam Altman は YC グループの社長です。彼は Loopt の共同創業者兼 CEO でした。Loopt は 2005 年に Y Combinator に投資され、2012 年に Green Dot に買収されました。Green Dot で彼は CTO を務め、現在は取締役です。Sam は Hydrazine Capital も創業しました。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Employee Retention (2013)

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