企業文化を具体的なメトリクスにする


スタートアップは自分の会社に成長と成功をもたらす1つか2つの重要な物事に極力集中し、他の全てに優先してそれらのメトリクスを最大限に高めるよう教えられます。

しかしながらこの教えは矛盾を引き起こします。スタートアップにおける文化を構築するという問題が起こった時にです。それは定義するのは勿論、まして実行するには曖昧かつ漠然としていることで悪名高いものです。

文化を構築することに時間を費やすということは成長のメトリクスからはかけ離れており、短期間で成果が上がることはありません。なので、往々にしてそうしたことは軽視されてしまいます。

更に、技術面と文化面の両方において適切な人員を雇用することは大変困難となる場合があり※1、実質的に成長と進捗を遅らせてしまいます。しかし実際には、文化の構築はあなたの会社の長期的な存続のための投資なのです。

しかし、スタートアップ関連のイベントに赴いて、講演者が「スタートアップのCEO/創業者としてのあなたの一番の仕事は、文化を定義することです」と言うのを何度見たことでしょう。さて、一体それが厳密に意味する所は何なのでしょうか?

多くのスタートアップは自分たちの文化の基礎づくりのために、自分たちのコア・バリューについて宣言を行います※2。このことが果たす基本的な役割は3つ存在します。

1) スタートアップが達成したいミッションに向けてチームの足並みをそろえさせる。
2) 会社独自の個性と神話を伝える。例として挙げられるのが、Airbnbの「'シリアル'起業家になろう」という物語です※3。
3) 新規に雇用する人間が文化面で適切な人間であるかを評価するためのリトマス試験として機能する※4。

スタートアップは (うまく行っていれば) 常に変わり続け、進化し続け、成長し続けるものです。事業計画であれ、より広範なチームダイナミクスであれ、スタートアップは自身をまるで遺伝的アルゴリズムのように動かし、市場に向けた最善の構想に向かって試行錯誤を繰り返していくものです。

では、進化を続けるスタートアップと同じように進化と成長をすることができる良質な文化を構築するためには、どのようにするべきなのでしょうか?

ビジネスモデルについて試行錯誤を繰り返すのと同様に、文化についても試行錯誤を行う。

私たちの経験から言うと、解決策は私たちがスタートアップについて試行錯誤をしたのと同様のやり方で自分たちの文化について試行錯誤を重ねることです。

私たちが活用しているのは、シンプルで文書化されたフィードバック・メカニズムであり、具体的にはマネージャーと従業員の間で月ごとに行う、(双方が) 早急に改善を実施するというコミットメントを伴う、士気と職務満足度を測るための透明性の高い双方向式のインタビューです。

私たちはこのシステムはチームレベルで実行されるため、会社の規模に合わせてスケール可能であるとも考えています。このシステムの全体的な目標は柔軟性を取り入れ、より良い信頼と人間関係を築き上げることであり、またマネージャーがスタートアップと従業員たちの体験を向上させるためのコミットメントを表すための良質な手段として機能させることです。

このインタビューはおよそ30分かかり、マネージャーは従業員に対し、会話を継続させることのみを目的に10個ほど質問を行います。

あなたは会社が自分のスキルと能力をうまく活用していると感じていますか?

昔、私たちのスタートアップが初期段階にあった頃、私たちは1日の間に会社の人間の半数をクビにしました。

私たちのチームの人数を半分に減らさなければならなくなった事態を生んだのは、数ヶ月間の間にサイロを形成するようになったメンバーたちに関わる現在進行形の問題でした。

当時、私たちは諍いを恐れ、対立を恐れ、また体系化されたフィードバックを行うというコンセプトを聞いたことさえありませんでした。私たちのスタートアップとは幸福な家族であり、私たちはそれを崩したくなかったのです。

私たちは諍いについて当人たちの間でいずれ解決するだろうと考えたり、あるいは諍いを抱えたままやって行けるだろうと考えたりしていました (実際には憤りを募らせ、悪化させることとなりました)。

ほぼ1年後、私たちは最終決断を下し、彼らに問題が解決の方向に向かっていないこと、私たちが別々の道を行く必要性がどれだけあるかについて語りました。このプロセスの間、私たちは自分たちの士気を破壊し、周囲の人間の信頼を失いました。

振り返ってみると、問題はもっと早く対処されなければなりませんでした。そして創業者である私たちは、自分たちがチームの人員を好み、気にかけていたとしても、それが必ずしも彼らが文化面において適切な人員であることを意味しないことを受け入れなければならなかったのです。

文化とはバズワードではなく、あなたの会社の人々のことです。

自分たちの従業員に対し常にフィードバックを求め続け、彼らをまるで私たちの顧客であるかのように扱い、そしてそのようなやり方に合った形で自分たちの手法を反復して行うことにより、私たちはコア・バリューの確立を超えたダイナミックな文化の構築を、意図的にそうしようとすることなく行うことができています。

文化とは創業者が自分を進歩的な考えを持った人間であると誇示するといったバズワードのための物ではなく、卓球台、パーカーとビール、あるいは金曜日に何か特別な催しがあるということでもないのです。

文化とはそのスタートアップ独自の個性であり、会社を形作る人々と共に変わっていくものなのです。

あなたには私たちのスタートアップを改善するための提案が何かありますか?

私たちが始めて、自分たちが積極的に会社の文化を作り上げているのだと気がついたのは、ExVivoを創設してから3年後のことでした。私たちは自分ではどうしようもない事情が理由で会社を辞めていく、ある従業員とイグジット・インタビューを行っていました。

その際に彼女は「私が先入観による恐怖なしに、率直に自分の懸念を示すことができる文化を作り上げたあなたたちは、素晴らしいと思います!私は単に自分の思っていることを伝えれば良かったし、あなたたちがちゃんと聞いてくれると分かっていました」と語ったのです。

彼女は「文化」という言葉を3度も口にしました。その時、私たちは自分たちが自覚無しに文化を築き上げてきたことに気がついたのです。

あなたの顧客でなく、従業員と話そう

私たちが初めて月ごとのフィードバック・インタビューを始めた時、私たちは一月に一度自分たちの従業員と会い、彼らに一連の質問を投げかけることが気まずい体験になってしまわないかと心配していました。

驚いたことに、従業員たちは快く受け入れてくれ、大いに打ち解けてくれました。私たちはまた従業員に対し、彼らの私生活で何かしら仕事に影響を与えている物がないか尋ねることができました。

仕事外での調子はどうですか?

彼らからのフィードバックは通常、「事務用消耗品を探すのに多くの時間を無駄にしてしまいました。いくらか注文してもらえませんか?」から、「現在の私の役割が今後どのように発展し、私のキャリア目標の達成に役立つかについて話し合いたいと思います」といった話題にまで及びます。

また、このようなインタビューは従業員に対し何らかの懸念がある場合はそれを示し、是正のための行動指針を設定するための機会となることも強調しておきたいと思います。

それと、これらのミーティングとミーティングの間に定期的なフィードバックを送ることも止めないで下さい。この手法は単にフィードバックを文書化して記録し、透明性の高い状態にすることを可能にするだけですから。

創業者の影響力は持続可能な物ではない。

スタートアップの開始当初の文化は、通常単に創業者の価値観、そして彼らが重要だと考えている物の延長に過ぎません。

これは一般的に初期の小規模なチームにおいては問題ありません。このような段階においては、創業者は本当にただ自分たちの人間関係、および自分たち同士で潰し合わないようにするために必要な信頼関係と率直なコミュニケーションを築き上げることのみを心配していれば良いのです。

しかし会社が成長し、チームが初期に雇用された人間で占められている段階から、やがてあなたが雇った人間が新たに人を雇う段階へとスケールし始めるにつれ (難しいですね!)、創業者の価値観と指導力が同じように直接的かつ即座に影響を与えるということはできなくなります。

例え創業者が自分たちの中核となるチームに文化を教え込むことに多くの時間を費やしたとしても、会社がスケールするにつれ自然とサイロが形成され、負の文化が根を下ろし、簡単に制御不能となります。

そのような理由から、上述のようなフィードバック・インタビューを行い、より良い人間関係の構築のために時間とエネルギーを費やすことで、会社の文化が腐り落ちていくことを防ぐことができるのです。

「すぐにクビにしろ」では二元論的過ぎる

あまりにも多くの場合において、文化というものは慣習的かつ暗黙的な性質の物に見えがちです。具体的な行動についての最も明確な金言は次の通りです。すぐにクビにしろ、腐ったリンゴを取り除き、それらがもたらす影響を最小限にせよ。

しかし、このような見方では二元論的過ぎます。なぜなら「適切」のカテゴリーに残った人間が、完璧に適切だということはありえないからです。

あらゆる個人は適応を行わなければならないものです。そしてスタートアップに加わった時期が早いほど、その人間が会社の将来の文化に対して持つ影響力は増していくのです。

では、ある人間が「適切」のカテゴリーに入っている場合、あなたはどのようにすればその人物を、チームが現在持っているポジティブなダイナミクスを脅かすことなくチームに組み込むことができるでしょうか?

るつぼではなく、モザイクであれ

私たちが自分たちの経験の中で学んだことは、会社の文化をるつぼのような形に近づけ、雇う人間全員が現状のダイナミクスと価値観にいずれ従うようになることを望むのではなく、柔軟に、自分たちの会社の自然な進化を受け入れられるようになった方が良いということです。

チームは完璧ですか?どのようなスキルを追加するべきですか?

文書化され、透明性の高い双方向型フィードバック・インタビューを、マネージャーと従業員の間で行わせて、士気と職務満足度を測るという手法を採用することにより、会社全体が共に成長しています。

この手法は信頼とより強固な人間関係を築き上げ、また私たちは単純な是正を行うことで全員の士気を上げることができます。このような段階において、文化とは漠然とした物ではなく、会話や文書に現れる、明示的な物となるのです。

このように文化を構築し、それを進化するビジネスモデルとして扱うという透明性の高いアプローチを、私たちは単純であるが有益な手法として、自分たちのチームを成長させるために採用してきました。

そして私たちのスタートアップ同様、この手法はまだ発展の途中なのです。

謝辞および参考となった書籍

私たちはJoe GreensteinとSemira Rahemtulla (Innerspace YC S15) に謝辞を述べたいと思います。彼らは私たちのYCバッチのために企画されたFounder Communication Workshopを手助けし、また私たちにチームの信頼関係とコミュニケーションを強化するためのツールを構築するという着想を与えてくれました。また、私たちのメンターであるJay Shah (Bufferbox YC S12。現在はカナダのウォータールーでVelocityのディレクターを務める) は、Michael Watkins著のThe First 90 Daysを読むことを勧めてくれました。この本の論点は新規に雇用した人間のオンボーディングと受け入れに対して多いに役立てることができます。

フィードバック・インタビューの質問一式:

  • 新しい、改善された物事のやり方を考え出すことを推奨されているように感じますか?
  • あなたの仕事はあなたに個人的な達成感を与えてくれていますか?
  • あなたは自分の仕事を上手く行うのに必要なツールとリソースを全て手にしていますか?
  • あなたは明確に定義された目標を持っていると感じていますか?
  • あなたは会社があなたのスキルと能力を上手く活用していると感じていますか?
  • チームは完璧ですか?どのようなスキルを追加するべきですか?
  • あなたは会社が従業員に対し、彼らに影響を及ぼす物事について上手く伝えられていると感じていますか?
  • あなたは会社があなたのキャリア目標を達成することを手助けしてくれていると感じていますか?
  • あなたは自分の仕事に影響する決定について、どれぐらい自分が関与できていると感じていますか?
  • あらゆることを考慮に入れた場合、あなたはどれぐらい仕事に満足していますか?(%で答えて下さい)
  • 100%へと到達させるために、何か変更できることはありますか?
  • 会社を改善するための方法について、何か提案はありますか?
  • どのようにすれば私たち (マネージャー) はより良くなれるでしょうか?
  • 仕事においてあなたを危険または不安に感じさせるようなことは何かありますか?
  • 仕事外での調子はどうですか?
  • あなたは将来、どのような立場にありたいですか?
  • 何らかの自己啓発、もしくは専門的能力の開発を達成したいと考えていますか?



1. The Social Radar: What I Did at Y Combinator – Jessica Livingston.↩

2. Creating Good Company Culture (and Sticking to It) – 2016 Female Founders Conference – Kathryn Minshew.↩

3. Culture (Brian Chesky, Alfred Lin) – How to Start a Startup Lecture #10.↩

4. Hiring and Culture, Part 2 (Patrick and John Collison, Ben Silbermann) – How to Start a Startup Lecture #11.↩

 

著者紹介

Eric Blondeel

Eric は ExVivo Labs (YC S16) の共同創業者です。

Moufeed Kaddoura

Moufeed は ExVivo Labs (YC S16) の共同創業者です。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Making Culture a Tangible Metric (2017)

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