スタートアップを経営すること (Startup School #18, Patrick Collison)

 

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Adora Cheung
Patrick、ようこそ来てくれました。Patrickは、Stripeの共同創業者でありCEOで、2010年に今やこんなにも大きなスタートアップとなったStripeを起業しました。そうですよね?弟のJohnと。

Stripe の起業ストーリー

Patrick Collison
ええと、確かに私たちは2010年にフルタイムでStripeに取り組み始めました。しかし事業開始の時期についてですが、実際に事業を始めるまでにはかなり時間が掛かっているんです。銀行との提携をきちんと整えなければならなかったりしたので。だから実際には2011年9月までは開業はしていなかったんです。その時点で2年ほどは取り組んではいたんですが。

僕たちがPaul GrahamやほかのY Combinatorのメンバーに会うたびに、みんなどうして僕たちがまだローンチしてないのか聞きたがってました。昔から変わってませんね。

Adora Cheung
それは面白いですね。そして2年掛かったと。

Patrick Collison
はい、1行目のコードを書いてから、一般公開まで1年11か月かかったと思います。はっきり言っておきたいのは、こんなことを僕はお勧めはしません。良いアイデアではありませんので。僕たちはそうしなければならなかっただけなんです。だってあらゆる環境を整えなければいけなかったので。

正式に開業するのに多少時間がかかったので、僕たちは毎月徐々にユーザー数を拡大できるよう努めました。そして、僕らは正式には開業していないにもかかわらず...ちょうど3ヶ月で最初の利用者、つまり最初のプロダクトのユーザーがつき、その後毎月、わずかでもユーザーを増やしていけるよう努力しました。

だから、正式開業の時までには、すでに100人ほどのユーザーがついていたのです。それは今考えると非常に大きなことでした。とてもとても、大きなことです。

Collison インストール

Adora Cheung
このインタビューの準備をしながら、いろいろと記憶を呼び起こしていたんです。そして、あなたのオフィスはパロアルトでこの近くだったからはっきりと覚えているんですが、Collison兄弟がみんなのオフィスへ行って、Webアプリケーションに自分のAPIをインストールして回っている、とみんなが話していたのを思い出します。これはまさに「スケールしないことをしよう」の流儀ですね。

あなた達は、インストールさせようとしていただけでなく、ユーザーからのフィードバックを得ようとしていたんでしょう。そして実際それが役に立ったんです。

あなたが知っているかは分かりませんが、Paul Graham、PGはその行動を今では「Collisonインストール」と呼んでます。そして実は私たちは、スタートアップの創業者たちに実際にCollisonインストールをするように伝えているのです。言うまでもなくこれはあと知恵なので、やることは明白でしょう。

「なぜ今」の答えは「今ここにいるから」

Patrick Collison
そうですね、それには2つの目的がありました。

一つにはあなたの指摘の通りで、ユーザー調査をしたり、ユーザーエクスペリエンスのフィードバックなんかを得るのに、いい方法だからです。そうすれば、そのプロダクトがどんなものであれ、最も合理的で、ユーザーが使いやすく、簡単で、軋轢の少ない方法を確実に発見できるでしょう。

ユーザーの前にプロダクトを置いて、彼らに使ってみるように言っても、彼らは何をするか分からずに、あらゆる誤ったリンクをクリックし、次どのボタンを押せばいいのか分からないんです。たとえそのボタンが緑色か何かに点滅をしていてもです。ユーザーが、新しいプロダクトの最初のバージョンを使うのを見るのは、決まって信じられないほど骨が折れ、全く落ち着かないものです。

しかし、もう一つの理由としては、僕たちはStripeを使うこと、Stripeに切り替えることを勧めていたのですが、いつも彼らの反応は、「ああ、うん、確かに、それは素晴らしいですね。」です。何度も何度も後回しにされ、「オーケー。今夜 Stripeに切り替えるよ」なんて瞬間は来ないのです。

だから直接行って、後押しをするんです。セールスでは、「なぜあなた」で「なぜこの製品」で「なぜ今なのか」、そういったことを人々は聞きたがります。

直接自分が行くことで、質問の答えを作り出したのです。「なぜ今なのかって?だって今僕らはあなたの家にいるからね」

Adora Cheung
いきなり現れたんですか?どうやって?

Patrick Collison
いきなりではないです。もしかしたら、そうすべきだったのかも知れないけど。しかし、半ば招待はされていました。

Adora Cheung
わかりました。だから今日の Stripeがあるんですね。

その時から、あなたは長い道のりを歩んできました。年月としては、たった10年も経っていないですが、あなたは今、世界中の9つものオフィスに1300人もの従業員を雇っています。あなたは今も進み続けています。

ここにあるリストがあります。あなたは一日に2億ものAPI要求を管理し、1年間で何百万もの会社のために、130もの企業を通して、何十億ものAPI要求を処理しています。現在のStripeの資金は今や2000万ドルもの価値があります。億かもしれません。

とにかく、リストはまだ続いていますがここでやめておきましょう。そうでなければ、みなさんは私のことを、あなたのPRエージェントだと思うでしょうから。いずれにせよ、あなたは明らかに正しいことをしてきています。

そこで今日は、スタートアップのCEOとしての観点から、スタートアップをどのように経営しているのか、に多くの時間をとりたいと思っています。日々の業務にズームインし、また長期的戦略における決断にズームアウトしてみましょう。

どちらがCEOになるか

その議論を簡単にするために、スタートアップを始める一番最初、たくさんの友達が集まったり、アイデアを持ち寄ったり、その取り組みにとても興奮し、取り組み始めるものです。そしてある時点で、その会社のCEOを決めなければなりません。そしてCEOにはならない運命の人もいます。

しかし、あなたとJohnに限って言えば、私はあなた達二人共と会ったことがありますが、二人共素晴らしい資質と性質を持ち、非常に賢く野心的で、偉大なリーダーになるのにふさわしいと思います。どうやって、あなたとJohnは、あなたがCEOになると決めたんですか?

Patrick Collison
そうですね、Stripeは独特だと思います。言うまでもなくJohnと僕は兄弟で、長い間お互いを知っています。その関係のおかげで、僕たちはお互いに深く信頼を置いています。僕たちは本当に二人で一緒にStripeを経営しているんです。僕たちの意見が分かれてStripeが大きな決断をしたなんてこと、今までにないんです。

そして僕がCEOであるかに関わらず…意見が合わないときに、僕の意見がいつも勝つなんてこともないんです。議論解決の枠組みは、どちらがそのことに権威があるかよりも、どちらがよりそのことを気にかけているか、ということです。

Johnの肩書は社長ですから、二人共重要な役割があるんです。だからその点で、僕たちは少し例外だと思います。僕がCEOになったのも、正直半ば行き当たりばったりでしたしね。僕たちは兄弟だからこういう特殊な状況で一緒に経営が出来ているのだと思います。

この答えはあまり役には立たないかもしれません。あなたはCEOになるべき人物が一人居る企業を激励しようとしているんでしょうから。

Adora Cheung
あなたはCEOに関するルーブリック(訳注:評価表)はあると思いますか?ここにあなたに答えてもらわないといけない5つの質問がありますので、みたいな考えてみてください。

Patrick Collison
それは良い質問ですね。

Adora Cheung
ないかもしれない?

意思決定のメカニズムを持つ

Patrick Collison
そうですね、僕が思うに、意思決定に到達するための効率的なメカニズムを持っていることが重要だと思います。それは単に合意を得ることだけではないですよね?

3人の共同創業者がいるとして、そのうちの誰もやりたがっていなかったり、はっきりしたCEOがない場合に、意思決定がされる効率的なメカニズムが最初になければ、それは失敗に終わると思います。準民主的に投票を行うことも、あんまりいいアイデアでは無いでしょうね。

今のところ、僕とJohnは得意とする分野を各々持っているんです。そしてそのことが、その分野について絶対的な裁量権や権力がある、というわけではないんです。ただ僕たちは、それぞれの方向に偏っているんです。

例えばJohnはユーザーとの社外での働きに多くの時間を割き、僕はプロダクトや技術面になど、社内での業務に多くの時間を割いています。ただし、Johnがプロダクトにおいて意思決定しないとか、あるいはその逆、というわけではないんです。それでもやはり偏りはあります。

次に、大きな決断をする際に、考慮するもう一つの側面があります。僕たち自身は尊敬を持って喧嘩しますが、その側面とは、僕たちのうちどちらが、よりそのことに情熱を持っているか、です。

なぜかというと、それは結果に関係するからです。僕たちのどちらかが何かやりたいことがあったり、あるいはXかYのどちらかがやるべき正しいことだと思っている場合、情熱的にやりたいと思うその気持ちは、自己充足的予言になりうると思うんです。ぼくはこれをばかげた考えではないと思っています。

相手に勝つのではなく、最高のアイデアを求める

Adora Cheung
そうですね、一緒にいてうまく機能する最高のチームとは、その全員が、勝つための「自分のアイデア」ではなく、勝つための「最高のアイデア」を求めていることでだと私も思います。だからこそ一歩引いて利己的でない考えができ、良い結果に結び付くんです。

Patrick Collison
その通りです。そして、僕たちが少しラッキーだと思うのは、確かに僕は今、最も成功した共同創業関係を築けていると思いますが、それは食い違いがあったときに、ある程度冷静でいられているからなんです。

僕たちにとっては、それは比較的簡単なんです、だって僕らは20年間意見が食い違い続けているんですから。ある意味感情的にならなくて済みます。

だから、ほかの人がいかにしてそれを乗り越えるための方法を見つけるには、あまり当てはまらないと思います。ただ、強く意見が分かれることが恐ろしい現象というわけではなくて、もし、2人以上の人が居たとして、その両方やそれぞれが、意見が合わないことを恐れて自分の感情を抑制することがまずいのです。

Adora Cheung
あなたは何人兄弟ですか?John以外にも兄弟がいますか?

Patrick Collison
他の兄弟ですか?はい、います。

Adora Cheung
そうなんですね。

Patrick Collison
僕たちは3人兄弟です。

Adora Cheung
彼はStripeに加わりたがらなかったんですか?それかあなたとJohnだけというのがStripeにとっては特別な組み合わせなんでしょうか?

Patrick Collison
Tommyというのが僕の一番下の弟なんですが、彼は僕とJohnよりかなり若いんです。Johnは僕よりだいたい2歳年下です。だから僕たちがStripeを始めたとき、僕は確か21歳だったと思いますので、Johnは当時19歳ですね。そしてTommyはまだ高校生だったので、一緒にやるというのは現実的ではありませんでした。

Adora Cheung
ああ、高校生だったんですね。

Patrick Collison
そして今、もし僕がTommyに参加しないか、といったとしても、僕らのような悪党に加わったりはしないだろうと思います。

PMF

Adora Cheung
分かりました。CEOの役割についてですが、人々はよくプロダクトマーケットフィットについて、境界があるといいます。つまりあなたには、プロダクトマーケットフィット以前のCEOとしての役割がありますが、それはプロダクトマーケットフィットに達してからの役割とは全く違いますね。

そこで、今からはプロダクトマーケットフィット以前の段階について、話を聞いてみたいと思いますが、少し質問を変えてみます。Stripeにとって、プロダクトマーケットフィットとは?その定義、使用したメトリクス、到達した時の従業員数、などなど。

Patrick Collison
ええ、それは本当に大切な問題です。そして、プロダクトマーケットフィットを前後に分けて考えることは正しいと思います…スタートアップは2段階に分かれます。

まず、プロダクトマーケットフィットしていく段階。そしてそのあと次の段階がやってきます。この2つは、明らかに2本の線で分かれているわけではありませんがこの構造を理解するのに役立つと思います。

Stripeにとっては、実際開業当時はありました。僕たちは、2011年9月に一般公開したとき、ユーザーからのフィードバックに応じて、何度もStripeの重要な構成要素を再構築しました。僕たちはダッシュボードは第3バージョンでしたし、数え方によるけど、APIも第2か第3バージョンでした。僕たちはユーザーが実際に使ってみて生じた課題やプロダクトの欠陥に対応するために、何度もイテレーションを繰り返していました。

ローンチ時は、ユーザーの需要を生み出すというよりむしろ、ユーザーの需要を満たすことができるようになることがボトルネックでした。でもそのあと、正反対のことが起きると思います。

初期のころはユーザーを理解しようとするはずです。状況を整えたり、どうやってユーザーが必要なものや、どうやって彼らが最終的にハッピーなユーザーでいてくれるのか知ろうとするはずです。

それがいつの間にか流れて、あなたが100人のユーザーをとるか、その中の一部分をとって、より少ない割合のユーザーに従事し続けるかで全く異なると思うんです。もし一部を取るなら、100人のユーザーがどんどん減っていきますよね。そして、あなたが100人のユーザーを取り、意味のある割合が魅力を感じてくれたなら、ほかの人々にもそう言って、ユーザーを増やしてくれるんです。

別にウイルスみたいに増殖していく、というわけではなく、ただ一般的に言うと、より多くの需要につながりますし、より多くの需要を生み出すことが、より企業の成長を伸ばしていく方法なのです。

1未満は1以上と全く異なると思います。僕たちはローンチ直後、そんなに多くのユーザーを得ることはできませんでした。正確には覚えていませんが、500ほどの企業が、ローンチしたその日に契約しました。

その500社がすぐに他の企業にも言ってくれて、人々もいろいろとその話を聞いてくれました。そうしてその次の日にはたくさんの企業が同様に契約をしてくれました。ですので、ローンチした日から、僕らの挑戦は、どうにか市場に尽くすためにプロダクトを調整することよりも、需要に追いつけるようになることになりました。

Adora Cheung
創業時、何人くらい従業員がいたんですか?

Patrick Collison
10人くらいですね。

Adora Cheung
始めに話してくれたように、ローンチ前、毎日走りまわってユーザーと話し、問題を修正していたと予想しているんですが、文字通り毎日そんな風でしたか?毎日どんなことしていましたか?

Patrick Collison
そうですね、実際毎日というわけではないんです。しかし、僕たちはみんながやっていることや、どんなことにつまづいているのか等を、正確に詳細を把握することに尽力していました。

例を挙げるなら、僕らにはStripeをまとめていく中で、サポートしていくためのチャットルームがありました。そしてそれは公のチャットルームだったので、少し欠点もありました。つまり、何かを壊してしまったり、恥ずかしい問題があるときに、みんなに知られてしまうのです。

しかし僕らはそれは、いいことだと思っていました、だってそのことが、良いプロダクトを作るためのプレッシャーをかけることになるからです。

すべてのAPIリクエストを目で見る

そしてStripe最初の10年間ぐらいですかね、誰かがStripeにAPIリクエストを送ってくる度に僕らにメールが来るようになっていました。だから、僕らはすべてのAPIリクエストを見ていたんです。

そして、ユーザーが何か奇妙な動きをしたら、「なぜそんなことをしたのか」「どこで僕らのドキュメントが混乱を招いたのか」なんかを確認していました。そして、当時、ディナーによくでかけていたのですが、だいたい10通くらいはメールを受け取っていました。その頃はStripeはあんまり多くのAPIリクエストを処理していませんでしたからね。だから文字通り個々の動きをすべて見ていました。

実は、 最近 Stripeは創業日を迎えました。僕たちはあまりお祝いごとが上手ではないですが、とにかく、ちょうど数日前、9月29日に創業7周年を迎えました。そこで、昔僕たちが送っていた1時間ごとの統計情報のメールを見ていました。すると、創業の日、過去1時間で22回の支払いを処理していました。

重ねて言いますが、これは当時の僕たちにとっては大変なことでした。しかし、そのメールのなかにあるものがあったのに気づいたんです。実は僕はメールを受け取ったことも忘れていたのですが、3つか5つか、わからないですが、APIリクエストを出してくれた企業のリストがあったんです。

しかし、その企業は実際企業を立ち上げはしなかったんです。僕たちは確かにメールを受け取ったのに。僕たちは個別に彼らに連絡をしてみることを思いつきました。

「やあ、あなたはStripeを少し使っていたようですね。しかし企業を立ち上げなかったようですが、僕たちは何か失敗しましたか?それかプロダクトが満足がいかなかったですか?」と。

誰かがエラーを起こす度に僕らに優先度の高いメールが送られるようにしたり、そういったことをしました。そして僕たちはすぐにその解決を試みました。いくつかのサービスで、エラーを起こした時にイライラさせてしまったことで、喜ばしいユーザーエクスペリエンスを生み出すことができたと思います。

そして僕たちは、多くの場合、15分後には、彼らに連絡し、こう言うことができます。「ねえ、あなたはこの問題にぶつかったけど、もう解決済みだよ」と。

そして時にはユーザーが愚かなミスを犯す場面に出くわすこともあります。例えばユーザーがAPIパラメータを誤入力したとしても、僕たちは彼らに「あなたはタイプミスをしましたよ」と伝えることができます。

もしかしたらこれは少し彼らを不安にさせるかもしれないですがね。でも少なくとも、プロダクトの情報処理量のフィードバックを増やすのには役立つでしょう。

これは、人々がそのプロダクトでなにをしているのか、そしてそれに反応して、すぐ対応できるように、非常に細部にわたるまで気遣いをしようと努める一般的なパターンの例となると思います。

そして、一般的にプロダクトマーケットフィット以前のメトリクスは、実はあまり役に立ちません。僕はその段階では、可能な限り多くの検査や、高い情報処理の質についてのフィードバックに向かって、注力していく必要があると思います。

なぜならおそらく、そんなにたくさんの人が自分のプロダクトを使っているわけではないでしょう?そして、もしそれが20人のユーザーなら、ある意味彼らがすることをすべて見て、何が機能していて何が機能していないのかを理解する余裕があるかもしれません。

Adora Cheung
そうですね、ある意味では、彼らがどれくらいあなたの製品を愛しているか、そのプロダクトがなくなったらどれくらい動揺するだろうか、などですね。

Patrick Collison
間違いないですね。実は、僕らはウェブページの下部に小さなテキストボックスを用意していて、それはブラウザフレイムの一番下に固定していました。そして1行目には「やあ」と書いており、僕たちに何か言いたいことがある人に向けて、プレースホルダーテキストが表示されています。そこには、「私のStripeの好きなところは…」とあります。そしてそこに入力をし、エンターキーを押すのです。

しかし、当然のことながら、そのコメントのほとんどは否定的なものでした。それは、「Stripeに関する最悪なところは」、や「このページの最悪なことは」、だったり「私はStripeのやり方が本当に大嫌いだ」だったりしました。

それでも僕たちはこの段階ではこういった悪口に好意的でいなければならないんです。だから、Stripeについてひどいことばかりを伝えてくるすべてのメールに常に向き合わなければならなかったのですが、それは今後のためにやるべきリストを作るのに役に立ちました。

CEOとしての幸せの感じ方

Adora Cheung
どうやって喜んでいたんですか?当時そういう苦情に対して。

Patrick Collison
どうして喜んでいたと思うんですか?だからそれは、それはですね、ハッピーってふわふわした概念じゃないですか?

当時いろいろあったから、自分自身に合理的でいるよう言い聞かせていたんだとおもいます。でも振り返ってみると、喜ぶ気持ちも多かったけど、完全に幸せだったわけではないですね。大抵ストレスが溜まっていたり、必死に働いていたりしましたから。

しかしそれも後になって満足感を連れてきてくれたものでしたよ。その一部は今も豊富な知識となってくれています。ただ僕はそこに浸りすぎたくはありません。僕は幸せって、はっきりさせるには注意が必要な概念だと思っていて幸せとはその瞬間に感じるものなのか、一年後に振り返ってみて感じるようなものなのか。

だから、僕が思うに言語ってふわふわしているから完璧に明確に意味づけることはできないけど、一般的によりよい効用関数、目指すべき頂きは充実感だと思うんです。そして僕がStripeを経営する中で経験してきたことは、とりわけハッピーというわけではなかったです。だって絶えず信じられないほどプロダクトにひどく障害があることや僕らが直面する課題に目を向けなければならなかったんですから。

当時はフィンテックの範疇もまだなく、二十歳ぐらいの若者ふたりがPayPalと競おうとしていただけのようだったんです。実際多くの方々にやめたほうがいいと注意されました。

だから、それ自体は特に幸せではありませんでしたがでも充実感はありましたよ。そして僕はJohnや後に僕らが雇ったスタッフと一緒に働くことを楽しんでいました。僕たちがサービスを提供している顧客と働くのも本当に楽しかったです。彼らはみんな素晴らしいビジネスをやっていましたからね。それに彼らは本当に賢い人たちでした。

そして、それがうまく機能すれば、世界にとって重大なことであるように感じられました。自分が、一種の科学者か何かであるかのように感じていました。大きな疑問を追い求めたり、より良く理解するための方法を模索しているとき、一日一日が特に幸せというわけではないと思います。だって大半の体験は実を結んだりしないんですから。

でももしかしたらいくらかの意味があると感じているということは、なにか似たような解決策があるかもしれません。

Adora Cheung
ええ、あなたがおっしゃるように、日々ある意味ではパニック状態で走り回っています。

しかしおそらく週ごとか少なくとも月ごとで振り返ったとき、どういう進歩が見えてきましたか?なぜなら週ごとに1%を重ねていって、それ自体は大きなものではありませんが、月ごとで見てみると、きっともっと長期的に見れるでしょう、動きとして。

Patrick Collison
ええ、その通りですね。そして僕が思うに、もしあなたがそこで働くことが本当に嫌なら、その中で働いたり、従事したりすることは、ほぼ確実に悪いアイデアだと思います。だからそこはバランスが難しいんですが。

そして僕が思うに、スタートアップをしようするには本当にたくさんの、いろいろと難しい判断をしなければなりません。しかしもちろん、何かがあなたを不幸にしたり、特別有望な手段に思えなかったり機能しそうになければ、あなたの時間の比較的機会損失は高いでしょう。人生で立ち上げれるスタートアップの数は限られているでしょう?

そしてその「やめる」という判断をすることが大切だと思います。スタートアップの世界では何が何でもやり抜くことを美徳として賞賛したり、指示したりします、たとえ費用がいくらかかったりしても。決して辞めずに続けたりすることを。それは明らかに正しい答えではありません。時には、やめるべきなのです。

だから僕は、どれだけ手が届いているかが、真実であり正しいと思うんです。ある程度、幸福感や満足感、充実感を感じる必要があると思います。「Satisfaction」という名前の良い本があります、僕がおすすめの…週ごと、月ごとに満足感を感じるはずなんです、もしあなたが正しい軌道に乗っていれば。

Adora Cheung
ああ私がそのことを知っていれば…良かったのに…Stripeを実装する時、PayPalを実装しようとしていた当時の嫌な思い出を思い出しました。大量のドキュメンテーションがあって、すべて把握するのに5日もかかりました。だからあなた達が「10分で終わるよ」と言ったから、私は「うそでしょ」って。そして実際には5分ほどで終わったんです。私はとてもハッピーでした。たぶん私はあなたにレビューを送るべきでしたね。

Patrick Collison
ええ、だったらうれしかったですね。特に僕たちに批判的なレビューだったのなら。いやいや。でもあまり良いプロダクトでない競合他社がいるのは、確かに助かります。

いつ従業員を雇うか

Adora Cheung
そうですね。わかりました。

初期の頃、あなたは多くのことを自分自身でやっていましたね。質問を2つに分けたいと思います。まず1つ目は、どんなことが得意でなかったですか?そして2つ目は、どの時点で、そのための従業員を雇いましたか?

Patrick Collison
ええと、まず僕はほとんどのことがうまくできません。これは謙遜とかわざと自分を卑下しているわけではありません。しかし、Stripeでやらなければならないほどんどあらゆることにおいて、僕よりもうまくできる人たちがいます。

そしてある程度、プロダクトマーケットフィットしてきて、僕らの現段階は、より多くの地域で認知度をあげていく段階だと思います。そう言ったものの、その質問にもっと深く入りますと、そうですね、どんなことにおいてでも、自分がおそらく世界レベルの専門家ではないと認めることはある意味、どの分野から自分の代わりとなる者を見つけるかということだと思います。

Stripeにとっては、僕らが明らかに得意じゃないけれど大事なことに、提携や僕らが協力を要請しなければならない様々な銀行とのやり取りがありました。

ビジネスデベロップメントの採用

実はGeoff Ralston、今日この部屋に来てくれていますが、彼はとても大きなささえとなってくれて、もしかしたら心の奥底では、大手銀行と提携を結べるよう模索していた僕たちのことを少し憐れんでいたのかもしれません。私たちは行き詰まっていたんです。

そして彼は、僕らにBilly Alvaradoを雇うべきだと言ったんです。「とにかく何も聞かずに、この男を雇え」と。当時、 Stripeにいる全員がエンジニアでした。だから僕らは、エンジニアでない人が何をするのかいまいちよく分かりませんでした。「あなたはコードを書かないんですよね、だったら何をするの?」みたいな。

だから僕らはこのアイデアを少し疑っていました。一応僕たちは、Billyと会いました。彼は素晴らしい男のようでしたし、本当に気に入りました。しかし僕らはこの疑問が気にかかったままでした。

「わかった。でも実際一体何の仕事をどうやってするんだい?」

だからGeoffは僕らに、とにかく1,2か月でもいいからBillyを雇うべきだと言いました。そしてもし上手くいかなかったら、Geoffがその分の給料を払うといったんです。そうすれば君らのリスクはゼロになるだろうと。

当時、僕らはあんまりお金を持っていませんでした。だからその提案は大きかったです。だから僕らはBillyを雇いました。

そうするとすぐに流れが変わり始めました。以前僕らが銀行へ行って話したとき、彼らはまるでデスクの下にあるセキュリティボタンを押そうとしているようでした。まるで「なぜこの人たちは私のオフィスにいるんだ?」と思っているように。

Billyが来てから、物事が円滑に回り始めたんです。そして、Billyは今日もまだStripeにいます。彼は非常に支柱的存在であり続けています。だから、Geoffの言葉は、間違いなく、とても有益なアドバイスでした。

Adora Cheung
それは面白いですね。GeoffがStripeにとっての転換期だったなんて、知りませんでした。Billyの前にも人を雇っていたようですが、あなたが一番初めに雇った、初期の3番目の人物はエンジニアだったということですか?

友達の縁故採用

Patrick Collison
実際には彼はエンジニアというわけではありませんでした。しかしStripeに加わって、エンジニアになりました。それ以前にほんの少しコードを書いたことはありましたが、Stripeに加わって、書かなければならないコードがたくさんありました。

彼は僕が大学から知っている友達だったんです。彼は実はアイルランド人でもあります。僕たちには書かなければいけないコードがたくさんありました。彼は状況を見渡して、重要で必要なことはなんでもやってくれる人でしたが、当時それはコードを書くことでした。なので彼はそれに取り組んでくれたんです。

PMF 前後でやるべきだったこと

Adora Cheung
プロダクトマーケットフィット以前から、その後へと移行してく中で、多くのCEOがもっとより良くできたんではないか、と思いをはせると思います。

あなた自身は上手く移行できたことをどう評価しますか?なぜなら業務や、企業内の機能を委託することでうまくいくことがたくさんあったりしますよね。正確にどのようにプロダクトマーケットフィット後へと移行しましたか?もし私があなたの立場なら、上手くやるためにどうするべきでしょうか?

Patrick Collison
そうですね、僕は特にうまくやったとは思いませんし、幸運にもうまくいったんだと思います。しかし、もしもう一度始めからやり直すとすれば、1年か2年スピードアップできると思います。僕たちは多少は鍛えられたと思いますし、自己認識の方法も身についたと思いますので。

ここで持ちうる最悪のメンタルモデルの一つは、あなたが今成長曲線の途中にあり、この状況を維持、または少しは上昇させることが自分の仕事であると考えることです。カーリングというスポーツでは、氷をこすると、おもりが進んでいきますよね。すみません、僕はカナダ人ではないのですが。

成長曲線の根底には、そういった介入や動揺があるものです。それこそが陥りやすいメンタルモデルだと思います。僕はこれは当てにならないし、誤った考えだと思います。

それよりもはるかに良いメンタルモデルとは、市場に奉仕することです。

市場とは、割と限られた大きさなのです。いつでもプロジェクトを変えて、市場規模を増やすことができますが、市場規模を限りあるものだと考えることもできるのです。そしてその時、あなたが提供している市場の割合があり、提供していない市場の割合は、受け入れる余地のある市場の機能や組織をまだ作っていないだけなので、少なくともまだこういう市場セグメントに、プロダクトを持ち込む余地はあるのです。

そして、成長曲線や普及曲線というのは、市場の装置に働きかけていくためのただの機能なのです。しかも基本的には、それは宇宙の軌道やなんかではなく、あなたが作り出し、あなたの支配下にあるものなのです。

だから当時僕らはやらなかったけど、やるべきだったと思うことは、ローンチ後すぐにはやらなければならない大量のスケーリング作業がありましたが、ローンチの6か月後には、僕らの市場の同心円の計画を立てるべきでした。

そこには僕らの顧客である初期のアーリーステージスタートアップが居て、必ずしも初期のアーリーステージのスタートアップばかりではありませんでしたが、いずれも技術系のスタートアップでした。

こういったことは、最終的に目標にたどり着くまで、ずっと続けていかなければなりません。全ての企業がオンライン決済を利用するまで、とかね。僕らは見つけ出していかなればなりません。「この市場の規模はどれくらいか」、とか「僕たちが提供している機能はなにか」、とか「もっと提供していくために何をしようか」、とかそういったことを。

そして僕が非常に印象的だと思うのが、繰り返しあらゆる創業者が企業をはじめていく中で、彼らのほとんどが、いつもきまってプロダクトマーケットフィット後の組織を作りあげようとすることです。

決まって今日の物事に先んじた組織を作り上げようとするのです。これは全く正しいことだと思います。

例えば、僕には最適なプロダクトがあります。さて、そこから逆に考えていってみましょう。「そのプロダクトは市場全体に一体何を提供しようとしているのか」。そうして組織を作り上げていきましょう。なぜなら、成長曲線はやはりあなたの支配下にあるからです。そしてもちろん、100パーセントではありません。しかし人々が考えるよりずっと、あなたがコントロールできるものなのです。

そしてもちろん、この点においても、大きな違いがあります。それは一般顧客を想定するのか、BtoBの場合か、です。一般消費者は必ずしも自分が望む内容を完全にはわかっていません。ニュースを読むアプリやデートアプリの市場規模はどれくらいでしょうか。それは、そのプロダクトに大いに依存しているんです。

もしかしたら同様に、より多くの人々がニュースを読んだりするはずなのかもしれません。ディスクリートロジックや具体的な機能を提供している一部のサービスやプロダクトにとって、企業相手の方が、はるかに合理的で、マッピングしやすいです。

Box のAaronとの出会い

そして僕は部分的にこのひらめきをBoxのCEOであるAaron Levieから得ました。Johnと僕はパロアルトで始めて、最終的にサンフランシスコへやってきました。Aaron LevieはJohnにFacebookでメッセージを送ってきましたが、その時僕らは彼のことを知りませんでした。僕らはシリコンバレーの人たちを、ほとんどまだ知らなかったのです。しかし彼は、とても速い段階で Stripeに投資を持ち掛けるFacebookメッセージをくれたのです。

でもJohnも彼を知らなかったので、「このでたらめな男は誰だ」と言って、僕らは返信をしなかったんです。でもBoxのことやAaronを知って、彼の面白いツイートを読んだりするようになりました。そうして僕らはサンフランシスコに移って、彼を僕らの引っ越し祝いに招待しました。それが彼に始めて会った時だと思います。

僕たちは、パーティがあまり得意じゃないんです。だから11時か、深夜までにはみんな家に帰っていました。でもAaronはまだそこにいてくれて、たしか夜中の2時ぐらいまでいてくれたと思いますが、リビングで、なぜ一般消費者向けより、BtoB向けのソフトウェアを構築していくのが良いのかを話してくれたことをいまだに覚えています。

一般消費者向けのソフトウェアは何が需要があるか予想するのが難しいのです。消費者自身でさえ自分が何を求めているのかわかっていないですからね。とてもあいまいなんです。

ところが、企業にソフトウェアを販売するときは、企業というものはたいてい合理的に考え、不可解の反対をなんと言うかわかりませんが、「解読可能」ですかね。だから、問題を解決することができるんです。はるかにわかりやすいですからね。

だから僕はいまだに両肩に天使と悪魔が乗っているように、いまだに午前2時のAaron Levieが僕の肩に座って、企業が望むものを満たすためのソフトウェア構築のすばらしさについて称賛しているんです。

PMF 前の組織構造

Adora Cheung
正しい選択をしましたね。ええ、ある意味では企業はかなり変動しにくいですよね、一般消費者は大いに変動し、計り知れないですから。

すこし話を戻したいのですが、あなたは、自分のチームや、企業の構造がどんなふうになっていくべきかを、前もって考えているとおっしゃっていました。あなたは…おそらくこれは大きすぎる質問ですね。すこし質問を切り取りましょう。

例えば、もし私が今日スタートアップを始めるなら、おそらくプロダクトマーケットフィットに近い段階からの始まりとしましょう。しかし、その段階以前に、私のチームはどうあるべきだとかそう言ったことに関して考えるべきだと思いますか?自分たちの文化や、従業員はどうあるべきだとか?

Patrick Collison
僕が思うに…そうですね、プロダクトマーケットフィット以前ですか。ゴールはプロダクトマーケットフィットすることですよね。なので僕はこういう分布構造についての疑問をあんまり気にしすぎないようにしますね。

比較的早くプロダクトマーケットフィットに近づくことができることもあります。だから、それ以前の段階は、たった6か月しか続かないかもしれません。必ずしもStripeのように様々な理由で数年間もその段階に留まることはありません。ですからそう長く待たないかもしれません。しかし、いずれにせよ、その時点まで「どうすればそこにたどり着けるか」を考え続けるべきだと本当に思います。

イテレーションの速度がカギ

企業がプロダクトマーケットフィット以前に失敗する主な原因は、イテレーションのスピードだと思います。

実りの多い、イテレーションのスピードです。もしあなたが、ユーザーフィードバックに応えずに、繰り返しプロダクトを再構築し続けているとすると、生産的な方向に向かって行っている可能性は低いでしょう。

意味のある、たとえ少なくても最初のユーザーたちがいるなら、迅速にそのユーザーのフィードバックや観察した行動にイテレーションするのは、非常に良い状態だと思います。プロダクトマーケットフィットの以前の時点で、そのフィードバックのサイクルを強化するためにできることは、なんでもやるべきです。

20世紀の後半に米国で空中戦闘に革命を起こした戦闘機のパイロットがいました。彼は、Boydといい、朝鮮戦争をけん引しました。BoydはOODAループという概念をもっていました。それ以前は、最も早い飛行機や、最も高性能な兵器が有効だと思われていました。

でも実際には、ほんとうに必要なのは、その場の状況に最も早く反応し、イテレーションできるような飛行機や、パイロットを鍛えることだと唱えたのです。その考え方は、現代の飛行機設計に影響を及ぼしています。そのようなパイロットみたいになるべきだと思います。

年々急速に進化する状況に、できるだけ早く対応できるように。このプロダクトマーケットフィット以前の段階の中で。雇用の観点から、そこにより早くたどり着くのに何をしていくのかを考えるべきです。

アーリーステージでは、多くの人がプロダクトを構築する手伝いをしてくれると思います。もちろん、そんなにたくさんではありませんが。ある程度まで来ると、もっとできるようになるかもしれませんが、実際反応は少なくなるかもしれません。なぜなら、あなたの管理するチームはより大きなチームとなっているので。

経験的な問題として、あなたが何を構築しているかによりますが、2人から10人の間のどこかが、反応が返ってくる最適のサイズですね。それがまさに、何が必要で何が足りていないのか、自分のユーザーはどのような特徴があるのか、修正や改良時どのようにふるまうのか、を観察するときだと思います。それがなんであれ、最小化することです。

Adora Cheung
2人から10人が助けになる人数とおっしゃいましたが、しかしピークに達したと分かる指標や根拠はありますか?人を増やしすぎると、余分な人物は全体の作業に対して負の価値となっていくのではないですか?

Patrick Collison
そうですね。一般的にスタートアップは、広範囲の可能性の中で、途方もなく難しい判断を含んでいるものです。だからもし単純なトレードオフの話に要約する事ができたら幸いですが、それは難しいと思います。

しかし、原則として、次のような計算があります。経営をしようとする中で、一人一人の雇用には時間がかかり、遅れを取ります。また、仕事に慣れるのにも時間がかかり、文化に溶け込んですべての知識を学ぶにもコストと時間が掛かるものです。それは、調整やその組織の末端まで浸透しているアラインメントなどの、継続的なコストも含みます。

だからそれは、永続的な税金のようなものなのです。しかもただ直線的なコストというわけではなく、あなたが抱える多方向へのコミュニケーションの問題を考えると、二次元になるでしょう。したがって、一人の人間を雇うと、これだけのコストがかかります。

そこで問題は、この人が業務を迅速にする手助けになるのか。より多くのコードを書いたり、より多くのユーザーと話したりできるのか。そしてその固定の利益は、その人物がこれらの他のすべてのコストに見合う価値があるのか。

この追加の人員について考慮すると、最終的に大切なのは、「僕たちがユーザーについて何を学んでいるのか」、によく反応ができるかどうかですね。そして、そうできるかどうかは、製品の複雑さや市場の複雑さ、あらゆる要因が関わります。そう言ったものを含めて考えるべきだと思います。

Adora Cheung
人を雇うといえば、あなたが将来のStripeのための従業員を探すのにカギとなる資質は、知的に正直で、非常に広い範囲まで気が回り、物事をやり遂げることを愛することだと言っているのを聞きました。これは素晴らしい性質です。なぜなら、この部類に当てはまらない人もいますから。だからその段階で選別することは良いことです。あなたは、誰かに会うとき、その人がそれにふさわしい人だと、どうやって判断しますか?

Patrick Collison
それはとても難しいですね。信頼できるルーブリック(評価基準)や、詳細な質問集なんかがあるといいんですが。ただもし私がその質問集を持っていたとすると、彼らは努力をやめてしまうかもしれませんがね。だって人は、どう攻略するかを学んでいくかもしれませんから。しかし、頭の良い人物を装うのは難しいですよね?だから、そういう人を見分けるのはそう難しくはありません。

そしておかしなことに、聡明で率直な風を装うことも難しいですね。そういった特徴は、討論や議論において、多様な側面を見ることができますから。はっきりとした答えを持っている方が疑わしいような複雑な質問はたくさんあります。

なぜなら質問は、本質的に、かなり不測のトレードオフを伴うからです。そして不可能ではないですが、ただ好ましい人を装うのもすこし難しいですよね。

同様に、Stripeで働く従業員に対して重視していることは、愛想がよく、温かい人々であることで、彼らの存在が周りの人を幸せにすることです。でも、もしあなたが完全に一生偽り続けることができるなら、いいと思いませんか?しかし実際、明確なルーブリックはありませんし、そんなものが、機能するかさえわかりません。

組織の運営方法

Adora Cheung
あなたは、可能ならば、組織を早く動かす助けになる人を採用したい、とおっしゃいます。そして組織というものは成長し始めると、そのスピードが落ちはじめます。私はそこに通常2つの問題があると思っています。なぜなら人が増えるほど、その組織はより複雑さ増していくからです。

1つの問題は、知識が不均一になることだと思います。なぜなら全員が同じ考えを持っている訳はないので。そして今まであなたは、メールに透明性を持たせることについて、たくさんお話をされてきました。興味があればそのことについての講義を、Googleで検索することができますよね。そしてそのことは明らかに、組織全体に透明性を持たせます。

しかし次の問題は、たとえ情報を均一にならしたとしても、解釈が人それぞれ異なることです。それはみんながどのように解釈するかが分からないことです。たとえあらゆるインプットが同じでも、アウトプットはみんな違うのです。そして特に、今のあなたの段階では、全員の役割を把握しておくのは不可能に近いでしょう。

だから、組織を作り上げ、構築していく中で、どのようにノイズを減らし、全員に共通の理解を持たせようとしていますか?

Patrick Collison
僕が後悔している一番のことは、メンバーが5人から50人の間の時は、合意志向がありすぎたと思っているんです。もちろん、完全に一致してたわけではありませんが。もしそうなら、何もできなかったでしょうし。しかし実際、僕たちは同じ方向に偏りすぎていました。そしてそれは能率的ではないんです。必ずしもそうである必要もないんです。

おおむね、ある程度の共通意識を維持することはできるかもしれません。しかし最終的に言えば、それを維持し続ける方法はないのです。そしてそれは比較的よくある誤りだと思います。

なぜなら、元々は(三銃士ならぬ)n銃士であり、方針を決定するのに正式な意思決定メカニズムやその決断についてのその後のコミュニケーションの必要性がないところから始まったのですから。

しかし、15人になると必要性が現れます。そしてその新しい必要性に十分に早く対応する企業は少ないです。僕らも含めてです。実際、状況や情報の環境の有用性においては、僕たちは比較的うまくやったと思います。

しかし実際、決定に係るコミュニケーションをとることへの意識は少し足りなかったと思います。決定自体は、戦術的な決定や次の6か月で僕たちが何を優先するのかというような大きな決定もありました。

もしかしたら、僕らの個人的な経験で推定しすぎているのかもしれないですが、ひとつ言えるなら、プロダクトマーケットフィット以前と以後のようですが、実際には組織の大きさに関するもので、ある程度の大きさに達すると…単純化するために10人に達したとしましょう。

それ以前かそれ以降かもしれませんがより意識的に、合意志向に反対する、決定に係るコミュニケーションに移るべきだと思います。階層性の考えなんて好きな人はいないです。それは軽蔑的に聞こえますから。でもある意味では序列なんです。

Adora Cheung
トップダウンですよね、それが物事を早く進める。きっと好きでない人もいるでしょうが。

Patrick Collison
そうですね。

Adora Cheung
しかし物事は早く進みます。

Patrick Collison
その通りです。そうするのは、繊細な綱渡りのようなんですよね。あなたがスピードと機敏さを本当に優先した組織を作りたいなら、それは多少序列的なものを含みます。なぜならそれが能率的で、釣り合いを壊すメカニズムであり、実現する可能性のある方法だからです。

しかし僕が言ったように、本当に従業員にはこんなふうに強いオーナーシップ思考を持たせたいものです。物事の変化を引き起こしたり、問題をつきとめたり、関係のない分野にさえ新しいアイデアを注ぎ込んだりできると。だからこれは繊細な綱渡りなのです。

逆にあなたが過度に序列的になることもあるでしょう。しかし、どう自主性と指示した動きを十分に促しつつ泥沼のブラウン運動の窮地に陥ることを避けるかがポイントですね。それは難しくって、常にいじったり突いたりする必要があります。

関係者たちの人格なんかにもよりますしね。本当に、機械的で単純であればいいと本当に思います。X、YとくればZと続くように。でもそんなX、Yのもの、Zのものが存在するとしても、まだ誰も見つけていなしでしょう。

Adora Cheung
すべてに方式があればいいんですがね。

Patrick Collison
本当にそう思います。

Adora Cheung
では、同じテーマで。 Stripeが成長していくにつれあなたの企業が多くの企業と正反対のことをするのに、心を打たれました。他の企業は大きくなるにつれて、スローダウンし、革新的でなくなっていきます。しかしあなたたちは、新たなプロダクトを次から次へと出し、ついていくだけで精一杯です。どれも私には成功しているように思えますが、Stripe AtlasやStripe Press、Stripe Terminalsなどです。

初期のころ、会社全体で9人か10人程度だった時、もし誰かがいいアイデアがあったなら、それはすぐあなたに届いて、実行することを決めたでしょう。昔と比べて、あなたから遠い人がいいアイデアがあることが分かるプロセスはどう変わり、どうやって実行に移すことを決断するんですか?

「イエス、アンド」の文化

Patrick Collison
僕たちが成長するにつれて速度を上げていると思ってくれていると聞けて、とてもうれしいです。ぼくらは常に自責の念を持っているんです。どれだけ自分たちが遅いだとか、何も動かくなくなる状態へ堕落することへのパラノイアというか。

僕たちがこうしてこの広い範囲で仕事ができ、こんなに早く市場に登場できたのには、僕たちがこうしてパラノイアを抱いていることが大きく影響していると思います。もちろん、ほとんどの企業は怠慢の結果、硬直化し、新たなアイデアや方向へ進めなくなり、通説に打ち勝つことなんかに反対するようになります。どうやってそれを避けるかというと、色々なことがありますが、

一つには、進捗率を気に掛け、物事が迅速に進んだりするのが好きなリーダーがいることより深く根付いているのは、Stripeでは「イエス・アンド」文化を築こうとしています。僕は個人的にアイデアやできそうなものの可能性が大好きなんです。ほとんどは…そのアイデアがどれだけ良いものであっても、ほとんどのアイデアは追求するべきではありません。たとえそれが別のかなり成功する会社なれたとしても、できることには限りがあります。

頭では大部分のものは追い求めないよう認識しておく必要がある一方で、可能性を受け入れる練習を楽しむことです。「さて、もし僕らがそれをするならどうなるかな」と。

悪いアイデアを発表する

そして例えば、僕らが毎年するある事が、僕らが思いついたクレイジーなアイデアの進行を、会社全体に文書で送るんです。みんなが見れるように。そうしたら、みんながそのアイデアに自分のアイデアに加えることができます。それはおそらく悪いアイデアでしょうが、もしそれが上手く機能すれば、素晴らしいアイデアになりうるのです。

そしてそれが悪いアイデアであることが、非常に大切なのです。なぜなら、もしそれがいいアイデアで、リスクも少なければ、僕らはそれを実行に移すでしょう。おそらく、ただそうするでしょう。そして大部分の組織のなかにある、みんなのセルフセンサーが信号を出します。なぜなら誰も自分が馬鹿だと思われたくないので、ヘンテコな悪いアイデアを持つことを思い出すことすら嫌になるでしょう。

そういうわけで、もしアイデアを発表するなら、断固として、悪いアイデアであるものにしようとしているんです。そして実際そのプロセスを始めてから後に多くの素敵なものが進行し、実現することができました。Stripe Atlasもそのうちのひとつです。また僕たちは、Stellarが2,3年前に仮想通貨の分野で軌道に乗る手助けをしてましたが、そのアイデアも、このプロセスから来たものです。

これこそが、僕らが持とうとする「イエス・アンド・カルチャー」による仕組みの一つです。実証的な問題として、これをうまくいできている大企業は多くないと思います。

しかし、もっとも成功したより大きい組織は、どういうわけか、イテレーションし、繰り返す増加のプロセスに成功しているように思います。AmazonやGoogleが一番有名な例です。

明らかなことですが、Googleが創業した当時、GmailやYouTube、AndroidやGoogle Mapsなんかはありませんでした。そしてAmazonはさらに顕著な例です。成功した副次的なビジネスをどんどん広げています。成長するにつれてだんだん閉じていってしまうことはとても自然なことですが、そうならないようにすることがとても大切です。

CEOの仕事

Adora Cheung
いいですね。それでは、もう2,3質問があります。そのあと、観客からの質問に答える時間を取りましょう。一つ目の質問です。実際にCEOになってみて、CEOがどうスタートアップを経営すべきかという点で完全にひっくり返った意見はありますか?

Patrick Collison
いい質問ですね。

Adora Cheung
別の言い方をします。あなたがしたことについてです。「絶対これはやるべきだ」と思って、そのあと間違いだと分かったことはありますか?

Patrick Collison
すでに同意志向については言及しましたが、僕たちは現在、非常に大きな分岐点にあります。実は僕たちは比較的最近まで、機能を中心に集めていたんです。

僕らの会社には非常に初期の段階からリモートワークを採用していましたが、全体的にはStripeはサンフランシスコに集中していました。しかし先週、海外に4つ目の拠点を作ることを発表しました。

僕たちが決めたのは、基本的には、主要なプロダクトとエンジニアリング、チーム、機能、そして残りのすべてをサンフランシスコだけでなくシアトルに、ダブリンに、シンガポールにも置きます。そしてこのサンフランシスコ以外の拠点も、事業所ではなく、サテライトオフィスでも、ローカライゼーションしたり、その地方の市場に適応するための場所でもなくなります。

僕たちは、これらのオフィスから、大成功する新しいプロダクトを作りたいのです。それは明らかにAppleやAmazon、Facebook、そしてGoogleなどの会社が、その巨大な大企業を本社一点に集中させがちであるシリコンバレー的なスタンダードではないです。私たちの考えには何層もあり、いくぶん、才能は地理的に様々な場所で使用できるようにさらに広がり続けており、またいくぶん、ベイエリアはいよいよ住むのに適さないほど高価な場所になってきています。

僕たちはStripeをアメリカと同じように、アジアの市場や、南アメリカ市場などでも同様に機能するグローバルインフラにしたいと思っています。そしてインターネットが主に北アメリカ、欧米のものであった時代、そんな日々は終わったのです。過去の情景的なベストプラクティスは、完全に捨ててしまわなければなりません。僕たちは明らかに海外拠点は機能すると思うし、そう思わないならやりません。

しかし、ある程度リスクはあります。僕たちには、目指すべき良い先例というものがありません。そしてシンガポールにはGrabやCarouselといった素晴らしい企業もありますが、まだアメリカの企業がそこで主要な生産技術拠点を設立した例は、ほとんどありません。僕たちはとても楽観的なんです。だってできると思っているんですから。そしてもしこれが機能すれば、僕たちが最初の1社なんです。

今後10年

Adora Cheung
いいですね。最後の質問です。今後100年間で、Stripeはどうなっていきますか?どういう姿をイメージしますか?

Patrick Collison
Stripeはまだたった7年目です。だからその質問は難しいですね。僕たちは今、インターネットのための経済的なインフラを築こうとしています。グローバル化のためのこのプラットフォームは、そこがナイジェリアだろうがニューヨークだろうが、起業するのに難しいも簡単もないはず、という点では、グローバル化のためのこのプラットフォームや科学技術の進歩であると思います。そして、ブラジルにいる人が西洋にいる誰かの会社からものを買うことも簡単であるべきです。

そして、それがまだ起こっていなかったことが、私にはとてもおかしなことに思え、その10年20年前にStripeがいれば、と感じます。僕は、先例のない草分け的な、思いもよらないアイデアを追い求めることや、インターネットインフラを構造の裂け目にある欠損を修正していくことは、あまり考えていません。だからとにかく、少なくとも5年は、今ある欠点を修正していきたいと思っています。

そのあとに何が起こるかは、まだ分かりません。

Adora Cheung
ある意味で、将来、あらゆる商取引はデジタルになるでしょう。そして Stripeを経由すれば、すべてうまくいくでしょう。現在アメリカでは、すべてのアメリカ人の80パーセントがStripeを通して商取引をしていると聞きましたが、これは本当ですか?

Patrick Collison
そうです。直近12か月で、成人アメリカ人の80パーセント以上がStripeのビジネスからものを買ったんです。少なくとも1つの商品をです。 そしてこれはアメリカに限ったことではなく、僕は先週シンガポールに行っていたんですが、そこでも70%という数字がでました。

しかし僕はそれを可能性やスタートするという観点から考えるんです。僕たちは新しい会社設立する率や、なんの会社が創業し、これらの会社がどう成功するのか、どの市場にあうのか、なんかをよく考えるんです。そして時々振り返ってみて、市場の範囲の統計を考察したりします。しかし、そのことはあまり僕らのモチベーションをあげてくれません。

こういうことができる企業が生き延びるはずですし、今は提供できていない場所にプロダクトを提供できるはずです。これは昔僕たちがプロダクトを知ってもらうときに考えていたことで、これが毎日の核となる原動力でした。そして、おそらくその結果は、こういった人々みんなが利益を得ることでわかるでしょう。

Adora Cheung
分かりました。Patrick、本日はどうもありがとうございました。本当に素晴らしい時間を過ごせました。

Patrick Collison
ありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
動画: Running Your Company by Patrick Collison (2018)
トランスクリプト: Patrick Collison - Running your Startup

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