Head of Sales を雇う (Peter Levine)

かつてソフトウェアエンジニア兼CEOだった私は、「エンジニア中心的」な見解を抱いていました。つまり、営業部門は組織内で重要な役割をもたない、というものです。製品が優れていて、マーケットフィットを適切に追求できれば、正式な営業部門は必要ない、と考えていました。「素晴らしい製品を作ろう。そうすれば、顧客はやってくる」という考え方です。

この見解は、ごく控えめに言っても、近視眼的でした。素晴らしい製品を作り出すだけでなく、強力な営業部門を組み入れることのできるテクノロジー企業こそが、消費者向けか企業向けかにかかわらず、成功を収めます。その例はMicrosoftからSalesforceに至るまで目にすることができ、そして、そう、AppleやFacebookも当てはまります。もしかしたらご存じないかもしれませんが、世界クラスの企業はどこも強力な営業部門を擁しています。それにもかかわらず、起業家や技術部門出身の創業者から、「なぜ営業なのか?」という質問をよく受けます。

そう、製品がすでに爆発的に採用されていたとしても…

「ボトムアップ」での製品採用のトレンドのために、「なぜ営業なのか?」という質問はいっそう緊急を要するものになります。ここでの「ボトムアップ」というのは、SaaSでよく見られるもので、無料提供を通じて、あるいは正式なトップダウンの営業アプローチをとることなく、ユーザー(購入者としての開発者を含みます)に特定の製品を使用させるという方式です。それではなぜエンジニアを多数雇用して、ターゲットにするエンドユーザーに、彼らの好む製品を口コミで採用させるという戦略への投資だけでは不十分なのでしょうか?

その答えは、構造化されておらず、ボトムアップ方式で、ユーザーが自動的に作り出す営業アプローチでは、製品の持つ価値が完全には明らかにされることがないからです。作れば、顧客はやってくるかもしれません。しかし、見つけて使用してもらいたいすべての機能を、顧客が見つけたり使用することは、おそらくないでしょう。ほとんどのユーザーは、自分自身のユースケースのレンズを通して製品を見るだけであり、企業内の全ユーザーのペルソナを通じて眺めるわけではありません(後者はCIOなど、上層部の誰かがもつ可能性の高い見方です)。例えば、CIOにとって重要なセキュリティや監査の機能は、個々のユーザーにとっては何の関係もないかもしれません。

正式な営業部門があれば、個人的な採用と使用では達成できないやり方で、製品の価値を組織に売り込むことができます。営業部門は基準設定、価格設定、パッケージングを含むあらゆる機能の重要性を説明します。そのことを通じて、製品がその組織のために実際に作り出す価値よりも、多くの部分を明らかにすることができるでしょう。その結果、企業への浸透度と製品の評価は高まり、顧客から得られる収益は増加します。

ここでは、「ボトムアップ」での採用が間違った戦略と述べているわけではありません。まったくその逆です。素晴らしい製品は、ボトムアップのアプローチによって、初期の売上を牽引してくれることがよく見られます。顧客数は増え、それに応じて顧客1人当たりの収益は増大します。しかし、製品が広く採用されるようになると、顧客1人当たりの収益は平坦化する傾向があります。これは個々のユーザーが特定の製品に一定の価値しか認めない事情を反映しています。

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これこそ正式な営業部門を重ね合わせて、トップダウンとボトムアップのアプローチを組み合わせることが、最良の結果を生み出す理由です。営業組織は費用がかかりすぎるように思えるかもしれませんが、収益の増加額が費用をはるかに上回る可能性があります(営業組織には投入費用の3倍の収益を期待することになります)。正式な営業組織を構築すると、収益や製品採用が加速されるだけでなく、顧客満足度が高まることになります。

ですが、営業は一見複雑で、評価されないことも多い職種です。雇用、予測、顧客管理、Go-to-Market戦略といった業務の詳細な内容は、深い専門知識とそれ以前の経験を必要とします。では、どのようにして営業部長 (Head of Sales) を雇えばよいでしょうか?

スタートアップのCEOが営業部長を雇うまでの流れ

技術部門出身のCEO(私もです!)がよく冒す失敗は、営業は自分でできると決めてかかることです。以下のような流れになります。

1日目:営業はそれほど複雑ではないのだから、自分でやろう。やり方は数か月でわかるだろう。結局のところ、自分は製品を作り出し、ベンチャーキャピタルから調達し、最初の大きな取引を成立させた。売り方はわかっている。

30日目:営業はうまくいっている。販売管理の本を読んで、量を求めるには top-of-the-funnel (購買プロセスの最初期のステージ) のパイプラインが重要と理解した。パイプラインを構築する何らかの方法を導入しよう。

90日目:パイプラインは構築した。だが、クオリファイドされたリードを作り出す正確な方法や、どの機会をいつクロージングするかの優先順位の付け方がよくわからない。あるスコアリングシステムを持っている友人がいるので、話をした。また、これらすべてを管理するのにsalesforce.comや Excel を利用すべきなのかどうかもよくわからない。

180日目:営業スタッフを雇うための別の本を読んだ。だが、面接した営業人員はみな素晴らしい能力をもっているようだ。全員が以前の企業で割当額を達成しているし、プレジデントクラブ (訳注: 外資系によくある営業向けの表彰制度) に到達している(我が社にもこの手のものが必要か?)。誰を雇ったらよいかよくわからない。それに、それぞれのバックグラウンドはこれほどにも異なっている。パイプラインは構築できたようだが、今四半期にクロージングが予想されるのは30件の取引のうち4件だけだ。パイプラインの分析でもっと良質の仕事をする必要がある。実際のところ、この週末に私はセールスリードとパイプラインの理解を増すことになる機械学習アルゴリズムを書き上げた。これを定期的に使ってもらうように、会社の営業組織に依頼しよう。

270日目:まったく時間がかかりすぎだ。営業担当者を3人雇ったが、うまくいっているのは1人だけだ。残り2人を解雇したら、まったくのゼロへと後戻りしかねない。それぞれの営業担当者と過ごす時間を増やして、製品について自分が知っていることのすべてを教える必要があると思う。そうすれば、営業担当者の効率ははるかに上がるだろう。来週、深く掘り下げる目的の営業オフサイトミーティングを開いて、営業プロセスと技術資料を精査しよう。

365日目/1年後:くそったれ。営業は思っていたよりずっと複雑だ。この窮地から救い出して、素晴らしい製品を生み出せる状況に戻してくれ。この1年、営業をしようとして時間を費やしてしまった。製品から目を離してしまい、いつの間にか3つのライバルに機能面で負けてしまっている。本来なら6か月前に我が社の製品に組み込まれていたはずの機能なのに。そのうえ、ユーザーの間で爆発的に採用されてトップに君臨していたのに、今では独自の大規模な営業部隊がいて適切に深く関わっている、上品ぶった大企業に取って代わられた。くそっ、くそっ、くそっ…

この(たいへんおなじみの)ストーリーの教訓ですか? 適切な営業部長を雇ってください!(「適切」という語で意味するのは、あなたが事実上の営業部長を務めて、その格下の代理に過ぎないという立場ではなく、あなたが信頼を置くことのできる、独自にこの部門を運営する人のことです)。適切な営業部長なら営業チームと営業プロセスの構築方法を直感的に理解しており、あなたは余計な物事に深入りしたり、貴重な時間を未知の領域に振り向ける必要はありません。

とはいっても、営業を目が届かない、あるいは、完全に無干渉の「ブラックボックス」として取り扱う必要はありません。CEOは営業チームと営業部長をしっかりと会社に組み入れることができます。CEOとして営業プロセスに関して施す必要のある実際的な方法をいくつか以下に示します。

  • 営業担当VPとの会議を毎週開いて、パイプラインや予測を検討する。営業担当VP本人にあなたを教育させて、彼らが行っていることについて学ぶ。そして質問する。
  • 営業担当VPを助けるために何ができるかを尋ねる。「取引のクロージングや顧客訪問や人員集めで、何か手伝えることがあるか?」
  • 一緒に時間を過ごす! 実際のところ、営業チームの士気を高めるうえで、営業チームや顧客と一緒に時間を過ごす以上に優れた方法はありません。
  • 合意した量的な(質的なものではなく!)指標を通じて明確な目標を設定することで、営業担当VPに説明責任を負わせる。あなたは各営業職員の割当額と生産性も知っている必要があります。
  • 初めて雇用する営業職員と面接して、営業部長との協力関係が保たれることや、組織の文化や価値観と合っていることを確認する。
  • エンジニアに営業職員と一緒に時間を過ごすことを奨励し、営業職員とエンジニアと一緒に時間を過ごすことを奨励する。製品や顧客に関する実際の問題を解決するうえで2つの組織の交流が深まるほど、お互いに異質と感じられる度合が減り、製品は優れたものになります

営業部長の管理は簡単なものではありませんが、何をするにしても、細かい点まで管理しないようにしてください。営業部長には困難な仕事を与えてください。ただし、高いレベルでレバーとのある手段と営業の経済面も理解させるようにしてください。あなたの仕事は、営業部門が会社の成功にとってのシームレスな一部になるようにすることです。最後に、CEOとしてのあなたの仕事には、必要に応じて取引のクロージングを手伝うことも含まれることを、忘れないようにしてください。最低でも月に数回はこれを行う必要があります。

* * *

最初の営業部長が最後の営業部長にならない可能性が高いことを、覚えておいてください。適切なタイミングで、適切なバックグラウンドをもつ適切な人物を雇うことは成功にとって決定的に重要です。そしてスタートアップにおいては、初期の営業部長は少数の人を管理する能力もあわせもつハンズオンの貢献者である可能性があります。このような「ルネサンス」的なVPは、初期のスタートアップのあいまいさに対処する方法も理解しています。しかし、会社が成長して営業組織が大きくなり、取引が増えたときに、例の初期の営業部長は業務を拡大することについて興味も能力もないかもしれません。

また、モデルがうまく機能するとわかっている場合にのみ、拡大するようにしてください。非常に心を動かされやすいのが、需要よりもはるかに先立って営業部門を拡大しようとする試みです。しかし、これは多くの場合、それほど多くの製品を販売することのできない、膨れ上がって費用のかかる営業部門を生み出します。結果はキャッシュの燃焼、営業職員の追放、不幸な顧客です。需要を確認したときにだけ営業部門を構築するようにしてください。早すぎる過大な部門構築するよりも、少々遅れるぐらいの方が好ましいでしょう。

最後に、営業部門は会社の文化を変えてしまう力をもっており、そして実際に、間違いなく変えてしまいます。また、多くのCEO(とスタートアップの従業員)が、営業部門を構築した結果として文化が悪い方向に変わってしまう事態について語っています。これは必ずしも真実ではありませんが、あなたは会社内のこれらの部門の調和を導く責任を引き受ける必要があります。そのように導くことなく、好きなようにさせておくと、エンジニア部門と営業部門は高い確率で相互に相手を吹き飛ばそうとします。CEOはこの組織の2本の重要な柱をうまく統合するプロセスに深く関与する必要があります。

企業文化が変わることはない、と言っているわけではありません。新たな部門はどれも会社の文化を変えます。問題は良い方向への変化であるか悪い方向への変化であるかです。CEOが営業部門を良い方向への重要な影響を会社に及ぼす存在として受け入れ、営業部門が明らかにすることのできる最大の可能性を理解するなら、最良の結果を実現することができるでしょう。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Peter Levine

Peter Levine は Andreessen Horowitz のジェネラルパートナーです。彼は以前 Citrix の Data Center & Cloud Division の上級副社長でありジェネラルマネージャーとして、売上、プロダクトマネジメント、ビジネスデベロップメント、戦略の方針について責任を負っていました。Peter は 2007 年に、XenSource が $500M で買収されたことにより Citrix に入社しました。XenSource で彼は CEO として、600 人の従業員を率い、Microsoft や Symantec、HP、NEC、Dell といった顧客と XenServer の製品ファミリに関する戦略的な契約を確立しました。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Hire a Head of Sales (2017)

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