スタートアップの取締役会の運営方法 (Y Combinator, Anu Hariharan)

特別協力:Nic Dardenne

私たちが創業者たちから最もよく受ける質問のひとつに、「取締役会はどのようにマネジメントすればよいでしょうか?」というものがあります。創業者・CEO にとっては、初めて外部からの監視に晒されるときですし、取締役会は CEO や幹部をクビにする権限も持っているのですから、不安な気持ちが掻き立てられるのも当然でしょう。ですのでこの記事では、YCコミュニティの集合知を共有し、取締役会を管理する上でのベストプラクティスを創業者に向けて案内します。取締役会の運営方法や取締役会にまつわる問題の克服の仕方も含みます。可能な限り、YCカンパニーやパートナー企業から得られた、取締役会関連の問題を企業がどのように対処してきたかの具体例を盛り込みました。

しかしそもそも、取締役会の目的とは何でしょうか?取締役会の主な役割は、会社の主要な決断を導き助けることです。例えば、幹部の採用や解雇、企業行為の承認(例:報酬、ストックオプション、予算)、ビジネスに長期的に影響する戦略的判断への助言の提供等です。法的事項として、デラウェア州のすべての会社は営業を開始したら必ず、取締役会を持たなくてはなりません。取締役会は最初は創業者のみで構成され、主に一定の形式に従う必要のある企業行為(例:オプション付与)を承認する役割の組織として機能します。取締役会を設置すると言うとき、通常は会社が資金を調達した後に外部役員を招くプロセスを意味します。外部役員は投資家役員や独立役員である場合があります。

取締役会の構成に関して

取締役会の設置が必要な場合、誰を配置すべきでしょうか?会社や業界によって答えは様々なので、この記事では取締役会の構成についてはあまり時間を割きませんが、手短な答えとしては、通常はシリーズA およびシリーズB を導いた投資家が取締役会に加わります(レイターステージのグロースステージ投資家は、取締役会の席を求めない傾向があります)。

小規模な会社の取締役会は3〜5席、公開会社では7〜9席となります。構成は、上場する数年前には独立役員を招くこと等により大きく変わる傾向があります。その後、会社が成長するにつれ、個別の特定分野の分科会も形成されます(例:監査、報酬)。

しかしアーリーステージの会社にとって、取締役会に相応しいメンバーを選ぶ上で最も重要な要素は、信頼です。そして信頼を構築する唯一の方法は、時間をかけることです。資金調達の少なくとも6〜9ヵ月前までにはリストの VC 会社のパートナーを知っておくことをお勧めします。Front の CEOであるMathilde Colin はここに彼女の経験を共有してくれました。

新たに取締役員を迎える前に、その人の強みと弱み、そして10年以上一緒に働きたいと思えるかどうかを考えてみるべきです。IPO への平均時間を考えれば、取締役会はそれくらい長く存在することになり得るのですから。さて、一緒に時間を過ごす以外に、その人たちが本当はどんな人なのかを知るにはどうすればいいでしょうか?一つ出来ることは、それらの投資家たちと一緒に働いたことのある創業者に照会(リファレンスチェック)してみることです。通常の人事採用と同じようにです。

興味深いことに、このリファレンスチェックにより、VC が一緒に働く創業者に対するフィードバックの透明性が低下しているのではないかと多くの創業者は感じています。VC は悪いフィードバックを受けて次の投資機会を失うことを恐れます。そのため、一部の創業者はもっと早い時期から独立役員を招き始めています。

Atrium の創業者である Justin Kan は、シリーズB で YCパートナーの Michael Seibel を招きました。Justin.tv での彼の元共同創業者です。同様に、Brex の創業者(Henrique と Pedro)は TFG の創業者兼 CEO、Victor Lazarte を迎えました。16歳の頃からの知り合いの、ブラジル出身の創業者です。Faire の創業者たち(Max、Marcelo、Daniele)は Square Cash を率いる Brian Grassadonia を迎えました。Square で彼らの元上司だった人物です。これらはすべて、CEO が深く信頼できる独立役員を求める気持ちが表れた例です。これらの関係の多くは家族関係に似ています。他の誰も言ってくれないようなフィードバックを内密に直接教えてくれる家族のような存在です。しかし、だからと言って、取締役会にあなたの友人を招くべきということではありません。あなたに必要なのはあなたが信頼し、100パーセント独立していて、会社の成長とともにあなたとあなたのチームを助ける力がある人です。

取締役会を管理する

以下に、有用で生産的なグループ議論にするための取締役会の管理方法に関するアドバイスを共有します。集まる頻度から必要な物までカバーしています。

ミーティングスケジュール

シリーズA の段階ではほとんどのミーティングは非公式な傾向があり(1 on 1のように)、2週間毎から2ヵ月毎までまちまちです。しかしシリーズBに到達したら、定期的なミーティングスケジュールを設定するべきです:四半期毎に、取締役会全員が参加できるよう、1年前からすべてのミーティングをスケジュールして行います。理想的には直接(対面)参加のみとするべきです!

アジェンダ(議題)と長さ

取締役会のアジェンダ設定は、CEO であるあなたが担います。取締役会の時間は概ね3時間程度です。

取締役会は進捗報告ミーティングではなく、戦略的なトピックや困難を抱えているトピックをオープンに議論できるミーティングとして捉えるよう注意してください。そのため最も優秀な CEO は、最初の45分だけをハイライト・ローライトおよび KPI(Key Performance Indicators、主要業績評価指標)の共有に使い、残りの時間を最大1、2点の戦略的トピックを深掘りするのに使う傾向があります。

こちらは私が参加した直近の Gusto(中小企業向けに給与計算、福利厚生、人事サービスを提供する会社)の取締役会でのアジェンダの例です。もちろん許可を得た上での共有です!

  • ハイライト・ローライト(10分)
  • 業績・KPI(50分)
  • 戦略的トピック1:Gusto 3年戦略プラン(45分)
  • 戦略的トピック2:組織図 - 現在・未来(45分)
  • クローズドセッション:30分(承認、デリケートなトピック、フィードバック等、すべての取締役会事項)

ここからわかるのは、同社はビジネスの現状についての時間は1/3に抑え、時間の大半を会社の未来を形作る戦略的なトピックに割いていることです。また私は、役員との間で主要 KPI を早めに特定・合意しておくことを勧めます。取締役会間での報告を標準化するのに役立つからです。また「なぜ」(なぜ特定の目標を達成したのか、しなかったのか)にフォーカスすることで、役員が重要度の高いものを素早く効率的に処理し、より戦略的事項に目を向けられるようになるための「訓練」にもなります。

しかし、Gusto が取締役会で戦略的観点に集中できる本当の理由は、取締役会の外にあります:(1)インプットを求める部分に関して多くの事前準備を行っている。理想的にはすでに経営幹部チームと話しているトピックであるため、資料は複数回議論に活用できます。そして(2)遅くとも1週間前に取締役会資料を事前送付し、取締役会の3日前に各役員から Google Doc で質問を集めている。Gusto チームは取締役会の朝までに Google Doc のすべての質問に答えるため、そこから続く取締役会での議論は最も戦略的なトピック2点に集中させることができます。

すべての議題を効率的にカバーするためには、厳密な時間管理が要求されます。役員間で正式なタイムキーパー係を交代で任命することも検討してみてください。

取締役会資料の要素

取締役会資料は議論のためのツールに過ぎず、それ自体が最終目的ではありません。取締役会資料に何を入れ込むかの原則について、Sequoia の Bryan Schrier による素晴らしい記事がこちらにあります。

明白であるにもかかわらず軽視されがちですが、取締役会資料の構成はミーティングアジェンダに沿ったものであるべきです。例えば、Gusto の取締役会資料は30〜50ページで、通常以下のセクションで構成されています:

  • ハイライト・ローライト:1ページ
  • 業績・KPI:15〜20ページ
  • 戦略的トピック1 - Gusto 3年戦略プラン:5〜10ページ
    ○ 検討した選択肢
    ○ 意思決定のフレームワーク
    ○ 予定する製品ロードマップ
    ○ 追求しない製品分野
    ○ 既知のリスク、未知のリスク
    ○ ビジネスへの経済的価値の初期アセスメント
    ○ 全体の考え・計画に関する議論
  • 戦略的トピック2 - 組織図:現在・未来(45分)
    ○ 現在の組織図
    ○ 採用規模
    ○ 将来の組織図(18ヵ月)
    ○ 人材評価
    ○ 人材計画:定着率、人材開発、採用機会
  • 非公開会議:30分(スライドなし)
  • 別表
    ○ 組織の健全性(スライド10枚):部署毎の採用基準、採用決定率、従業員パルス調査 - 結果

舞台裏の準備

会社は通常、取締役会の1ヵ月前から準備を始めます。Brex の場合、共同創業者、CFO、およびチーフ・オブ・スタッフが、少なくとも1ヵ月以上前にトピックのリストについて合意し、資料をまとめるプロセスを開始します。CFO がリードし、社内の役員と協業し、インプットと議論のトピックを合意すべくまとめていきます。

こちらは Brex の CFO が取締役会の28日前にチームに送った事前準備メールの例です。他の仕事もしているわけですから、合間の時間で資料の準備をするには時間が必要です。

  • 28日前:
    ○ 創業者・チーフオブスタッフ:取締役会での議論のための戦略的トピック2点を特定する
    ○ 議論トピックを幹部チームと共有し、合意をとる
  • 18日前:
    ○ 創業者・CFO・経理チーム:トピック概要を整理し、カバーする内容を執筆・収集する
    ○ 月末締めデータの入った資料のドラフト(下書き)を幹部チームと共有する
  • 11日前:
    ○ 幹部はコメント・編集し、経理チームにフィードバックする
    ○ 経理チームはフォーマットを含め資料を最終化する
    ○ 資料とバックアップデータが創業者と CFO に送付された場合は最終レビューを行う
  • 7日前:
    ○ 見直し、最後の編集
    ○ 取締役会に資料を配布する
  • 4日前:
    ○ 取締役会は質問を提出する(特に KPI に関して)
  • 2日前:
    ○ Brex は取締役会からのすべての質問をまとめ、回答する
  • 当日:
    ○ 期待値を事前に設定(どのセクションに最も時間を割きたいか、どこにもっとフィードバックが欲しいか)

取締役会に幹部チームを関与させる

シリーズB 以後、ほとんどの会社では CEO が会社を拡大・成長させるのを助ける経営幹部チームを持つことになります。その一部として顧問・外部相談役も招くことができます。顧問・外部相談役のうち少なくとも1人、すべての取締役会に参加してもらい、秘匿特権を要するようなデリケートな問題に関してメモをとってもらい議論することが重要です。

取締役会は会社の拡大とガバナンスの任務を負うため、幹部たちが取締役会をよく知ること(そしてその逆も)は重要です。これには2つのアプローチがあります:(1)幹部チームに取締役会全体に参加してもらう、または(2)取締役会に対してプレゼンするセクションがある幹部のみ、特定の議題の部分に45分程度参加してもらうことです。

すべての幹部を呼ぶという1つ目のアプローチの問題点は、取締役会が議論よりもプレゼンの場になりかねないことです。また、創業者と CEO がデリケートな問題について直接議論することが難しくなります。

そのため私は、特定の幹部が特定の議題部分のみに参加するという2つ目のアプローチを好みます(通常45分程度です)。このアプローチでは以下の3点が達成できます:目の前の戦略的課題についてのより充実した議論、幹部が取締役会のフィードバックを直接聞くこと、取締役会の終わりに CEO と役員たちが他のデリケートな事柄について直接話し合う時間をより多くとれることです。

覚えておいてください:取締役会は役員たちを説得するための場ではありません。もちろん、素晴らしい業績をひけらかしたり、何かを達成した際にはそれを祝ったりしたいものでしょう。でも取締役会はすでに会社側の人たちなのですし、彼らの時間の(そしてあなたの時間の!)最大限の有効活用は、さらなる業績の達成を助けてもらうことです。

月次アップデート

四半期毎の対面での取締役会に加え、毎月月初に取締役会に向けて2ページの月次アップデートメール(サンプル)を送付するのは良い慣習です。このメールには通常、前月の業績のまとめ、採用報告、喫緊の課題のセクション、具体的な相談のセクションが含まれます。

Brex では常に月次メールで2点の具体的なお願いをします:ビジネスパートナーや顧客の紹介、そして主要なポジションの採用に関する支援です。GitLab は月次投資家アップデートで、顧客となり得る会社の特定の個人を紹介してもらうことをお願いしたり、また過去に助けてくれた特定の投資家を賛賞することで、取締役会全員にも頑張るようプレッシャーをかけたりします。

月次レポート送付がリズムに乗ってくると、以下の3点が達成できます:(1)取締役会があなたの具体的なお願いに対して助けようと骨を折ってくれます。(2)取締役会は対面のミーティングによりよく準備して参加してくれます。(3)あなたが一歩下がったところから CEO としてビジネスの最も重要な要素を振り返り、会社がうまくいっているかどうかを客観的に測るのは素晴らしい方法です。通常、話すよりも書く方が思考の明晰さを示す上では効果的であり、アイデアを共有する際には文章で書かれた談話の方が箇条書きやスライドよりも説得力があるのは、あの Jeff Bezos がメモについて語っている通りです。

おまけ:取締役会への手紙

実は、CEO によっては、取締役会を一歩下がったところから役員たちへ手紙を出す機会として利用する人もいます。例えば Segment の CEO である Peter Reinhardt は、3〜5ページのメモで、ハイライト・ローライト、より時間を割きたいところ、今日時間を使っているところに的を絞って書きます。彼は取締役会資料のスライドよりも文章で書くフォーマットを好んでいます。四半期を振り返り、会社の未来について明瞭に表現できるからです。より重要なこととして、彼は自分の強みと弱み、CEO としてよりよい仕事をするために何ができるかにフォーカスします。

Faire では取締役会で戦略的重要事項を議論するのに、よくメモフォーマットを使います。このメモで議論の文脈を設定し、意思決定のフレームワークを明瞭化して、特定のアプローチを勧める理由を説明するのです。また決断を下す際には、すべての不確定要素や盲点を書き出します。これらのメモは役員たちの議論の準備を助けるだけでなく、CEO が意思決定プロセスの質を記録するのにも役立ちます。

取締役会を有効活用し、問題を克服する

問題のほとんどは究極的にはコミュニケーションに関係します。そのため、ここまで説明してきたベストプラクティスに従えば、前途の障害をスムーズに取り除くことができます。しかし取締役会の管理や有効活用に関しては、CEO が機会やメリットをフルに享受しきれていない部分が、摩擦や問題点から生じる障害物と同様にたくさん残されているものです。

矛盾したメッセージ

対立視点があるのは良いことです!取締役会の仕事は、戦略についてあなたに挑戦し、あなたの思考が研ぎ澄まされるようなあらゆる質問をすることです。CEO としてあなたは対立意見を歓迎すべきであり、取締役会全員が合意しなければとプレッシャーを感じる必要はありません。

しかし、もし対立によりそれ以上対話が進まない状況に達した場合、一旦場外にて1対1または小人数グループの場を設けることを提案し、対立意見を理解することに努めましょう。対立意見を理解したら、意思決定フレームワーク(下記の例を参照のこと)を使って議論を導きましょう。

最近 YC の CEO が、2人の役員の新製品の進め方に関する意見が真っ向から対立した際の話を共有してくれました。その CEO は議論の場を移し、どちらの道を選ぶのかを決めるために意思決定フレームワーク(経済的価値、リソース、キャッシュニーズ、競合の脅威等)を用いました。フレームワークを利用することにより、どちらの道が会社にとって正しいか、およびその理由が明らかにもなりました。答えが明白でない場合もありますが、あなたが取締役会の助言に背いて進むことを決める時にもフレームワークは役立ちます。役員たちは自身でそのような決断を下せるほどビジネスに近づくことは決してありません。取締役会はすべての CEO が真剣に検討すべきインプットを与えてくれる一方、CEO には会社を代表して最善の決断を下す権限があります。あなたに明瞭な意思決定フレームワークがある限り、取締役会はあなたが反対する時も理解してくれます。また、時を重ねる中、あなたの決断が間違いよりも正しい場合が多ければ、取締役会は反対し、進むべき道にコミットしてくれるようになるでしょう。

取締役会に助けを求める

幹部の採用の支援や資金調達のアドバイス等、役員たちがそれぞれ最も強みを発揮できる部分がわかってきたら、積極的にそれらの部分について取締役会の外で直接、話の続きをするようにしましょう。

すべての役員に対し、すべてのトピックについて1対1で説明することが大事だと考える CEO が多いようです。これについて、私は NO! を唱えます。すべてのトピックや問題について、すべての役員が知っている必要はありません。全員にとって、またあなたにとっても、時間の無駄です。また私は、毎回取締役会の前にすべての役員に1対1でアップデートすることは非常にまずい時間の使い方だと思っています。事前に話しておくべきデリケートなトピックでも特にない限り、全員で共有しなければとばかりに、役員たちとの1対1の電話会議などに時間の無駄遣いをしてはいけません。取締役会では役員があなたとチームに対して対立意見を出すよう促しましょう。それによりあなたの考えを具体化していくことができます。

「助け」と「コントロール」のバランスをとる

あなたの代わりに決断を下したがる役員には注意してください。役員の仕事はツールや意思決定フレームワークを提供して、あなたが様々な問題を考え抜くのを助けることです。あなたのビジネスをどう回すべきか、すべての答えを提供することではありません。

実のところ、優れた役員は意見を述べるのを控えることが多いものです。意見を述べるのではなく、CEO が考えを具体化するのを助けるための質問をするのです。私の Brex での役員仲間、Rabbit Capital の Micky Malka はこのようなことをします:CEO が、例えば「当社の貸倒損失率は通常どれくらいであるべきでしょうか?」と意見を求めてきても、Micky は Ribbit のポートフォリオのスタートアップ10社の例と貸倒損失率の履歴や、各アプローチのメリット・デメリットを挙げるのみで、ただ一つの絶対解を出すようなことは控えます。そうすることで、彼は創業者が決断を下すよう力づけます。

問題のある(威圧的・役に立たない)役員

先にも述べたように、裏ルートでのチェックは役員の質や有益さを試す素晴らしい方法なので、ぜひ時間をかけて実行してください。しかし、それでも役に立つ貢献をしない役員と行き詰まった場合、最善の方法はまず1対1で会ってそのフィードバックを建設的に共有することです(同僚や直属の上司とのフィードバックミーティングにも似た感じです)。

目の前の問題にフォーカスし、相手の人格の問題にしたり、とっちらかったりしないこと。そして過去の取締役会でその役員のフィードバックが有用でなかったときの具体例を共有すること。もし良い関係を築けている他の役員がいれば、その人の協力を得て、役に立っていない役員に対してどのように話を切り出すか相談に乗ってもらうのも良いでしょう。

いくつかのケースでは、役員が介入して他の役員へフィードバックする場合もあります。しかし CEO を避けて動こうとする役員には気をつけてください。ある YCカンパニーの1社は、最近これに直面しました。役員が CEO の知らないところで幹部と直接ミーティングをするようになり、完全な文脈が欠落した状態で勝手な結論を導き出していたのです。このことで CEO は非常に厳しい立場に置かれました。CEO はこれを逆手に取り、他の役員と1対1で話し、フィードバックを得て、問題を起こしている役員へ直接アプローチしました。状況の整理と解決には6ヵ月ほどかかりましたが、信頼関係は再構築されました。CEO は他の役員と一緒に取り組み、取締役会がいつどのように介入するかを決定するフレームワークを設定しました。困難な状況はすべて、既存のプロセスを改善するための機会として利用しましょう。

役員を除名する

これは大変難しいものです!この状況は役員が会社にとって破壊的な振る舞いをするとき発生します。会社に干渉したり、細かく管理しようとしたり、会社を回すオペレーターのように振舞ったり、時にはマスコミに情報をリークしたり、といったことです。あなたがすべての手を尽くし(役員本人と直接話す等)、その上でその役員が会社にとって有害だという確信がある場合、いくつかの選択肢があります。私が勧めるのは、(1)役員が働く会社の上層部の誰かに話して代わりの人を当ててもらうか、(2)相談役となりこれらの問題に対応できるような役員を増やすことです(独立役員か、新たな投資ラウンドを経て)。

もしオプション(1)を選べば、その役員との関係は後戻りできないものになり、役員の会社との関係も終わる可能性があります。もしあなたの会社の状況が芳しくない場合(数字が良くない、先行きが良くない等)、代わりの人を見つけるのは難しいでしょう。現在の役員と立ち往生することになるでしょう。しかし、もしあなたの会社がうまくいっているなら、あなたが考える以上の交渉力があります。もしあなたの会社がVCのポートフォリオの中でも最も優秀な会社のひとつだと思うなら、VCの会社はあなたが求める役員を見つけるために骨を折ってくれるでしょう。

オプション(2)を選んだ場合、役に立たない役員が生産的でなく会社に害を与えうる助言を行ったとき、他の役員に反撃してもらうことができます。究極的には、役員の助言が利益よりも害の方が多いとあなたが確信するなら、その助言を聞く必要はありません。

とは言え、創業者兼CEO としてあなたは事態の深刻さを理解するよう努めるべきです。役員たちは正しい目的を持っています。役員たちの報酬は、会社がうまくいくよう導くという仕事に見合って設定されています。もし取締役会が全員同じフィードバックを連呼しているのにあなたが聞かないのなら、問題はおそらくあなたの側にあります。CEO の中には、取締役会の力学についてフィードバックを得るために、取締役会に1、2回、エグゼクティブコーチを連れてくる人もいます。これはテーブルを囲む役員たちに対するあなたの見方を捉え直すのにも役立つでしょう。また2週間に一度、エグゼクティブコーチを介して取締役会全員からフィードバックを得る CEO も見たことがあります。

最後に

取締役会と考えただけで不安になる CEO も多いでしょう。しかし、取締役会は良いものです。あなたが決して独りではないということを思い起こさせてくれます。あなたの取締役会は、構成と管理がうまくいっていれば、あなたの会社の成功に注力してくれる存在です。あなたにより良い意思決定を行うよう挑戦してきますが、あなたが倫理的であり会社にとって正しいことをしている限り、あなたの味方です。そしてもちろん、効果的とされる取締役会は、会社が成熟するにつれ進化するものです。しかし、前述したベストプラクティスを用いて、事前に望ましいアドバイザーによるチームを意図的に構築することもできます。もし格言の通り「敵を知ることは、半分戦いに勝ったようなもの」とするならば、可能な限り、最高の助けとなる人たちを召集してみてはいかがでしょうか。

 

本稿の下書きを複数回にわたり読んでくれた Justin Kan、Sonal Chokshi、Ali Rowghani、Daniel Gackle、Adora Cheung、Craig Cannon、およびGusto、Brex, Convoy、Faire の創業者に特別な謝意を表します。このトピックに関して意見を提供してくれた YC の創業者たちにも感謝します。

 

著者紹介

Anu Hariharan

Anu Hariharan は YC Continuity Fund のパートナーです。Anu は以前 Andreessen Horowitz の投資担当パートナーで、Airbnb、Instacart、Medium、OfferUp、Udacity といったポートフォリオ企業のマネジメントチームと働いていました。それ以前は BCG のプライベートエクイティプラクティスのプリンシパルであり、クアルコムのシニアソフトウェアエンジニアでした。Anu はバージニア工科大学の電気工学の修士号と、ウォートンスクールの MBA を取得しています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Manage a Board (2019)

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元