スタートアップの初期、特にアイデアの時期は学びの最大化に焦点を当てるべきだと言われます。
その中でも「スケールしないこと」は、早くサービスをローンチできて最も学びが多く得られる手法です。
スケールしないことをしてニーズを確かめて、手作業で行っていることの一部を徐々にソフトウェアで自動化していく、というのがスタートアップによくあるステップです。
実際、YCでの最初のアドバイスは多くの場合、「スケールしないことをしよう」だそうです。私たち FoundX でも同様のアドバイスをしていて、実際にスケールしないことをしてきたチームは多くの学びを得て帰ってきます。
しかし意外と「スケールしないことをしよう」と言っても納得いただけないようです。初見だと意味も分からないかもしれません。そこで事例を紹介することで、少しでも腹落ちをしていただければと思い、今回は公開されている事例をいくつか集めてみました。
そして、あなたのスタートアップが「スケールしないこと」をしていれば、ぜひ「#スケールしないことをしよう」というハッシュタグ付きでツイートして、事例を多くの方に共有いただけると嬉しいです ☺
- 名刺管理の Sansan は、創業者自らが積極的に連絡し、オフィス訪問をして、スキャン作業の代行をしていました。
- フリマアプリの fril はユーザーの家にお邪魔して代行出品をしていました。
- 価格コムは秋葉原を歩いて店頭価格を調べたり、インターネットで価格を検索して、連日手作業で価格更新をしていました。お店が直接値段を登録できるシステムができたのは創業から約一年半後です。
『秋葉原の駅前に立って、私が一番安いお店に連れていってあげますよ、といえば、どれだけの人が喜ぶか。そこに価格.comの可能性を見つけた』 - Uberはニューヨークで3つの車でテストされ、5月にサンフランシスコで正式ローンチしました。サンフランシスコではCEOのTravisがコールドコールをして顧客を捕まえたり、Twitter 社に行ってリファラルコードをばらまいていました。
- Lyft も周りのスタートアップにドアノックして訪問して、無料のクーポンを渡していました。
- ご近所SNSのNextdoor は近隣住民に対して、一軒一軒訪問してサインアップするように依頼して回りました。そうすることで、住民が何を求めているのかを理解できたそうです。
- Salesforceは対象となる顧客にとにかく片っ端からコールドメールをしていました。
- Tinder は大学のサークル(フラタニティとソロリティ)でTinderを紹介しまわっていました。
- Snapchatはショッピングモールでチラシをばらまいたり、使い方を一人一人に教えてダウンロードまで自分で行っていました。
- ホームクリーニングのマッチングサービスの Homejoy は自分たちで清掃員として働き、起業してからもしばらく続けていました。また初期はマッチングをシステムではなく、手作業で行っていました。
- E la Carte の創業者たちはレストラン用のソフトウェアを作るために、レストランの仕組みを学ぶべく、ウェイターの仕事をしました
- Doordash は自分たちでデリバリーをして、夜中になっても自分たちでいました。注文の管理にはGoogleドキュメントを使い、ドライバーの現在位置確認にはAppleの「友達を探す」機能を使っていました。
- eBay はフリーマーケットやガレージセールに自ら足を運びました。
- Q&Aプラットフォーム のQuoraの創業者たちは、やってくる質問に自分たちで回答していました。
- Stripe は午前2時にもサポートしてファンを作りました。
- メールマーケティングツール の Drip は、顧客からコンテンツを受け取ると、それをメールに変換していました
- Pinterest はコーヒーショップで赤の他人に自分のアプリを使うよう頼んでいました
- Product Hunt は、メーリングリストから始まり、それを自ら記事にして Fast Company に掲載依頼をしました。
- Wufoo はユーザーに手書きの手紙を送って、顧客を喜ばせていました
- Aribnb はニューヨークでユーザーの代わりに部屋の写真を撮って回ったり、自分たちもユーザーと一緒に泊まったりしていました。
今では大きくなったスタートアップたちも、初期は本当にスケールしないこと、地道なこと、面倒で避けたくなるようなことを自分たちでしていました。そうして多くの学びを得ることで、愛されるプロダクトを作っていました。
FoundX でもいくつかのスケールしないことをして成功しつつある事例が出てきています。ただ本人たちの許可なく公開はできないので、今回は公開されているものだけで事例集を作ってみました。FoundX Review で「スケールしないこと」と検索すると、いくつか追加の事例も出てきます。参考にしてみてください。
そして、あなたのスタートアップが「スケールしないこと」をしていれば、ぜひ「#スケールしないことをしよう」というハッシュタグ付きでツイートして、事例を多くの方に共有いただけると嬉しいです ☺
著者情報
東京大学 FoundX ディレクター。University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトでの Visual Studio のプロダクトマネージャーを経て、テクニカルエバンジェリストとしてスタートアップ支援を行う。2016 年 6 月より現職。 スタートアップ向けのスライド、ブログなどの情報提供を行う。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』。