実践デザイン #03 「ピッチ」

デザインは必ずしも複雑でも、怖いものでも、お金がかかるものでもありません。アーリーステージのスタートアップにおいて、デザインはある一つの目的を果たします:スタートアップ創業者が自社のユーザーを理解することを助けることです。そのためデザインは、単に正式なプロダクトの仕上がりやロゴ、レイアウトの域に留まらず、より多くのことを内包するものと言えます。そこにはユーザー観察、明快なメッセージング、MVPのスペック、明瞭なピッチ、等々も含まれます。

私はデザインの謎を解き、創業者の実質的なユーザー理解の向上を助けるための無料のツール一式を作りました。今回のツールはシリーズで3つ目となります。最初の2つはユーザー観察メッセージングのツールでした。追って、デザインブリーフ作成とMVPスペックのツールが登場します。

これらのツールはすべて、行動を促進するよう設計されています。あなたが実際にやってみて学習できるよう、これらのツールにより、気の利いたデザインへの入門の参入障壁が下がることを期待しています。各ツールのインタラクティブ版は、リリース次第私のサイトから利用可能となります

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150秒ピッチツール

こちらは抜粋です。完全なインタラクティブ版はここから利用できます

先方が複数名のグループの場合、ショートピッチ(短いピッチ)を行った結果その場で投資が決まることはめったにありません。ゆえに、ピッチの目的は投資家の関心度を測り、その後のフォローアップミーティングを確保することにあります。この150秒ピッチツールは、創業者であるあなたのピッチの計画を助けます。

このガイド付きテンプレートでは、回避すべきよくある間違いを紹介します。例えば長ったらしい文章、見づらい画像、複雑なインフォグラフィック、無意味なチャート等です。このツールでスライドを作れば、あなたの言いたいことを読みやすいフォント、大きさ、適切なコントラストで見せることができます。そのため、あなたはピクセル調整よりもピッチの練習に集中できるようになります。

ピッチはエレベーターピッチと呼ばれることもあります。短時間で、サポート資料がなくてもわかりやすくあるべきものだからです。もしすべての創業者が上手く話せたなら、スライドは本来必要ないものです。ショートピッチにおいて、スライドはあなたが話す内容の背景程度の存在と考えましょう。

典型的なショートピッチは、あなたの会社の事業が何か、どのようにプロダクトを提供しているか、市場規模、顧客が誰か、あなたのチーム、これまでの成果、成長をまとめたものです。しかしうまくいくピッチは、予期される会社情報よりも、あなたの会社についての最もパワフルな3つのファクト(事実)を際立たせます。これらのファクトは「ピッチの背骨(pitch vertebrae)」とも呼ばれます。

これらを投資家に覚えてもらうことができれば、非常に強力な効果が得られます。これにより、あなたはミーティングや投資を手にすることができます。

I. あなたの会社について最もパワフルなファクトを5つリストアップしましょう。

II. それらのファクトを念頭に置きながら、ピッチを展開しましょう。

私たちのショートピッチのテンプレートには、投資家があなたの会社について説明を受けることを想定する9つのファクトに対応した9つのセクションがあります。各セクションにはそれぞれの目的、あなたのナレーション、および話す内容をサポートするスライド上の文章を埋めるためのフォームがあります。順番は最も一般的なショートピッチの流れを代表するものとなっていますが、このツールは単独でも成立するスライドが作れることを意図して設計されています。あなたのストーリーの流れに沿うように順番を変えたり、必要があればスライドを削除したりして使ってください。例えば、プレゼンテーションの冒頭ですばらしい売上の数字や損益計算書、独自のインサイト等から話し始め、その後に聞き手が期待する詳細情報を提示する創業者もいます。

1. あなたの会社の事業は?

あなたの会社の事業が何か、誰を顧客にしているのかを簡潔に述べます。できる限り具体的に説明しましょう。この部分が具体的であればあるほど、あなたが解決しようとしている課題について説明する時間が少なくて済みます。私たちのメッセージングツールを使えば、この部分の説明を練り上げるのに役立つでしょう。

2. どのようにプロダクトを提供しているのか?

あなたの会社が約束するソリューションをどのように提供しているのかを説明します。一般的なランディングページでプロダクトの仕組みの説明を掲載するのと同じように、そのプロセスを説明しましょう。

3. 顧客は誰か?

よく理解され検証されたニーズではなく、仮定のニーズに基づいてプロダクト開発を行われていることに対する投資家の恐怖感を軽減してあげましょう。ビジネスのインスピレーションがどう得られたかというあなたのストーリー、またはあなたと親しい誰かのストーリーを共有すると、あなたのプロダクトに有意味な文脈を与えることができます。

4. あなたの独自のインサイトは何か?

あなたがユーザーとのやりとりの中で発見した独自のインサイトや、あなたがそのテーマの専門家だからこそわかる独自のインサイトを共有しましょう。

5. 市場の規模は?

あなたのプロダクトの市場規模を述べましょう。市場規模の推算方法には2通りあります——トップダウンとボトムアップです。ボトムアップアプローチのほうがより信憑性が高いため、私たちはこちらを推奨します。まず、あなたのプロダクトに近いものを買っているのが誰なのかを調べます。もしあなたのプロダクトが今までにない新規性のあるものなら、課題に対する現在のソリューションが何か、誰がそれを買っているのかを調べましょう。それから、見込み顧客がプロダクトにいくら出せるか(単価等)を割り出しましょう。最後に、見込み顧客の数に単価を掛けて、対象となりうる市場の規模を試算します。

6. これまでの成果は?

あなたのチームがどれほど優秀で成果を生んでいるかを投資家にわかりやすく説明してあげましょう。会社を始めた当初のこと、これまでの時間の中で作ってきたもの、また顧客やLOI(意向表明書)があれば説明しましょう。

7. どれくらいの速さで成長しているか?

著しい成長を示す数字があれば、見せましょう。もし見せるならそれは実際の数字であり、すごいと思わせることができるものである必要があります。売上、損益計算書、目覚ましい顧客・ユーザー人数、その他健全な上昇傾向を伝える数字を提示するとよいでしょう。

8. あなたのチームのどこがすばらしいのか?

あなたのチームがあなたのミッションを遂行するのに最高のチームであることを、投資家に納得させましょう。関連性の最も深い経験に絞って見せましょう。たとえば、非常に規制の厳しい市場への参入を目論んでいたり、洗練された技術プロダクトを開発したりしている場合、投資家は具体的な専門性や実証された経験値を持った創業者を求めます。

9. あなたの会社に関するパワフルなファクトをまとめる

ここがグランドフィナーレとなります。投資家の頭の中に、あなたの会社に関する最もパワフルな3つのファクトを埋め込みましょう。これより前のセクションで述べたことでもいいですし、このスライドで初めて言うことでもいいです。

このツールのインタラクティブ版は私のサイトから利用可能です。

この150秒ピッチツールの設計にあたり、私たちはピッチに関するYCのアドバイスを忠実に守り設計しました。以下は他にも公に手に入るピッチに関するリソースです:

投資家にプレゼンする方法(How to Present to Investors)日本語訳)、YCパートナー YC founder Paul Graham
自分の会社をピッチする方法(How to Pitch Your Company)、YCパートナー Michael Seibel
デモデープレゼンテーションの手引き(A Guide to Demo Day Presentations)日本語訳)、YCパートナー Geoff Ralston
より良いピッチデックをデザインするために(How to Design a Better Pitch Deck)日本語訳)、YC パートナーKevin Hale
ピッチのアドバイス(Advice on Pitching)、YC パートナー Aaron Harris

 

著者紹介

Dominika Blackappl

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Practical Design: Pitching (2016)

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