新入社員のオンボーディングを実施する戦略的価値 (Sequoia Capital)

 

著しい急成長は否定的な側面を持つこともあります。例えば、結びつきの強い文化でも、人数の増加に伴ってほころびが出始める可能性があります。それにも関わらず多くの企業が、そのタペストリーがほころばないようにするための重要なツールを見落としています。新入社員のオンボーディングプロセスです。

よく考えられたオンボーディングプロセスは、全ての新入社員に対して、あなたの会社の創業目的、バリュー、顧客ストーリー、および行動規範を初日から確実に理解させてくれます。正しく実施すれば、オンボーディングはあなたの会社の文化的基調を生み出し、最高の人材に継続して働いてもらうための役に立つでしょう。

あなたが自分のチームに合ったオンボーディングプロセスを作るのに役立ててもらうため、私たちはIsabelle Bicaci氏とBrielle Rajkovich氏にインタビューしました。2人はSquare社で初めてオンボーディングプログラムを実施した人物です。このプログラムは、Squareのチームがわずか4年足らずで60人から1,300人に拡大した時期でも、強力な文化と高い従業員エンゲージメントを維持するのに役立ちました。BrielleとIsabelleはSquareを辞めた後、文化と人材を運営するためのコンサルティング会社IBBRを立ち上げました。また、IsabelleはEventbrite社のチームにも参加し、国際的な業務の拡大に注力しています。Eventbriteも急成長を経験しており、2015年にはミレニアル世代女性の両方にとって「最も働きがいのある会社」に選ばれています。

オンボーディングの責任者は誰が務めるべきでしょうか?

Brielle:まず、オフィスマネージャーがオンボーディングの責任者を務めるケースが一番多いです。ただ、会社が成長するにつれ、オンボーディングの書類仕事や管理面の仕事が膨らむ可能性があります。責任者は支援を得られない場合、戦略的なことを考える余裕が持てないかもしれません。

Isabelle:指摘しておくべき重要な点は、オンボーディングプロセスには2つの独立した構成要素があることです。1つは手続的なオンボーディング、もう1つはオリエンテーションです。全体として言えば、オンボーディングは入社前に開始され、入社後も1週間以上続きます。SquareやEventbriteでは、入社初日から最大90日間続くこともあります。手続き的なオンボーディングには、新入社員が合法的に会社で働けるようにしたり、人事上の書類を集めたり、ITの使用許可を設定したりするといったコンプライアンス上のプロセスが含まれます。オリエンテーションは初日に行われることも、最初の2週間にわたって行われることもある、気持ち良く取り組めるプロセスです。新入社員を会社の文化に合わせたり、他の従業員やオンボーディング担当者たちと関係を持たせたり、職場について詳しくさせたりします。

プログラムのオリエンテーション部分はオフィス責任者が担当できますが、より大局的にオンボーディングプロセスを監督するために、法的側面について理解している人も必要です。そうしないと、将来の監査の問題をリスクにさらすことになります。あなたの会社が10人のスタートアップでも500人でも関係ありません。オフィス責任者が人事の責任も負うことを期待するよりも、オフィス責任者も務めることのできる人事の専門家を見つけることをお勧めします。

経営陣に対してオンボーディングにリソースの割り当てを約束させる方法は?

Brielle:会社の文化は現在の大きな話題であり、オンボーディングは会社の文化の基礎を作ります。「文化」は漠然としたアイデアですが、考え込まれたオンボーディングはそれを具体化するのに役立てることができます。オンボーディングは新入社員にとって、会社について学び、会社のミッションに合わせるための重要な機会となります。

例えば、Squareは強力なコーヒー文化を持っています。Squareの初期のベータ顧客たちは、SOMAのコーヒーハウスでした。それが会社のDNAにあるのです。そして、誰かのところに行って質問したり話をしたりする時は、たいていコーヒー(コーヒーが好きでなければ紅茶やココア)を飲みながら行うという文化に表れています。その文化はオンボーディングの時から始まります。Squareでは、新入社員は最初の1週間の間にラウンドテーブル形式の会議でJackやチームと顔を合わせました。それは1杯のコーヒーを飲みながら互いに気楽なおしゃべりをする、素晴らしい機会です。

強力なオンボーディングプロセスは社員の継続率も向上させます。新しく会社に入った人々は最初の45日の間に、自分が長年働き続ける職場かどうか判断するという調査結果があります。そのような入社後間もない時期の体験が、採用プロセス中に約束されていたことと一致していることが重要です。問題は、一致していないことがしばしばあることです。同じ調査で、新入社員の4%が初日で失望して辞めることや、社員の離職の22%が入社から45日以内に起こっていることが分かっています。(オンボーディングの重要性を裏付ける証拠をより詳しく知りたい場合は、この調査の概要を参照してください。)

Isabelle:経営陣の多くは製品に関心を持っているため、顧客と新入社員研修の間の類似性を引き合いに出すのが有効です。初回のユーザー体験に投資することで、顧客の継続性を向上させ、顧客の製品離れを避けることができます。同じことが従業員にも適用できます。顧客について獲得コストがあるように、従業員についても獲得コストがあります。入社して間もない時期のまとまりのない体験のせいで社員が辞めてしまうような採用活動に、誰もお金やリソースをかけたくありません。

幹部の関与はなぜ重要で、どうやってそれを手に入れるのですか?

Brielle:まだあなたの会社が小さな最初の頃から経営陣の関与を確立することが、成長全体を方向づけます。Squareで私たちは、創業者兼CEOのJackの関与を最初から取り付けるという幸運に恵まれました。彼は今でも隔週ベースで新入社員一人ひとりと会っています。幹部たちも彼のリーダーシップを倣い、今ではオリエンテーションを素晴らしい機会と考えています。Squareのプログラムの成功にとって、彼らのサポートは不可欠でした。

Isabelle:幹部社員や経営陣が参加するオリエンテーション プログラムは重要な機会です。もし彼らが参加できないとしても、最低でも新入社員が出席できるようにする必要があります。マネージャーはたいてい、新入社員が直ちに貢献を始めることを望むものです。幹部の関与は、オンボーディングが価値のある初期投資であることを彼らに納得させるのに役立ちます。

Brielle:時には、マネージャーの協力を得ることよりも、幹部の協力を得ることの方が簡単なこともあります。マネージャーはオンボーディングとは何なのか、またはその重要性について理解していない時に、抵抗感を示すことが分かっています。Squareで私たちは、マネージャーにオンボーディングプログラムを一通り見てもらう時間を設けました。プログラムの目的、成果、そしてプロセスにおける彼らの役割の重要性を理解してもらうためです。そのような理解の瞬間を維持し続けられるように、私たちは毎週、調査報告や新入社員との会話などの最新情報を届けました。それがプログラムの影響力と、リーダーたちの関与の重要性に対する理解をもたらしました。

グループでのオンボーディングを推奨しますか?

Brielle:はい。間違いありません。より効率的なだけでなく、仲間意識も生まれます。私たちはよく、仲間同士でマイルストーンや記念日を一緒に祝いました。

Isabelle:私たちは時々、新入社員をグループで研修できるように、研修開始日を延期しました。同じような役割や、密接に協力して働く人たちをグループにすることが理想です。時には、延期させられることもありました。誰もが新しいチームメンバーをすぐに働かせ始めたいと考えるからです。説得するために、私たちはこう言いました。「大学入学初日に作った関係性を覚えていますか?それらの絆はかけがえのないものです。新しい会社に入る時も同じことです」

Brielle: 1人だけでオンボーディングを受けた人たちと、グループで受けた人たちを比較して調査したことがあります。その違いは印象的なものでした。グループでオンボーディングを受けた人たちは、Squareでより前向きに働くことができる傾向があったのです。また、彼らはより長い間会社を辞めませんでした。

オンボーディングのベストプラクティス

遅めの時間から始め、休憩は十分に取る

可能であれば、初日は午前9:30か10:00に開始し、出席者に気持ちを落ち着かせる時間を与えましょう。11:00に始める人たちもいますが、それではランチのタイミングと重なって落ち着かなくなってしまう可能性があります。休憩の予定を組んで、全てに余裕をもたせましょう。新入社員は多くの情報を吸収するので、それを処理する時間が必要です(さらに、トイレの時間や、人によっては喫煙の時間も必要です)。

楽しいものにする

「驚きと喜び」の瞬間で、堅苦しいプログラムや学習の雰囲気を解きほぐしましょう。Squareで私たちは、出席者の机に小さなギフトを用意しました。シャツ、ノート、本、ステッカー、ペンなどです。チームの1人として歓迎されていると感じさせるためです。あるいは、オフィスのチームに立ち寄ってもらい、クッキーを配ったり、挨拶してもらったりしました。前の3ヶ月間に入社した人たちとの懇親会を、4半期ごとに開催することを検討しましょう。

居心地良い雰囲気を作り、あらゆる性格に気を配る

Squareで私たちは、新入社員に全社員の前で自己紹介させました。ただし、入社第1週の最終日のみです。中には新入社員を初日から全員に紹介する会社もありますが、人によっては神経をすり減らしてしまう可能性があります。皆に紹介するタイミングや方法については、例え特定の現場だけでの紹介だったとしても、慎重に検討することをお勧めします。

張り出し用のスペースを活用する

もしオフィスのあちこちに張り出し用のスペースがあるなら、オンボーディングや文化の構築にぴったりの物件です。Eventbriteでは、オフィスの至るところに新入社員のプロフィールを貼り出します。そのため誰もが新入社員の顔を知っており、新入社員は歓迎されていると感じることができます。

名前の読み方を情報提供する

小さなことのように思えるかもしれませんが、オフィスの間仕切りやメールで新入社員を紹介する時に、名前の読み方を情報提供することが有用です。チームが気楽に自己紹介できるからです。

学習スタイルを多様化する

話を聞くのが好きな人もいれば、対話型の学習が好きな人も、あちこち動き回りたい人もいます。実演が好きな人も、動画が好きな人も、何でも文字で読みたい人もいます。新入社員研修では幅広いスタイルを活用して教えることで、出席者をより多くのプロセスに関与させ続けることができます。

使用するツールについて考える

数年前に私たちがオンボーディングプログラムを構築し始めた時、すぐに使える既製のツールは多くありませんでした。そのため私たちは独自の「やるべきことツール」を作り、メールを自動化したり、新入社員の好みを集めたりしました。今そんなことをするのはお勧めしません。まず、例えツールを作る開発時間が持てたとしても、そのツールを更新するための時間を優先させるのは難しくなるでしょう。また、今では優秀で安価なツールがたくさん存在し、それぞれを簡単に統合して使うことができます。例えば、CBInsightsの素晴らしいHRスタートアップマップをこちらで確認してみてください。

早めにメールを用意する

対応の早いITチームがいるなら、新入社員が入ってくる前の週にはメールの使用許可を準備させておきましょう。そうすることで新入社員のカレンダーにオンボーディングイベントを予め入力しておくことができ、チームも重要なミーティングに新入社員を招くことができます。

柔軟に対応する!

オンボーディングプログラムは、実施するその時々の会社の状況を反映させるべきです。そうすることで、会社と共に進化できるように備えましょう。Squareで私たちは、研修期間の長さについて特に柔軟に対応しようとしました。それはまるでアコーディオンを演奏するように、短くして、次は長くし、その次はまた短くして、チームの要望に合わせました。

あらゆることを記録する

できる限り多くのプロセスを記録しておくことが、特に遠隔地や海外でのオンボーディングに一貫性を持たせるのに役立ちます。45~60分の歓迎プレゼンテーションを作り、時間と共に更新することをお勧めします。Squareで私たちは、講師の行うオンボーディングセッションを録画しておき、講師の都合がつかない時のためにプレゼンテーションのライブラリーを作成しました。

また、オンボーディングプロセスを実行・管理するために必要なあらゆる情報が載った作戦帳も持っていました。この作戦帳のおかげで、もしオンボーディングの指導係が病欠したり、対応する余裕がなかったりしても、それがボトルネックになることはありませんでした。記録そのものと同じくらい重要なのが、開始するタイミングです。まだ試行錯誤して完成度を高めようとしている時ではなく、ある程度しっかりとプロセスが決まった時点で記録を開始するのがベストです。それには時間がかかりますが、時間をかける価値があります!

フィードバックを集め、試行錯誤する

座っているだけでオンボーディングプログラムは作れません。試行錯誤から学ぶ必要があります。プログラムを体験した人たちからフィードバックを集め、意見に応じて修正することが重要です。私たちは新入社員の1週目に調査を行った後、30日、60日、90日後にも再度調査を実施し、彼らが覚えていることを確認しました。もし十分な人数がプログラムの特定部分を覚えていなければ、そこをカットして、皆の時間を節約することを検討しましょう。

チームにオンボーディングのアイデアを調査する

当初は、オンボーディングプロセスを作るのは気が重く感じるかもしれません。しかし、あなたはそれを作るための豊富な情報をすでに持っています。チームメートに聞いてみましょう。「他の会社でどんなオンボーディングを体験しましたか?目玉は何でしたか?オンボーディングの何に満足し、何が不満でしたか?」

オンボーディングの担当は交代で務める

オンボーディングのリーダーを務めるのは素晴らしい役割です。しかし、非常に神経を使うこともあります。多くの準備作業や管理作業が必要で、まだ日が浅く緊張で舞い上がっている人たちの面倒を見る精神的エネルギーについては言うまでもありません。燃え尽きてしまうのを避けるため、準備作業や新入社員一人ひとりに対応する仕事を交代で行えるチームメンバーを、2人以上揃えておくのが良い方法です。もしオリエンテーションを行う人が1人しかいない場合は、1~2年後に別の役割へ異動してあげることをお勧めします。

 

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著者紹介 

Sequoia Capital (Medium)

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記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Strategic Value of Onboarding

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