スタートアップのセールスとピッチ (Startup School 2014 #19)

Tyler
それでは始めましょう。本日はお招きいただきありがとうございます。

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私はCleverのCEOでTyler Bosmenyといいます。本日私がお話ししたいのはセールスについてです。

大学で数学と統計学を学んだ私は、卒業後には金融の世界に進む運命にあると思っていました。そして、ヘッジファンドでキャリアを開始しようとしていた矢先、ある友人が私を自分が立ち上げたスタートアップに引っ張り込んだのです。そこで私は何の知見もないセールスを担当することになりました。

私は大急ぎでセールスについて学ばなければなりませんでした。私はそこに数年間在籍し、このアーリーステージのスタートアップのためにセールスを習得しました。

後に私は2人の共同創業者とCleverを立ち上げましたが、2人とも技術やプロダクト志向タイプの人間でした。私たちが作りたかったのは学校向けのプロダクトで、経験は全く関係ないと私は思っていました。

しかし、前職のスタートアップでセールスに携わって学んだことが、Cleverが今日の急成長を遂げるうえで大いに役に立ったのだと後になって分かったのです。

Cleverがどんな会社か簡単に説明しておきましょう。私たちは学校向けのソフトウェアを作っています。当社の開発者向けのアプリケーションプラットフォームは現在、全米の学校の5校に1校で使用されています。私たちは2年ほど前にこの会社を立ち上げました。

セールスは常に重要なのです。本日の講義では、これまで私にとって役に立った幾つかのことをお話ししたいと思います。勿論、方法は沢山あります。その中で皆さんに合うものを見つけてください。

セールスの神話

まず初めに、私自身がセールスをどのように捉えていたかをお話ししたいと思います。

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多くの人は、セールスパーソンとは神秘的な雰囲気を持つ人と考えています。それは話が上手で、非常に魅力的な人たちで、殺し文句を持っている、といったのが私が描いていたセールスパーソンです。

私が話をする多くの創業者も同じだと思います。なぜなら、彼らは「まずはプロダクト作りに注力して優れたプロダクトを創り出そう。そして、完成した暁にはセールススタッフを採用しよう」といったことを言うからです。

セールスの現実

私が学んだことは、創業者が「セールススタッフを採用する」と言うとき、実は創業者自身がセールスパーソンになるということなのです。

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Paul Grahamが好んでしている話に、会社立ち上げ時に創業者がいずれかの時点ですべきことが2つあります。創業者は、自社のユーザーと話をするか、プロダクトを作るかのいずれかをすべきです。この「ユーザーと話をする」のがセールスです。

これは一部の創業者にとって恐ろしいことであり、「私にはセールスの経験はないし、何から始めればいいのか見当もつかない」などと言います。

しかし実際には、創業者こそ、トップセールスパーソンになり得る独自の強みを持っているのです。

その1つがプロダクトや自分が創っているものに対する情熱、もう1つが業界や解決すべき問題に関する知識です。私の経験から言いますと、これら2つは実際のセールス経験に勝るものです。

これが私の共同創業者が実際にセールスをしている姿です。

アーリーステージのスタートアップのセールスとはこんな感じです。Don Draperではありませんよ。このように沢山の営業電話を掛けます。これはセールス経験がない創業者でも実に簡単にできることですが、献身的に取り組む必要があります。

Cleverでは一人の創業者(つまりそれは私ですが)を犠牲にし、「Tyler、これは私たちのビジネスにとって非常に重要だから、君がやり方を考えて専任でやってくれ」と言いました。

セールスはファネル

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セールスに関してまず皆が理解していることは、セールスがファネル(漏斗)だということです。

ファネルには異なるステージがあり、顧客をファネルに通して絞りこみます。最も一般的なカテゴリがプロスペクティング(見込み客の創出)カテゴリです。私たちは自分たちに少しでも興味を持ってくれる人々を抽出しようとします。

次にそうした人たちと多くの会話をします。これがファネルの第2ステージです。そして、本当に興味を持っている人を特定し、契約を締結し署名します。ここまで来れば収益という約束の地に辿り着けるわけです。

ここからはファネルの各ステージやCleverで採用してうまくいった幾つかの戦略についてお話しします。抽象的な話ではなく、皆さんがスタートアップを立ち上げる際に教訓として実際に活用できると良いと思います。

プロスペクティング

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プロスペクティングとは、営業電話に出てくれる相手を見つけ出すプロセスです。

これはEverett Rogersという学者が考案したテクノロジー導入ライフサイクル曲線です。これはベル型曲線で表され、新しいものに飛びつくイノベーター、アーリーアダプター、ミッドステージアダプター、レイトアダプター、ラガードという段階に分かれています。

スタートアップ初期に私がセールスを理解する際に大いに役立ったことの1つは、彼がこのベル型曲線のテールを定量化していたことです。このイノベーターの部分が自社の潜在的顧客となります。

がっかりするかもしれませんが、自社の潜在的顧客となる、あるいはユーザーや収益がないスタートアップからの購入を検討してくれるグループは会社全体のわずか2.5%です。

しかし、私はまったく逆の考えをしました。会社全体のわずか2.5%が営業電話に出てくれる、あるいは自社プロダクトの使用を検討してくれる場合、どのくらいの数を相手にしているかが分かれば、この考え方は極めて有用であると私は考えました。

その2.5%にコンタクトし、初期段階のセールスを実現させたいなら、沢山の営業電話を掛け、沢山の人に話をしなければならないということがご理解いただけるでしょう。

これが初期のCleverでの私の仕事でした。自分たちが作っているプロダクトについて話を聞いてもらおうと、私はYCでの最初の2カ月で400社以上に営業電話を掛けました。

見込み顧客の有効な見つけ方 (1) 個人的なネットワーク

プロスペクティングで見込み客を抽出するのにもっとも有効と思われる方法は3つあります。

1つは自身の個人的ネットワークです。これは誰が考えても明らかですので、ここでの説明は割愛します。次にカンファレンスですが、これは多くの人にとって意外かもしれません。そして、もっとも馴染みがあるのが3つ目のコールドメールです。

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カンファレンスと言うとCESやE3のことだと考えるでしょう。

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しかし、セールスが行われるカンファレンスとはむしろこういった感じです。

スタートアップ初期にはこのような場所を沢山訪ねます。なぜなら、ユーザーが集まる場所に行く必要があるからです。CIOにセールスをしている時にミルウォーキーのホテルで彼らの集会があるとしたら、どうしますか。勿論皆さんもそこに行くべきです。

私たちもこうしたカンファレンスに沢山足を運んできました。事前に参加者リストを入手します。参加者全員に事前にメールを送り、アポイントメントをとろうと試みます。

そのようにして、その出張の1分1秒まで有効に活用するのです。Cleverの初期は大部分をこうしたことに費やしました。このような場所こそが最初期の顧客のほとんどと出会った場なのです。

見込み顧客の有効な見つけ方 (2) コールドメール

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もう1つ挙げたのがコールドメールです。多くの人がコールドメールの書き方を知りません。

しかし実際には簡単で、ポイントは長々と書かないことです。メールは簡潔でなければなりません。これは私が当初使っていたメールのテンプレートです。

これをコピーして使っていただいて構いませんが、本当に短いメールです。

まず自己紹介し、次に自分たちが何を作っているかを説明します。私たちのプロダクトについてぜひお話ししたいです。明日お時間をいただけないでしょうか。

これは実に簡単で、自分が売り込みたい業種に合わせてカスタマイズできます。メールを送るのに最適な人物を探し出して、このようなメールを沢山送るのです。

これがプロスペクティングです。これが非常に重要な理由は、ファネルの最初の層を作る必要があるからです。

営業電話

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次に、営業電話を掛けて相手に電話に出てもらう必要があります。これは多くの創業者から実際に何をすべきかと質問を受けるもう1つのポイントです。

電話は黙って聞く

ここでの最大のポイントは、電話で話す時は黙っているということです。本日の講義から1つだけ重要なことを選ぶとしたら、ぜひこれだけは覚えて帰ってください。

これは実に意外なことです。私は創業者向けに最初のセールスピッチをサポートすることがありますが、多くの創業者はようやく誰かと電話で話すことができて、自社プロダクトについて話す際に、自分が過去3カ月取り組んできたプロダクトを誇りに思うあまり、電話の相手に自社プロダクトのあらゆる機能やなぜこのプロダクトが優れているかを延々と話してしまいがちです。私も実際にそうしたくなります。これは何かに強い誇りを持っているが故のことです。

しかし、上位1%のもっとも優秀なセールスパーソンを見ていると、あるいはそのような人が電話で話しているのを聞く機会があれば、もっとも驚くべきことは彼らがほとんど話をしていないことです。

実際に私もそのような電話をしているところを見たことがあり、セールスパーソンから、電話では自分が30%だけ話をし、相手に70%話をさせるのが目標だと聞いたことがあります。

質問をする

彼らは実に多くの質問をします。例えば、「今日私からの電話に応じてくれた理由は何ですか」、「御社のために私たちが解決しようとしているこの問題を御社では今どのように解決していますか」、「御社にとって理想的なソリューションはどのようなものですか」といった具合です。

彼らはただ話をしているのではなく、相手のニーズを理解するとともに、願わくは相手が抱える問題をその相手以上に理解するために自分ができるあらゆることをしているのです。

これが優れたセールスであり、私がCleverの全員に伝えていることです。これはセールスの非常に重要なポイントです。

使ったことがある方は分かると思いますが、UberConferenceには、電話を切ったとき、その通話での自分と相手の話した割合を示すメールが自動的に送られてくるといった驚くべき機能が搭載されています。

そのメールを見れば、私はセールス側がしていた話の割合から商談成立の可能性を即座に見分けることができます。相手の話に沢山耳を傾けてください。彼らが抱える問題をよく理解してください。

フォローアップ

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多くの人を驚かせるこのステージのもう1つのポイントは、フォローアップの必要性です。

ここでは通過すべき多くの異なるステップがあります。誰かにメールを送る、反応がなければ再びメールを送る。電話を掛けて伝言を残す。価格設定に関する電話をする。このスライドには商談成立までのステップとなり得るおよそ60のことが書けるでしょう。

これらは適当に並べたものではありません。これは実際にCleverが契約締結した2件目の取引です。これらは商談成立のために私たちが行ったあらゆるステップです。ここには多くの面倒なことが含まれているのが分かるでしょう。

私がある人にメールを送りましたが、反応がありませんでした。メールを再送してもまだ反応はありませんでした。そこで3度目のメールを送りました。

これが私たちのプロダクトを買いたいと言ってきた人です。信じられないでしょう。これには多くの人が驚かされます。誰かに電話をし、うまくいったと思ってメールを送ったが全く反応がない。そうした創業者を私は非常に多く目にしています。

彼らは「ああ、あの人は興味がなかったのかもしれない」と言います。実際にはどうでしょうか。これが実は最善のケースの状況です。創業者はフォローアップをし、商談成立に進めるためにこうした超人的かつ不合理な意欲を持つ必要があります。

イエスかノーかを早く引き出す

1つ皆さんに言っておきたいのは、会社を立ち上げる際に、自身が持つ唯一のリソースである自分の時間は極めて貴重であるということです。

自社プロダクトを買ってくれる可能性がある全員に対してこのようなことはできません。創業者はなるべく早く相手からイエスかノーかの返事を引き出す必要があります。

創業者にとって最悪なのは千人の「たぶん」と言っている人がいる場合で、私が話をする創業者の中には「私には自社プロダクトに興味を示している100人という太いパイプがあります」と言う人がいます。

創業者は「たぶん」と言っている人につぶされてしまいます。相手からはっきりイエスかノーかの返事を引き出すことができるなら、ある意味ノーは「たぶん」より遥かにいいものです。

なぜなら、ノーと明言してもらうことで事を先に進めて、イエスと言うかもしれない誰かに注力できるからです。

超人的レベルのフォローアップと意欲を持ってください。ただし、そうした意欲は適切な箇所にフォーカスさせましょう。

クロージング

さて、皆さんは多くの人と話をしました。あらゆる営業電話を掛けました。見込み客に対するフォローアップをし、皆さんが姿を消すことはないと彼らに理解してもらい、あとは契約を締結するだけというところまで来ました。

この最終段階はこれまで経験がなければ困難に見えるかもしれませんが、実際には非常にシンプルです。

赤ペン修正

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これはレッドライニング(赤ペン修正)と呼ばれるプロセスです。

先方に契約書を送付して弁護士が内容を確認します。こちらの弁護士も内容を確認し、先方と何回かやり取りをします。YCのメンバーであれば、YCが用意している標準的な契約書のテンプレートを利用できますので、この作業は実に簡単にできます。しかし、YCのメンバーでない場合は、自分で契約書を作成する必要があります。

私が非常に興奮していることの1つは、YCが今回のプレゼンテーションの一環として、彼らが用意している契約書面の公開に同意してくれたことです。YCの創業者が使用している書面を皆さんも利用できるということです。

ですから、これは自身が立ち上げたスタートアップのためのセールスをしたい者にとって大きな手助けとなるはずです。皆さんは素晴らしい書面を手に入れたのです。

非常に多くの有能な創業者が間違いを犯すもう1つの点は、自分の目標を忘れてしまうことです。皆さんの目標は契約を締結し、リファレンスカスタマーを獲得し、実証し、収益を産み出すことにあります。それができなければ、そのスタートアップはもうおしまいです。

ですから、多くの有能な創業者がプライドのために、極めて些細な点に関して文書を10回もレビューしたがるのは実に驚きです。どうでもいいことです。契約は自分が望む内容にすべきですが、署名して物事を先に進めることが大切です。

私が知っている創業者の中には、賠償条項の粗探しに数カ月費やした人もいます。まず署名して次のステップに進んでいたら、彼らのビジネスはもっと成功していたでしょう。これは皆さんも陥るおそれがある罠です。

「もう一つ機能があれば」はお断りのサイン

創業者がよく苦労する姿を目にするもう1つの罠は、「御社のプロダクトを使ってみるが、もう1つ機能を追加してもらいたい」や「御社のプロダクトを是非使ってみたいが、この機能が搭載されていない。だからまだ契約は締結できない」などと言ってくる会社を相手にすることです。

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大半の人にとって、特に意欲あふれる人にとって、誰かからこのようなことを言われたら、「その機能なら追加できる。これで先方も自社プロダクトを使ってくれる」と考えたくなります。

問題は、そう上手くはいかないということです。誰かが「御社のプロダクトを使いたいが、このもう1つの機能が搭載されていない」と言ってきたら、ほとんどの場合見込みがないと私は考えます。

実際にその機能を追加して再び話をしても、9割の確率でまた別の機能のリクエストやそのプロダクトを使わない別の理由を聞かされることでしょう。

誰かが「この1点が解決されないと御社のプロダクトを使えない」と言ってきたら、私の対応は2つに1つです。

1つは、「それは素晴らしい。では、この機能を開発するという条項を盛り込んだ契約を締結しましょう」と言います。その場合、新機能を開発するのであれば、素早く行動することです。

より一般的な対応で、Cleverでもよく言っていたのが、「素晴らしいですね。他のお客さまから同様の要望があるかどうか様子を見ましょう」ということです。

多くの顧客から要望があれば、その機能を追加すべきです。1社のみの要望に対応するかどうか悩む必要はありませんし、それは本当に避けるべき展開です。

無料試用版を避ける

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皆さんには何としても回避してほしいもう1つの罠は、無料試用版です。

顧客が「無料試用版をもらえますか」と言ってきたとしても、非難することはできません。まったく正当なリクエストです。

問題は、スタートアップを立ち上げる時は収益が必要だということです。さらに、実証、ユーザー、コミットメントが必要だということです。無料試用版からはそのいずれも得られません。

あらゆることを行ったにも関わらず最終的に無料試用版を提供することとなってしまった場合、残念ながら自分が思っているほど事態は進展しておらず、実際には非常に厳しい状況です。

自分では進展があったと思っていても、無料試用版の使用期間が終わればまたそのセールスをしなければなりません。私の経験上非常に上手くいっている方法は、「無料試用版をもらえますか」と聞かれた時は、「当社では無料試用版はありません。当社は年間契約をして、最初の30日もしくは60日間で何らかの理由でプロダクトにご満足いただけなかった場合は解約可能です」と伝えるのです。

この方法であれば、自分が獲得したいものを手に入れつつ、見込み客を「このスタートアップに賭けてみてもよいかもしれない」という気持ちにさせることができます。実際、こうしたことを考えている時はそのような些細な変更が明白な違いを生むのです。

スケールする

プロスペクティングを行い、多くの会話をし、商談を終えました。レッドライニングを行い、無料試用版の問題に対処し、初のセールス成立へ順調に進んでいます。

初期においては皆さんはセールスをスタートアップにおける他のことと同じであると考えてよいかもしれません。創業者はスケールする必要はありません。むしろ初期顧客を獲得するために意図的にスケールしないことをすることができます。これは楽しいことです。

心に留めておくべきもう1つの重要なポイントは、スケールしないことを十分に行ったら、これらのどの面が反復可能か、どの面をさらにスケールするのかと考え始める必要があるということです。

ビジネスモデルを考える

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Christoph Janzはインターネット上のブログで、1億ドルのビジネスを作るための5つの方法という非常に素晴らしい投稿をしています。

その中で彼は、千人の顧客に10万ドルのプロダクトを買わせる方法、1万人の顧客に1万ドルのプロダクトを買わせる方法、10万人の顧客に1千ドルのプロダクトを買わせる方法を説明しています。

創業者は創業初日から自分がどのカテゴリに属するかを理解している必要はありませんが、大半の会社はこれらのカテゴリの1つに当てはまります。10万ドルのプロダクトを扱う象のカテゴリに入りたい場合は、ハイタッチセールス、つまりSalesforceやWorkdayによるセールスを行う必要があります。

ウサギのカテゴリで年間1千ドルのプロダクトをセールスするなら、セールスプロセスとしては、顧客の所に駆けつけて8つのデモ版を作り、3カ月掛けてレッドライニングを行い、再び何か別のものを考案する必要があるでしょう。

ウサギになりたいがどのようにスケールするかを考えていないスタートアップを私は沢山目にします。これでは水没してしまうか、あるいは値上げを強いられるだけです。

これが異なるビジネスに関する私の考え方です。起業してセールスを行う時に「自分は今このどこにいるのか」、そしてその帰結として「バイアブルな(実用可能な)ビジネスとするためには自社プロダクトの価格をどうすべきか」と考えることは有用でしょう。

これらは私が様々な会社で、特にゼロから100万ドルまでの非常に狭い範囲でセールスをしながら学んだことの一部です。100万ドルに達した後、500万ドルから5千万ドルへ、あるいは1千万ドルから1億ドルへ成長する方法に関するブログ投稿は100万件もありますが、ゼロからの成長について書かれたものはありません。

私は今回のプレゼンテーションでそこにフォーカスしたかったのは、それに関して書かれているものは少なく、私が思うに創業者にとって非常に分かりにくいものであるからです。

私はこれを自分でやってみることで学びましたし、皆さんも起業すれば理解してもらえると確信しています。何らかの理由でスタートアップに参画したい場合は、これらを理解し、スキルと技術を磨いてください。Cleverではスタッフを募集しています。これは1つの選択肢です。

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自分の会社を立ち上げたくてセールスに関する質問がある場合は、ここに書いてある私のメールアドレスまで気軽にご連絡ください。皆さんのお役に立てれば幸いです。

ありがとうございました。

ピッチ

Sam
ありがとうございました。素晴らしい講義でした。では次に、資金調達の方法についてお話ししたいと思います。まずはMichael Seibelからピッチ(売込み)のやり方を説明していただきます。次にQasar Younisが投資家とのロールプレイングを行います。

Qasar
これは衝撃的な新しいことではありません。実に基本的なブロッキングアタックなのです。始める前に言っておきたい1つのポイントは、実際、YCではこれについて多くの時間を費やしていないということです。

その主な理由は、自分のピッチをより良いものにする最善の方法は自社に磨きをかけることだからです。

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創業者にトラクション(会社を成長させる推進力)があってプロダクトが実に優れている場合、投資家がスタートアップの成功を望むような会話が展開されます。

本日の講義で覚えておいてほしいのは皆さんの会社に磨きをかけること、そうすればピッチはおのずと容易になるでしょう。

残りの時間は3つのセクションに分けてお話しします。

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Michaelからはミーティング前に考えておくべきこと、私たちからは実際のミーティングを再現したロールプレイングとミーティング後に行うべきことを説明します。そして最後の5分間で質疑応答を行いたいと思います。今回カバーしていないことがあれば、皆さんの疑問点を書き留めておいていただければ後ほど確認します。

ピッチの構成

Michael
私は現在YCのパートナーを務めているMichael Seibelといいます。私は2つの会社を立ち上げました。1つがJustin.tvで、この会社は後にAmazonに買収されました。もう1つがSocialcamで、この会社は後にAutodeskに買収されました。

本日の講義では、ピッチ考案のプロセスを分解しながら分かりやすく説明します。私を訪ねてくる会社に関して言えば、自分たちがしていることを簡単に説明する方法や自社への投資をお願いする方法を理解していない創業者が大勢います。しかし、基本的にそれらは創業者として学ぶべきことなのです。

ここでは4つのことについて説明します。

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1つ目が30秒のピッチです。これは創業者がいつでもできるようにしておくべきもので、その30秒で自分の会社について話をします。これは魔法です。相手が自分の会社へ投資したがっていようといまいと、これは皆さんの決め文句となります。

2つ目は2分のピッチです。これは私たちにより興味を示してくれている人、つまり資金調達する可能性がある人や、採用する可能性がある人に対するものです。もう少し深い関係になる必要がある人と言えます。ちなみに、私が皆さんにお教えするのはこの2分のピッチまでです。

多くの人が10分、30分のピッチ、あるいは1時間のピッチを練習しますが、それらはすべて無意味です。自分が言うべきことはすべて2分でまとめることができます。私がよく創業者に話すことの1つは、自分が長く話せば話すほど、相手が聞きたくない話をしてしまう機会が増えるということです。話は短い方がよいでしょう。

次に資金調達をすべき時期について説明します。なぜなら、多くの会社がこれを少々誤解しているからです。そして最後に、投資家とのミーティングの設定方法を簡単に説明します。

30秒ピッチの場合

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30秒のピッチは非常にシンプルです。3つのセンテンスで構成されます。ゆっくりと息をつきながら話します。多くの情報を盛り込む必要はありません。

(1) 自分たちが何をしているか

最初のセンテンスでは、自分の会社が何をしているかを説明します。私が初めて会う人は全員ここで失敗します。

これをシンプルかつ率直に、相手にさらなる疑問を抱かせないようにできるようになる必要があります。相手は何も知らないと思ってください。一切何も知らないという前提です。そのため、とことんシンプルにしなければなりません。

私たちは創業者に、母親テストをしてみるように言います。自分がしていることを1つのセンテンスでお母さんに説明できない場合は、センテンスを練り直しましょう。

お母さんやお父さんが理解できるような1つのセンテンスで説明するのです。そこから始めてください。基本的な言葉を使って構いません。「私たちAirbnbは自宅の空いている部屋を賃貸に出すビジネスをしています」という感じで構いません。実にシンプルです。

「私たちAirbnbは空間を扱う市場です」と言う必要はありません。これでは何のことか分かりません。理解するにはさらなる時間が必要でしょう。シンプルな言葉を使うことが非常に重要です。

(2) どれぐらい市場規模が大きいか

第2のセンテンスは、数十億ドルの市場であれば実に簡単です。例えばAirbnbなら、「ホテル市場の規模」、「貸し別荘市場の規模」、「オンラインホテル予約市場の規模」といったことを言います。これらはGoogleで簡単に調べられる数字です。

投資家はそれを聞いて「なるほど。大きな市場なら、この会社が成長すれば数十億ドルの価値があるかもしれない」と理解します。ここを省略してはいけません。2番目のセンテンスでは市場規模を説明します。

(3) トラクションはどれほどか

第3のセンテンスは、自社のトラクションについてです。

このセンテンスは、「1月の発売以来、前月比30%の成長を見せています。セールスは〇〇、収益は〇〇、ユーザー数は〇〇です」といったように説明するのが理想的です。非常にシンプルです。

ローンチ前でトラクションを証明できない場合は、自分たちが留まることなく活動していると投資家に納得させる必要があります。「チームは1月に作業を開始し、3月にはベータ版をリリースし、4月にはプロダクトを発売しました」といったように、自分たちは迅速に動いていること、これは長期的に続く停滞ではないことを投資家に納得させるのです。

これを大企業のように考えてはいけません。迅速に動き、失敗ができるスタートアップのように考えることです。

これらすべてを30秒で、3つのセンテンスで行う必要があります。この原則に従ってピッチを行えば、創業者は自社について説明ができるようになり、投資家はどのような会社か正確に理解することができます。

自分たちがしていることを30秒で人に説明できることがどれほど有用か計り知れません。このテクニックを習得することです。他のことができなくてもこれだけを自分のものにすることができれば役に立つでしょう。

2分ピッチの場合

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次は2分のピッチです。この時点で、皆さんには実際に何かを納得させる必要がある誰かがいるわけです。それは投資をお願いする必要がある人かもしれません。

ここで4つの要素を付け加えたいと思いますが、それらも非常に手短に話します。

(4) 独自の洞察

1つ目は独自の洞察です。VCと話をする際、彼らは「あなたの秘策は何ですか」、「あなたの競争優位性はどこにありますか」、「独自の洞察は何ですか」と聞いてくるでしょう。これはすべて同じことです。

独自の洞察という点で言えば、この2分のピッチとは創業者が投資家に彼らの知らないことを伝える機会であり、創業者が参入しようとしている市場の最大手企業が知らないこと、あるいは上手くできていないことを投資家に伝える機会であると私は考えます。

これはアハ体験であり、2つのセンテンスで表現するのが望ましいでしょう。アハ体験ですから、競合他社に勝るあらゆる理由や自分のビジネスを開始するに至った非常に知性のある思考を2つのセンテンスで明確化する必要があります。

投資家にとってアハ体験となる必要がありますが、それが起きているかどうかは話している最中に分かります。そのため、迅速に話を伝えられる2つのセンテンスが望ましいのです。

投資家から「なるほど」と言われれば成功です。「それはもう知っていました」などと言われたら失敗です。何を言っているか分からないようであれば完全に失敗です。

ですから、こうした独自の洞察を伝える訓練をすることです。2分のピッチがすべてです。2つのセンテンスだけで表現します。複雑になってはいけません。本質的にはそれがこの講義のテーマです。複雑さは厳禁です。

(5) 収益化の方法

次は収益化の方法です。創業者は自分のビジネスモデルを理解しています。

私はこの問題から逃げている創業者を数多く目にします。というのは、彼らは広告と言えば「なんだ、馬鹿馬鹿しい」と言われると思っているからです。

ありのままに言ってください。目をそらしてはいけません。広告なら広告と言うことです。Facebookは巨大な広告ビジネスです。Googleもそうです。ダイレクトセールスならダイレクトセールスです。

自分のビジネスのやり方を理解していてアプリやアドアップで販売する場合は、それはそれで結構です。ありのままに話してください。収益化についてのセンテンスから目をそらしてはいけません。1つのセンテンスで伝える必要があります。

収益化に関して創業者が陥るのは、「広告をやろうと思います。バーチャルグッズかもしれません。その方法はこれから考え出します。こうかもしれない、ああかもしれない」と言うことです。

これでは何も言っていないのと同じです。収益化の方法を理解していないと投資家に言っているようなものです。この点は要チェックです。収益化どころか、大きなクエスチョンマークがついてしまいます。

これが業界のすべての人が95%の時間を費やしてまで行っていることです。収益化の方法をきちんと伝えて先へ進みましょう。まったく問題ありません。3年後に皆さんに詰め寄ってきて収益化の方法が聞いた話と違っていたと言う人は誰もいないでしょう。

ただし、皆さんの会社が採り得る収益化の方法を1つずつ延々と説明し始めるよりは、明快かつ簡潔に話すほうが遥かに得策です。

(6) チーム

次はチームです。この答えは実に明確だと思います。

創業者は2つのことを試みています。自分のチームが特に素晴らしいことを成し遂げた場合、それをはっきりと言う必要があります。「私たちはPayPalの創業者でした」、「Amazonの創業者でした」といった具合です。

つまり、投資家を儲けさせた実績がある場合にはそれを言うべきです。そうでない場合は、チームが獲得した賞や博士号について語らないでください。そういったことはどうでもいい話です。興味がありません。

私たちが聞きたいのは創業者は何人いるのかです。2~4人が望ましいでしょう。そのうち技術系は何人いるか、エンジニアは何人でビジネス系は何人か、といったことです。これは半々かエンジニアが多いというのがいいでしょう。

また、創業者同士が知り合ってどれくらいかも知りたいと思います。3日前に出会ったなどという答えは聞きたくありません。個人的または仕事上で少なくとも半年の付き合いがあるのが理想的です。

さらに私たちが聞きたいのは、創業者が皆フルタイムで働いているかどうかです。これは実に参考になる情報です。私たちは皆このビジネスにコミットしています。

最後に、私たちが聞きたいのは、創業者がどのように出会ったかです。それだけです。

これらを2つのセンテンスにまとめるのは非常に簡単です。立派な実績を築く唯一の方法は、何かを成し遂げることです。そして対投資家で言えば、誰かを儲けさせた何かを成し遂げているかどうかを問われるのが一般的です。

ですから、自分のレジュメにそうしたデータがない場合は、自分自身を大きく見せようとせずに先へ進むことです。不要なことを言えば言うほど印象は悪くなります。

(7) 要望

最後は重要な要望です。これについては、資金調達絡みの会話になるかどうか考える必要があります。私が皆さんにお伝えしたいのは、ここは自分が話していることを理解していなければならない時であるということです。

つまり、ここでは資金調達の種類、コンバーチブルノート(convertible note)で行うのか、将来株式取得略式契約スキーム(Simple Agreement for Future Equity、SAFE)で行うのかを理解していなければなりません。

SAFEのキャップ、資金調達額、小切手の最低金額について理解している必要があります。これらを理解していない創業者は、投資家から「この連中は真剣さが足りない」、「するべき下準備をしていない」と思われてしまうでしょう。

他の場面では専門用語を使うべきではありませんが、このパートでは「私たちは資金調達をしています」などと言うのは厳禁です。ここは実際に多少の専門用語を駆使する場面です。

専門用語を知らない場合はGoogleで検索してください。非常にシンプルな話です。皆さんならすぐに習得できるでしょう。これでおしまいです。これが皆さんの行うピッチのすべてです。皆さんの仕事はここまでです。あとは相手に話をさせればよいのです。

資金調達はいつするべきか

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では、資金調達はいつすべきでしょうか。これは重要なポイントです。

これは成長を示すグラフです。投資家はトラクションに基づいて投資判断することを好みます。資金調達は常にトラクションが大きい時に行うのが望ましいです。

しかし、皆さんは起業したてであったりやプロダクトを発売したばかりであることが多いでしょう。創業者は方程式をひっくり返すような方法を考える必要があります。

投資家に対して有利に立つ方法

皆さんの頭の中では、投資家に資金提供をお願いしているのだから、投資家の方が有利で自分は不利だと思っているでしょう。では、創業者が優位に立ち投資家が不利になるようなシナリオをどう創り出せばよいでしょうか。

そのような状況で資金調達をすべきなのです。

第一に、自分が有利であることを創業者はどうやって知るのでしょうか。投資家が資金提供を申し出ている場合は創業者が有利です。これは資金調達を始める好機でしょう。

投資家が資金提供を申し出ていないとしたら、自分のスタートアップについて誰かに話をしていますか。あるいはこっそりと隠れて行動しているのですか。メディアや自分の友人、もしくはスタートアップをやっている知人を通じて自分のスタートアップについて話し、発信しているのであれば、これが情報提供を始める良い方法です。

第二に、創業者は多額の資金を集めることなくローンチ・成長可能な計画を立てているでしょうか。私が出会ったスタートアップの95%は、ごくわずかの資金でプロダクトを発売することができる会社です。

投資家に生殺与奪の権利を持たせてはいけません。創業者は「あなたに投資してもらわないと私たちは何もできません」という状況を逆転させ、「このビジネスは動き続けています。私たちは皆、前職を辞め、フルタイムで働いています。私たちの船に乗りたいと仰っていただけるのなら大変ありがたいです。そうでないのであればエンジェル投資家は他にも大勢いますので」と言えるようになる必要があります。

創業者はそうした心構えでいなければなりません。そうした自信を持っている必要があります。創業初期に資金が必要な場合は、常にできる限り資金を必要としない計画を立てることです。

迅速に動き、コミットしていること

迅速に動いていて、十分にコミットしたチームがいることを常に説明できるようにしておくことです。それがトラクションを説明できない場合に創業者の強みになります。

プロダクト発売前ながら1~2カ月で8カ月に相当する仕事をしていること、全員が前職を辞め現在の仕事に完全にコミットしている優秀なチームがいることを投資家に説明できれば、創業者はある程度有利な立場を取り戻せます。

プロダクトを発売して成長の途上にあるのでない限り、創業者が完全に有利な立場となることはありません。

投資家とのミーティングのセット方法

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最後に、投資家とのミーティングの設定方法を説明します。これは実に簡単ですが、驚くことに多くの会社がこれを理解していません。

紹介

1つ目のポイントは、理想的には他の起業家からの親切な紹介があるとよいでしょう。あるいは以前、自社に投資してくれた投資家からの紹介が望ましいです。投資家への接触はこうした知り合いからの紹介から始めるべきです。

自社への投資を断った投資家が紹介を申し出てくる場合、それはクリプトナイト(スーパーマンの力を吸い取って無力化してしまう物質)となります。決して触れてはなりません。

ですから、まずは知り合いからの紹介を得ることです。非常にシンプルです。投資家にコールドコールをしたり押しかけたりすべきではありません。自分を投資家に紹介してくれる人の持つ信用力は、投資家がミーティングに応じてくれるかどうかの重要な部分となります。

並列で交渉を走らせる

2つ目のポイントはパラレルな思考です。多くの人が資金調達を非常に長期的なプロセスで行っています。私たちは今週ある人とミーティングを行い、来週は別の人と、さらに再来週には別の人とミーティングを行う予定になっています。

皆さんが資金調達をする時、もうレースは始まっているのです。資金調達はマラソンではなく短距離走です。つまり、すべてのアポイントメントを同じ週に入れる必要があります。

これはかなり困難ですが、私が好む1つの秘策があります。それは、知り合いから紹介してもらった投資家にメールを送って返事をもらう時に、「ミーティングを設定したいのですが、向こう2週間はプロダクト作りに忙殺されていますので、ミーティングは3週間後にしていただけませんか」と伝えます。全員にそうしたメールを送ります。

こうするとすべてのミーティングが投資家のカレンダーがまだ空いている3週間後となり、彼らにとっても好都合です。すべてのミーティングを同じ週に行えるので、創業者にとっても好都合です。

他にしておくことは、「私たちはどうしても資金が必要なわけではなく、今はプロダクト作りに没頭しています。3週間後にお会いできますが、とにかくプロダクト作りで多忙です」とほのめかすことです。

これは必要なことがすべて盛り込まれている最善の方法と言えます。最後のポイントは、チーム内の誰かを資金調達専任担当とすることです。全社レベルではなく1人にフルタイムで担当させるべきです。なぜなら、資金調達はかなりの集中力が求められる業務だからです。

私の講義はここまでです。次のパートに移りましょう。次の担当者は誰ですか。

ピッチのシミュレーション

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Dalton

皆さん、こんにちは。私はYCのパートナーの1人でDalton Caldwellといいます。本日の講義で簡単にお話しすることの1つが、ピッチのシミュレーションです。

最初に言っておきますと、これから行うピッチは少々不自然なものであることは私も承知しています。こうした大学での講義形式の中で、ピッチがどういうものかを面白く伝えたいと思いますが、「実際のピッチと全然違う」という声が上がることでしょう。しかし、皆さんに伝えられることは沢山あると思います。

私の経歴を簡単に説明します。私は幾つかの会社で8,500万ドルの資金調達をしてきましたので、投資家とのミーティングも数多く経験しています。ですから、なるべく多くのことを皆さんにお教えしようと思っています。

繰り返しますが、このパートの目的は投資家とのミーティングで話すべきことを学習セッションとして皆さんにお話しすることにあります。Qasar、もう自己紹介しましたか。

Qasar
私も幾つかのスタートアップを経験しています。

Dalton
素晴らしい。これから2つのピッチをかなり速いテンポでお見せします。Michaelが言っていたように、ピッチは素早く行われる傾向にあります。では早速1つ目のピッチを始めましょう。

悪いピッチの例

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Qasar、今日は私にピッチをするためにいらっしゃったのですよね。あなたの会社は何をしているのか教えてもらえますか。

Qasar
私たちはコミュニケーションプラットフォームを作っています。これがあれば、企業と消費者は、現在のように分散的ではなく、単一のプラットフォームでコラボレーションができるようになります。

Dalton
どういうことですか。

Qasar
WhatsAppやSnapchatを想像してみてください。それらは消費者向けプロダクトです。私たちがやりたいのはそれの企業版です。(真面目な顔でやらなければいけませんね。)つまり消費者が企業と話ができるようにしたいのです。それが私たちのビジネスの目標であり、私たちがスタートアップを設立した理由です。

Dalton
そのプロダクトのユーザーは誰ですか。そのプロダクトは何ができるのですか。

Qasar
これは消費者と企業向けです。消費者がメッセージを送れるようなプロダクトです。

Dalton
消費者があなたのプロダクトを使いたいと思う理由は何ですか。

Qasar
企業にメッセージを送りたいからです。

Dalton
市場とビジネスチャンスについて聞かせてもらえますか。この会社の市場規模はどれくらいですか。

Qasar
メッセージングプロダクトの市場はかなり大きいことは確かです。WhatsAppは190億ドルで買収されましたし、Snapchatもかなりの急成長を見せています。ビジネスチャンスはかなり大きいと思います。

Dalton
御社のトラクションや数字面についてもう少し教えてもらえますか。このプロダクトはすでにユーザーに提供されているのですか。

Qasar
財務情報や詳細の公表はここでは控えさせていただきたいと思います。稼働開始からかなりの時間が経っていて、ベイエリアでは確実に数千人のユーザーがいます。企業ユーザーは数百に達しています。

Dalton
どのような企業があるか教えてもらえますか。

Qasar
あなたが行ったことがある店もあります。私たちの会社は初期段階であり、まだ世間に公表したくないので、詳細は控えさせていただければ幸いです。

Dalton
分かりました。これまで学んだことを教えてもらえますか。顧客からどんな洞察を得ましたか。

Qasar
消費者は企業にメッセージを送っています。これは素晴らしいことだと思います。そして、企業はそれらのメッセージに返信しています。これは考えられなかったことです。

Dalton
御社のビジネスモデルはどのようなものか教えてもらえますか。

Qasar
企業に対し月額料金を請求します。正確な金額はまだ算出していませんが。現状、数百社の企業に無料でサービスを提供しています。しかし、たぶん月額制を導入することになると思います。

Dalton
企業が払っても構わないと思っている料金はどれくらいだと思いますか。

Qasar
月額1万~1万5千ドル程度だと考えています。

Dalton
分かりました。では、あなたのチームとメンバーについて少し教えてもらえますか。

Qasar
当社には5人の創業者がいます。実際にはフルタイムで働いているのは私1人です。現在は資金調達中のため、残りのボードメンバーは後日お知らせできると思います。

Dalton
創業者の中にプログラミングができる人はいますか。

Qasar
はい。5人のうち1人が生物学の博士号を持っているのですが、コーディングを覚えて担当しています。そして私がPython開発者です。Pythonの習得には苦労しました。

Dalton
もうこんな時間ですね。お会いできて本当によかったです。今後も情報をください。これはいいアイデアだと思います。

Qasar
進捗があればまたご連絡させていただきます。

Dalton
よろしくお願いします。

Qasar
こちらこそ。実に有意義なミーティングでした。これはひどかったですね。

Dalton
それでは振り返って見ていきましょう。

Sam
不安が残るやり取りでしたね。

よくあるミス

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Dalton

これは明らかに良くないピッチでした。では、今のピッチで見られた幾つかの失敗を検討しましょう。まず、相手に自分たちが何をしているかを理解してもらう必要があります。

Qasar
これは非常にシンプルに見えますが、そうではありません。

Dalton
人はよく慌ててしまうものです。緊張から早口でしゃべり始めてしまいます。これでは自社のアプリケーションがどのようなものか全く分からない相手を納得させることはできません。

自社に関する数字は確実に理解しておく必要があります。あやふやであったり、曖昧なのであれば、最初からミーティングをするべきではありません。投資家に数字を教えることに抵抗を感じるのであれば、投資家と会わない方がよいでしょう。準備不足だということです。

市場規模に関しては、説得力のあるボトムアップ型の分析を試みるとともに、自社のビジネスと関係ない大企業の名前を安易に挙げないことです。人はよくそうしがちです。洞察を持つように心がけてください。

皆さんと話をする中で市場に関してまだ知らないことがあると投資家に納得させるようにしてください。さらに、創業者がそれに取り組んでいる理由やそれに適している理由、それはすべきことなのかについてもきちんと説明してください。

最後に、先ほどの創業者は会話を主導していませんでした。内容に乏しかったことは明らかで、彼は私がなるべく早く切り上げようとミーティングを打ち切るまでまとまりなく会話をしていただけでした。

これは良いピッチではありませんでしたね。では、もう1度やってみましょう。

Qasar
分かりました。始めましょう。

良いピッチの例

Dalton
Qasar、あなたは会社を立ち上げたと聞いていますが、何をしている会社か少し教えてもらえますか。

Qasar
はい、私たちはメッセージングプロダクトを扱っています。それでは少々曖昧ですのでご説明しますと、私たちのプロダクトは基本的にある場所にメッセージを送るものです。

Crate & Barrelに入ると、この店のマネジャーに「通路に嘔吐物があります」のようなメッセージを送ることができるのです。空港にいる時に「この空港には慣れていないもので、この特定のゲートの場所が分かりません」や「Virgin Atlanticのターミナルはどこですか」、Targetにいる時に「シャンプーの棚はどこですか」といったメッセージを送れます。

Dalton
これはモバイルアプリですか。

Qasar
消費者向けにiOS用とAndroid用のアプリを用意していますが、消費者にアプリをダウンロードしてもらうのは非常に難しいことは確かです。

Dalton
通常Crate & Barrelにメッセージを送るためだけにアプリのダウンロードはしませんね。

Qasar
大半の企業にとってオーナーに直接テキストを送信できる行動喚起となります。私たちは沢山のテキストをテストし、細かい文字でもっとも使い勝手が良いものを模索しました。細かな文字でのメッセージ送信は匿名であり、参入障壁の低下にもつながりました。

私たちはベイエリアの350カ所でサービスを開始した際、もっとも反直感的なことを学びました。私たちは3カ月近くテストを続けており、リクエストをくれる企業数は週間成長率が約11%に達していました。

しかし、私たちが学んだもっとも反直感的なことは、当初はあまり確信がなかったのですが、人々は歩きながらメッセージを送るのかということです。

Dalton
本当にメッセージを送っていたのですか。

Qasar
はい、送っていました。

Dalton
もっとも多く送られているのはどのような種類のメッセージですか。

Qasar
このプロダクトを始めた時、私たちはある場所に関するフィードバックになると考えていました。場所に関するフィードバックというのが前提でした。

しかし私たちは、半数以上のメッセージが実際にはフィードバックではないことを知りました。「私たちはサンノゼのこのケバブスタンド、Father and Sonにいました」や「スタッフ募集中ですか」というメッセージが衛星経由で送信されていたのです。

これは非常に奇妙な話です。なぜオーナーに直接問合わせをしないのだろうかと普通は考えますよね。しかし、店に入っていってオーナーと直接会話するのではなく、人々はオーナーにメッセージを送るのを好むということが分かりました。私が思うにメッセージのほうが読み易いからでしょう。

Dalton
なるほど、投書箱みたいですね。これは企業にメッセージを送る方法のようですね。

Qasar
私たちも最初はそのつもりでした。しかし、実際に分かったことは、メッセージの大多数は、大多数とまでは言えませんが、メッセージの半数以上は「開店時間は?」、「閉店時間は?」、「ケータリングはやっていますか?」、「今夜予約できますか?」といったものでした。そうした情報はGoogleに載っていませんから。

Dalton
分かりました。トラクションという観点で先ほどいくつかの企業と仰っていましたね。現状でどのような企業があるか教えてもらえますか。

Qasar
現在はサンノゼからサンフランシスコまで350社の企業に使ってもらっています。セールスは私たち3人の創業者が行いました。私たちは全員技術系の者ですが、自分たちですべてのセールスを行いました。そうすることで、私たちはこれらの企業の仕組みについて多くを学んだのです。

実際に小売業界での経験を持つ私たちは、当初StarbucksやWalmartといった大企業向けにこのプロダクトを開発しました。しかし、それらの契約を締結する際に私たちの限られたランウェイでは不可能だということが分かりました。

そのため、ユーザー向けのプロダクトにしようと考え、中小企業をターゲットにしました。その過程でこのようなメッセージングプロダクトが生まれたわけです。

Dalton
なるほど、実に興味深いお話です。顧客はいるようですが、このビジネスをどうやって成長させるのですか?じっくり説明していただいても構いませんが。

Qasar
数字面では、場所当たり、一日平均1.5通のメッセージがあります。これは一日30通のメッセージを受け取っているビジネスからすれば大きな数字に聞こえないかもしれませんが、例えばYelpレビューやGoogleレビューは、企業の存続期間中に届く可能性があるメッセージの数は5~7通です。

彼らは通常の傾向の数字と比較すれば大量のメッセージを受け取っており、これらのメッセージはプライベートなもので公開はされません。つまり、実際の収益化という点については、率直に申し上げて明確な回答はありません。

中小企業か大口顧客という2つのサイドがあります。私たちの小売業での経験から、当時働いていたSearsのような大口顧客が通常使用しているフィードバックツールには年間300~400万通のメッセージが届きます。

私たちがテストを行った中小企業からは月に50ドル支払ってもよいと言われています。つまり、これは大きなビジネスになり得ると私は確信していますし、収益化のための明確な方法があると思いますが。

Dalton
分かりました。あと数点質問させてください。流通戦略とチームについて教えてもらえますか。

Qasar
流通に関しては、これらの中小企業を通したセールスで私たちが学んだことは非常に困難だということです。LTV-CPA、つまり顧客生涯価値からコスト提案Aを引くと、中小企業におけるこの計算式は成り立たないと思われました。

そこで、私たちは2つのソリューションを用意しました。1つは当初計画していたStarbucksやWalmartなどの市場への参入で、もう1つはYelpやGoogle、Facebookなどの対消費者ビジネスをしている企業との提携です。

Dalton
それらの企業と話はしていますか。実際にパートナーになってくれそうですか。

Qasar
はい、GoogleやFacebookとは話をしましたし、Appleとはミーティングをしているところです。基本的に、企業を検索する度にメッセージボタンが表示されるようにしたいのです。

私たちが目指しているのは、あらゆるビジネスにテキストメッセージを送ることができると消費者に習慣的に理解してもらうことです。それが私たちの販路拡大にもつながります。

私たちの真のビジョンは、消費者と企業をつなぐメッセージングインフラになることです。それが上手くいかないのなら、例えばGoogleやFacebook、Yelpはそうした価値ある資産を手放したがりませんので、実際には追加ユニットになります。私たちはこのフィードバックツールを大企業に売り込みたいと考えています。

Dalton
分かりました。残り時間が少なくなってきましたが、チームについて少し教えてもらえますか。

Qasar
チームは3人、全員技術者です。Mikeと私は以前に会社を経営していました。Sonnyの前職は学校のエンジニアでした。私たちは全員、小売業界の経験があります。

私たちの最初のスタートアップは失敗でした。それが良かったのか悪かったのかは分かりません。私たちは共に働き、技術者としてあらゆるものを自分たちで作りました。そして、あらゆるものを自分たちでセールスしました。

Dalton
なるほど。

Qasar
私たちはすでにあなたの会社の何人かと話をしています。現在、850万ドルのconvertible noteで50万ドルを調達しています。その50万ドルのうち25万ドルはMike Maples、Eli Gill、Aden Sinketから出資してもらっています。そして、今回のラウンドの残りはMike率いるFloodgateに引き受けてもらう予定です。

小売業界の経験を持つあなた方、特にあなたとあなたの会社は私たちのチームに多くをもたらしてくれると思っています。この話にご興味を持っていただけましたか?

Dalton
これは実に興味深い話だと思います。社内の何人かと話をする必要がありますが、これは実に大きなビジネスになる可能性があると思います。

Qasar
以前に少しお話させていただいた時からまたお会いしたいと思っていました。今回のラウンドは今週金曜日で終了しますので、他のパートナーの方ともじっくりお話しください。

金曜日までは私も時間があります。私からラウンドが終了する金曜日までにまたお電話させていただきます。ですが、ぜひまたお仕事でお目にかかりたいと思っています。

Dalton
楽しみにしています。私はここでお暇しなければなりませんが、今日はありがとうございました。

Qasar
こちらこそ、ありがとうございました。

良いピッチのポイント

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Dalton

ここでの重要なポイントは、相手が納得するストーリーにしようと心掛けることです。皆さんお気付きのように、ここには人に関する話、ユーザーがどのようにそれを使っているかという話がありました。現実世界と結びつけた話ができていたのです。これは良いことです。

Qasarは洞察を実証し、実際に私がその市場についてまだ知らないことをこぼれ話のように話すことができました。これは私が思っていることについてのインタビューというより、双方向に展開される会話のような協働的ミーティングでした。

Qasarは実際に自分の会社への投資を申し出ました。私は「それではまた」と言うことも簡単にできたわけですが、彼はMichaelの説明どおりに資金調達の話をし、自分の状況や疑問点をすべて伝えて真剣な会話をすることができました。

Qasarが不誠実であったり話をしたがらなかったり、明確な数字が挙げられなかったら、私は時間がないと言って話を終わらせていたでしょう。

Qasar
こちらの側にいるのは実に面白いです。相手が非常に情熱的でビジネスを熟知しているかどうかは見分けられるものです。皆さんはそういう人物になる必要があります。

投資家とのミーティングの後にやるべきこと

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では、最後にミーティング後にすべきことを説明して質疑応答に移りましょう。時間も残り少なくなってきました。

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ミーティング後にまずすべきはフォローアップで、これはTylerがセールスの講義で話していたことと同じです。これは重要な作業です。小切手や送金された資金以外はNGです。

パートナーと話を続ける必要がありますが、まず駄目だと私は思います。ここではある程度のプレッシャーをかける必要があり、そのための方法がディールヒートです。これは自分のラウンドに需要があることを意味する用語です。これは価格アップなどのもっとも簡単かつ重要な方法です。

そして、投資家に関する調査をします。例えば、先の事例のようにシードラウンドにおいて850万ドルのconvertible noteで50万ドルを調達する場合、投資家に関する調査をする必要があります。

私がDaltonに関する調査をして彼が実際には有能な投資家でないと判明した場合、MillanかMike Maplesか誰かにラウンドの残りを引き受けてもらうことができます。驚くことに、これをしていない起業家が沢山います。

創業者は社員の採用に多くの時間を費やすのと同じようにする必要があります。自分の会社の一部を誰かに売却する上で、売却相手が自分の考えているタイプの人間かどうか見極める必要があります。

そして最後に、資金調達をいつ止めるか判断することです。資金調達は実際の会社作りよりも遥かに簡単であるため、自分が得意というだけで常に資金調達をしたがる創業者もいます。

Dalton
資金調達イコール成功ではありません。それを理解している人はいません。私たちがここでそう言っても、皆資金調達が成功だと勘違いし、誰かが資金調達したと知ればその人たちは成功したのだと思うのです。

Qasar
それが正しいと私が直観的に思うのは、多くの有能な人が良い学校や良い仕事に応募していて、資金調達もまた1つの申込みにすぎないと考えているからです。会社作りはそれよりも遥かに漠然としたものです。

Sam
皆さん、質疑応答のためにあと数分残っていただけますか。

本日は素晴らしい講義をありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 19: Sales and Marketing (2014)

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